呪具解封   作:ベリアル

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3話

多田良と憂太は病院が、病院に足を踏み入れると、多田良は手に持っていたマチェットナイフを消した代わり、ダガーナイフを逆手に持ちかえる。

 

「多田良くんの術式って、物の出し入れが出来るの?」

 

「正確には俺の術式で作った呪具オンリーだけどな。あ、室内だから、刀はあんま振り回せないから気を付けろよ」

 

言われてみて、入り口の受付フロアはともかく、廊下は刀を振れるほど広いわけではなさそうだ。

 

「思ってたより遅くなるかもな」

 

「え?」

 

「……呪力感知ザルとは聞いてたけどよ」

 

多田良が指を向けると、その先には奥へと続く廊下がある。耳をすませば、足音がゆったりと近づいてきていた。

 

「ヒトハ」

 

姿を現すとともに声を発した。

 

「ウマレナガラニヤマイニオカサレテイル」

 

額帯鏡を着けた人間、いや、人間を型どった呪霊だ。スーツの上に薄汚れた白衣を来ている。目と鼻はない。あるのはボロボロの歯だけだ。

 

皮膚は痩せこけ、深緑色をしている。

 

「シトイウアンソクヲアタエテヤロウ」

 

呪霊は人の言語を流暢に話せるほど強い。

 

以前、聞いた話から判断して憂太は刀を抜いて警戒を高めた。

 

「よくこんなバケモンが今まで隠れてたな。憂太、さっきの話覚えてるか?特級よりがどうとかって話」

 

「え、うん」

 

「こいつ一級の中じゃ10点中10点満点だ。一級OF一級」

 

要領を得ない多田良の言葉に疑問符を浮かべるが、次の言葉に驚愕する。

 

「限りなく、特級寄り」

 

この短い期間で呪霊を討伐をしてきた。それだけに初めて相対する一級に緊張感を持っていたが、その中でもトップクラスとは考えていなかった。

 

「お前やっぱこっから出ろ。本当は少し手伝って貰おうとか思ったけど、考えが甘かった」

 

もう少し弱ければ、憂太がいても問題はなかった。それでも、これ程の相手となれば憂太は足手まといにしかならない。

 

多田良が最も恐れているのは、眼前の呪霊が憂太に襲い掛かり、折本里香が暴走することだ。

 

そうなれば、憂太の死刑は確定的なものとなってしまう。

 

「多田良くん……」

 

多田良は憂太に指示を飛ばすが、憂太の声が外を一瞬だけ見ると帳が下りていた。

 

「帳の中に帳……。呪詛師か。なら、隅の方にいろ。間違っても戦おうなんて考えるな。それとこれ、呪力流しゃ使える結界呪具」

 

多田良は帳は下りたことに対して、あまり思考を割かずに現状の認識及びに対処を実行していく。

 

憂太は多田良から後ろ向きで投げ渡された十字の線が刻まれたボールを受けとる。言われた通り呪力を流し込み、憂太を囲むように球体が現れる。

 

「行くぞ、ヤブ医者」

 

その瞬間、多田良は一級呪霊へと駆け出し、ダガーナイフで切り裂く。一瞬で何度が切りつけたが、破けたスーツ越しに見えた深緑の肌の傷は一瞬で修復した。

 

(呪霊だから、自前の呪力で回復するのは当たり前。ただ、回復が早すぎるな。術式に関係してるな)

 

多田良は特級と対戦経験がある。それと照らし合わせると、この呪霊の回復速度は特級に比べると早い。そこから、察するに術式が関わっていると踏む。

 

一級が特級の基礎能力を上回るとは考えられないからだ。

 

「ナオシテヤロウ」

 

呪霊の右手が多田良に迫ると、瞬時にダガーナイフで突き刺す。攻防一体の対応に多田良はダガーナイフを手放し、左手に手斧、右手に中華包丁を握る。

 

「オラァアアッ!」

 

凄まじい速度で医者の呪霊を切り刻んでいく。手数と傷の深さが先ほどとは比べ物にはならない。

 

現に医者の呪霊の左手は切り飛ばされ、受付カウンターの向こう側に消えていった。腹部は人間であれば、内蔵が飛び出ているであろう。

 

医者の呪霊はなす術もなく、全ての攻撃を受けきると、締めに蹴り飛ばされる。

 

「しぶてぇな、このヤブ医者」

 

文句を言いつつ、呪霊の傷を観察している。傷は瞬く間にふさがり、立ち上がって多田良に向かってくる。

 

「自己回復に特化した術式か。てめえが持つにしても腐らせるだけだ」

 

「ソウカ?」

 

