「こんばんは、多田良くん」
「こんばんは、直哉さん」
満月が分譲マンション開発地を見下ろす。
開発地は舗装された道路の横にはマンションがたてられる予定地がブロックで区切られている。
ここには多田良と直哉しかいない。基礎工事はまだ先のようで、角には建設機械が規則正しく並べられている。
「こないな時間に呼び出してなんのようや?」
「…………」
禪院家次期当主最有力候補 禪院 直哉は多田良に呼び出され、足を運んだ。直哉の性格を鑑みれば、呼び出しに応じない。多田良ともなれば、話は別になるのだろう。
「真依にちょっかい出すの止めて貰えませんか?」
「はあ?」
直哉は耳に手を当てながら、舌を出す。
「直哉さん、あなたのパワハラ・モラハラで真希はともかく真依は苦しんでいます。あいつは真希ほど強くはない」
「ハッ! なに善人ぶっとんねん? 女で呪力も極少のカスをどう扱おうと勝手やろ。そんなん言うたら、扇のおっさんどうやねん。DVパラダイスやろ」
「扇さんとは話がついてます」
「なにい……ッ!」
多田良の服装は花柄の黒スーツ。スーツは所々切れ目が入っており、血が流れていることに気付く。そして、多田良の後ろには地面に扇と呼ばれる男が転がっていた。
「現当主 直毘人さんにも了承を得ております」
「なにしとんねん、扇のおっさん。情な」
「こちらが勝利した場合、扇さんと直哉さんは真依に手出しをしない縛りを。そちらが勝利した場合」
「そんなんやから、当主の座ぁ親父に獲られんねん。娘は関係ないんちゃうん?」
「俺の持つ特級と同等の呪具を2つ無償提供。及びに呪具の永久半額化」
多田良の話を聞き流していたが、多田良から勝利ボーナスを聞いて、直哉は歪な笑みを浮かべる。
「太っ腹やな。乗ったるわ。そんで真依ちゃんイジメ抜いたる」
「そこのクソもおんなじこと言ってたぜ」
「口悪ぅなっとるで」
勝負が成立した。縛りという約束を遵守させる契約も結ぶ。
「よーいどんはいらん、やろッ!」
「ガッ!」
「亀かい。ノロノロ!ノロノロ!トロいんや!」
直哉の殴打が炸裂する。幾度も呪力のこもった拳が多田良に叩き込まれる。
その速度は呪力で身体能力を向上させただけでは、説明がつかない。
投射呪法と呼ばれる禪院家相伝の一つ。
1秒を24コマに分割する術式。己の視覚を画角とし、あらかじめ画角内で作った動き(コマ打ちした動き)をトレースする。
作った動きは途中で修正できず、過度に物理法則や軌道を無視した動きは自分もフリーズする。フリーズしてしまうと、板のようなフレームに閉じ込められてしまい、1秒間無防備になってしまう。
「あんがとさん。貢いでくれてなあ!」
多田良が一枚のフレームに封じ込めれると、そのまま直哉は殴り付ける。砕け散ったフレームの中から多田良は吹き飛び、数回バウンドとして、夜闇へて包まれていく。
同じ術式を持つ直哉の父、直毘人は最速の術師と呼ばれている。
つまり直哉もいずれは最速の術師と呼ばれる逸材だということだ。
(まだや)
多田良を殴り飛ばした直哉は多田良がゆったり歩いてくる姿に驚くことはない。
「その服か?」
「ご名答」
現在、多田良が来ている服は呪力に対しての耐性が強いもので、既存のスーツと拡張術式で組み合わせた一品だ。
防弾チョッキのような防御力を誇る。つい先ほど、禪院 扇によって切られてしまったのはショックだったが、打撃メインの直哉の攻撃は大幅に軽減できた。
「刃物使う相手には厳しくてね。今後の課題だな」
この拡張術式を使うのは今回が初めてで、禪院 扇と禪院 直哉の両名で耐久テストを行っていた。
その意図に気付いた直哉は額に青筋を浮かび上がらせる。
「舐めんなやカス」
(舐めてはねえんだよ)
多田良のスーツは頑丈でそれなりの防御力を誇るが、それ以上に直哉の攻撃力が想像を上回っていた。手打ちなどではなく、打ち込まれた拳は一発一発がしっかりと腰が入っていた。
性格はゲスでも、一級においてもトップクラスの実力者。
(真依の親父といい、このゲスといい、一級ってのは厄介だな)
才能、環境、努力。全てを兼ね備えた禪院の術師は並の術師を遥かに凌駕する。
傲慢に裏打ちられた実力者集団。
これが御三家の一角、禪院家。
「いいこと教えてやるよ」
多田良は両手に黒い雲を纏わせて、黒い稲妻を溜め込む。
「スピード自慢は雑魚のすることだってな」
黒い稲妻は直哉へ飛んでいく。直哉は飛んでくる予兆を察知して、素早く回避に回る。稲妻は多田良の両手から一本ずつ飛んでくる。攻撃速度は投射呪法を発動させるほどではあるが、攻撃のテンポは単調なもので慣れれば、術式を使うまでもなかった。
だが、直哉はそこから攻めに転じることはなかった。
(悟くんの弟子や。下手に攻めると痛い目見るやろな)
最強の弟子への懸念。直哉が多田良へ近付かない理由である。などと、考えている内に、多田良の両手の雲は空中を漂う。
しかし、多田良の手から雲は新たに纏っていく。
黒い雷が2本から4本へと増える。一方向からではなく、左右からも飛んでくる。そこから更に、空をゆったり漂う黒い雲が6つへ増加していく。漆黒の落雷は時間と共に、雷鳴を轟かせる。
