Side: 獪岳
「
錆兎と呼ばれた剣士。
おそらく今回の
彼は今、瀕死の重傷を負っていた。
意識も定かではなく、浅い呼吸を繰り返している。
普通の人間ならば、既に
あの異形の鬼に全身を掴まれ、握り潰される寸前で助かったものの、その傷は深く、内臓にまで至っていた。
ぐちゃぐちゃに握り潰された右腕はもう、一生使い物にならないだろう。
「ああ錆兎!錆兎!」
傍らで呼びかけ続けている男、名を
彼は幸いにも無傷だった。
あの
あの鬼の
そしてあの強さを考えると、正しい判断だろう。
だと言うのに、この男、本当に
錆兎の容態を見てからは泣いてばかりで、何の役にも立ちやしない。
「泣くな冨岡!
泣いている暇があれば手伝え!!
コイツを見殺しにする気か!?」
「!?」
悲しみに打ち拉がれ、治療に動こうともしない
「血を流し過ぎている!
とにかく止血だ!!
服でも何でも破って使え!
そのあと右腕は切り落とす!!」
錆兎の右腕は、刀ごと握り潰されたのか、あらぬ方向へと曲がっていた。
骨も肉もぐちゃぐちゃにされ、治療の可能性すら考えられない。
どう見ても、切るしかなかった。
「・・・すまない。俺も手伝う。
しかし、右腕を切るのか・・・?」
情けない顔で、切らないでくれと俺を見つめる冨岡へ、事実を突きつける。
「冷静になれ!右腕はもうダメだ!
確かに利き腕を切れば、剣士にはなれないだろう。
しかし、それがどうした!?
ここで死ぬよりはマシだろう?違うか!?
お前は見殺しにしたいのか!?」
「ぐっ・・・錆兎、お前は・・・
・・・
錆兎の腕は、俺に斬らせてくれ」
ここまで言って、ようやく。
少しだけマシな顔つきになった冨岡へ、指示を出していった。
「
・・・分かった。お前が斬れ。
だが先に全身の止血を急ぐぞ。
お前は両足の怪我を診てくれ」
「ああ」
まともな医療器具も知識もない、ただ傷口を縛って止血しただけの治療。
更には
日が天に差し掛かる頃に錆兎が目を覚ましたのは、本人の気力の賜物としか言いようがなかった。
余人であれば、とっくに
「ああ錆兎!錆兎・・・」
泣きじゃくる冨岡。
彼にとって、目の前の男がどれほど大きな存在なのかが窺える。
「義勇・・・男が、泣くな・・・
見苦しい、ぞ・・・」
掠れた声で、途切れ途切れに話す、錆兎という男。
この男ですら倒せない鬼が最終選別に紛れ込んでいることに、若干の疑念が頭を過ぎる。
戦わずに済むなら、二度と戦いたくはない。
しかし、下手を打って目をつけられてしまった今。
夜という、ヤツらの戦場で逃げ続けるのは困難を極めるだろう。
「・・・・・・」
「ハハ・・・お前が、無事で・・・
良かった・・・」
「何故俺を庇った!?
お前一人なら、あの鬼を倒すこともできた!!
それなのに・・・」
「さぁ、何故、だろうな・・・
身体が、勝手に、動いたんだ・・・
だが、アイツは、強かった・・・
俺よりも・・・ゴホッゴホッ!!」
「錆兎!?」
これ以上は無理だ。
せっかくの時間を
「冨岡、そこまでだ。
それ以上無理をさせれば、本当に死ぬぞ」
錆兎の視線がこちらへと向く。
こちらが誰なのか探っているようだったが、
やがてその表情に、理解の色が広がっていく。
「・・・あなた、は?
私を、助けて、くれた・・・」
「獪岳だ。錆兎と言ったな。
利害の一致だ。感謝は要らない。
今の自分の状態が分かるか?」
「アナタは・・・ええ。
内臓が、かなり、やられて・・・
右腕の、感覚は、もう・・・」
右腕は切除したのだから、当然の反応だった。
しかしこの錆兎という男、これほどの重傷にも関わらず、冷静だ。
こんな状態になっても、冨岡よりよほど強い。
「覚えているかもしれないが、右腕を斬った。
もうどうしようもなかった。
そしてこのままだと、お前は出血多量で死ぬ。
患部に集中して、全集中の呼吸を使え。
自分で止血しなければ、本当に死ぬぞ」
「ぐ・・・
痛ッ・・・」
スゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーー
フゥゥゥゥゥゥゥーーー
スゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーー
フゥゥゥゥゥゥゥーーー
錆兎は痛みに耐えながらも、患部に手を当てながら深く深く呼吸を重ねた。
すると、みるみる内に血が止まっていく。
『口頭で伝えただけで成せるとは・・・
やはりこの男、天才か』
「・・・流石だな。
そのまま安静にしていろ。
日が昇ったら、山の入口まで連れて行く」
「待ってくれ・・・
俺は、まだ、戦える・・・」
想いのこもった強い視線で訴えてくる。
重傷を負い、自力で身体を起こす事すらままならない男とは、到底思えなかった。
その言葉には、
この男は本気だ。本気で死んでも良いと思っている。
しかし・・・
「無理をするな。どれほど強い者も死んだら終わり。
お前達を狙ってあの鬼はまた来る。
鱗滝さんの恨みだか知らんが、
コイツ諸共、次に戦えば確実に殺される。
それが分かっていながら・・・
錆兎・・・あまり師匠を悲しませるな」
錆兎は、しばし目を瞑り・・・
そして、ハハッと笑った。
「鱗滝さん・・・分かった・・・
ならば、せめて、見届け、させてくれ・・・」
大人しく休んでいれば良いものを・・・
呆れてため息も出なかった。
「・・・チッ。
おい、義勇と言ったな!
コイツを死なせたくなければ、お前が説得して連れ帰れ!」
唯一、錆兎の心を動かせるとしたら、この男しかいない。
しかし、冨岡からの返答は、あまりにも無情なものだった。
「・・・無理だ」
「おい!!
ふざけるな!!
せめてもう少しーーー」
「・・・頼む」
これほど真剣な表情もできるのだと冨岡という男を見直したところで、唯一の説得材料が僅か数秒で儚くも消え去った事実に気付く。
『これ以上コイツらに、何を言っても無駄か・・・』
「・・・チッ!
俺は!お前らがどうなろうが、正直どうでもいい。
あの手鬼の首を斬り落とせるなら、半死人の手を借りようが、何とも思わないからな!!」
こうして、対手鬼戦線が決まった。
一週間毎の1000文字投稿を目指してますが、今話は途切れるところが作れず。
投稿が遅くなりましたm(_ _)m
地元のマラソン大会に出るのに、少し走ってました(^^;