やはり俺とブイモンの青春ラブコメは間違っている。   作:アルファ麻呂

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サマーキャンプ後編です。


第十一話

「ふわぁーあ…………」

「やっとベッドに着いたね」

「おやすみー」

「また明日ねー」

 

案内された男子用のバンガローには、デジモン用のベッドもしっかり用意してあった。ブイモン達がちゃっちゃとベッドに潜り込む中、俺たちは自分達で布団を物置からおろしていた。全くコイツら甘やかされやがって。

 

慣れない布団に潜り込む俺達。俺としては戸塚と二人っきりなら大歓迎なのだが、葉山と戸部の二人が完璧なノイズだ。案の定、すぐさま葉山が口を開いた。

 

「考えてみたら、前のサマーキャンプの時は初日の夕方にデジタルワールドに呼ばれたからこうして寝るのは初めてだな、比企谷」

「え?それマジ?」

「だから俺に振るなって何度も言ってるだろ…………」

 

しつこい、本当にしつこい。そんなんだから海老名さんが鼻血噴き出して千葉村を赤く染めるんだぞ。あんなんでも友達じゃないのかよ。友達失血死させる気かよ。

 

「あはは。それにしても、なんだかこうしてクラスメイトの男子だけで寝てると修学旅行の夜みたいだね」

「あ、分かるわー。ならここは、好きな女子の話とか?しちゃったりする?」

「いや戸部、それは…………」

「まぁそこは俺から言っちゃうかな。実は俺…………海老名さんの事気になってるんだよね」

「は?」

 

戸部の思いもよらない発言に思わず変な声が出た。マジかよ、あの海老名さん?最近名前が出るだけでその場の空気を海老名さん色に染め上げまくってるあの?確かに見てくれは可愛い系の女子高生だが、最近あの人見るだけで悪寒が襲ってくるぞ。

 

「あ、ヒキタニ君、意外だった?もしかして狙ってるとか…………」

「い、いや…………狙うとかじゃなくて、むしろ狙って欲しいと言うか…………」

「ああ…………最近はむしろ俺たちが狙われているからね」

 

そこで俺たちって言うんじゃねえよ。確かに俺たちだけどさぁ。

 

「二人して何で狙われるん?ってか、そうか元相棒だっけか。にしてもこの中で俺だけパートナー居ないんだよなー。隼人君は昔デジタルワールド行った時に会ったって言ってたけど、ヒキタニ君と戸塚君はどこで会ったん?」

「俺もデジタルワールド。以上」

「僕は、お父さんのパソコンからデジタマが出て来たんだ」

「はえー。やっぱりデジタルワールドが一番かぁ」

「戸部、欲しいからってだけの理由じゃパートナーは現れないぞ」

「え?そうなん?」

「そうさ。パートナーとの出会いは運命だよ。俺とワームモンが出会った事も、5年前のサマーキャンプでデジタルワールドに呼ばれたのも必然だったと確信している」

 

なんかもうデジモンキメてるみたいな思想に染まってるぞ葉山。雪ノ下もだが、デジモンという存在に対してやけに過大な期待を抱いているが、結局は選ばれし子供なんて呼ばれていても、テイマーは所詮人間だ。デジモンはあくまで俺たちテイマーに寄り添ってくれる存在であって、導いてくれる存在では無いと、俺は思う。

 

けど、それをわざわざ言う事もないだろう。俺は俺、葉山は葉山、雪ノ下は雪ノ下だ。

 

「ま、それはともかくさ。俺は気になる人言ったんだし、ここは皆も言う場面じゃね?」

「え、えーっと。僕は…………」

「あ、いや戸塚君はなんか良いや。聞いたら何かが壊れる気がする…………」

「え?いいの?」

 

少し恥ずかしそうにもじもじする戸塚を見て、戸部が慌てて止める。分かる、分かるぞ戸部。ここで戸塚のナカを見るのは背徳感凄い。

 

