未来の花   作:ZANGE

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第90話
Side: 獪岳


最終選別 陸

「ア、アアア・・・

 アアアアアァァァ!!!」

 

手鬼(ておに)慟哭(どうこく)が山中に響く。

 

肉体の半分以上が消し飛び、まるで雷に打たれ裂けた枯れ木のような鬼の姿が、そこにはあった。

 

どうせ死なないからと、日輪刀(にちりんとう)以外の武器を軽んじた結果だろう。

 

ジジイから教わった事だが、十二鬼月(じゅうにきづき)でもない鬼には、千々に千切れた肉体はすぐに再生できない。

 

千載一遇の好機!!!

 

少し離れた場所にある茂みへ向けて、声を張り上げる。

 

村田(むらた)アァァァァ!!!!!」

 

「ああもう!!分かったよ!!」

 

茂みの中から藤の枝で作った隠れ蓑をパッと脱いで現れたのは、同じく最終選別(さいしゅうせんべつ)を受けている同期の剣士。

 

鬼に襲われそうになっていたところを偶々助け、ちょうど良いからとそのまま戦力に加えた、見た目も力量も普通で地味な男。

普通なら断られて逃げるかと思いきや、この村田、鬼殺隊(きさつたい)の剣士を目指す者にしては不思議と優しく気の良い男だった。

 

加えて剣術と呼吸(こきゅう)の扱いは良くて並だが、身体の使い方が巧かった。

 

彼の役割は大きい。

 

彼は抜刀するなり、その刀を思い切り投擲(とうてき)した。

剣士の魂とも言うべき刀を、文字通りぶん投げた。

 

僅かに紫色をした刀身の日輪刀は、綺麗な直線を描いて手鬼の身体へと突き刺さる。

 

そこからの変化は、劇的だった。

 

「ア・・・ァァァ・・・カ・・・

 ウ、ロコ、ダ・・・キィ・・・」

 

肉体の再生は止まり。

煩かった悲鳴も消え。

死にかけの虫ように、

ピクピクと痙攣(けいれん)するだけの肉塊と化す。

 

今ごろ、村田の持つ鞘の中身は、(ふじ)の花びらと蜜で紫色に染まっている事だろう。

俺も以前、兄弟子の思い付きでやらされた事がある。

効果は抜群なんだが、アレは後で洗うのが大変なんだ・・・

 

しかし、弱者の武器としては非常に優秀。

何故この一帯の鬼が山から逃げられないのかを考えてみれば、山を少し下るだけで最良の武器がいくらでも手に入るのだった。

 

手鬼へと視線を戻す。

おそらくは爆発の直前に庇ったのだろう。

身体の大半を消失させながらも、首周りだけは大量の手で固く守るように囲われていた。

 

 

 

錆兎(さびと)の言葉が蘇る。

 

「アイツの(くび)は硬い。

 俺の刀でも斬れなかった」

 

 

 

錆兎は強い男だ。

その錆兎でも斬れなかったとすると、(かみなり)の呼吸、(いち)(かた)で完全に斬り落とせなかったのも、偶然ではなかったのかもしれない。

 

しかし、満足に動けない今なら斬れる。

 

『まるで巻き(わら)の試し斬り。

 これで斬れなかったら、またジジイに怒られるな』

 

上体をグッと前に倒した前傾姿勢となり。

納刀した刀の柄を持ち、居合の構えを取る。

 

スゥ、と息を吸い込むーーー

 

『雷の呼吸、壱ノ型ーーー』

 

顔を上げると、怯えたような表情の手鬼と目が合う。

少しずつ動くようになった多くの手のひらが、震えながらもこちらを向いていた。

 

そんな事で鈍るナマクラなら、俺は今ここに立ってはいない。

 

霹靂一閃(へきれきいっせん)!!!」

 

ドンーーー!!!

 

雷の如き瞬足の抜刀術が、大地を駆ける。

 

 

ヒュウウウウウウウウーーー

 

風が逆巻くような音がする。

 

(みず)の呼吸、壱ノ型ーーー

 水面斬(みなもぎ)り」

 

静かに音もなく。

まるで水面に一雫の波紋が拡がるように、俺の技に重なるように合わせて放たれた刀身が、綺麗な弧を描いた。

 

ポトリ、と。

頸が落ちる。

 

 

この作戦の最後の要。

額に汗を滲ませた冨岡義勇(とみおかぎゆう)が、そこには立っていた。




村田、登場。

大雑把な設定ですが、原作8年前頃。
冨岡義勇と獪岳は二歳差で、獪岳の方が年下です。
もし獪岳が逃げ回らず、復讐に人生を注いでいれば、このくらいの歳で最終選別を受けていたのではないかなと思いました。
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