「聞いたか。今日来る転校生、同級生4人ロッカーに詰めたんだと」
「サーカス団員志望?」
「ちげえよ。その同級生等に重傷負わせたんだよ」
「愉快そうなのが来るんだな。曲芸見せてくれたりするかな」
「重傷負わせたって言ってんだろ!物騒この上ねえよ」
東京呪術高専の敷地内を歩く男女3人と一匹。
二足歩行のパンダは顎を掻いてぼやく。
パンダの存在に対して、彼らにとって見慣れた存在であるのは、この場にいる誰も言及しないことで把握できる。
「しゃけ」
「生意気ならシメるまでよ」
口元を布で覆う少年、狗巻棘はおにぎりの具を一つ述べ、それに答えるように禪院真希はひと昔前の不良、あるいは体育会系のように暴力的な前宣言をする。
そうして、転校生との対面となった。
「おお、中々ヤバげじゃん」
多田良は転校生がパンダ・狗巻棘・禪院真希に襲われているのを楽しそうに眺めていた。特に禪院は抜き身の薙刀を転校生の背後にある黒板に突き刺し、いつでも殺せると意思表示をしていた。
しかし、多田良達が危険視しているのは、同級生たちの行動でない。
「やばいなんてもんじゃねえだろ。おい、オマエ呪われてるぞ。ここは呪いを学ぶ場だ。呪われてる奴がくる所じゃねーよ」
転校生が入室した瞬間、彼の背後にいた呪霊と目があった禪院たちは本能的に危機感を抱き、転校生に詰め寄った次第である。
襲われた転校生こと、乙骨憂太はこの状況が飲み込めずに固まっていた。その表情に多田良はまさかと思い、
「五条先生からなんも聞いてねえ?」
と問いかける。
「日本国内での怪死者・行方不明者は年平均10,000を超える。そのほとんどが人の肉体から抜け出した負の感情。呪いの被害者だ。中には呪詛師による悪質な事案もある。呪いに対抗できるのは呪いだけ。ここは呪いを学ぶ。都立呪術高等専門学校だ」
白髪に目隠しをした成人男性、五条悟が呪術高専の概要を語るにつれ、乙骨の表情がいかにも初めて知りましたという表情をする。
「あっ、早く離れた方がいいよ」
続いて、五条は乙骨から真希たち3人へ向き直り、忠告を送る。
「!!!!」
直後、黒板から手が伸びると同時に、抜き身の薙刀を握る巨大な手が禪院たちに襲い掛かる。
「ゆう゛たを゛ををを」
「待って!里香ちゃん!!」
乙骨の静止の声も虚しく、呪霊の手は真希・棘・パンダの3人に伸びた。
「虐めるな」
3人は呪霊に叩きのめされた。
「ふぁあ。大丈夫っすかね、乙骨」
「大丈夫でしょ。そんな難しい案件でもない。なんかあれば僕が対処するさ」
とある小学校の正門前で五条と多田良が真希と乙骨を見送っていた。
現在は帳と呼ばれる黒い結界が張られている。非術士にはなにも変わらない景色が映し出され、術士でも真っ黒い壁に阻まれて外側からは視認されない。
五条と多田良はそんなもの関係なく、外側から内側を見ている。多田良はバイクゴーグルを装着している。二人では見えている景色に差異があるが、内側の状況を把握を把握できていることに違いはない。
「自分が心配してんのはそういうこっちゃなくてですね、真希のどぎつい性格に乙骨が耐えられるかってですよ」
「あーそういう」
自己紹介から数時間後、禪院ら3人は乙骨の呪霊、里香に叩きのめされるだけで済む。現在は実習として、現地に赴き、呪霊を五条の監督の下でやってきていた。
「真希が乙骨をボロクソ言って、リカが出現・暴走なんてさせちまったらまずいでしょ」
「真希もさすがに追い詰めないでしょ。万が一にもそうなったら、僕が止める。多田良的にもそれがおいしいでしょ?」
「もち」
多田良は里香を目にした瞬間から、危機感と喜びを感じていた。
ソレに己が術式を発動させたら、なにが生まれるのか。呪霊具術で呪霊を呪具化させたら、どのような呪具が誕生するのか期待に胸を膨らませていた。
「言うて、優秀な呪術師になってくれりゃ、私らの仕事も減るんで助かりますけどね」
「まあね」
呪術師は万年人手不足。呪術界の永遠の課題と言っても過言ではない。
呪術師自体がかなり少ないことに加え、呪術師が亡くなることもざらなのでブラック企業も真っ青の地獄っぷりである。
ただし、近年では全体的に呪術師の死亡件数が大幅に下がっていく傾向になっている。
呪術師には等級と呼ばれる対呪霊の実力を示す格付けが存在する。
特級・一級・二級・三級・四級。
