弊社NFFサービスはこの度、聖杯戦争への参加が決定致しました♡ 《完結》   作:ルルザムート

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連続投稿ドドドン!今回は分岐関係無しです
彼の幕間は(2)を書いた時点で既に書き終えていたりする
というわけで第118話です、お楽しみください


第118話 幕間 クライム・アルバート(1)

人間は弱い

 

 

たった1人だけで生きていけるほど強い人間がいるとすればそいつは人でありながらおよそ人の領域を逸脱している

 

 

──彼は領域の中にいる大勢の人間の1人だった

 

 

ただ少しだけ、1度だけ

『勇者』という入れ物に隠れただけの人間だった

 

 

『あなたはよくやっている』

『落ち度は無かった』

『仕方なかった』

 

 

どこかの誰かが今日を生きる希望は鎖となって彼を閉じ込めた

『中に誰か居るかも』なんて、誰も気に留めなかった。ただそこにあるだけで救われるのに内側を暴こうとする人間なんていない

 

 

「………」

 

 

…ああ

 

 

────お前は希望じゃない────

 

 

ただ1人でもそう言ってくれる人間がいれば。

ただ1人でも、この勇者の入れ物に泥をかけられる人間がいたのならば

 

 

「俺はきっと──」

 

 

 

 

 

聖杯戦争より3年前 ワシントンdc とある病院にて…

 

 

「クライム中尉!?テロ制圧で動いていると…」それに血が…!

「もう終わった、それよりもショーン軍曹の容態を報告しろ

これはいい、命に関わるものでも後遺症が残るものでもないからな」

 

 

子供の頃聞いたことがあった

 

 

「じ、実は先日制圧した武装反政府組織の残党から報復を受けたようで──」

「聞きたいのは負傷の理由じゃない、助かるのか?どうなんだ」

「…分かりません、今医者が──」

 

 

ガチャン

 

 

「軍曹!?」

「はっ…あ…退いて、くれ」

 

 

朝見た彼の姿とはかけ離れたズタズタの男がほぼ形を失った右脚を引きずりながら手術室から出てきていた

あの負傷の仕方は爆弾だ、それもかなり強力な奴を…

 

 

「ショーンさんやめてください!ドクター!患者が…

「かぞ、家族がいたんだ…!爆風を、受けた時すぐそばに妻が…

彼女もここに運び込まれたはずだ!何故彼女を先に治療しないんだ!

なんで、なんでだ…!」

 

 

足元から左腕と顔左半分を除くほぼ全てから痛々しく出血している彼の姿はもはや何故生きているのか、動けているのか分からなかったが──

怪我に爆風を防いだ痕跡が無い、恐らく爆弾は彼の妻を狙って使われ、身を挺して庇った故の負傷だろう

 

 

「あなたの奥さんは今受け入れ可能な病院の手配中です!きっとすぐ見つかりますからこれ以上無茶は…!」

 

 

…医者じゃなくても分かる

彼が助かるには奇跡でも起こさなければ無理だ

だからと言ってそれは見捨てていい理由になんてならない、奇跡が無ければ助からないと言うのなら奇跡を起こすしか無い

 

 

「──彼の妻はどこに?」

「失礼ですが貴方は…?」

「米陸軍中尉クライム・アルバート、彼の上司にあたる者だ」

「!ではあなたがあの勇者と…!

失礼しました!彼の奥さんは奥の病室で応急手当をしています」

 

 

「!!」

それを聞くが早いか、ずりずりと音を立て奥へ行こうとするショーン

看護婦が取り押さえようとするよりも早く俺は彼の腕を掴んでいた

 

 

「クライム、さん」

「そんな不衛生極まりない血塗れで病室に入ってどうなる、怪我の度合いによってはお前が妻を殺しかねないぞ」

 

 

漠然と憧れていた誰かに

 

 

「彼女より重症のお前が生きているのなら無事だろう、それでも気になると言うのなら俺が確認してきてやる

そうしたら大人しく治療を受けろ」

 

 

俺は返答を聞かずに奥の病室へと駆けていき、中にいるであろう彼女へ言葉をかける

「クライム・アルバートです、大変申し訳ないが一言だけ貴方の夫を安心させる言葉を貰えないだろうか」

「…ああ、夫の…うん、私は大丈夫、貴方が庇ってくれたから、私は無事…そう、お伝えくださいますか?」

 

 

「ええ、分かりました」

必要な言葉を受け取り、すぐに彼の元へ戻りそれを伝えた

 

 

「妻、は」

「聞いての通りだ、心配は要らない

分かったら治療を受けて次は自分で聞──」

 

 

だらん

 

 

「ショーン軍曹」

 

 

止まった呼吸、開き切った瞳孔、体温の残る血液と体温が抜け切った身体

 

 

「そんな…すぐに手術室に「無駄だ」

取り乱す看護婦に一喝し、彼の手からあるものを抜き取る

──メスだ、当然のように余す所無く血塗れだ

 

 

「自分の首を、刺したのか…?」

「…」

 

