弊社NFFサービスはこの度、聖杯戦争への参加が決定致しました♡ 《完結》 作:ルルザムート
…いえ、嘘です。Bパートは確かに最終話ですがこれのあとで1話だけ幕間がついて終わります。
なおその幕間にはザイルさんもコヤンスカヤも出ないので実質今回が最終話ということで。撒いた伏線はキッチリ回収しないとね!
…というわけで第124話《B》最終話、お楽しみください
CPC 離島特別区画 NFFサービス本社受付にて…
「ほれ、入館許可証」2名分だ
「………はい、確認できました。どうぞお通りください」
ちゃっちゃと着いてこいよ?と気さくに笑う先輩の後ろをピッタリくっついて歩く
もちろん受付の人に一礼も忘れない
俺は理事長のヘリコプターに乗ってCPC特別区画…かつて西表島と呼ばれていた離島にやってきていた。
要件は…知らされていない、そもそも俺は新人だ。半年前に命からがらCPCに逃げ込んできてからというものなんとか38区画の住民の1人として生活できており、獣化の心配がない生活だって最近手に入れたばかり。
…その俺が組織のトップと一緒に世界で最も力を持った組織である『人類保護機関 NFFサービス』の本社に来ている
「………」
やはり意味がわからない、別組織とはなっているがNFFサービスが元請なら俺たちは下請けだ。もっと勤めの長くて責任の重い奴がここに来るべきじゃないのか?
いや創立5年の会社でそんなのあるのか?なんて話は出るかもしれんが
「いったいここへ何しにきたんですかって顔だな」
ふと、こっちの考えを半端に読み取った理事長が無精髭に手を添えながら呟いた
ええまぁ、はい。
「コイツを取りに来たんだ」
外での営業には必要だからな
と彼が取り出したのは──
「IDカード?」
CPCに来てから見ない日は無いIDカードだ。自分の物と違う点をあげるなら全ての記入欄が空白になっていることくらいだが
「そうとも、NFFサービスが発行している物だ
これがあれば地球最後の安全区画…CPCでの居住権利が手に入る」
なるほど…うん?
「えっ、待ってください!NFFサービスは1人1人選別してカードを渡しているわけではないんですか?」
「ああそこからか、もちろん最初はそうしていただろうが世界の荒廃化が進むに連れてイチイチ事前調査できなくなっているみたいでな
お前はたまたま記入済みのカードを持っていたから知らなかったみたいだが…っと、代表だ。失礼のないようにな」
ど、どういうことだ?雑用ばかりだったから知らなかったがウチの仕事は外の生存者にIDカードを配ることなのか?
そんな思案も代表が来ると聞いて即座にシャットアウト。今の組織をクビになったら行く当ては無い、そうなったら獣化まっしぐらだ
「本日は貴重なお時間を割いていただきありがとうございます、代表」
「これも仕事ですのでお構いなく。ではどうぞ
納品もたった今確認されました、ありがとうございます」
白いビジネススーツに身を包んだ桃髪の美女が柔らかな笑顔でアタッシュケースを理事長に差し出す
すっごい美人な上にぱっと見はかなり若い…こんな年齢で人類の未来を背負うなんて俺にはとてもできないだろう
「ところで…そちらの青年が例の?」
「ええ、若手で申し訳ありません。なにぶんコイツ以外に該当者がいなかったもので」
と、2人の視線がこっちに集まる
え?どういうこと?なにするの俺?
「追加報酬はケースに同封してありますのでご確認ください、彼の仕事については後ほど連絡させていただきますね」
「分かりました、ありがとうございます」
ぺこりと互いにお辞儀をしてその場を離れ、待合室へ…
「あの理事長、俺これから何をやるんですか?」
「連絡が来ないとどうにも分からん、先に内容物の確認をだな…うお、IDカードはいつも通りだが追加報酬が異様に多いな?…迷惑料って札ついてるのが気になるが」
いやいやいや先払いの迷惑料って、やばいイメージしかないんですが
「というかIDカード多くありませんか?1ヶ月でこんなに生存者を見つけられるとは思えないんですが」
「数が多いのはそりゃそうだ、今やこいつはドルやウォン、円に代わるCPC外の通貨だからな」
…うん?
