未来の花   作:ZANGE

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第89話
Side: 獪岳


最終選別 伍

「ハァ、ハァ、ハァ」

 

走る、走る、走るーーー

 

己を殺し得る敵との逃走劇に、心の糸が張り詰めていく。

思えば口の中がカラい。喉の奥が焼けるようだ。

 

「フフッ、フフフフッ。

 お前はゆっくりと殺してやる。

 手足を引き千切って、それから内臓を抉り出し、

 肉も骨も虫ケラのようにすり潰してなァ」

 

ゆっくりとした口調の、愉悦した声が背中に届く。

自分よりも弱い子供を甚振(いたぶ)る事に、仄暗(ほのぐら)い快感を得ているのだろう。

 

しかし全身手だらけの癖に、思っていたよりも動きが速い。

大きな手を何本も生やし、まるで節足動物のように迫って来る。

 

「ハァ、ハァ、ハーーー」

 

果たして上手くいくだろうか・・・

 

この手は、刀を振り切ることが、できるだろうか・・・

 

あの日までは、悲鳴嶼(ひめじま)さんが守ってくれていた。

 

あの日からは、誰よりも強い猗窩座(あかざ)さんがいた。

ムカつくが、認めざるを得ない兄弟子もいた。

 

ジジイのくせに強い、桑島(くわじま)のジジイがいた。

 

死線の上を渡るのは、あの日以来。

自ら選んで渡ろうとしたのは、初めてだったーーー

 

「フフフフッ」

 

その声が妙に遠くから聞こえると思って振り返ると、手鬼(ておに)は立ち止まって不気味な笑顔を浮かべていた。

 

兄弟子の野生の直感には及ばないが、そんな俺でさえ嫌でも察する。

 

『コイツ、血鬼術(けっきじゅつ)が使えるのか!?』

 

手の肉の塊のような手鬼の姿勢が、僅かに左に傾くーーー

 

「来るーーー!!!」

 

ここから離れなければ死ぬーーー!!

 

脳が鳴らす警鐘に従い、咄嗟にその場を飛び退く。

 

つま先を掠めるように、地面から手が何本も生えてきた。

根岸色(ねぎしいろ)をした無数の指先が俺を掴まえようと、うねうねと蠢きながら迫る。

 

『だが、遅いーーー!!』

 

指先の関節を切り飛ばし、手首、肘、二の腕と、迫り来る腕を瞬時に切り刻む。

 

上腕のみとなった腕を蹴り、そのまま背後にあった木の枝に飛び乗った。

 

「仕留め損なったか。

 フフフフッ。

 でもこれで、逃げられないだろう?」

 

手鬼の言う通りだった。

地面は既に死地。

 

周囲を見渡せば、森の木に葉が生い茂っている。

枝から枝へ飛び移っての移動も、出来そうにない。

 

何よりもう、手鬼から目を離す事は出来なさそうだった。

 

「・・・仕方ない」

 

懐から火打石(ひうちいし)を取り出し、もう一つ取り出した導火線へと火を着ける。

 

導火線の先にある、ゲンコツ大の玉。

火が根元へと届く直前、それを手鬼目掛けてぶん投げる。

 

兄弟子曰く

「空に打ち上げる火薬を抜いたので、猗窩座さんに伝わらない失敗作。

 強いて言えば、武器としてなら使えるかも」

 

「なーーー!?」

 

ドォンーーー!!!

 

そんな失敗作の花火が、根岸色の大地に咲いた。




奥義、八宝大華輪。

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