Side: しのぶ
「あ〜〜〜〜〜!もう、何なのよ!!
こんなの、動かせるわけないじゃない!?」
巨大な岩に背をもたれかけ、
「これは、さすがに・・・
いかないわね・・・」
その横でカナエが手を膝について呼吸を整えながら、巨大な岩を見つめていた。
二人の脳裏に、悲鳴嶼さんの言葉が蘇る。
「南無阿弥陀仏・・・」
ズズズーーー
悲鳴嶼さんが念仏を唱えながら岩を両手で押し込むと、巨大な岩はこともなげに動いていく。
数尺も動かしたところで、悲鳴嶼さんは手を止めた。
「これは私の日頃の稽古の一つ。
私はこれを
その言葉に、しのぶが反発して声を荒げる。
「そりゃ、悲鳴嶼さんはできるかもしれないわよ!
でもこんなこと、私たちに出来るわけないじゃない!!」
悲鳴嶼さんは岩に手を当てたまま、諭すような声で話し始めた。
「
そしてこんな岩など簡単に破壊できるようになる」
岩肌を撫でながら、空を見上げる。
「・・・強くならなければ、誰かが死ぬ。
自分か、仲間か、守るべき者か・・・」
その言葉には、不思議と実感がこもっていた。
それ以上何も言えなくなって、しのぶは口を噤んだ。
「出来る出来ないではない。
出来なくとも、やらねばならない。
力が及ばずとも、何を犠牲にしようともーーー
己のすべてを賭してやり遂げろ」
厳しい言葉の中に、悲鳴嶼さんの葛藤が込められているように感じられた。
「
「・・・・・・」
「出来ないのであれば、諦めて家へ帰るといい。
力を示せぬ者に、
それから悲鳴嶼さんは鍛錬だと言って、どこかへと出掛けていってしまった。
悲鳴嶼さんの試練は、大の大人でも出来そうにない理不尽なもの。
けれど、その後に続けて言われたことが分からないほど、私たちはもう、誰かに甘えて生きていけるような身の上ではなかった。
「・・・しのぶ」
「姉さん・・・」
ふと見上げた姉さんの表情は、諦めてなんかいなかった。
だから私も、挫けそうになっていた情けない顔をパンっと叩く。
「いいわ!やってやろうじゃない!」
「何か思いついたの?」
人差し指をビシッと大岩に向けて、自信満々に宣言する。
「この岩を動かすなんて、私たちには無理よ!
ううん。大人だって無理だと思う。
だから、他の方法を考えましょう!」
それを聞いた姉さんは、首を
「うーん。それはそうなんだけど・・・
そういうのって、ズルにならないかしら?」
「悲鳴嶼さんは条件なんて何も言わなかったし。
『力が及ばずとも、何かを犠牲にしようとも』って言ってたわ。
それってつまり、自分にできなければ何を使っても構わないから、とにかく動かせってことだと思うの。
だから大丈夫よ!」
「・・・たぶん」と、しのぶは小さな声で呟いた。
姉さんは苦笑して、それでも今の言葉を
「・・・うん、確かに。そう言ってたわ。
そうすると、さしずめ私たちは
しのぶ、あなたはどうやってこの岩を動かすのかしら?」
姉さんは、上座に座るお姫様のように、袖で口元を隠しながら、私に難題を問いかけてきた。
仕草が可愛い。姉ながら、ずるいと思う。
でもそんな簡単に思い付くのなら、とっくに提案してる。
「・・・今は思い付かないけど。
姉さんは、何か思い付いた?」
「うーん・・・えーと・・・
誰か強い人に手伝って貰うとか?」
「・・・さすが姉さん。
町の男の人をみんな
いきなりえげつないことを思い付くわね」
「うう、聞かれたから答えただけなのに・・・
しのぶが
よよよ、と。
お姫様のような泣き真似をしてみせる。
「はいはい」としのぶが聞き流すと、姉さんはペロリと舌を出して
これで大体のことは許されるんだから、やっぱり魔性の姉だと思う。
「でも、こんな
親しい人なら、この試練のことを知ってるかもしれないし。あの黒い布を被った人達じゃあ、たぶん力不足でしょ」
「たしかにそうね。
他に良い手はあるかしら?」
「分からないわ。
だから、探しに行きましょ?」
くるっと体の向きを変えると、ずっと軒先からこちらを見ていた
「沙代ちゃん!
この試練を終えるまで、この家にお世話になっても良いかしら?」
元気に声をかけると、沙代ちゃんは首をコテンと傾けた。
「しのぶ、ここに住むの?」
「うん!一日じゃできそうにないし。
そうしようと思うんだけど。
・・・ダメ、かな?」
そう言うと、沙代ちゃんは嬉しそうにはにかんだ後、真面目な表情になった。
「ううん。わたしはうれしい。
でも、それを決めるのはひめじまさん」
「そうよねぇ」
ため息と一緒に落ち込んでいると、いつの間にか私の目の前にいた沙代ちゃんが、私の手を取っていた。
「ひめじまさんはやさしいから。
きっと、だいじょうぶだと思う。
わたしからもお願いしてみる。
その代わり、二人にお願いがある」
「なに?何でも言って」
「二人とも、りょうりはできる?」
その言葉に、しのぶとカナエはお互いに目を見合わせた。
「「もちろん!!」」