Side: しのぶ
「ふっ!
ぬぐぐぐぐぐぐぐ・・・
こぉの!!
い・い・か・げ・ん・に!!
うごき・・・なさいぃぃぃ!!!」
・・・私の見間違いかな。
いま、姉さんが押している岩が、微かに動いたような気がしたのは。
ここ一週間でコツを掴んだのか、カナエ姉さんは、ある一点からいつも同じ方向へ岩を押すようになった。
息を吐きながら押すと、ちょうど力を入れやすいとか。
あんな大岩を相手に何を言っているのか、私には全く意味が分からないけど。
私の姉は町一番の器量良し。
『・・・うん。
これ以上考えたらいけない気がする』
でも、ここ一週間の努力で分かったことがある。
今までお淑やかだと思っていた姉が、その恵まれた体躯と能力で真っ向から課題に向き合おうとしていた。
足りないものは努力で補えば良いという発想で、ここ数日で物凄い力を付けているような気がする。
ただそれは、純粋な筋力や
でも、姉さんが何かコツを掴んだとしても、全然足りやしない。
仮に姉さんが十人いても、
『私も何か別の方法を考えなくちゃ』
ぐーぱー、ぐーぱー。
両手両指を閉じたり開いたりして、動きを確かめる。
もう大丈夫そう。
ぐーぱー、ぐーぱー。
悲鳴嶼さんと比べて、あまりにも小さくて、力も弱い手。
でも、私には考えがあった。
「
私は沙代ちゃんに
「姉さん、これでどう?」
「考えたわね、しのぶ。
この方法なら、悲鳴嶼さんが帰ってくるまでに動かせるわ」
私たちが手にしているのは、農耕用の
作戦は、こう。
大岩の周りの土をぐるりと掘り返す。
姉さんが押しやすいと言っていた側の岩下へ木を差し込む。
てこの原理で、思い切り向こう側へ岩を転がす。
ダメそうなら、土を掘る量を増やして、繰り返す。
少しでも大岩が動けば、たぶん悲鳴嶼さんの試練は合格すると思う。
でも姉さんは、ここで満足しなかった。
岩が倒れる方向に切った丸竹を並べておいて、更にそこから、てこの原理で動かせるだけ動かしてみたい。
「目指せ、
うん。最後のひと言は聞かなかったことにしよう。
丸竹を切ってくるのは、私にもできる。
「じゃあみんな。
帰ってきた悲鳴嶼さんを、アッと驚かせてあげましょう!!」
「はーい!」
「おー!」
沙代ちゃんも、小さな
私たちには後がないの。
使えるものは何でも、全部使ってやるわよ。
私たち三人の知恵と力を合わせて、この試練を乗り越えてやる。
任務から帰ってきた悲鳴嶼さんが、呆然と立っている。
「・・・まさか、これをお前たちが!?」
普段は凛とした姿で出迎えるはずの姉さんも、この時ばかりはふらふらと倒れそうな脚を叱咤しながら、ゆっくりと頭を下げた。
「お疲れ様です、悲鳴嶼さん。
ご無事で、何よりです」
「・・・あぁ、うむ。
しかし、お前たち、これをどうやって・・・」
私もすごく疲れていたけど、悲鳴嶼さんの驚く顔を見たら、ちょっと元気が湧いてきた。
「悲鳴嶼さん、こっち」
困惑している悲鳴嶼さんの手を取って、元々大岩があった場所に案内する。
掘り下げた地面、使用した木の棒、竹の線路へと、その手をそっと重ねた。
「
それに車輪か・・・」
梃子の原理を使えば、弱い力を何倍にもすることができる。
加えて丸竹を車輪代わりにすれば、もっと少ない力で大岩を滑らせることができる。
「これを・・・自分たちで、思い付いたのか」
「私も姉さんも、頭は悪くないの。
もっとも、姉さんは負けず嫌いだから、本気で一町動かす気だったみたいだけど」
「はい、しのぶの言う通りです。
もし、あと数日お時間を頂ければ、一町ほども動かしてみせましょう」
「姉さん、私は嫌よ」
「しのぶ!?」
「だってーーー」
低い声で「もういい」と、悲鳴嶼さんは呟いた。
「もう十分だ。二人とも・・・」
悲鳴嶼さんの大きな手が、頭に乗せられる。
「私は君たちを認める」
そう言った悲鳴嶼さんの頬が、柔らかく微笑んでいた。
「・・・ホント?」
「ああ」
「では、
「二人とも責任をもって、腕の立つ者を紹介しよう」
「〜〜〜〜〜!
やった!!!」
思わず悲鳴嶼さんに飛び付いて、服をよじ登っていく。
「カナエ、しのぶーーー
よくぞ、やり遂げた」
悲鳴嶼さんの首に抱きついて、意味もなくぺしぺしと肩を叩いた。
姉さんは穏やかに微笑みながら「ここに来て良かった」と呟いていた。
翌朝、私たちは沙代ちゃんにお別れを告げて、それぞれの育手の元へ向かった。
「寂しいけど・・・
またね、沙代ちゃん」
「しのぶは、だいじょうぶ。
これから、がんばって」
気付けば、前回の投稿から1ヶ月が経ってました。
転職活動やら何やらの影響が、思っていたよりも大きいようです。
しばらくは、月1〜2の投稿になると思いますm(_ _)m