Side: 獪岳
「久し振りの美味そうな獲物だ」
「オイ、俺が先に見つけたんだから、コイツは俺の獲物だ」
「馬鹿言うな、先に獲った方が喰うに決まってる」
醜い顔の鬼共が、醜い争いをしながら此方に近付いてくる。
一歩間違えれば自分もこうなっていたと考えると、悍ましさに唾を吐きかけたくなる。
「・・・雑魚共が、いきがるなよ」
唾棄すべき、醜く成り下がってしまった鬼達へ聞こえるように、言葉を発する。
すると鬼共が一斉にこちらへと向き直り、口々に汚い言葉を発してくる。
「ああ?
それは俺らのことか!?」
「舐め腐った小僧だ!」
「生きたまま喰ってやる!!」
鬼共が一斉に飛びかかってくる。
スゥッと息を吸い込み。
刀の柄に手をかけ、深く腰を落とした刹那の間に、勝負は決まった。
「カスが」
刀に付着した血を振り落とし、鞘に仕舞う。
雷の型を使うまでもない。
周囲には首と胴がお別れした小鬼が三体倒れている。
何も見えないまま首を斬られたのだろうその瞳は、驚愕に見開かれている。
小鬼の身体はやがて、霧のように霧散していった。
『コイツらは雑魚中の雑魚だな』
開始早々に襲いかかってくるような小鬼である。
空腹という感情のまま、何の備えも考えもなく、ただ視界に入って来た人間を狙ってきたと考えられる。
ここ藤襲山の中でも、とりわけ弱く知恵もない鬼だったのだろう。
「こんなヤツばかりなら、楽なんだがな」
別に急ぐこともないと、右手で刀の頭を撫でながら、ゆっくりと歩を進めていった。
襲いかかってくる鬼共を斬り捨てながら道を歩くこと数刻。
強くもない鬼との戦闘にも飽きてきた頃、休むのにちょうど良い木が目についた。
木の幹をコンコンと叩く。
病気もなく、年輪の詰まった良い音が返ってくる。
見上げれば、ちょうど木と木の葉が重なり合って見えなくなる位置に、人一人が隠れられる隙間がありそうだった。
周囲を見渡すと、ちょうど罠を仕掛けやすそうな場所が見えてくる。
万が一、鬼が襲撃してきても対応できるよう、兄弟子仕込みの罠を張り巡らせていく。
「これでよし」
誰かが接近すれば
これで少なくとも、仮眠中にいきなり襲撃を受けるようなことはないだろう。
「さて、少し休むか」
仮眠を取ろうと背を幹に預けて少し経った頃、小さな剣戟の音を耳が拾った。
キィンーーー
『!?』
すぐさま意識が覚醒する。
誰かが鬼と戦っているらしい。
手を耳に当てて、耳を澄ませる。
剣戟の音から、おそらくかなり強い剣士が戦っている様子だが、それでも押されているようだ。
どうやら、それなりに強い鬼が潜んでいたらしい。
刀を握ると、すぐに音のする方へと走り出す。
眠りを妨げられた恨みはなかった。
今はただ、強い鬼との戦闘に心を躍らせていた。
『ようやく、ようやくだ。
今の俺はどこまで強くなれたのか。
ちょっと強くなって直ぐに意気がる、かわいい獪岳さん