特級に行けば行くほど、実力が高いことを示し、これもまた術師たちの等級が全体的に上昇していた。特級はともかく、これらの背景には多田良の存在がある。
「んお?」
呑気に話しているところで、校舎に異変が起きる。校舎を倒壊させながら、巨大な呪霊が姿を現した。その呪霊の上には禪院と乙骨が宙を舞っている。
二人に飛行能力はなく、呪霊に飲み込まれてしまった。
「おいおいおい、真希のアホ飲み込まれた上に呪具落としてんじゃねえか」
地べたに座り込んで様子見をしている段階ではなくなって、どこからともなくナイフの形状をした呪具を握りしめる。
「待ちなよ。慌てることはない」
「そうもいかんでしょ。乙骨はともかく、真希は呪具がないなら、蠅頭すら払えないんですよ。とっとと行かなきゃでしょ」
蠅頭と呼ばれるのは簡潔に言ってしまえば、呪霊の中でも最低ランクで、呪力を扱えれば誰でも対処できる呪霊のことだ。
しかし、禪院真希は身体能力の上昇と引き換えに呪力を扱えない非術師だ。
呪術師として活動できているのは、彼女のかけている眼鏡と呪具が可能にさせている。
呪霊は非術師の目には見えない。基本的な物理攻撃は効果がない。が、彼女の眼鏡が呪霊を視覚化させ、彼女の持つ呪力をまとう呪具が呪術師としての実績を上げている。
故に、呪具を落とした真希を見て、非常事態と判断した。
「凄まじいね。これが特級過呪怨霊折本里香の全容か」
「は?」
巨大な呪霊を見つめ直すと、巨大な呪霊の口から腕が生え、新たな呪霊が這い出た。それは多田良が先ほど見た乙骨に取りつく里香であった。
里香は呪霊を楽し気にすり潰していた。
初めてみた時とは違い、その残忍さや流れる呪力が多田良の背筋を凍らせる。
「なんにせよ、初めての呪霊討伐は無事完了だね。憂太手伝ってあげたら」
憂太は現在、小学生2人と真希の3人を抱えて正門前まで歩いている。
「ここまでやったなら、最後までやらせるのが筋ですよ。これからもこんなことは勿論、もっと過激な任務もあります」
「それもそうだね。おかえり、頑張ったね」
正門を出たところで限界を迎えた乙骨は倒れこむ。
多田良は彼らを車に放りこむ。
「本当によろしいんですか?あとで迎えに来ても問題ありませんよ」
「平気平気」
「伊地知さんのお手を煩わせるのは心苦しく感じますので、他の皆さんの送迎で大丈夫です」
「わかりました。それでは」
運転席に座る補助監督の伊地知に頭を下げ、車が発車してから少ししてから頭を上げる。その頃には車は消えていた。
五条は帳を張り直して、今度は多田良が小学校の敷地内に入り込む。
「っこいせと」
半壊した校舎に手をかざすと靄が多田良の手に集約される。
呪霊具術を発動させ、呪霊を呪具化させる。
今回出来上がったのは、棘付き棒。釘バットに似た形状をしている。
「売りもんにはなるか。今日は自分で動いたわけでもない。文句はなしだ」
多田良はそのまま校内へ土足で歩いていく。中には4級3級雑魚呪霊がはびこっていた。
「ちゃちゃっと終わらせるか」
多田良が残ったのは特級呪霊里香に怯え、姿を隠していた呪霊の後始末をするためだ。五条もそれを懸念して、多田良を連れてきたのだ。
釘バットの呪具で軽々と払っていくと同時に、雑魚呪霊を呪具化させていく。
校舎内の呪霊を狩りつくしたところで、多田良と五条は帰宅する前に、ラーメン屋で夕飯を済ませることにした。五条の奢りで。
中年の男性と娘であろう店員がてきぱきと動いている。
「ところでなんで帳おろしっちゃたんですか?」
ラーメンを啜る五条は目隠しをしたままだ。
帳は非術師の平穏を保つための結界であるが、その結界を張るのは補助監督の仕事だ。他にも車で送迎など術師のサポートの雑務があるが、メインはこれに当たる。
真希と憂太の時はなぜか五条が下した。
「ノリで」
「ノリですか。なら、しょうがないっすね」
「でしょ?」
二人とも食べ終えたところで、2つの小皿が置かれた。
「はいデザートに、サービスのシャーベットだよ」
「「あらーどうもありがと。親父さん男前」」
多田良と五条は朗らかな声が重なった。
伏黒 恵は女体化させるべきか
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普通に男のままがいいなぁ
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女体化するとヒロイン枠が増えるなぁ