Side: 悲鳴嶼
「姉のカナエは上背の高さとしなやかさを認められ、
妹のしのぶは小柄でやや力に欠けるが、非常に頭が良く薬学にも精通している。処方された薬は数知れず。既に皆も知っての通り、隊内の医療行為の改善は、彼女の功績に寄るところが大きい」
落ち着いて淡々と話す声の中に、ほんの僅かの誇らしさと寂しさを滲ませながら、私はあの二人の活躍を思い返していた。
人の世は、決して正しいばかりではない。
時には間違ったことが
怒り、憎しみ、恨み、嫉み、悲しみ、苦しみ、暴力・・・
人間の持つ負の感情をーーー
しかしそれでも、あの二人は風雪に耐え、笑い飛ばしていた。
私の心配など、どこ吹く風と・・・
「俺は会ったことがないな。
医療は地味だが、派手に大事だ。
隊内に詳しい者がいるといないのでは、隊士の士気も大きく変わる。
そのしのぶというのは、
「・・・・・・」
薬師。
と、思いを馳せていたところ、
「しのぶちゃんは、立派な剣士ですよ。
その上、薬師の仕事もこなす、立派な方です。
あんな明るくて聡明な娘なら、私も欲しかったと思うくらい。
ねえ、あなた」
「ぐ、ごほっ、ごほっ!
・・・うむ。
あの年齢で、よくできた姉妹だと感心するな」
滅多に人を褒めない
『・・・ありがたい話だ。
夫妻のやり取りに、宇髄は手をひらひらと振りながら、槇寿郎殿の話を促した。
「・・・派手に嫁に会いたくなってきた。
槇寿郎さんよ、お
「そうだな。以上だ。ここから先は自由討議とする。
皆、気になる事があれば
槇寿郎殿の言葉にいち早く反応したのは、またもや宇髄だった。
「気になると言えば、地味に気になる鬼がいる。
身体中に
俺様ともあろう者が、仕留めることが出来なかったヤツだ」
宇髄から語られた十二鬼月の情報に、皆が息を飲む。
皆、知っているのだ。
下弦の陸ごときに梃子摺るような者は、この場にはいないと。
忍の末裔、
並外れた観察眼と冷徹な実行力、加えて忍としての経験が、彼を歴代の柱でも上位の強さに押し上げていた。
「・・・強いのか?」
その宇髄が気になると言うのであれば、傾聴して然るべきだろう。
「正直、攻撃の腕は大したことねえ。
おそらく戦慣れしてないんだろう。
だが派手に厄介な
「血鬼術か・・・」
千変万化の血鬼術。
初見殺し、状態異常、空間操作など優れた血鬼術にも様々あるが、脅威度は鬼自身の熟練度に大きく左右される。
故に、その鬼が脅威となる前に、迅速に倒さなければならない。
「言葉にするのが難しいんだが・・・
横向きに飛ばされるのは、まだいい。
最悪なのは、空に落とされる」
「「!?」」
さすがに十二鬼月と言うべきか、並大抵の血鬼術ではないようだ。
だが、それだけならばーーー
宇髄ほどの男なら、どうにかしそうなものだが・・・
「と言っても、永遠に続くわけじゃねえ。
一定距離を飛ばされると元に戻るから、範囲は決まってるんだろう。
もっとも、元に戻った時が一番危険だな。
並みの隊士なら、受け身を取れずに落ちてお終い。
上手く対処できたとして、ヤツは離れた相手を空間ごと斬り裂く血鬼術も使う」
「む・・・」
ここで響凱という鬼の異常性が浮かび上がった。
通常、血鬼術の持つ性質は一つに限られる。
その性質が強力になることはあっても、二つの要素を兼ね備える例は極めて稀と言える。
それこそ、何百年と生き続ける、上弦の鬼でもない限り。
「・・・それは厄介だな。
鼓を使う鬼を見かけたら戦わずに退き、柱に伝達するよう御触れをだしておこう」
単体で重力操作に加え、遠隔攻撃をも操る鬼。
少なくとも
鬼の情報を速やかに伝達することも、
会議が終わり次第、話を通しておこう。
そう思ったところで、宇髄の顔が妙に真剣味を帯びたものになった。
「・・・そこなんだが・・・
どう言うわけか、ヤツは好んで人を襲うようには見えなかった。
寧ろ、慣れない血鬼術を試しているような節さえ感じられた。
地味に逃げるだけなら、わざわざ追いかけては来ないだろう」
その言葉に、宇髄以外の者はピクリと反応を示す。
何とも言えない空気の中、静々と口を開いたのは瑠火殿だった。
「・・・それは不思議ですね。
本当に十二鬼月なら、
その鬼は、血を臭いを漂わせていましたか?」
その質問に、宇髄は顎に手を当てて考えながら返す。
「いや、断食でもしてんのかってくらい、地味に臭いはしなかったな。
しかもそれで空腹を訴える様子もない。
十二鬼月ともなれば擬態が上手くなるのかと、派手に疑ったくらいだ」
頭を傾げる宇髄を除いた三人の視線が交差する。
『よもや、
『猗窩座・・・』
『
それきり無言になってしまった三人から、何かを察した宇髄。
「オイオイオイオイ!
三人とも地味に黙って、何か知ってるのか?
それなら、俺にも教えて欲しいもんだな。
第一ここは、情報共有の場じゃなかったのか?」
その言葉に、三人ともがサッと視線を交わす。
そして二人から視線を向けられた槇寿郎殿が、ややあって口を開いた。
「今から話すことは、例外中の例外。
お館様も、無闇に広めることは認めておられない。
柱以外には他言無用となるが、それでも構わないか?」
その言葉に宇髄は「ハッ!」と獰猛な笑みを浮かべた。
「上等だぜ」
この僅か五分後、彼は頭を抱えることになるのだった。
以下、修正してますm(_ _)m [2023.3.31]
蝶屋敷が出てくるのは、花柱として認められてからとなります。
また煉獄夫妻の計らいで、しのぶの作る薬が隊内に出回るようになりました。
二人にその重要性を知らしめた、珠世さんの功績と言っても過言ではないかもしれません。