瞬時に多田良の前に迫り、拳が振り下ろされる。反射的に手斧と中華包丁をクロスさせて防ぐも、衝撃が大きく、わずかに後退りしてしまう。

 

今度は左手が下から上へとアッパーが昇ってくる。軌道通りに進めば、多田良の顎へ直撃する。

 

右足を後ろに下げ、自然と体勢も僅かに後ろに下がり、呪霊の拳が通り過ぎる。

 

その隙を見逃すわけもなく、呪霊の頭に手斧を振り落とす。が、呪霊は読んでいたかのように、アッパーの姿勢から背中を見せるように回転して、右足を伸ばして蹴りを出す。

 

「ぐっ」

 

右手の中華包丁を腹部と蹴りの間に入れて直撃は防ぐ。それでも、威力は高く、今度は多田良が壁にぶつかる番だった。バランス感覚を失い、尻餅をついてしまう。

 

「多田良くん!」

 

落ち着く間もなく、呪力のこもったメスが飛んでくる。

 

中華包丁で弾き、立ち上がる。

 

憂太は結界の中で多田良を心配そうに見つめている。多田良は笑顔で「全然問題なし」と手を振る。

 

実際、多田良のダメージはそこまででもない。

 

「カンジャハイシャノイウコトヲキクモノダ」

 

「ヤブ医者は願い下げに決まってんだろ。大体、こんなとこでぼっちかましてる奴が何を救おうってんだ」

 

「ダレガヒトリトイッタ?」

 

「あ?」

 

瞬間、左側から強い衝撃が飛んできた。左半身はまるで壁に激突したかのような衝撃が与えられ、再び吹き飛ばされる。そのまま、憂太の結界に激突した。

 

「多田良くん!大丈夫!?多田良くん!」

 

多田良は憂太の心配を無視して「出るなよ?絶対出るなよ?フリじゃねえかんな」と釘を刺す。

 

「いいの貰っちまったな」

 

多田良は何事もなく、新たな呪霊に向き直る。多田良の視線の先には首からした犬と思われる四足歩行の体、頭がスピーカーの呪霊が佇んでいた。

 

(さっきまで、こいつの呪力は感知はできなかった。恐らく、呪力的に二級。その程度なら気付けると思うけど、こいつはまるで急に湧いてきたくせえ)

 

多田良は、帳の内側に張られた帳を思い返す。

 

(呪詛師が呪霊と組んだ訳じゃねえよな。そういや、この間も今みたいな状況になったって言ってたな)

 

少し前に、棘と憂太が組んで商店街の呪力を払った際に、別の呪霊が現れたと言っていた。ご丁寧に帳を張ってだ。

 

(夏油先生か)

 

この廃病院のどこかで笑っているであろう、かつての師の一人として呪術のいろはを教わった男を思い浮かべる。

 

(立場はどうあれ、成長した姿を見せるのも生徒の役目か)

 

犬の呪霊は頭のスピーカーから衝撃波を放ち、多田良と結界で守られている憂太に襲い掛かる。

 

多田良は衝撃波の範囲外に逃れるように横へと飛び出す。その先には医者の呪霊が先回りする。

 

「メンドウナカンジャダ」

 

「病院中に動物入れてんじゃねえよヤブ医者。んでもって、憂太ァ!」

 

「なに!」

 

「よぉく見とけよ。呪霊具術の戦い方ってやつをな」

 

中華包丁を医者の呪霊へ振り下ろすと、腕をクロスさせて防がれる。が、その時、多田良を除く全員が予想もしえない事態が起きた。

 

中華包丁の柄を除き、変形した。刃の部分が鈍色を残して、タコの足に変化し、八本の足で交差された腕を拘束する。戸惑う間もなく、がら空きの腹に手斧を振り抜く。

 

即座にダメージを抑えようとする呪霊は、腹部に呪力を集中させた。

 

「温いんだよ」

 

呪力の込められた手斧の斧頭から火が吹く。加速された手斧は容赦なく、呪霊の胴体を真っ二つに引き裂いた。

 

「もう食らわねえよ」

 

 

空気を響かせる衝突音が院内に轟く。

 

スピーカーの呪霊が衝撃波を飛ばすものの、多田良には届かずに終わった。何が起こったのか理解できず、何度撃ち続けても、見えない何かが阻んでいる。

 

「すごい……」

 

以前、憂太は棘と共に二級呪霊の討伐にあたった。その時のやや苦戦を強いられた苦い思い出が残っている。

 

今戦っている呪霊は、二級呪霊+一級呪霊だ。

 

「呪霊具術の真骨頂。呪具にされた呪霊の術式が使用可能。こんな風にな」

 

