弊社NFFサービスはこの度、聖杯戦争への参加が決定致しました♡ 《完結》 作:ルルザムート
第123話です、お楽しみください
元トルコ共和国領内 とある洞穴にて…
「ぐび、ぐびぐび、ぷっは」
洞穴…と呼ぶには少々凝った内装をしたその空間で酒を飲む
後から敷き詰められた畳に少しばかり溢れ落ちるが気にしない
獣によって狂ったこの世界だが悪いことばかりでもない
もちろん人間にとってはどこをとっても最悪だ、2%以下にまで激減した世界人口やCPC外部における人間の生存率がそれを証明している
──だが幸いにも、人間ではない自分達は逆に恩恵を受けることが多いようだ
「茨木さま、茨木さま」
畳と同じく後付けの扉越しに無粋な人間の声が響く
「…我が酒を嗜んでいる時は黙っていろ、そう言わなかったか?
のう、人間?」
「ヒッ…も、申し訳ございません…!ですがそれをおして尚報告すべき事象かと思われ…」
…ふん
「つまらぬことであれば酒の肴に変えてやる。いったいなんだ?」
「はっ…アルテミス神殿よりキリシュタリア及びカドック両名の離脱を確認、英霊が残っていることは考えづらく今神殿周囲は手薄になっていると思われます」
「ほう?」
ここ最近なかなか隙を見せなかったが…くく、久々の好機か
「確かに報告すべき事象ではあるな、うむよくやった
志願者をそうだな、8人集めて奴らの倉庫を襲撃し物資を奪え
いつも通り分け前は貴様らの働きに応じてくれてやる」
「!! わ、分かりました!」
扉越しでも分かるほどの歓喜を纏わせ彼は去っていく
さて、神殿を空けてまで奴らが動いたということは余程の事情か?なんにせよ放置はできん
別に魔術師達と仲良しこよしになるつもりは無い、だが人類史が荒廃したこの世界で連中ほど纏まりがあり、生存力のある組織は今のところ存在しない…要約すると大いに利用価値がある
表立って手を組んだり助けることはしないがかといって死んでもらっては困る
宝物の山へ乱雑に突っ込まれた翡翠色の剣…草薙太刀を引っ掴み、この世で最も強く素晴らしい鬼から授かった盃を卓の上へと戻す
今回ばかりは手下任せ、というわけにもいかない。連中の物資を奪って尚敵対しないようにするには自分自ら動かなくては
「…待って茨木」
「我は貴様と違って忙しい身だ、手短に済ませるがいい虞美人」
不機嫌なのか眠いのか興味が無いのかよく分からない顔で珍しく向こうから話しかけてきた
普段殆ど喋らず、酒どころか食事も取らないおかしな女が今更何を…?
「キリシュタリアという魔術師が出てくると…いえ、やっぱりやめておくわ」
「なんだ煮え切らない奴だな、相変わらず同行はせんのか?」
「ええ、分け前も要らない。いつも通りアジトの防衛でもしてるわ」
なにが防衛か、ここに来てより3年間1回として戦っておらんくせに
…まぁ、周囲の獣が我と此奴を恐れてそもそも隠れ家に近寄ってこないというのもあるが
「まぁよいわ、久々に暴れてくれようか!」
〜
とある森林地帯にて…
「はっ、はっ、はっ」
胸が痛い、息が苦しくて喉が引き攣る
「あと少しで運河に出るから!それまで堪えて走って!」
後ろを走る弟の声がくぐもって聞こえる、いよいよ私も限界かもしれない
そもそもこんなはずではなかった、2ヶ月分の生活物資と引き換えに2人分の新規IDカードとCPC行き船までの護衛がついていたはずだ
だがカードこそ手に入ったものの肝心の護衛は行方を眩ませ失踪、船の時間が迫る中手元に残ったのは1.2食分の食料と氏名欄がまっさらのプラスチックカードのみ
…護衛なしで決行するしかなかった、どちらにせよこのままでは飢え死にか両親や妹のように獣に食い殺されるかだったから
「うわぁっ!」
「転んじゃだめ!堪えて!」
足が木の枝で少し裂けたかもしれないが気にしている余裕は無い
走れ、走れ、走れ…
人間2人の足音に、少し遅れて聞こえてくるのは木々を薙ぎ倒し、土を踏み荒らす音
捕食者…グリズリーとの距離が凄まじいスピードで縮まっているのだろう
だがせめて、せめて運河に出れば