多田良の手から離れても黒い雷が直哉へと襲いかかった。
直哉は舌打ちをすると、急速に速度を上げる。この状態が続けば、ジリ貧であると結論付け、短期勝負に持ち込む。
多田良を中心に砂煙が上げられる。その速度は、最早多田良の動体視力では目に追えるものではなく、影も映らない速度に達していた。
速度に乗せて、多田良の右側へ飛び込む。
脇腹へ肘鉄を打ち込む。肋骨が砕けた感触に笑みを浮かべるが、打ち込んだ腕が乾燥した砂に包まれていくのを感じると笑みを消す。
「なん、やこれ」
左腕は肘まで砂に包まれる。砂は下半身のない砂の巨人と化し、歪な右腕を引く。
「“砂芭戸”」
多田良の左腕には腕輪が嵌められている。黒い雲に包まれて見えない。それでも、呪具に込められた能力に影響はない。
黒い稲妻と砂の巨人が直哉を窮地に追い込む。
直哉は急いで左腕を引っ張り出そうとするも、砂の巨人に包まれた左腕は指一本自由がない。砂の巨人を蹴ってもビクともしないことへ焦りを募らせていく。
背中から運動による流れる汗とは違う、冷たい汗が流れていく。
「ざけんなやガッ!」
直哉の真上から黒い稲妻が走った。瞬きほどの刹那、直哉は意識を失った。その頃には、砂の拳が飛んできた。
直哉は空を飛び、無様に地面へ這いつくばった。それでも尚、雷鳴は轟く。数発の稲妻を受け、痙攣する直哉を確認すると、多田良は砂の巨人と黒い雲を消し去った。これ以上は生死に関わると判断したからだ。
完全決着。
そう思ったのも、束の間。
「【呪体……」
「はい?」
「感染】」
「ハイッ!?」
うつ伏せに倒れた直哉から単語に、今度は多田良が冷や汗を掻く。
「おいおいおいおい、あんたが持ってたのかよ」
「使うつもりはなかったんやけドなぁ」
直哉はゆらりと立ち上がると、目を見開き、血塗れの顔面で笑みを多田良に見せた。
「術師がコンナン使うのはダサいやろ」
直哉の呪力は急激に増幅する。多田良の使用する呪魂珠とは似て非なるものだ。
直哉の肌は青白く、目は横に一文字を引いた瞳孔になっている。
「セヤケドナァ、なんや気分がすこぶるイイわ」
多田良は知らない。
直哉が抱える憧憬と執念を。
術師殺しと呼ばれた非術師。
六眼と無下限術を手にした最強。
かの二人への強烈な憧れは、天才を更なる高みへ。
「認めタルワ。お前が悟くんの秘蔵ッ子やと。そんでワイの踏み台やと!」
「……ッオ!?」
多田良の視界に写っていた直哉は画面が切り替わったかのように、多田良の顔面を振り抜いていた。殴られた後に、ようやく殴られたと自覚する。
顔面だけではない。全身のあらゆる箇所を殴打される。序盤のラッシュと状況は似ているが、スピードとパワーは別人のようだ。
ボディーブローが入ったと思った瞬間に、鎖骨にかかと落としが決まる。集団リンチを受けてる錯覚に陥る。
「アッチ側に立つんは俺や!」
禪院家当主は禪院家の術師を強化するために、多田良の呪具を多く購入していた。その一つが直哉の手に渡っていたのは、多田良も知らない。
【呪体感染】
多田良の呪具には肉体を蝕む呪具が存在する。
性能は呪力の上昇。術式の精度が精密になる。生半可な怪我では死ににくい。
魅力溢れる呪具である反面、メリットとは非にならないリスクを抱えている。
【呪体感染】は術師の肉体と呪霊の肉が混ざる危険を孕んでいる。使用時間が長ければ長いほど、侵食が進み、最終的には人ならざる怪物へと成り果てる。
この【呪体感染】を完全に使いこなすことは多田良を持ってしても難しく、暴走の果てに五条が力付くで押さえ込む事態にまで進展した。
【呪体感染】をノーリスクで使いこなせる人間は皆無であると結論付けた。
「カアッ!」
直哉は殴り飛ばした多田良へ向けて、なにもない空間を五本の指で引っ掻く。結果、多田良はその場を飛び退くが、2本の裂傷が刻まれた。
ここが【呪体感染】の恐ろしさである。元となった呪霊の術式の一部を使用することができる。無論、ベースとなった呪霊の威力に比べたら、劣化はしている。
が、特別一級術師には十二分事足りるものだった。
直哉はこの戦いを通じて、自分が憧憬の存在に近付いたと確信する。
直哉は全身を使って多田良を殴り飛ばす。多田良は両手で防ぐが、力負けして後方へアスファルトを滑る。滑った先に直哉が回り込み、後ろを向いている多田良に三日月蹴りを突き刺す。
あまりの激痛に多田良は目を見開き、膝をつくと同時に折り畳み式の手鏡を取り出す。言うまでもなく呪具だ。
直哉は多田良に何かさせる前に、サッカーボールを蹴る要領で多田良への攻撃を続けた。
【呪体感染】を行ってから、1分も経ってない。休みない数十秒間の猛撃に多田良は痛みのないところはなかった。むしろ、スーツのおかげでこの程度で済んでいると見ていいだろう。
「ペッパーズゴーストって知ってるか?」
「知ルカ」
直哉は止めに多田良の顔面を殴り付ける。拳は完全に顔面を捉え、黒閃が弾けて多田良は、瀕死状態になるはずだった。
そう、当たれば。
拳は多田良をすり抜ける。姿形はあれども、触れることは叶わない。
(幻覚!?)