「と言う訳で、ほい、ヒキタニ君!」

「…………居ないぞ」

「えー?そりゃ無くね?」

「比企谷、君は昔からそう言うタイプだよな。昔も俺が先に言ったのに…………」

「道端でいきなり雪ノ下さんってエロくね?って声掛けて来た時の事言ってるんなら、まずはあの時の事を謝るところからだぞ葉山」

「え?何その記憶。って雪ノ下さんってまさか…………」

「ああ、雪ノ下さんのお姉さんの事だよ。雪ノ下さんを更に美人にして、ついでにスタイルを抜群にした感じの人でさ。当時小学六年生の頃の俺には眩しく見えたんだ…………」

「そしてその会話を女子メンバーに聞かれて、俺も巻き添えで粛清されたんだぞ。おまけにその後本人に散々から弄られるわ…………ほんと、そう言うとこだぞ葉山…………」

「仕方ないじゃないか。あの頃の俺は実家から離れたところではハジケたかったんだ」

 

何故か開き直る葉山。お前の異常な言動に振り回された一番の被害者は俺だぞ。突然橋の下で拾って来たんだ、とか言ってエロ本を持って俺の家に来たり、買い食いなんて普段は出来ないからね、とか言って俺の通ってた小学校まで迎えに来たり。昔はイケメンって言って目を輝かせていた一色がお前をゴミを見る目で見る様になったのは自業自得だからな。俺がお前の悪事をアイツに話した訳じゃないからな。

 

「葉山君の黒歴史面白いわー。ヒキタニ君、もっとそう言うの無い?」

「数え切れないが…………思い出すのも疲れるからもういいや」

「相当なんだね…………」

 

そうさ、もう疲れたよ戸塚ッシュ…………。そうして目を閉じた俺を前に、やがて諦めた戸部が静かになり、戸塚も葉山も静かになった。

 

 

「おい、八幡…………」

「あ?ブイモン?」

「トイレ行きてー」

「自分で行けよ…………」

「扉開けられねーんだよ」

 

ブイモンに揺すられて目を覚ます。ブイモンは何度もジャンプして扉を開けようとしていたが、成長期のブイモンの背丈では扉が開けられない。仕方ないな、と起き上がって扉を開けると、ブイモンが走って飛び出し、そしてすぐ振り向いた。

 

「トイレどこ!?」

「あー。仕方ないな、付いてこいよ」

 

考えてみれば結構複雑な道を歩いて行かないと辿り着けない場所にあった気がする。夜も遅いし、ブイモンが迷って戻って来れなくなるかもしれない事を考えると着いて行かないとな。

 

焦るブイモンを連れてデジモンも使えるトイレまで行き、駆け込んでいくのを見届ける。まぁ間に合うだろ。ブイモンを待つ間、すぐ近くの川を眺めていると、ふと誰かの気配を感じた。

 

「雪ノ下?」

「あら、比企谷君。夜の暗がりで見ると本物のゾンビみたいだわ」

「お前は俺の顔を見ると罵倒せずにはいられないのか」

「そう言うわけでは無いわ。ただ、貴方達が私の体型について不愉快な会話をしていた様な気がしだけよ」

 

ニコリと笑ってディースキャナーを取り出す雪ノ下。そんな言い掛かりを…………いや、葉山がそんな事言ってたな。

 

「俺じゃねえよ。葉山だ。葉山がお前の姉ちゃんの事を戸部に説明してたんだよ」

「そう…………私に代わって処刑しておいてくれたわよね?もしも今後同じような事があれば、どうなるか分かっているんでしょうね?」

「そんな事しねーよ」

「ふー、間に合った。って雪乃?」

「あら、ブイモンのトイレだったのね」

「まーな。で、お前は?」

「…………寝ようとしたら、また三浦さんが突っかかってきたのよ。で、完膚なきまでに言い負かしたら泣いてしまって」

「由比ヶ浜がフォローしてる間に、気まずくなって外に出てたって事か」

 

それにしても、ここまで何回も相対しておいてまだ雪ノ下相手に舌戦を挑もうとは、三浦も無謀と言うか何というか。

 

「何の話題でそんな事になったんだよ」

「昼間の、ヌメモンのパートナーの件から発展して、選ばれし子供としての使命と覚悟の話になった辺りかしら。彼女が泣いたの」

「あー」

「やっぱりー」

「比企谷君はおろか、ブイモンにまでそんなリアクションを取られるとはね」

「無駄に付き合いだけは長いからな」

 

雪ノ下はムッとした顔をするが、否定し切れずにかすかに鼻を鳴らすだけだった。

 

「ま、気分悪い話なのは俺も同じだ。明日、あの子からなんか話聞くチャンスを見つけられれば良いけどな」

「…………そうね」

「人間って、ホント面倒くさい生き物だよなぁ…………」

 