運河とはいえあそこは流れが速い、飛び込めばグリズリーは撒けるかもしれない
──木々の隙間から運河が見えた
やっ…
「やった「姉ちゃんっ!」
5年前では考えられないような弟の叫び声と、直後背中に伝わる衝撃ですっ転ぶ
「がぶっ…」
「くっ…あ?」
私が起き上がるよりも早くぼとりと横に落ちてきたのは人間の下半身だった、それは私が以前調達してきたものと同じズボンと靴を履いていて──
「…!! あ、ああっ…!」
下半身の断面部から飛び散ったであろう血痕の先、腰から下が無くなった弟がそこにいた
ちょうどグリズリーが彼の頭を噛み砕いているところで、鈍い音がして頭が無くなった
…グリズリーがこっちを見ている
次は私だ
殺した獲物にすぐ食いつかず、殺せそうな獲物は先に殺してまとめて喰らう…この狂った世界が獣にそんな知恵を付けさせたのか、5年前からそういう知恵があったのかは知らない、知る術も知る意味もない
重機みたいな前足が振り上げられる
死──
「だあああっ!!」
聞いたことのない女性の叫びと甲高い金属音が振り下ろされた獣の手を止める
「…?」
褐色の肌、所々ヒビ割れ破損し鎧として成り立っているのか怪しい防具を身につけた『誰か』
肩から先がない右腕の代わりに、手首から先のない左腕にこれまた分解寸前の盾をくくりつけグリズリーの一撃を止めていて「ボケッとしてんじゃねぇ!逃げろ、早く!!」
「あ。…あ!」
機能停止していた思考と身体がその一声で元に戻る
にげ、逃げないと…!
「ブォオオオオッ!」
「があああああっ!」
後ろで謎の女性がグリズリーと戦っている音がする
人間がどうやって?なんて気にしている余裕は相変わらず無い、早く運河に──
ずるっ…
「へ、キャッ!?」
丸太のような何かに足を取られて転倒し、起き上がった先で
「!!! 大蛇…!」
世界崩壊前に見たパニック映画に出てくるものよりさらに大きな蛇が2つの瞳でこっちを見た
蛇に睨まれた蛙とはまさにこういうことを言うのかなんて現実逃避じみた思考をした私を大蛇は容易く巻き上げる
「うっ!ぐぅっ…!」
ギギギッ…
雑巾を絞るように身体が締め上げられてゆく
「クソッ!あと少し堪えろ!必ず救ってや──
がっ…!?ぐ、くそ…!そこをどきやがれ…!」
女性の方からびちゃびちゃと水にしては重たい液体音とわずかに届く鉄の匂い
だがもう、思考の殆どを恐怖に塗りつぶされて彼女には分からない
「はぁ…ぐ、うっうあ…!」
彼女が呼吸をするに合わせて大蛇もその身体を引き絞る
蛇は獲物の呼吸に合わせて締め上げ、効率良く弱らせるという生態があるがもちろんそんなことは知らない
ミシシッ…
やがて、過度な圧力に耐えられなくなってきたどこかの骨が軋み、ヒビが入って
「息、できな…やめ──」
ベギョッ
「あ」
砕けた
「いぎゃああああっ!!?ああっ!あああっ?えぼぉっ…!」
勢いよく内側に折れた肋骨が肺に突き刺さって吐血、そのまま急速に暗闇に向かう意識の中、大きく開いた蛇の口が迫って──
…あむ、ごっくん
全身、蛇の体内へと放り込まれた
「ぐ、あああ、冗談じゃ、ねぇぞ…ここまで来て!」
ただの野生動物とは思えない怪力にズリズリと押されながら打開策を考える
仲間の静止を振り切って降下し、全速力で現場に向かったが子供の方は目の前でグリズリーに真っ二つにされてしまい間に合わなかった
なんとか女の方は救えたと思ったものの、木の裏にいた蛇につかまってしまい…
「いぎゃああああっ!!?ああっ!あああっ?えぼぉっ…!」
助けたばかりの女は人体から聞こえてはいけない音を出して吐血、そのまま大蛇に丸呑みにされてしまった、今すぐ助け出さないとせっかく見つけた生存者が目の前で死ぬ
「聞こえねぇのか…!邪魔だっていってんだよ!!」
5年前の戦いでトライデントと両腕を失った神霊は半端に残った腕に括り付けた盾でグリズリーを殴り飛ばす
「はっはっ…待ってろ!今すぐそっちに──あぅぐっ!?」
目を疑う速度で起き上がったグリズリーがお返しと言わんばかりに殴り返し、彼を木々へ叩きつける
クソ、クソクソクソ…!せめて片腕、満足にあれば…!
