弊社NFFサービスはこの度、聖杯戦争への参加が決定致しました♡   作:ルルザムート

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第49話です、お楽しみください


第49話 羊飼い

J地区 住宅街 クライム隊vs影月 彼方の戦場にて…

 

 

『 大江山 菩提鬼殺 』

「う、うわぁぁああ!?」

 

 

完璧だった

踏み込み、間合い、抜刀。

積み上げられた犠牲の上で繰り出された一振りは確実に鬼の首を捉えていた

──だが

 

 

『オシリスの塵』

 

 

「──あ、あ?」

「…!?」

首を切り裂く寸前で止められた剣。何故そうなったのか、何に防がれたのか

疑問はあったが何よりもまず優先すべきことがある

 

 

(なんだ、どうした?勝ったのか?)

仕留め損なった…!失敗だマスター!逃げろ!

 

 

同時刻 クライムvsザイルの戦場にて…

 

 

「今出てきたのがセイバーか?…まさかとは思ったが宝具解放に魔力を消費しないとはな」

こんなサーヴァントも居るのか、と特に慌てる様子も無く弾丸を込め直すザイル

 

 

「神霊の気配が消えない…!?どういうことだ!」

セイバーのことを深く知っているわけじゃないが少なくとも奴は博打を打つタイプじゃない、確実に斬れるという確証が無ければ宝具は使わないだろう。

ならば何故──

 

 

「失敗した、それ以外に無いだろう?…敗走の準備でもするか?」

基本無表情なザイルが口元を歪め、心底愉快だと言わんばかりに呟く

「ほざけ!…ウッ、ぐあ…!」

 

 

焼けつき、軋み、足元から崩れ落ちる身体。例え勇者と呼ばれた男でも道具もなしに傷を治療する術は無い

痛みは我慢できる、だが動かない身体(もの)はどうしようもない、どれだけ意思が硬くとも0から引き出すことはできないのだから

 

 

「いい気味だな、お前のその姿が見れただけでもわざわざ茶番劇に付き合った甲斐はあった」ちょっと通信機借りるぞ

何を思ったかザイルは倒れ伏した俺から通信機を取り上げた

「なぁクライム、音量を上げるにはどこを押せばいいんだ?」ボタンが無いぞ

「な、なにを、言ってるんだ…?」

 

 

砕けた口調のザイル。一見、勝ちを確信して敗者をひたすらに扱き下ろしているように見えるがこれまで散々ザイルと戦い続けてきたクライムにとってその光景は異常だった

ザイル・ニッカーは戦闘において敵を殺し、勝つ以外で気を割くことは無い。

怒りを露わにすることはあれど笑う事など無かった

…その彼が笑っている

 

 

『単独顕現 EX』

 

 

「ザイルさんザイルさん、そのタイプの無線機はボタンで無くツマミです、ほらここにカチッと回せるツマミが。」

なんの予兆も無く現れるビースト。初めに包囲した時と服装が変わっており、傷を負っているようには見えない

 

 

「おい、いきなり出てくるな…影月 彼方とセイバーは?」

「彼方さんは鱗の防護壁を再展開、最初と同じく人間『で』遊んでます。セイバーさんはそんな彼女を止めようと奮闘してますが…防護壁を突破する手段が無い以上無害でしょう」

 

 

会話から察するにセイバーの妨害をしたのはビーストらしい、直前までコイツの相手をしていたバーサーカーは敗北したわけじゃ無さそうだがギリギリ退去していないレベルだ

 

 

「あとな、お前こんな時にまで服に拘らなくても良いだろう」

「違いますぅ〜これは魔術礼装の1つでアトラス院が作った優秀な礼装なんですぅ〜」

相変わらずビーストに緊張感というものは無い、それ程までに力を持っているということか

 

 

「それに加えて影月 彼方だ。…いっそセイバーに殺させれば良かったんだが」

「うわぁ自分の半身に対して酷い言い草ですねぇ」

「やれやれ、アレの身体を用意した奴が何を言う?

