未来の花   作:ZANGE

79 / 97
第79話
Side: しのぶ


岩を動かせ

「あ〜〜〜〜〜!もう、何なのよ!!

 こんなの、動かせるわけないじゃない!?」

 

巨大な岩に背をもたれかけ、疲労困憊(ひろうこんぱい)といった様子のしのぶが憤慨している。

 

「これは、さすがに・・・

 悲鳴嶼(ひめじま)さんの、ようには・・・

 いかないわね・・・」

 

その横でカナエが手を膝について呼吸を整えながら、巨大な岩を見つめていた。

 

 

二人の脳裏に、悲鳴嶼さんの言葉が蘇る。

 

「南無阿弥陀仏・・・」

 

ズズズーーー

悲鳴嶼さんが念仏を唱えながら岩を両手で押し込むと、巨大な岩はこともなげに動いていく。

 

数尺も動かしたところで、悲鳴嶼さんは手を止めた。

 

「これは私の日頃の稽古の一つ。

 私はこれを一町(いっちょう)、押すことができる」

 

その言葉に、しのぶが反発して声を荒げる。

 

「そりゃ、悲鳴嶼さんはできるかもしれないわよ!

 でもこんなこと、私たちに出来るわけないじゃない!!」

 

悲鳴嶼さんは岩に手を当てたまま、諭すような声で話し始めた。

 

(おに)は人を喰らうほどに強くなる・・・

 そしてこんな岩など簡単に破壊できるようになる」

 

岩肌を撫でながら、空を見上げる。

 

「・・・強くならなければ、誰かが死ぬ。

 自分か、仲間か、守るべき者か・・・」

 

その言葉には、不思議と実感がこもっていた。

それ以上何も言えなくなって、しのぶは口を噤んだ。

 

「出来る出来ないではない。

 出来なくとも、やらねばならない。

 力が及ばずとも、何を犠牲にしようともーーー

 己のすべてを賭してやり遂げろ」

 

厳しい言葉の中に、悲鳴嶼さんの葛藤が込められているように感じられた。

 

鬼狩(おにが)りになるとは、人の命を背負うとは、そういうことだ」

 

「・・・・・・」

 

「出来ないのであれば、諦めて家へ帰るといい。

 力を示せぬ者に、鬼殺隊(きさつたい)に入る資格はない」

 

 

それから悲鳴嶼さんは鍛錬だと言って、どこかへと出掛けていってしまった。

 

悲鳴嶼さんの試練は、大の大人でも出来そうにない理不尽なもの。

けれど、その後に続けて言われたことが分からないほど、私たちはもう、誰かに甘えて生きていけるような身の上ではなかった。

 

「・・・しのぶ」

 

「姉さん・・・」

 

ふと見上げた姉さんの表情は、諦めてなんかいなかった。

だから私も、挫けそうになっていた情けない顔をパンっと叩く。

 

「いいわ!やってやろうじゃない!」

 

「何か思いついたの?」

 

人差し指をビシッと大岩に向けて、自信満々に宣言する。

 

「この岩を動かすなんて、私たちには無理よ!

 ううん。大人だって無理だと思う。

 だから、他の方法を考えましょう!」

 

それを聞いた姉さんは、首を(かし)げた。

 

「うーん。それはそうなんだけど・・・

 そういうのって、ズルにならないかしら?」

 

「悲鳴嶼さんは条件なんて何も言わなかったし。

 『力が及ばずとも、何かを犠牲にしようとも』って言ってたわ。

 それってつまり、自分にできなければ何を使っても構わないから、とにかく動かせってことだと思うの。

 だから大丈夫よ!」

 

「・・・たぶん」と、しのぶは小さな声で呟いた。

 

姉さんは苦笑して、それでも今の言葉を反芻(はんすう)しながら、最後に大きく頷いた。

 

「・・・うん、確かに。そう言ってたわ。

 そうすると、さしずめ私たちは一休(いっきゅう)さんね。

 しのぶ、あなたはどうやってこの岩を動かすのかしら?」

 

姉さんは、上座に座るお姫様のように、袖で口元を隠しながら、私に難題を問いかけてきた。

 

仕草が可愛い。姉ながら、ずるいと思う。

でもそんな簡単に思い付くのなら、とっくに提案してる。

 

「・・・今は思い付かないけど。

 姉さんは、何か思い付いた?」

 

「うーん・・・えーと・・・

 誰か強い人に手伝って貰うとか?」

 

「・・・さすが姉さん。

 町の男の人をみんな(とりこ)にした魔性(ましょう)の姉。

 いきなりえげつないことを思い付くわね」

 

「うう、聞かれたから答えただけなのに・・・

 しのぶが辛辣(しんらつ)過ぎる」

 

よよよ、と。

お姫様のような泣き真似をしてみせる。

 

「はいはい」としのぶが聞き流すと、姉さんはペロリと舌を出して(おど)けてみせた。

これで大体のことは許されるんだから、やっぱり魔性の姉だと思う。

 

「でも、こんな辺鄙(へんぴ)なところに来る人なんて、悲鳴嶼さんの関係者しかいないんじゃない?

 親しい人なら、この試練のことを知ってるかもしれないし。あの黒い布を被った人達じゃあ、たぶん力不足でしょ」

 

「たしかにそうね。

 他に良い手はあるかしら?」

 

「分からないわ。

 だから、探しに行きましょ?」

 

くるっと体の向きを変えると、ずっと軒先からこちらを見ていた沙代(さよ)ちゃんに声をかけた。

 

「沙代ちゃん!

 この試練を終えるまで、この家にお世話になっても良いかしら?」

 

元気に声をかけると、沙代ちゃんは首をコテンと傾けた。

 

「しのぶ、ここに住むの?」

 

「うん!一日じゃできそうにないし。

 そうしようと思うんだけど。

 ・・・ダメ、かな?」

 

そう言うと、沙代ちゃんは嬉しそうにはにかんだ後、真面目な表情になった。

 

「ううん。わたしはうれしい。

 でも、それを決めるのはひめじまさん」

 

「そうよねぇ」

ため息と一緒に落ち込んでいると、いつの間にか私の目の前にいた沙代ちゃんが、私の手を取っていた。

 

「ひめじまさんはやさしいから。

 きっと、だいじょうぶだと思う。

 わたしからもお願いしてみる。

 その代わり、二人にお願いがある」

 

「なに?何でも言って」

 

「二人とも、りょうりはできる?」

 

その言葉に、しのぶとカナエはお互いに目を見合わせた。

 

「「もちろん!!」」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。