だが無いものねだりをしたところで満身創痍の身体は変わらない。グリズリーの歩みは止まらず、大蛇の身体に浮き上がる1人分の膨らみはどんどん奥へと押し込まれてゆく
ちくしょう…!まだなのか…!?キリシュタリア!
「くく、どうやら星の魔術師より早く来れたようだ」
…!
ふと、グリズリーの背後から声が聞こえた
「手を貸してやろうか?ランサー」
「こんなの、いや…」
吐血した血の匂いすら霧散するような生臭さと息苦しさ、骨が折れ片方の肺が串刺しになったことによる痛み、そのどれに対してでもない怒りが言葉となって出る
どうしてこうなったのか、父や母だけではない。せっかく生き延びた人々は動物達に次々と殺された
草食動物に踏み潰されたり、縄張り誇示のために引き裂かれたり、鳥に全身啄まれて死んだ人もいた
私たちが何をしたっていうの?
かつて人間は己の都合だけで動植物をたくさん殺した
薬のため、道具のため、娯楽のため、上げ出したらキリがないだろう
もちろん自分だって人間だ、魚は食べたし豚や牛も食べた
「…だからって、こんな、仕打ち、あんまりじゃ──うああっ…!」
黙ってろと言わんばかりに肉壁の締め付けが強くなり、胃液が溢れ出て私の身体を溶かしていく
さっき枝で傷が裂けてしまったところからも消化液が染み込み、身体よりひとまわり早く左足が溶けて無くなった
「だれか、たすけて…」
ゾンッ
「てめぇ、斬る場所考えろ!」頭吹き飛ばすところだったぞ!
「ええい!ごちゃごちゃ抜かすな」きちんと考えておるわ!
これから死ぬにしては場違いな喧騒と外の光が顔を照らす
──外?
そう思った直後、ずるりと身体が引き出された
「遅れてすまねえ、もうすぐ救助隊がここにくる。邪魔はするんじゃねぇぞ茨木童子」
「恩人に向かって随分な物言いだな?まぁよいわ、我は帰る。次のが来んうちにさっさと逃げた方がよいぞ」
………
あのあと、なんとか私は一命を取り留めた
今は芦屋道満という魔法使い?の方の手伝いをしながらキリシュタリア・ヴォーダイムさん率いる組織に置いてもらっている
片足を失ってロクに出歩けなくなった以上、CPC行きは絶望的だろう
送ってもらうという選択肢も考えたがこれ以上彼らに迷惑をかけるわけにはいかない
「…こんな時、米軍の英雄がいれば」
自分はアメリカ人ではないが、それでも彼がいればこんな世界にはならなかったかもしれない
彼は、今何をしているのだろうか
コヤンがクリスマスイベ特効に入っててハイテンションの作者のルルザムートです、ハイ。
ちょっと話数内に書ききれそうにないですがキャラクターについて『場面にも文面にも登場しない=死亡』という線で行くかもです
もちろん投げやりにはしたくないのですが話数を真剣に考えなかったツケがここに…