多田良の左腕の裾から砂がさらさらとこぼれ落ちる。

 

「鳥取砂丘で祓った呪霊でな。売ったら絶対億越えするね」

 

多田良が左手をスピーカーの呪霊にかざすと、砂が渦巻き、人間の姿が形成される。

 

形は歪で上半身のみが床に置かれている。頭と指先は四角で、顔を構成する目や鼻などはない。砂ののっぺらぼうと表現した方が分かりやすいだろうか。

 

「“砂芭戸”」

 

上半身のみだが、天井に頭がつきそうだ。

 

「潰せ」

 

多田良が一言指示を送る。

 

砂芭戸と呼ばれた砂の巨人はスピーカーの呪霊へ真っ直ぐ向かっていく。足はなくとも、滑っているかのように進んでいく。

 

スピーカーの呪霊は幾度となく、砂芭戸に衝撃波を飛ばす。それでも、砂芭戸の進行速度は落ちることはなく、砂が飛ぶ程度にしか被害が及んでいない。

 

砂芭戸は握り拳で、スピーカーの呪霊にアッパーを食らわす。

 

天井を突き破って、潰れたスピーカーの呪霊の気配が消えたことを感じた。

 

多田良は外の様子を確認すると、内側に張られた帳が消えているのを確認した。

 

「任務完了っと」

 

 

 

 

*******

 

 

 

「結局なんだったのかな」

 

「さあな。どこぞの呪詛師の嫌がらせなんじゃねえの。俺たちにちょっかいかけようとしたけど、俺にビビって逃げたんだろ」

 

二人は高専に戻る前に、銭湯で湯に浸かっている。

 

呪霊討伐後、補助監督に今回の一件を報告し、呪詛師による妨害だと決定が下された。ただ、呪詛師が誰なのかまでは判明していない。

 

多田良は犯人への検討がついていた。

 

「多田良くんて強かったんだね」

 

「喧嘩売られてんの俺?」

 

「そうじゃなくて。一級だから強いんだろうなとは思ってたんだけどさ。いざ目の当たりにしたら、こう、なんだろう、真希さんと狗巻くんを足した感じだったからさ」

 

憂太が言いたいのは、フィジカルと術式の併用と云いたいのだろう。

 

「まーなー俺一級よ一級。呪術師って良くて準1級が頭打ちの中で、一年で一級って中々のもんよ」

 

風呂に浸かり、特級である憂太の称賛により嬉しくなった。多田良はこいつ分かってるじゃないか、と風呂上がりに牛乳でも奢る気でいた。

 

「一級ってみんな、多田良くんみたいに強いの?」

 

「さあな。俺だって全員知ってる訳じゃねえ。でも、俺より強いのなんてゴロゴロいるだろ。術式=才能の世界だし」

 

「でも、接近戦は努力なんじゃないの。多田良くん、真希さんと打ち合えるわけだから」

 

「俺の場合はガキの頃から鍛えられってから。五条先生によくボコられてたんよ。それに筋力は呪力で強化すりゃどうにかなる」

 

「子供の頃から?」

 

「ああ。俺、小学生ん時から、高専で世話になってたんよ。術式の性質上、呪詛師に狙われるリスクもあるし、親がネグレクトだったのもあってな」

 

「さらっと凄いこと言わなかった?」

 

「そんで当時の高専の学生に拾われて、今に至るわけよ。だから、今の同級生とは結構付き合いが長い」

 

「そうだったんだ。じゃあ、戦い方は五条先生に教わってたんだ」

 

「五条先生は一割。今なんて、落ち着いてる方だぞ。昔は結構ヤンチャだったから」

 

「え、あれで?」

 

「あれで。俺基本的に強い呪術師についてって、倒した呪霊を呪具にしてたんだよ。訓練兼労働って感じで。五条先生の場合は、仕事押し付けやがるけど。そんで、呪霊を呪具にして、拡張術式の練習したり、呪具の販売やったりしてるわけ」

 

「売れるの?」

 

「一級の中で2番目に稼いでる自信はあるね。下手なコストかかんないし」

 

コストって税金やら土地代のことな、と付け足す。

 

憂太は呪術師としての生き方を改めていた。多田良のように、自分の術式を呪霊を討伐するだけでなく、別の方法で金銭取引する方法に僅かながら憧れを抱いていた。

 

「今度、どんなもん売ってるか見せてやるよ」

 

「それならさ、僕の、」

 

二人は銭湯から出て高専に着くまで、話に花を咲かせていた。

 

 

伏黒 恵は女体化させるべきか

  • 普通に男のままがいいなぁ
  • 女体化するとヒロイン枠が増えるなぁ
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