ブイモンの言葉を否定出来ない俺達は、やがてそれぞれのバンガローに戻るのだった。

 

 

しかし結局、ヌメモンの女の子と喋るチャンスは中々来なかった。朝飯の準備が出来た頃に小学生達は起きて来て、食べ終えてその片付けをしている間に大人のインストラクター達が到着して小学生達を山に連れて行ってしまった。

 

とりあえず今出来ることは無い。平塚先生にそう言われて、俺達も自由時間で川に遊びに行く事になった。俺は水着を持ってきてないので、と言う名目でバンガローで休むつもりだったのに、小町が持ってきてた上に戸塚に一緒に遊ぼう、と言われれば断われない。

 

「でもな小町。お兄ちゃんは小町が新作水着をこんな不特定多数に見せるなんて認めないからな!」

「あーはいはい。それは良いから、とりあえず結衣さんと雪乃さんの水着を見る!そして褒める!」

「八幡の魂のシャウトを聞かせてくれよ!人間はそう言うの好きなんだろ!?」

「うるせえぞシャウトモン。こんな開けた森の中でも響くってどんだけだよ」

 

小町とシャウトモンがニヤニヤ笑いながら先に川に来ていた雪ノ下と由比ヶ浜の所まで連れて行こうとする。別にアイツらの水着を見てもどうって事無いに決まってるってのに。

 

「あ、ヒッキー!」

「遅いじゃない。集合時間を守る事も出来ないのね」

 

ピンクのフリフリを付けた可愛らしい水着を着た由比ヶ浜と、白のシンプルながらもよく似合う水着を着た雪ノ下の二人が揃って待ち構えていた。思わず由比ヶ浜の谷間に視線が行きそうになるが、昨夜に雪ノ下に釘を刺された事もあってあくまで二人ともの額の辺りを見る。

 

「仕方ないだろ。俺の水着は小町が持ってたんだから」

「ハイ!お兄ちゃんそこで一言!!」

「あー?あー…………涼しいな」

「もう諦めろって小町…………」

 

ブイモンが慰めるように小町の膝のあたりを叩き、むすっとした顔で小町が睨んでくる。由比ヶ浜も、それどころか雪ノ下も少しがっかりした顔で視線を逸らす。何故だ。

 

「あ、八幡!」

「来たねー」

「待ってたよー」

 

その時、戸塚がパシャパシャと足元の水を跳ねさせながら駆け寄ってきた。その両肩にテリアモンとロップモンを乗せて、身体のラインを隠したパーカーを羽織り、満面の笑顔を見せてくれた。

 

「戸塚…………その水着、よく似合うな」

「えへへ。ホント?ありがとう!」

「ゴミいちゃん…………」

「八幡…………」

 

小町やブイモン達の冷たい眼差しが背中に突き刺さる。だって仕方ないじゃないか。こんなにも可愛らしい水着を着た戸塚を褒めないなんて、あり得ないだろう。だから雪ノ下、ディースキャナーとデジコードを出すなよ。手を下すのならあっちで三浦達とはしゃいでる葉山だろ。

 

「結衣、この人だあれ?」

「むー…………部活仲間の、比企谷八幡君」

 

その時、由比ヶ浜の足元から微かに青が混じった白い、全身の表面に雪で覆われたレッサー型の幼年期デジモン、ヒヤリモンが出て来た。おお、夏には嬉しい奴だ。

 

「そうか、寝てる間に進化したのか」

「幼年期の二段階目ね。ここから成長期に進化するまではどんな可能性もあり得るわ。成長期になると今度はある程度の進化先が固まるから、一番大事な時期よ」

「うん。じゃ、おいでーヒヤリモン」

 

由比ヶ浜の豊満な胸に抱き締められたヒヤリモン。素肌には冷たいんじゃないかとも思うが、その辺りはヒヤリモンが調節しているのか由比ヶ浜はむしろ涼しそうな顔だった。

 

まぁそれはともかく。ヒヤリモンも混じって川で遊び始めた由比ヶ浜や小町達を横目に先ずは木陰でマッカンの蓋を開ける。ブイモンも隣に座るが、俺が差し出したマッカンを気味の悪そうな顔をして拒否するとスポーツドリンクのペットボトルの蓋を開けた。俺のパートナーの癖してマッカンを否定するとは何事か。

 

