未来の花   作:ZANGE

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第93話
Side: 悲鳴嶼


柱合会議 弐

じゃりんーーー

 

沈黙を破ったのは、二振りの分厚い大刀(だいとう)を繋ぐ鎖の音だった。

 

「・・・俺にはアナタが人間にしか見えない。

 だが、もし悪鬼と化したその時はーーー」

 

「私が斬る」

 

静かな、しかし反論を許さぬ声が、瑠火(るか)殿の傍らに立つ槇寿郎(しんじゅろう)さんから発せられた。

 

補佐官などという役目。

(はしら)に匹敵する戦力が、ただ夫婦だからという安易な理由で与えられたものでないことを、宇髄(うずい)天元(てんげん)はこの瞬間に認めた。

 

槇寿郎さんの燃えたぎるような視線に、(ようよ)う認めざるを得なかったのかもしれない。

 

「お二人とも、そんなにご心配なさらずに。

 あなたも、珠世(たまよ)さんの腕はよくご存知でしょう?

 あの方ならばいずれ、鬼を人に戻す薬も作って下さると、私は信じております」

 

瑠火殿が、珠世という者を心の底から信頼している事が伝わってくる。

 

もしも沙代(さよ)から話を聞いていなければ、もしも猗窩座(あかざ)殿と出会っていなければ、私は問答無用で珠世殿を斬っていただろう。

 

話を聞いていてさえ、鬼を人に戻す薬などハッキリ言えば御伽話。

何百年と鬼を研究しているという話が事実だとして、果たして本当に可能なのだろうか・・・

 

武器を背に仕舞いながら、宇髄の目が槇寿郎さんへと向けられる。

 

「煉獄さんよ、その覚悟を決して違えるなよ」

 

「・・・ああ。

 ではいつもの部屋に移動し、

 お館様から託された話に移ろう」

 

槇寿郎さんが奥方の治療のために、柱としての任務も果たしながらどれだけ奔走したかーーー

柱とて人間。人間の心は、からくりではない。

最愛の者を斬らねばならぬ心の痛みは、想像するだに恐ろしい。

 

しかし、それでも。

弱き者に成り代わり、刀を振るうのが我ら鬼殺隊(きさつたい)なればーーー

その責務もまた、刀に帰する時が来るのだろう。

 

 

槇寿郎さんが先導するように歩き出し、各々がそれに続いて歩く。

 

「私はお茶とお茶菓子を用意してきますので、

 皆様はどうぞお話を進めておいてください」

 

そう言って瑠火殿が列を離れる。

 

目が見えないからこそ分かる。

今離れていった彼女の呼吸は、一年前よりも遥かに力強く洗練されていた。

 

あの実力では宇髄が柱と疑うのも無理もない。

 

 

とある一室の襖を開け、常日頃から話し合いの場として利用している部屋の中へと入っていく。

 

既に用意されていた座布団へと各々が座ると、槇寿郎さんはすぐに話題を切り出した。

 

「話というのは、次の柱候補についてだ。

 いずれ柱になり得る才能を持つ者でも良い。

 柱不在地域の被害報告に、お館様も心を痛めておられる。

 そこで確かな目を持つ皆の意見・情報を共有したい」

 

なるほどと、納得がいく話だった。

柱の補充は、鬼殺隊にとって急務。

人並外れた才を持ち、天運を味方に付けた者でなければ務まらぬのが、柱という名の重みだった。

 

すると早速、宇髄が語り始める。

 

「そう言えば、派手な呼吸の型を使う剣士を見たことがある。

 一年前、お館様に同行した最終選別(さいしゅうせんべつ)で生き残ったヤツだ」

 

宇髄の話には心当たりがあった。

 

「もしや、獪岳(かいがく)のことでは?」

 

そう聞くと、宇髄は記憶を辿りながらといった様子で頷いた。

 

「あー、たしかそんな名前だったか。

 碧眼(へきがん)で派手な(かみなり)呼吸(こきゅう)を使う小僧だ。

 アイツはなかなか見込みがありそうだった」

 

「獪岳・・・ああ、あの世代か。

 何人かはいずれ(きのえ)に至ると言われているらしいな。

 息子の杏寿郎(きょうじゅろう)から聞かれたこともある」

 

「あの世代と言えば、冨岡(とみおか)錆兎(さびと)という者たちも優れていると聞いた」

 

「錆兎?

 ・・・誰だそりゃ」

 

その問いに誰も答えられないでいると、襖が開いて、瑠火殿がお茶を持ってやってきた。

 

「皆さんご存知の方ですよ。

 ほら、たしか隻腕(せきわん)(かくし)になられた」

 

その言葉に、一同が揃って頷いた。

「ああ、アイツか」と。

 

隠の中にあって、規格外の技量と呼吸の技術を持つ男がいる。

と言うのは、もはや鬼殺隊内では公然の話だった。

 

隠でありながら日輪刀(にちりんとう)の帯刀を許され、鬼との戦闘補佐までこなす者。

 

力強い(みず)呼吸(こきゅう)の型は、並の剣士よりよほど頼もしい。

 

「アイツが隠とか、あり得ねえだろ」

 

宇髄の言葉に、一同は苦笑を禁じ得なかった。

 

瑠火殿が配られたお茶を口に含み、束の間の休息を楽しむ。

『・・・良き味だ』

 

トン、と湯呑を茶托(ちゃたく)に置く。

 

「彼についてはお館様(やかたさま)がお認めになった事だ。

 きっと何か意味があるのだろう」

 

そう結論すれば、それ以上は誰も何も言わなかった。

 

お館様の並外れた直感力は、鬼殺隊の柱ならば皆が知るところだった。

そのお館様が決めたことならば、いずれ必ず意味が分かる日が来る。

 

「そう言えば、悲鳴嶼(ひめじま)さんが仰られた冨岡さんとは、私たちも任務でご一緒したことがありますよ。

 鱗滝(うろこだき)さまのお弟子さんで、流れるような美しい剣技をお待ちでした」

 

「あの無口な男か・・・あれは伸びるだろう。

 鱗滝さんも、良い弟子をもったものだ。

 言葉が足らないところは直した方がいいと思うが」

 

「そういうところも、あなたに似ておりましたね」

 

「・・・・・・」

 

槇寿郎さんの顔が赤く染まっていく。

 

前を見れず、下を向いてプルプルと両肩を震わせる。

口に含んだお茶を吹き出さなかった自分を、今だけは褒め讃えたかった。




杏寿郎
「なんと!?
 慶吾殿の弟弟子が鬼殺隊に!?
 よもやよもやだ。
 俺も早く一人前の剣士と認められたい!」
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