未来の花   作:ZANGE

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第96話
Side: 瑠火


柱合会議 伍

とくとくとくとくーーー

 

熱いお湯を急須へと注いでいく。

 

それを興味深そうに隣から覗き込んでいるのは、誰あろう鬼殺隊(きさつたい)当主(とうしゅ)耀哉(かがや)様。

小さい頃から存じ上げているとは言え、この距離感で接するのはいつ以来でしょうか。

 

お湯を入れて三十秒ほど待った後、俗に言う『(まわ)()ぎ』のやり方で、湯呑へと(ほう)(ちゃ)を注ぎ分けていく。

 

「なるほど、そうやって温度や濃さを均一にするんだね・・・」

 

まるで子供のように楽しそうに、微笑みながら話すお姿を久し振りに見たかもしれない。

傍にはあまねさんも控えているものの、手を貸す様子はない。

 

ふらりと唐突に現れて、気付けば今の位置にいらっしゃる。

 

こちらまで様子を見に出歩いて来られたのでしょう。

見たところ、本当に体調も良さそうなご様子。

 

焙じた茶の匂いが、ふわっと香る。

 

「ああ、良い香りだね」

 

「耀哉様も飲まれますか?」

 

「そうだね。

 せっかくだから、皆と一緒に頂こうか」

 

「分かりました。

 では参りましょう」

 

ひとつ、湯呑みが増えたお盆を持ちながら、(はしら)の皆が待っている部屋へと、ゆっくりと歩みを進めていく。

 

「少し気になってね。

 会議の方は、順調かな?」

 

「はい、実は・・・」

 

あまねさんの肩を借りながら、ゆっくりと歩まれる耀哉様と一緒に。

 

 

 

「「「お館様(やかたさま)!!??」」」

 

襖を開けた瞬間の皆の連携は、それは見事なものでした。

 

忽然と机が消えて道が開かれ、専用の座布団が敷かれ、あまねさんとお館様を気遣える位置へと各々が瞬時に動く。

各々の道で、呼吸の高みに到達された方々の動きは、夫をよく知る私から見ても感心してしまうほどに洗練されていました。

 

「そんなに気を遣わないで欲しい」と。

苦笑しながらも、お館様が席に着かれた瞬間、消えていた筈の机が元通りに現れました。

 

机から最も近い位置にいたのは、宇髄(うずい)さん。

 

今のは何?

ひょっとして忍術・・・?

 

いえ、これ以上は考えても無駄ですね。

 

ともあれ、ご健康なお館様のお姿を拝見できて、喜ばない柱はいないでしょう。

実の親のように愛し、尊敬してやまないお方なのですから。

 

「・・・瑠火(るか)から聞かせて貰ったよ。

 上弦(じょうげん)(さん)猗窩座(あかざ)という鬼についてだね」

 

皆の席に湯呑みが置かれたのと同時に、お館様が宇髄さんの方を向いて切り出された。

 

「畏れながら、その鬼が何者なのか、ご説明頂きたく存じます」

 

一歩も引かぬ姿勢で宇髄さんは前を向いている。

 

『悪鬼滅殺』

 

鬼は悪。

鬼が人を喰う限り。

それは、決して相容れない境界線。

 

「そうだね。

 彼の話をする前に、鬼舞辻(きぶつじ)の呪いと。

 その呪いを自力で解いた(ひと)の話をしよう」

 

そのお言葉に、お館様のご配慮に感謝する。

 

宇髄さんは誰よりも冷静で、計算高い人。

続きを聞く姿勢を崩さず、お館様をじっと見つめていた。

 

「鬼舞辻は、配下にした鬼をいつでも殺すことができる。

 だから全ての鬼は、決して彼に逆らえないんだ」

 

「!?」

 

お館様はゆっくりと、一部の者しか知り得ない事実を語られ始めた。

 

「例えば、十二鬼月(じゅうにきづき)には、

 鬼殺隊の柱は見つけ次第殺せ。

 鬼殺隊の本拠地を、産屋敷(うぶやしき)を探し出せ。

 ・・・青い彼岸花を探し出せ」

 

「産屋敷」と、ご自身で仰った瞬間、空気が震えたーーー。

 

お館様は時折、意地悪な物言いをなさる。

私は柱ではありませんが、皆の気持ちが一つになったのは間違いないでしょう。

 

圧力が増した部屋の中で、お館様が、そっと伸ばした人差し指を口に当てる。

と、皆が殺気を抑えて聞く姿勢を取った。

 

「そういった指示を出しているんだと思う。

 配下の鬼がどこにいて何をしているか、何を考えているかも、探ろうと思えば分かるそうだ」

 

一方的な生殺与奪の権利。

宇髄さんでさえ、その事実に息を呑んだ。

 

「つまり全ての鬼には自由などないと言える。

 ・・・その呪いを解かない限り」

 

場に沈黙が流れる。

人を喰らう鬼に同情の余地はない。

ないけれど、哀れな生き物とも思ってしまう。

 

雰囲気を切り替えるように、お館様はここでお茶をひと口飲み、ホッと息を吐かれた。

 

「ああ、美味しいね」と、珍しい笑顔でお館様が呟いた瞬間。

周囲から嫉妬の視線が私に向けられる。

 

そんなに思うくらいなら、今度柱の皆様にもお茶の淹れ方を教えてあげようかしら。

 

笑顔のまま、お館様が視線を私の方へ向けられた。

 

「そして・・・瑠火。

 彼女が今も元気でいることが、鬼舞辻と決別し、呪いを解いた(ひと)がいることの証明なんだよ」

 

「それはどういう・・・

 ・・・まさか鬼に!?」

 

流石に理解が早い。

立ち上がりそうになる宇髄さんを、夫が制する。

 

「宇髄、お館様の御前だ」

 

「・・・・・・失礼、仕りました」

 

天元(てんげん)。瑠火は間違いなく人間だよ。

 鬼の中にも、鬼舞辻を憎む者がいる。

 その人のことは、私も容認している。

 そしてできることなら、天元にも納得して欲しい」

 

ギリーーー

歯を食いしばる音が聞こえるほどに、宇髄さんは頭を下げて談判した。

 

「・・・畏れながら、ご説明次第としか申せません」

 

ここでお館様は、私の方を向いて涼やかに微笑んだ。

 

「瑠火」

 

「はい」

 

名を呼ばれ、正座のまま、すっと背筋を伸ばす。

 

「思い出すのもツラいかもしれないけれどーーー

 死病に蝕まれていたその身に何があったのか、もう一度話してくれるかい?」

 

畳に両手を付いて、上半身を前屈みに倒し、頭を下げる。

丁寧な所作で最敬礼のお辞儀を行う。

 

「承知致しました」

 

顔を上げる際、チラと槇寿郎(しんじゅろう)さんの方に目線を送る。

『この人も変わった・・・

 あの日から、お酒に呑まれることもなくなった』

 

軽くなった心のままに、お館様にも笑顔で告げる。

 

「ですが、悪いことばかりでもありませんでした。

 ・・・夫も優しくなりましたし」

 

付け加えた言葉に、場が和やかになったのを見て、私は詳しい経緯を話し始めたのだった。




お館様の雰囲気を言葉で伝えるのが、本当に難しい・・・
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