ヒヤリモンが即席で作った氷の塊を川に浮かべて遊ぶ由比ヶ浜。ヒヤリモンも楽しそうだし、アレならテイマーとしてもやって行けそうだな。幾つか予備の持ち運び出来るデジモン用トイレもあるし、遊ばせすぎて疲れさせでもしない限りは幼年期の内に偶にある育成ミスも起きないだろう。

 

そんな事を考えていると、ふとガサガサ、と後ろから音がして振り向くと、ヌメモンが草木を掻き分けて姿を表した。

 

「あ、大人のニンゲンだ」

「ヌメモン?なら、パートナーが近くにいるのか?」

「何処?ヌメモン、何処に行ったの?」

 

またしてもガサガサ、と音がして、昨日見たあのハブられていた女の子が姿を見せる。そしてヌメモンを見つけてホッとした顔をするが、同時に俺の顔を見て警戒心を露わにする。

 

「一人なのか?今って確か、小学生は山登りに行ったんじゃ?」

「…………起きたら誰も居なくて。置いて行かれた」

「あー。まぁ、良くある事だ。気持ちは分かる。呼べよって思うけど、かと言って呼ばれてもなぁ、って感じだったな」

「分かる」

「お前もそんな感じだったか」

「お前、じゃない。鶴見留美」

「そうか。なら俺は比企谷八幡だ。パートナーはこのブイモン」

「おっす」

 

鶴見留美、ね。とりあえず覚えておくか。どの道、どっかで話せればとも思ってたからな。

 

「八幡は何でここで休んでるの?ハブられてる?」

「いや、自分でアイツらから離れてる。あんなのと一緒なんて疲れるからな」

「そっか。私も、クラスの人達と一緒に居るのは疲れる。馬鹿ばっかりだから」

 

馬鹿ばっかり、と言う言い方に少しとはいかないくらいの棘を感じた。ヌメモンに肩を預けてリラックスするその姿を見ると、口調は大人びて見えるが年相応のか弱さを感じる。

 

「パートナーがオイラだからって、みんなが留美を馬鹿にするんだ。オイラそれが悔しくて…………」

「私はヌメモンが大好きだよ。校外学習でデジタルワールドに連れてって貰った時、迷子になった私を助けてくれた。その時に、デジヴァイスが手に入ったの。だから私は、ヌメモンがパートナーになってくれた事に感謝してる。なのにずっと無視してるくせに、わざとらしく私達の前で、私のパートナーはツカイモンだとか、ピコデビモンだとか。班長はブラックテイルモンが成熟期ってのが自慢らしいし」

 

思わず、と言った感じで聞いてもいないのにどんどん言葉が出てくる留美。誰かにずっと言いたかった事だったんだろう。言えるチャンスが来れば、誰だってそう言うものかもしれないな。

 

「ねえ、ヌメモンがパートナーで何がいけないの?」

「別に悪い事じゃ無い。ヌメモンはデジモンの中でも一番古くから居る由緒ある種族だしな。ま、見た目はたしかにアレだが、それも個性だろ」

「その個性をネタにしてくる相手となんて、こっちが願い下げ」

「でも留美、寂しいじゃねえか」

 

口では強がってはいるが、まだ小学生の女の子にクラス中から自分の個性を否定されては参ってしまうのも事実だろう。だが…………

 

「ま、例え留美のパートナーがヌメモンじゃなくても、そう言う下らない事する奴は理由を探して来るぞ。それこそ、ロイヤルナイツとかでもそれが気に食わない、とか言い出してな」

「…………そうなの?」

「例え話だけどな。でも、そう言う奴らじゃなきゃそんな下らない真似はしないモンだ。多分な」

 

留美が何処となく納得のいった顔で肩をすくめる。もしも、の話であって実際にはどうなるかは分からない。だが単純に悪目立ちした相手をハブって遊んでいるのなら、例えヌメモンじゃなくてもターゲットにされてしまっただろう。

 

「どの道、こうなるって事?」

「その辺りは保証できんけどな。ただ、馬鹿ばっかりの中で過ごしたく無いんだろ?」

「それは、そう。だけど…………」

「だけど?」

「惨めなのは、嫌」

「…………そうか」

 

その気持ちは分かる。なら、その気持ちに応えるのが先輩の務めだろう。良い作戦も思いついたしな。

 