「通貨?」
「そう通貨、知っての通りこれ1枚持ってCPCに行けば2度と命の危険に晒されることが無くなる、5年前やっていた当たり前の生活に戻れるんだ、誰だって喉から手が出るほど欲しいだろうさ」
「…まさか配布ではなくそれを外の生存者に売りつけると?」
「ああ、水や食料、生活用品と引き換えにな」
ヒラヒラと数百はあるカードの内の1枚を指で挟み得意げな理事長へ困惑とわずかな怒りが込み上がる
「カードを受け取ってすぐ海を渡れるとは思えません、救うどころか生存者は減り続けますよ…!」
「そうだな、恐らくNFFサービスの狙いはそれだろう」
なんだって…!?
「5年だ。人類が滅びかけてから5年が経った。今はなんとか生き延びているが元々資源量の少ない日本を元に建国されたCPC…中に住んでいる人間だけで自給自足するにはまだ設備が整い切ってない
故の再配分、明日生きれるかどうかも分からない外の人間から物資を回収して島の人間に配り直す…非情だがやらないよりは確実に守られる人類が増える」
「バカな!」
「誰もがお前みたいに最初の1人として選ばれたわけじゃないんだ。全てを失うか、一握りの何かを救うか…NFF代表はよくやってるよ。種の保存のためとは言えここまで躊躇なく見殺し、生殺しにし続けられる精神力はおよそ人間じゃないかもしれないな」
「…こんなもの1枚で」
「そう言うな、1枚チラつかせただけで全財産を投げうつ奴もいる、この世界で最も価値のあるプラスチックだよ
それに海を渡る手段が無いわけじゃない、俺たちとはまた違うが42区画に運び屋の組織があると聞いたことがある、実際にカードを持って辿り着けば保証はされるからな
NFFサービスとしても優秀な奴なら保護して人類に貢献してほしいのだろう、物資を大量に失って尚CPCに来れる奴なんざどう考えても有能だからな」
「………」
納得なんてできないが俺が納得しなかったところで世界は動き続け、回り続ける。どんな理不尽だったとしても飲み込んで前に進むしか無い、そうするしか…ない
ピリリリリッ
「ん、呼び出しだ。8階の13号室に行け」
「…はい」
指示のまま、指定された場所に向かう
目が痛くなるような桃色のエレベーターで目的地に向かいながらも理事長の言っていた言葉の数々が俺の中で反芻する
間違いだと糾弾することはできない、けれど本当にこうするしかないのか?…何か、妙な違和感があるような──
「失礼します」
指定された部屋のドアに指定された回数のノックを。…返答は無かったがその代わりに鍵が開いた
「………」
これは…入っていいのか?
「…鍵は開いたはずだが…あ。そうか、おーい入っていいぞ」
…いいようだ
「失礼します」
中に入ると…そこはなんて事はない、使われていない会議室で1人の男が表情の読めない顔で窓付近のデスクに向かっていた
といっても本当に向かってるだけで何もしておらず、殺風景なデスクには裁縫道具みたいなものが置かれているのみ
「…」
男は短い銀髪をたなびかせ爽やかな笑顔で俺を迎えてくれた
欠損した両腕に取り付けられた桃色の義手が無ければ遊び人にしか見えなかっただろう
「来てくれてありがとう、あまり時間を取らせるのも悪いし早速本題と行こう」
「…!」
もっと自己紹介とか前置きとかあると思ったがいきなり来るらしい、さっきの迷惑料を見るに相当な厄介ごとが予想される。いったいどんな無茶振りが──
「──俺に裁縫を教えてくれ」
「・・・」
なんて?
「ん?できるんだろう、裁縫。俺はできないから教えてくれ」
確かに俺は裁縫が得意だが…え、まさか本当に?そのためだけに俺を?あの迷惑料で?
「・・・はは…」
──メッチャ丁寧に教えて感謝された
〜
NFFボーダー ザイルの部屋にて…
「さて、裁縫は教えてもらったが…合う布を探さないとな…」
「きょえー」
戻って早々に『なになに?』とノタノタ足元に歩いてくる鳥、キーウィをベッド上にどかす
「今忙しい、後でな」
「きょえー、きょえー」
「分かったから鳴くなブクブク、ちゃんと構ってやるから」
『単独顕現 EX』
「ちょっとザイルさん!」
「うおっ…!」
「きょっっっ!?」
突如不機嫌顔で現れたコヤンスカヤに思わず声が出る
「…いきなり出てくるのは仕方ないにしても場所を考えろ。ブクブクがびっくりしている」
目の前に、それもゼロ距離に出てこられると流石に驚く。こういう距離を『ガチ恋距離』というのだと何かの本で読んだ気がする
「相変わらず命名センスが終わってますね…いやそんなことどうでもよろしいのです。NFFサービスの職権を勝手に行使しないでくれます!?おかげで必要のない迷惑料を払うことになったんですから!」
耳元で怒鳴られてがぁん、と頭が揺れる
「ぐ、やれやれ…どうしても必要だったんだ。1回くらい許してくれても「商売は!1回の不祥事で取り返しがつかなくなるものなんです!いくらザイルさんと言えど次はありませんからね!?
