未来の花   作:ZANGE

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第8話
Side: 猗窩座


幕間 夜桜に潜む鬼
夜桜に潜む鬼 壱


「鬼にしては妙な気配だ・・・

 お前達、何者だ?」

 

「珠世様!そいつは危険です!離れて下さい!」

 

「いいえ、愈史郎。残念ですがもう遅い。

 この鬼がその気なら、私たちは既に殺されています。

 何故ならこの人はーーー」

 

「俺を知っているのか?

 ・・・なら、話は早いな」

 

右手で顔を覆った瞬間。

人通りを歩くために変えていた狛治としての顔から、猗窩座としての顔に作り替える。

 

「な!?・・・上弦の、参!?」

 

「そうです。上弦の参、猗窩座。

 あの男、鬼舞辻が十二鬼月を作った時から、長い時を上弦として生き続けている最上位の鬼」

 

「詳しいな。古参の鬼か?

 闘気は弱いが、何か不思議な力を感じる。

 無惨様の名を語って無事な事といい、特別な力を開花させた者のようだな。

 ちょうどいい。お前に聞きたい事がある」

 

「貴様・・・!!

 珠世様!お下がり下さい!」

 

「・・・愈史郎、少しだけ時間をちょうだい。

 私も、貴方に聞きたい事ができました。

 私たちを襲わないというなら、貴方の問いに答えましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

慶吾と別れて一日半、俺は浅草の地に到着していた。

 

数年ぶりに無惨様に直接呼ばれたので参じたが、貿易商の住居にお姿は見られなかった。

おそらく外出中の事と思うが、もしかすると別の潜伏先を見つけている可能性もある。

 

鬼の始祖たる無惨様は全ての配下の鬼の位置や考えを知り、遠くにいながら超能力のように話しかける事が出来るが、逆に配下の鬼は無惨様の位置を知る事はできない。

 

鳴女の転移術で呼ばれなかったと言う事は、急ぎの用件ではないと思うが、早いに越した事はないだろう。

 

『・・・ここで待っていても仕方ないな』

 

そうと決まれば、人間だった頃の顔に変え、用意しておいた和装に着替える。

紺色の着物を黒帯で結び、首元には白い袴下が覗く着流し姿。

 

時折、稽古中の音を鉄砲と勘違いして、熊などの凶暴な獣が出たのかとわざわざ確認に来る人間もいたので、慶吾に言われて用意したものだが、存外役に立つものだ。

 

そうして人込みに紛れ、浅草の街並みを散策する。

 

まるで昼間のように街灯が周囲を明るく照らし、夜だと言うのに、多くの人間が出歩いている。

立ち並ぶ商店街の軒先には赤い提灯が綺麗に並び、高い建物のガラス窓からは常に明かりが漏れていた。

 

『確か、ガスと電気と言ったか。

 夜中が明るいとは、時代も変わったものだ。

 しかもこの光は鬼に害はない。

 これほど人間がいる場所を出歩くのは、何百年ぶりか』

 

プァァァァァン!

警笛の音に振り向くと、路面電車が多くの人間を乗せて走っていた。

 

『アレも電気の力と言う・・・

 速さは大した事ないが、なかなかの力だ。

 あの重さの鉄の箱を、あの速さで動かすのは、鬼の力でも出来るかどうか・・・

 破壊するだけなら造作もないが』

 

強い闘気を持つ者を探りながら、浅草の町を音もなく歩いている。

と、街並みの一角に、どこか違和感を感じた。

 

地面を見、前を見、空を見る。

 

立ち並ぶ民家の一角。

どこから見ても、ありふれた木製の塀である。

しかしここから、慶吾の罠術のような微かな違和感を感じる。

 

「・・・確認しておくか」

 

『術式展開・羅針』

 

足下に雪の結晶のような紋様が浮かび上がり、

その紋様が瞬時に大地を伝って大きく広がってゆく。

 

 

 

ある日、滝行の中で『羅針』を使うと、全ての時が止まったかのように、一瞬全ての水飛沫の一滴一滴の位置、動きを肌で感じられた。

本来、水には闘気など無い。

しかし、仮想敵として滝の流れと対峙し続ける内に、何かがカチリとハマった。

 

この日、弟子の罠を全て事前に察知し、文字通り秒殺された慶吾が絶望したのはまた別の話。

 

それから血鬼術『羅針』は更に深下した。

今では周囲半径50メートルの生物の形や動き、無機物の動きや違和感まで感じ取る事ができる。

ただし、長時間使い続けると相当に消耗する。

 

 

 

一瞬で広がった紋様は、既に消えていた。

 

「・・・なるほど、ここか」

 

一見変哲のない木塀に手を当て、踏み出す。

と、そのまま身体ごと壁に吸い込まれていく。

 

『鬼の気配がする・・・視界を誤認させる血鬼術か』

 

壁の向こう側には、外から見たのでは分からない、大きな洋館が建っていた。

 

「ほう・・・」

 

広い庭に桜の木が並んでいる。

ちょうど、美しい桜色の花びらが洋館の灯りに照らされていた。

 

とても鬼の住む場所には見えない。

 

人間らしさを持つ鬼。

それは長い時を生きる鬼か、上弦並みの強さを待つ者に限られる。

 

無惨様の血の薄い者。

或いは、血に負けないほどの自我を持つ強者。

 

おそらくは前者だろう。

 

洋館の入口に、男女二人の鬼がこちらを警戒するように立っていた。

 

どこか妙な気配を持つその二人へ向けて、

俺は上弦の参、猗窩座として立ちはだかった。




江戸時代の人間にとって、都会の印象は炭治郎と変わらないんじゃないかなと思いました。

珠世さんは、絶対に外せない人物の一人です。
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