お前はクライム(コイツ)の部下と遊んでろ」

 

 

俺はクライムと話がある、とビーストを追いやるザイル

「ま、待て!」

ふわりと尻尾を振りながら仲間の方へ消えていくビースト

声をあげ、手を伸ばすが当然ビーストは止まらず、手も届かない

 

 

「まぁ落ち着け、お前じゃ何もできない。

…少し話でもしよう」

銃声、爆発音、駆動音、悲鳴、怒号、様々な音がザイルの持つ通信機から聞こえてくる中、彼はそう言った

 

 

「貴様と話すことは無い…!」

「だが今のお前に出来ることは会話くらいだろう、いいから付き合え」

倒れ伏す俺と向き合うように腰を下ろし、銃を置くザイル。その異常な光景に対する疑問を怒りによって押し殺して彼を睨む

 

 

「そう睨むな、少し質問するだけだ

…何故ここに来た?」

「決まっている!ビーストと神霊を倒し、世界を救うためだ!」

分かりきった事だ、コイツらは間違いなく人類にとって悪であり脅威になる存在だ、そして俺達以外に止められる奴が居ないのなら──

 

 

「あー…質問が悪いな、聞き直す。

…何故俺と戦った?」

「それが俺の役割だからだ!」

「で、結果作戦は失敗し目的は果たせずお前の部下は全滅まっしぐらか」

呆れたようにため息を吐くザイルの言葉を力の限り否定する

 

 

「まだ終わっていない!」

()()()()()()()の間違いだろ

…2つ目の質問だ、何故部下と共に神霊と戦わなかった?」

「俺の部下は優秀だ、だがお前と殺せるのは俺だけ──」

 

 

「ぷ、わははははっ!!」

「!?」

 

 

普段の奴から考えられない笑い声、本当にコイツはザイルなのかと疑いかけた時、彼は再び喋り出す

「なぁクライム、もうやめたらどうだ?」

薄ら笑いのままこちらの顔を覗き込むザイルにクライムの中にあった疑問と困惑は怒りへと変換される

 

 

「さっきから一体意味のわかないことをペラペラと…!何が言いたい!?言ってみろクソッタレのテロリスト風情が!」

「自分を偽ることを、だ。…お前、国民もアメリカも弟も、もうどうでも良くなってるんじゃないか?」

「────」

────は?

 

 

コイツは、コイツは何を言っている?俺がアメリカも国民も家族もどうでも良いと思っている、そう言ったのか?

「うん?どうしたコヤンスカヤ?

…妹だろうと弟だろうとどっちだっていい、今は口を出すな」

その場に居ない自分のサーヴァントと会話するザイル、しかし俺の中で巡る今の言葉が外の情報の殆どをシャットアウトしていた

 

 

「話を戻そう、特にスパイとかに良くあるそうなんだが…素性や趣味、あるいは性格まで偽ったまま長い事暮らしていると本当にその通りになる、という事例があるらしい、心当たりは?」

「…あるわけ無いだろう」

そうだ、あるわけが無い!俺はザイルを殺す為に銃を取り、国と人を守るために戦っている!

 

 

「まぁ自覚があったらとっくに治っているだろうな

お前も最初のうちは犯罪組織の核である俺を殺す、そう考えていただろう。

…今と違って恨みや憎しみは持っていなかっただろうがな」

未だにコイツの言っている事を理解できない、だが──凄く嫌な気分がする

そしてそれはコイツが憎いから、では無い

 

 

「じゃあここからは例え話をしよう。

国を守り、国民を守り、アメリカの平和のために犯罪組織と戦う1人の男。だがソイツは犯罪を憎みはすれどアメリカ人を憎むことが出来なかった」

マグナムリボルバーをクルクルと回しながら彼は語り続ける、哀れな何かを慰めるように。

 

 