…というかそこまでして何をしようと?」
未だキーンとなっている鼓膜と頭を無理やり戻して向き直る
ま、こればかりはな
「裁縫の講師を探してた、15年前買ってくれた服を修繕するためにな」
「15年前って…うっわ、まだ持ってたんですかその服とか靴とか!
虫食いでボロボロ…新しいのいっぱいあるんですからもう捨てたほうがいいですよ?」
呆れ顔でコヤンスカヤがそう言うが当然そんなつもりは無い
「断る。俺が初めて娯楽に足を突っ込んだ記念日に貰った物だ、老人になろうと捨てはしないさ」
「うわ台詞がクッサ…」
「…相変わらず辛口だな」
だが事実だ。影月 彼方という思い出を追放したザイル・ニッカーはあの日が分岐点だった。大人にも関わらず最初からザイルとしての思い出を持たなかった俺にとってこの服達はとても大切なものだから
「お館様」
と、天井裏からパライソが降りてきた。どうやら目的の物を見つけてきてくれたらしい
…今更だがNFFボーダーに天井裏とかあるのだろうか
「針、裁縫糸、止め針、もろもろ裁縫に必要な物は揃っているでござる」
「よしよくやった」
ボーダー内には無かったからCPCで調達させていた、こんなにも早く戻ってきてくれるのは嬉しい誤算だ
とりあえず裁縫は後で行うとして…例の件をコヤンスカヤに話しておかないとな
「パライソ、ブクブクを頼む」
「はっ!…拙者、席を外した方が?」
詳細に伝えていないはずだがこちらの空気の変化を感じ取ったのかパライソが聞いてきた
「…いや、パライソにも聞いておいてほしい。これが最後だからな」
「最後…?」
「む、ということはザイルさん」
コヤンスカヤはもうピンきたらしい
「お前の予想通りだ、ノーアのスマホの件について」
「っ…!いよいよ、やります?」
5年ぶりに見た彼女の本気の顔、それもそうだ。これから未知の塊に揃って足を突っ込むことになるだから
「ああ。まだ5年しか経ってないがクライムは廃人化して相手にならないし娯楽を探そうにもこの世界じゃな…
虞美人には誘いを蹴られてしまったし留まる理由はそこまで無い」
「ゼロ、とは言わないんですね」
「まぁな、俺の知らない何かはまだあるだろうが…ひとつ残らず探していたらキリがない」
だから俺は次へ進む。俺の世界はまだ終わっていない
「…うふふ、そろそろ仰ると思って既に回収してますよ」
と、ここでコヤンスカヤが予想外にも聖杯を取り出した
亀裂がついている…クライムに押し込めていた物か?
「実を言うと彼が廃人化してまもなく回収してはいたんですがねぇ
ザイルさん、2年目あたりからめっきりクライムさんに興味を示さなくなりましたし」
「やれやれ、人の獲物を勝手に…」
「おかえしですよ。さぁどうぞ」
こうして俺はコヤンスカヤから聖杯を受け取る。…魔力は充分そうだ
「さて、聖杯をお渡ししたことですしこれにてザイルさんとワタクシとの間に交わされた契約は完了しました」
「交わされた契約?…あ。ああ、あったなそういえば」
確か『完成された聖杯を手に取り、俺に手渡すこと』だったか?よくそんな昔のことを覚えているもんだ
「いや服とかは覚えていてなんでこっちは忘れてるんですかもう!…これにてザイル・ニッカーとワタクシ、コヤンスカヤとの契約は満了ですが…消える前にここで最後の確認を。…契約を続行しますか?」
15年間変わらない獣の目でこちらを見据えて彼女が質問してくる
やれやれ、どう答えるかなんて分かり切っているくせに
「15年間、長いようで──いや、やめよう。長々と喋るのは誰かさん曰くヘタクソだし俺も好きじゃない」
「よくご存知で♡」
「…コヤンスカヤ、15年間ご苦労だった。感謝している
そしてもう暫く、お前から学びたいことがある。
──契約を続行したい。返答は?」
ええ、ええ、知ってましたよ。そう来るだろうと。未だにアナタがただの人間であったのなら、影月 彼方であったのなら契約満了と共にサヨウナラでしたが
「ふふ、構いませんよ。ですがザイルさん?目的の聖杯は手に入った以上、これからは別の目的に向かって動くことになります。その場合は契約内容の更新…言わば別途料金が必要ですがお財布と相談はしましたか?」
「どうだろうな?ま、足りなければ働いて払うさ」
ザイルさん、気づいてます?