「光の反射を利用した呪具だよ。あとでググってくれ」
全体重を乗せて空振った体勢で、背後から息を切らした生暖かい吐息が届く。
反射的に飛び退くが、足首が虎バサミに挟まれる。一般的なものではなく、入れ歯のよう白い歯と紫の歯茎を模している。
当然、多田良の呪具だ。いつの間にか設置していたのか、無理にでも多田良から距離を置こうとしても、虎バサミは地面に固定されているのか、一向に自由を得られない。
その間にも多田良の右手にはボルトで構成された手甲が装着されていた。
「売っといて言うのもあれだけどよぉ、【呪体感染】は二度とすんなよ」
多田良は全力で直哉の腹部へ手甲の拳で殴り付ける。肋骨は簡単にへし折れ、多田良の腕に直哉の地の混ざった吐瀉物がかかった。
直哉の意識は失うことはなく、多田良を睨み付けている。
「早めに気ぃ失ってくれよ」
直哉は抵抗しようと鋭い抜き手で多田良を貫こうとする。多田良は合わせるように正拳で真っ直ぐ打ち抜き、指から骨が飛び出て、見るも悲惨な形になってしまう。
激痛に悲鳴を上げそうになる。それをグッと堪え、【呪体感染】の影響で驚異の回復力で指を含め、全身が癒えていく。その分、呪霊化の進行が早まってしまう。
多田良は思っていた以上に、直哉が粘るので、再び黒い雲を生み出す。
「強かったよ。相性的に厳しかったし」
「次や! 次こそぶちコロシタルワ」
「勘弁してくれ」
黒い雲が直哉の全身を包み込むと、黒い雷が内部で駆け巡る。
「ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
直に黒い雷を受けた直哉は絶叫を上げ、全身に大火傷を負わせながらも、多田良は電撃を止めず手甲をしまうと、両手に黒い雲を発生させ、漆黒の電流を走らせる。
黒い雲に黒いスパークが発生し、多田良は拳を固く握りしめた。
「あんたみたいなの、二度と戦いたくねえよ」
直哉へ声をかける。未だに絶叫を上げ、痙攣を起こしているが、聞こえてはないだろう。現在の直哉は【呪体感染】の再生が進んでいるが、それ以上に雷の攻撃量が上回っている。
痙攣はしても、のたうち回れない。
次の瞬間、多田良は直哉の鳩尾に黒い雲ごと右の拳で打ち上げた。絶叫は止み、地面から浮き上がった状態で、拳を打ち込んだ。
「それでも真依を傷付けるなら、容赦はしねえ」
黒き稲妻と黒閃が重なり、一直線に吹き飛んで、禪院 扇と重なる。
直哉の【呪体感染】が解け、生身の肉体へ戻るのを見届ける。
「これで真依への扱いもちっとはマシになるかね」
禪院家当主に決着が着いたことを伝えると、今度は真希へ電話を入れた。
真希は自分のやることだと不満を漏らす。多田良はその愚痴を聞き流しながら、晴れやかな気持ちと覚束ない足でその場から離れていく。
アンケート作りました。
今後、登場人物が増えてくる中で、伏黒の扱いどうしようかということで、女体化させるかどうか悩み始めました。
正直、女体化なんて微塵も考えてなかったんです。
どうせ書くなら面白くしたいなってことで伏黒女体化を考えてみました。
ただ、作者としては、伏黒が男だろうが女だろうがどっちでもいいので、アンケートを作らせていただきました。
なので、答えていただけたら嬉しいです。
伏黒 恵は女体化させるべきか
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普通に男のままがいいなぁ
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女体化するとヒロイン枠が増えるなぁ