「そんな中ソイツは戦っている犯罪組織のリーダーがアメリカ人で無いのを知り、そのリーダーを真っ先に倒すべきだと考えた。それはそうだ、頭さえ潰せばそこから下はなす術が無い」

 

 

「そうすれば自分と同じアメリカ人を傷付けずに済むと、それからソイツはそのリーダーを憎むようになった。

付け焼き刃の憎しみは剥がれる事なく『国民(アメリカ人)』を傷付けたくないという思いだけで鋭さを増していった」

「…黙れ」

それ以上は聞いてはいけない、そんな気がして僅かに出る声、だが当然それで奴が黙ることはなかった

 

 

「国籍なんて関係ない…いや、アメリカから犯罪を無くそうとするなら真っ先にアメリカ人に銃口を向ける事になる、ソイツはそれを避けるためにわざわざウルフルズ対策本部なんてものを立ち上げて自分はリーダー以外と戦わないようにした」

 

 

「国民と国のため、リーダーを憎むように自分自身を洗脳したソイツは無自覚のまま自分の部下をも洗脳していった

…恐らくはリーダーのことをロクに知らないまま憎む奴もいただろうな」

「やめろ…!」

まるで身体の内側にヒビを入れられていくような感覚がする

 

 

「そして自分自身の狂信に洗脳され切ったソイツはいつの間にか国や国民を守ることよりもリーダーを憎むことを優先し始めた

『犯罪組織の撲滅』という尊い思想を掲げ、部下を洗脳しながらな」

 

 

それ以上、は

 

 

「クライム・アルバートは兵士として、指揮官として、最高の実力を持っていた。

魔術師としては3流以下であろうと培われた戦術眼は神秘の絡んだ戦闘でも充分通用する

お前の指揮なら、お前の部下も普段以上の実力を発揮しただろう。

死者が出るとしても神霊と俺、指揮官ナシでの戦闘でどちらの方が犠牲が大きいかは明白だ

…最初の質問に戻そうかクライム」

 

 

目の前の男はぐにゃりと口角を上げ、さっきと同じ質問を口にする

「…()()()()()()()()()()()?」

「それは──」

「俺は神霊やコヤンスカヤとは違う、あくまで強いだけの普通の人間だ。数を力で凌駕することはできない、お前は神霊と戦う部下を指揮してこっちを部下に任せた方が良かったハズだろ?」

 

 

「──」

何も間違っていない、目の前の男の戦法は正しい。部下を率いてザイルと戦う術もあった。

だが俺はなんでそれをしなかった?その方が…その方が犠牲は少なく済んだのに。

 

 

「自分自身の洗脳によって我を見失った軍人か…なるほどな、バーサーカーのクラスを召喚したのも頷ける」

「ち、違う、俺は…俺は国を、国民を守るために──」

 

 

ザザッ

 

 

更に通信機の音量を上げたのか、ザイルの持つ俺の無線機から聞こえてくる

何かが潰れる音や飛び散る音、そしてその音が聴こえて尚勝てるハズの無い敵へ向かっていく部下達の声

無謀なその行動を実行できるのは皆が等しく俺を信じているからに他ならない

 

 

「だがまぁ例え付け焼き刃だろうとお前にとっての正義は俺を憎み、殺す事で完成されてしまった。それを否定することはお前自身の否定に他ならない

…なぁ、もう良いだろクライム?」

彼の顔が近付く、間近で見るその表情はどこかビーストの人を嘲笑う表情と共通するものがあった

 

 

「認めろよ、お前は自分自身の狂信によって家族と大勢の部下を巻き込んで殺させた、と」

「ち────」

違う、そう否定する。しようとする。するつもりなのに、声が出ない

 

 

「いいさ、何と言おうとお前がこれまでしてきた事は変わらない

…以前コヤンスカヤに聞いたことがある、人間を動物に例えたら何になる?ってな」

立ち上がり、こちらを見ることもなく彼は語り続ける。心底愉快そうに。

 

 

