Side: 獪岳
「
「え!?」
「お前はいつも自分より強い者と遭遇した場合、逃げてもいいと思っているだろう?」
「う、それは・・・」
「お前には
一人で逃げられるとは思わないことだ」
「・・・はい。
逃げずにすむよう、もっと強くなります」
「獪岳、それは違う。
相手より強いから戦う。
相手より弱いから逃げる。
それならば、この世に勝負など存在しなくなる。
お前は何故強くなろうとしている?」
「それは・・・
俺を見下した全てを見返してやるためです」
「そうか。
その考えが逃げだと、自分で気付かないのか?」
「え・・・?」
「絶対的な強者は、10年経とうが100年経とうが、強者のまま変わらない。
お前はそういう相手に、一生へりくだり続けるのか?」
「・・・一生・・・」
「その程度の覚悟で、本当の強者を見返すことができると思うか?」
「・・・
それなら俺はどうすれば・・・」
「一つ覚えておけ。
敵わぬ相手に相対し、時には逃げるのも良いだろう。
だが、戦うべき時に戦わぬ者、戦えなかった者は、何も守れない」
遠くからでも視界に入る根岸色をした大型の鬼。
身体中を守るように巻き付いた無数の手、手、手。
名は体を表すとすれば、まさに
その右肩から伸びる、丸太のように太い右手に握られた人間。
今にも消えそうな命の灯火を目にした瞬間、思わず刀を握り締めていた。
『
「
離れた間合いから、雷の如き速度で斬撃が飛ぶ。
目にも止まらぬ一撃が、手鬼の右腕を切り落とした。
ドサリと、掴まれていた人間が地に落ちる。
傷だらけの姿をよくよく見れば、右頬に傷跡のある
『コイツが負けたのか!?』
ギョロリと、手鬼の目が此方を捉える。
手に囲まれた顔、その口元がニヤリと笑った。
「フフフッ・・・見えなかったよ。
なかなかすばしっこい小僧だなァ。
でも、お前は後だ。
切り落とした手が、ゆっくりと再生されていく。
まるで何事もなかったかのように、手鬼は狐面の男へと再び手を伸ばす。
「チッ!バカにしやがって!
再生する間もなく、斬り刻んでやる!!」
『雷の呼吸、
大地を大きく踏み込み、残像が見えるほどの速度で手鬼の周囲を回転する。
「
まるで庭木を
次々に伸びて襲い来る手は、
しかしその手も、高速で舞い続ける姿を捉えられずに空を切るばかり。
無防備に伸びた手を次々に斬り飛ばしながら、手鬼が最も警戒している首元に剣線を走らせる。
幾重にも首の周りを守っている手を少しずつ削り取っていくと、瞬間的に首元が視えた。
その隙を突くように、刀を瞬時に納刀する。
シィィィィィーーーーー
雷の呼吸にとって、全ての型の基本。
前傾姿勢から繰り出される、超高速の
『雷の呼吸、
「
ドンーーーー!!!
「グッ!!」
首元から血飛沫が舞う。
「クソッ」
刀を振り抜くことはできたが、手応えが足りない。
鬼の首はまだ僅かに繋がっている!!
『また、斬れなかったかーーー』
そこからの判断は早かった。
『撤退』
手鬼の首が再生するよりも早く。
傷だらけの男を抱えて、その場を後にする。
道中、傷だらけの男が逃したのだろう、もう一人の狐面の男子が後を着いて来た。
「ありがとう」
その感謝の声も、後ろから女々しく響いてくる手鬼の叫び声に掻き消されてしまった。
「アァアアァ!!
許さん!許さんんん!!
鱗滝の弟子は全員殺す!!
それから
俺の首を傷付けた貴様は、地獄の底まで追いかけて必ず殺してやる!!」
手鬼を文字に起こすのには、メデューサを参考に。
また聚蚊成雷のイメージは、ロマンシングサガ3より分身剣。あの斬撃を雷っぽくした感じ。ただし現時点の獪岳の技は、熟練の域には達していません。
それから、この獪岳は桑島さんから頂いた鱗文様の金羽織を普通に着ています。自分が特別ではなく、未熟者であることを理解しているためです。