Side: 獪岳
「ハァ、ハァ、ハァ」
走る、走る、走るーーー
己を殺し得る敵との逃走劇に、心の糸が張り詰めていく。
思えば口の中がカラい。喉の奥が焼けるようだ。
「フフッ、フフフフッ。
お前はゆっくりと殺してやる。
手足を引き千切って、それから内臓を抉り出し、
肉も骨も虫ケラのようにすり潰してなァ」
ゆっくりとした口調の、愉悦した声が背中に届く。
自分よりも弱い子供を
しかし全身手だらけの癖に、思っていたよりも動きが速い。
大きな手を何本も生やし、まるで節足動物のように迫って来る。
「ハァ、ハァ、ハーーー」
果たして上手くいくだろうか・・・
この手は、刀を振り切ることが、できるだろうか・・・
あの日までは、
あの日からは、誰よりも強い
ムカつくが、認めざるを得ない兄弟子もいた。
ジジイのくせに強い、
死線の上を渡るのは、あの日以来。
自ら選んで渡ろうとしたのは、初めてだったーーー
「フフフフッ」
その声が妙に遠くから聞こえると思って振り返ると、
兄弟子の野生の直感には及ばないが、そんな俺でさえ嫌でも察する。
『コイツ、
手の肉の塊のような手鬼の姿勢が、僅かに左に傾くーーー
「来るーーー!!!」
ここから離れなければ死ぬーーー!!
脳が鳴らす警鐘に従い、咄嗟にその場を飛び退く。
つま先を掠めるように、地面から手が何本も生えてきた。
『だが、遅いーーー!!』
指先の関節を切り飛ばし、手首、肘、二の腕と、迫り来る腕を瞬時に切り刻む。
上腕のみとなった腕を蹴り、そのまま背後にあった木の枝に飛び乗った。
「仕留め損なったか。
フフフフッ。
でもこれで、逃げられないだろう?」
手鬼の言う通りだった。
地面は既に死地。
周囲を見渡せば、森の木に葉が生い茂っている。
枝から枝へ飛び移っての移動も、出来そうにない。
何よりもう、手鬼から目を離す事は出来なさそうだった。
「・・・仕方ない」
懐から
導火線の先にある、ゲンコツ大の玉。
火が根元へと届く直前、それを手鬼目掛けてぶん投げる。
兄弟子曰く
「空に打ち上げる火薬を抜いたので、猗窩座さんに伝わらない失敗作。
強いて言えば、武器としてなら使えるかも」
「なーーー!?」
ドォンーーー!!!
そんな失敗作の花火が、根岸色の大地に咲いた。
奥義、八宝大華輪。
誤字報告も、ありがとうございましたm(._.)m