「奴は物凄く嫌な顔をしながら答えた。『個体にもよりますが…大半は羊ではないでしょうか?』と」

「羊…?」

「そう、羊。お前の家族と部下が羊で…お前は羊飼いだ」

 

 

「羊ってのは面白い生き物でな?足元や先の風景よりも自分たちを導いてくれる先導者を見るんだ

…この先に何があるのか?自分では何も考えない、思考は先導する奴に任せてただ進む、先導者がマトモな奴だったら良いんだが…この場合はなぁ?」

 

 

身体の痛みを忘れる程の感情、後悔と悔しさがグルグルと回っていく…

「お前は俺を殺すか全ての羊を谷底へ放り込むまで止まらないだろう、だから今ここで最後の質問をする。

────まだ生きていたいか?」

カチリ、と銃のハンマーが降ろされる音がやけに大きく聴こえてくる

 

 

「…」

俺が生きているのは間違っているのか、生き方が間違っているのか、結論が出る事は永遠に無いかもしれない。少なくとも俺だけじゃ答えは出ない

「──ない」

「ん?」

 

 

だが。

「俺は、死なない…!そしてこれ以上誰も死なせずにお前を殺す!」

どれだけ間違えようと戦いを放棄することだけは出来ない、少なくとも今まで死んだ彼らは『今の俺』を信じて死んだのだから!

「誰も死なせず…できると思ってるのか?本気で?…まるでガキだなコリャ」

「知るか…!俺、俺の選択肢に、死を自ら選ぶようなものがある事は許されない!」

 

 

きっと俺は誰が見ても哀れに映るだろうし遺族が俺の本性を知れば激しく嫌悪するに違いない、俺は正しい理由の上で生きてていい理由はまだ見つけられない

…それでも。

 

 

「俺はクライム・アルバート!米陸軍対テロ特殊部隊に所属する軍人であり、バーサーカーを使役するマスターであり…お前を殺す男だ!!」

結局のところ俺の中の元の正義はグチャグチャでもう分からないが()()正義はこれだ、ならそれに従うだけだ

 

 

満身創痍の身体がゆっくりと動き出す、ガクガクと子鹿のように震えながらも、ゆっくりと

「クライム、お前は…」

「何が正しいか俺にはもう分からない!だが…俺に立ち止まることは許されない!放棄することは、許されない!」

 

 

銃を持つ右手に、立ち上がる両足に少しだけ力が戻ってくる

「…歪んでいようと正義は正義か、やはり俺には砕けないらしい」

「ザイル…ザイル…ッ!」

「砕けるようなら見逃してやったんだが…ダメか」

 

 

足が他を蹴ろうと一歩踏み込む、敵を殺すために空の弾倉へ弾を込めようとてが動く

お前だけ、は!

「もういい、やはり俺にお前は倒せない──潰せ、コヤンスカヤ」

 

 

「はいは〜い♪」

『単独顕現 EX』

 

 

ゴシャッ

 

 

「あ」

しかし立ち上がった途端、それはあまりにもあっさりと踏み潰された

「────」

結局のところ、俺はザイルの思い通りにはならなかった。ただ心が折れなかっただけ。

 

 

「…」

桃色の戦車によって踏み潰された自身の両足を呆然と見ながらも、身体は自然と手から零れ落ちた弾丸を拾おうともがいている

届く距離じゃないと僅かに残った意識が明確に知覚する中、最後に聞いた言葉は──

 

 

「──見ていて愉快ではあるが…お前らしくない最後だったな、クライム」

宿敵の、憐れむような言葉だった




闇コヤンの尻尾に囲まれて尻尾の目に延々と見つめられたい作者のルルザムートです、ハイ。
うーん、コヤンスカヤの出番が少ない、クライムをボコボコに扱き下ろすのはコヤンでも良かったかな…
それと7月10日からまた出張でそこから1週間更新が途絶えます、最近ただでさえ遅いのに申し訳ありませぬ…

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