 

第3者から見て命の価値に差は無い、大統領だろうが犯罪者だろうが命の価値はその人間1人分の価値しかない

だから医者達もより重傷で死に近い彼を先に治療しようとした

諦めず奇跡を手繰り寄せてでも彼を救おうとした医師達は間違っていない、命の価値が同じ以上見捨てていい命など存在しない

 

 

「────」

 

 

希望とはこの世で1番眩しい呪いなんだと

 

 

翌日 米陸軍管轄下墓地にて…

 

 

「いつもすまない、エナ」

「………うん」

 

 

だがそれはあくまで第3者目線の場合だ、彼にとって彼女は自分の命よりも重かった

より価値のある者を生かす、考え方は合理的だ。彼の主観という事実を除けば

 

 

彼は自分の命に希望を持たなかった、医師達が諦めず手を尽くそうとする中で彼自身が既に諦めていたのである

より価値のある命を生かしたいがために

 

 

「ねぇママ、今私たちは何をしてるの?学校は行かなくていいの?

それにママ包帯ぐるぐる巻きで痛そうだよ、寝なくていいの?」

「今日は、今日は学校や病院よりもこれが大事なのよ」

車椅子に乗りながらショーン軍曹の妻が感情の読み取れない声で子供をあやす

 

 

──彼の妻にとってはどうだろうか

周囲の人間が毛嫌いするような度合いで2人は仲の良い夫婦だった、その彼女にとっての命の価値は自分と夫、どちらが上なのだろうか

 

 

「そうなの?でもパパが居ないよ、そんなに大事なのにサボっちゃうなんてパパずるい!帰ってきたら2人で、めっ!ってしようね!」

「………ええ、そうね」

 

 

俺もそうだ、作り話に出てくるような万人に等しく手を差し伸べる勇者になれる自信が無い

もしエナと全く知らない他人が同時に死にかけていて、片方しか助けられないとすれば俺は勇者のように迷うことができない

 

 

真っ先にエナを救うだろう、希望に満ちた目で俺を見るであろう他人を躊躇無く見捨てて。

だが部下も国民もそれを知らない、人の在り方を定義するものはどこまで行っても他人だ。英雄はいつだって他人の希望から生まれる

 

 

「………俺が」

俺が希望で無ければ、俺がクライム・アルバートで無ければ、俺が勇者を受け入れていなければ

ショーン軍曹は、いやこれまで死んでいった部下は、今も生きていたんじゃないだろうか

 

 

誰かが死ぬたびにそう思う、確かに俺と仲間が居たから助かった命もあるだろう、だが。

あいつらは俺の下で俺の命令を聞き死んだ。俺が、死なせた

今回だって俺がテロリスト殲滅作戦を立てて実行したから起こった報復行為であって──

 

 

「──そんな顔をなさらないで下さい」

「…ショーン婦人」

「貴方は誰に強制した訳でもない、あの人が自分で決めた事ですから

もう本当に不器用ですよね、彼」

「………」

 

 

軍人という誰かを護ることのできる輝かしい仕事、都合の悪いことなんか一切見えていなかった少年は大人なり、人を従えて銃を握って走った

小さな頃に見ていた憧れが全く別のものだと知ったのは、幼かった時の俺のような夢を俺自身に抱いてやってきた部下が死んだ時だった

 

 

誰かが死ぬ前に気付けていれば俺はとうに銃を投げ捨て、クライム・アルバートのことなんか誰も知らない田舎で妹と一緒に羊の世話でもしていただろう

だが──

 

 

「──これ以上はお身体に障ります、病院に送りましょう」

「ありがとうございます、ですが──あと、少しだけ」

 

 

俺が軍を辞めたら何が残る?彼ら彼女らの死に何の意味が残る?

『軍の英雄』…部下と国民が希望を寄せたのは俺ではなく軍に所属するクライム中尉(ゆうしゃ)

 

 

死んだ仲間1人1人に家族がいた。子供、兄妹、両親、祖父母…

本気で全てを捧げて国を護りたいなんて奴は居なかっただろう、俺の部下は家族を護るために軍に入った奴が大半を占めている

 

 

その彼らが俺に希望を見出す理由はきっと──

『彼ならきっと、俺の《私の》大事な宝物を護ってくれる』

 

 

全部そうだとは思わない、むしろこれは俺の妄想かもしれない

だがそれでも、あいつらが家族を1番に考えていたのは分かる

 

 

もし俺が軍を辞めるとなればその希望を裏切ることになる

死んだ連中が哀れだとかそんな意味じゃない

 

 

「………」

「アルバートさん?」

 

 

 

 

 

 

 

「……………」

 

 

 

 

 

 

                  「……………」

 

 

 

 

 

 

 

「ッ…いえ、なんでもありません」

見られている、死ぬ寸前まで俺の手を握っていた彼女に。

聴こえる、うわごとのように家族に会いたがる彼の声が。

 

 