「契約成立♪ではザイルさん、15年間お疲れ様でした。そして改めて──」
世界を崩壊させたからなのか、
「よろしくお願いしますね、マスター♡」
「こちらこそ、アサシン」
どうやらアナタ、ワタクシと同じ
「…なんだ、人の顔をまじまじと見て?」
「いえ別に。」
席はもう残っていないハズですが…もし襲名するとしたらどうなるんですかね?お遊戯の獣とか?
「コヤンスカヤ、俺は察しのいい方じゃ無いが今のお前がくだらないことを考えているのは分かるぞ」
「えっ?ええー?気のせいじゃないですか?」
「…やれやれ、契約内容を間違えたか?でもま、間違えても面白ければいいか」
屈託なく笑うザイルの顔には皮肉も悪意も一切残っていない、新しいオモチャを与えられた子供そのもの
と思えば
「お館様、もしやどこかへ行かれるのですか?」
「ん、まぁ、そうなるな。できることなら連れて行きたいがあいにくルールの内側にいるお前は連れていけないんだ。すまない」
本当に、本当に悲しそうな表情で望月さんへの謝罪を口にする
ホーント感情豊かになりましたね…
「そう、でござるか」
「だがこれだけ長く付き添ってくれた奴にこのまま『はいさよなら』というのも気が引ける。何か望みはあるか?」
「それならば…お館様、この子は連れて行けますか?」
「きょ?」
「ブクブクか?そいつはしっかりそいつの肉体があるから連れて行けるぞ」
「ではこの子をお願いするでござる、ここに残していけば孤独になってしまう」
「分かった、生存率だけで見れば置いていったほうがいいがお前が望むなら連れて行こう」
「きょっ、きょーっ♪」スリスリ
「…コイツもその方が良いと言っている気がするしな」
「感謝しまする。ではこれにて………暇を頂きます、ザイル殿」
「元気でな…というのもおかしな話か。じゃあな
望月千代女」
彼女が出て行き、ザイルの顔が大人のものから子供じみた表情へと再び戻る
「さてコヤンスカヤ、次はどこに行って何から始めようか?」
「考えるのは行った後ですよ?そんなに目を輝かせたってこの先何があるか、分かるわけ無いんですから」
最初から獣だった彼女に教えられ、少女の幻想にすぎなかった人間はそのあり方を自分自身の意思と世界によって変えられた
怒りも、それによる報復もいらない。
楽しむことの喜びを、探求することへの嬉しさを
「では…手を握ってください。飛びますよ」
「ああ」
そのためならばどんな回り道でも、どんな血生臭いことでも、どんな苦労が待ち受けていていても気にしない
だってその先に『未知の楽しさ』がきっとあるのだから
もう席は無い、だが世界は認めた。人間の中の獣性を。
最愛の姉に見捨てられ、人と世界を恨んだ少女…それを乗り越え、獣へと身を落とした者の名は──
『単独顕現 EX』
………
……
…
〜愛玩の獣 TV・コヤンスカヤ 消息不明〜
〜探求の獣《仮初》ザイル・ニッカー 消息不明〜
『採用です、NFFサービスの一員として…これから一緒に頑張りましょうね』とコヤンスカヤに言われたい人生だった作者のルルザムートです、ハイ。
というわけでAパート、Bパート共に書き切り、『弊社NFFサービスはこの度、聖杯戦争への参加が決定致しました♡』は完結とさせていただきます
ここまで読んでくださった方、感想や評価を付けてくださった方に感謝を。不定期とはいえ飽き性の自分がここまで書けたのはコヤンスカヤというキャラクターがひたすら魅力的なこと、続きを待ってくれていた読者の存在の2つだと思っています。重ねて感謝を、ここまで読んでくれてありがとうございました!
次回っ!『蛇足』ッ!
ノーアちゃんのスマホの伏線回収のタイミングミスったからっ!!!じゃ!!!