妄想、幻聴、幻覚、そんなことは分かっている

分かっているが──俺はこの幻影を裏切れない

だから演じる、自身を顧みず国を護る『軍の勇者 クライム中尉』を。

かつて何も知らないまま軍に憧れを抱いていた少年に希望の光は重すぎるから

 

 

誰に対しても希望を抱かず、勇者として在り続けること

裏切りの勇気を持たない俺がとれる選択肢は他に残されていなかった

 

 

教会 懺悔室にて…

 

 

「聖杯戦争?」

「うん、7人の魔術師が万能の願望機を巡って戦う戦争だよ」

 

 

普通の人間なら今のエナの話をまともに受けとらず笑い飛ばすだろう

だが──

 

 

「万能って…どんな願いも叶うのか?」

「過去に願いを叶えた魔術師が居る以上間違いないと思うよ」

 

 

──なら

「アメリカを永久に平和にしてくれ!…なんてのもできるのか?」

勇者も英雄も要らないくらい平和な国に。

 

 

「できない願いなんて無いと思うよ、この世の願いであるのならね

そんな不安そうな顔しないで!今回私が聖杯戦争の監督役を務めることになってるからサポートするよ兄さん!」

「助かる、正直魔術がどうのなんて半分も理解できてないからな」

 

 

エナは俺に希望を見ていない、憧れはあるらしいがなんだかんだ言って俺を対等に見てくれる…と思っている

「じゃ、召喚の準備しよう!正直本業の魔術師達に勝つにはインチキ以外にも必要なことが出てくるだろうし」とりあえずキャスターあたりに同盟かけようかな

 

 

勘違いでもいい、少なくともエナの前では俺は『ただのクライム』でいられる

命をかけて戦い抜き、勝ち残り、聖杯をこの手に。

死ぬかもしれない、だが万能の願望機という俺自身が抱いた希望はそんなことでは消えそうになかった、だが──

 

 

 

 

 

「──エナ?」

命をかけるのが俺だけだと、どうして思い込んでしまったのだろうか

 

 

エナが死んだ

面影すら残らない肉塊となって。

 

 

血が大きく飛び散っている、這いずった後もある

エナは、諦めていなかった

最後の最後まで誰に対しても希望を抱く事もなく、絶望の中で死んだんだ

 

 

妹を失った喪失感と同等かそれ以上に、俺は妹に対して希望を抱いていたことを痛感した

結局のところ希望を抱かずにまともでいられる人間はこの世にいなかったのだ

エナという希望によって形を保っていた『ただのクライム』が壊れていく

 

 

い、いやだ!まだだ!

聖杯を、聖杯さえ手に入れれば妹は生き返る!まだ希望は

許されると思ってるのか?

 

 

誰かに肩を掴まれた

それは俺がよく知り、国民が、仲間が良く知る者

輝くような希望の光に身を包んだアメリカ最高の軍人

『勇者 クライム・アルバート』

 

 

お前には死んだ仲間を裏切らないために残された者を護る義務があるだろう、妹1人のために今更願いを変えるのか?

 

 

「…っ、妹を生き返らせた後で叶えればいいだろう!」

分かっているだろう、聖杯は万能であっても全能じゃない。そう何個も願いが叶うのならなぜこれまで何度も聖杯戦争は起こっている?

 

 

「うるさい黙れ!」

クライムは勇者だ、希望を一手に担って前へと進む英雄でなくてはならない

 

 

「知ったようなことを言うな!俺が俺のために願いを叶えて悪いのか!?」

ああ、悪いとも。それは誰もが期待するクライム・アルバートの姿じゃない

あの時、彼の希望を見捨てられなかった時点でこうなることは決まっていたんだ

 

 

気がつけば()が俺を見ている、俺に憧れて俺の元にやってきて、俺の下で初めて死者となった彼が羨望の眼差しで俺を。

そら、俺の契約者が言いたいことがあるみたいだぞ

これ以上何を──

 

 

 

 

 

「お前1人でここまで来たわけじゃ無いだろう、そしてその過程で何人も死んできたのも知っている」

 

 

やめてくれ…!

 

 

壊れていく

 

 

「お前が立ち止まったら、お前が戦うことを一瞬でも放棄したら、お前を信じて死んだ連中の思いは、無念は誰が持っていく?」

 

 

もう戦いたくないんだ!

 

 

勇者という外装を綺麗に残したまま

 

 

「死んだらそれまでだ、何も出来ない…なら生きている奴が、死んだ奴の代わりに前へ進まなくちゃならねぇ」

 

 

もう誰の希望にもなりたくない!

 

 

中身だけが──

 

 

おれ、おれ、は あ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「弟を弔うのは全て終わった後だ、今は獣と、それ以外の脅威への対策を練るぞ」

 

 

────

 

 

「──ああ、そうだな」




コヤンスカヤに尻尾ハグをされたい作者のルルザムートです、ハイ。
今話は最初から最後まで休むことなく書けたお気に入りの話!こういうのがいつも続けばなぁ
(そして気に入った話にコヤンが出てこないのも前と同じ…ううむ)
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