「今夜の肝試し、楽しみにしてろよ」

「まーた悪い事思いついた顔してるよ…………」

 

 

サマーキャンプの二日目の夜は最後の思い出として肝試し大会がある。俺たち引率枠の高校生は脅かす側と案内役に分かれる。当然ながら事故がってはいけないので入念な打ち合わせをしなくてはいけないのだが、この打ち合わせは如何に事故を防止するか、では無く、一歩間違えば大事故になりかねない作戦の打ち合わせになってしまっていた。

 

「つまり、君の作戦はその留美ちゃんの班を襲ってあの班のメンバーを仲間割れさせよう、と言う事かい?」

「ま、端的に言えばな」

 

簡単に言ってしまえば葉山の言う通り、留美をハブることで団結しているメンツの団結を崩してしまえば、少なくとも留美への虐めは止まる。その後新しい人間関係を構築できるかどうかは留美次第。

 

「褒められた手段では無いけど、今のあの子達の関係性の方も褒められたものではないし、やむを得ない状況ね」

「でも、脅しにデジモン使うのは大丈夫なの?証拠とか、色々…………」

「その辺りは、俺と葉山のD-3を使うから大丈夫だ。葉山、デジメンタルはまだ持ってるよな?」

「ああ、君が持ってる奴と合わせれば全種類揃ってるはずだ」

 

俺と葉山が持ってる、アーマー進化に必要なデジメンタルは、勇気、友情、愛情、知識、純真、誠実、優しさ、希望、光、奇跡、運命。これらのデータをパートナーにダウンロードさせる事でアーマー進化するのだが、実はこのデジメンタルは使える奴に限りがあるのだ。

 

「なら、俺はお前に預けた愛情のデジメンタルを使うから、お前は俺の勇気のデジメンタルを使え。例えバレても、これなら事故で処理できるだろ」

「は、隼人君に預けた愛情…………!!」

「姫菜、真面目な話してるから黙るし」

 

デジメンタルは進化の際に、デジモンとの相性で進化先が大きく変わる。しかしその中でも、ブイモンは愛情のデジメンタルと、ワームモンは勇気のデジメンタルとの相性がとことん悪い。

 

「あの姿になるのかー」

「うーん。どうなっても知らないよ?」

「わかってるさ。でも、アーマー進化体ならいざとなれば成熟期でも対処できる」

「この作戦は、上手くいけばあのメンツにデジモンの格とか種類が意味がないって事も思い知らせられるだろ」

「なるほどねー。デジモンが仲間内での格付けの道具じゃなくて、怖い生き物の側面もあるって学ばせるって感じ?」

 

戸部にしては理解力のある発言に驚く。もしかしたら海老名さんの前だからいい所見せようって魂胆かもしれないが。

 

「小町、由比ヶ浜と雪ノ下であの班を孤立させる形で誘導。俺と葉山がアーマー進化させたブイモンとワームモンを出す。三浦と戸塚はいざって時は、ファンビーモン達を成熟期に進化させて止めに入ってくれ」

「ん。了解」

「私の役目が無いといいケド…………」

「僕らも頑張るよ!」

「見てるよー」

「見守ってるねー」

 

全員の配置を柔軟に考えていく。俺一人では気が付かないところも雪ノ下が指摘してきたり、しかしその際に何故かキツイ言葉の応酬になりそうなタイミングで小町がフォローを入れたり。俺と雪ノ下が考えた脅しの文句を、葉山が後々まで尾を引きそうと判断して文面を変えたり。

 

「なんか、テキパキしてるね」

「お兄ちゃん、口では色々言ってますけど、昔に戻ったみたいで嬉しいんですよ。デジタルワールドを冒険してた頃は、あんな風にあの三人が中心になって旅の方針決めてたんです」

「いっつもこうしてりゃ良いのになー」

「うるさいぞ、小町。それとシャウトモン」

 

余計なこと言うんじゃねえよ、時間も無いんだぞ、全く。海老名さんがニヤついているから、葉山も心底嬉しそうに笑うんじゃねえや。

 

そうこうしている間に時間が来て、俺たちは事前に決まった配置に着く。俺と葉山は迷子が出ないようにチェックポイントで待つ役目を請け負っているので特に準備は必要無いが、脅かす側の雪ノ下は雪女のコスプレをしていた。

 

「似合うな雪ノ下。本物の雪女みたいだ」

「そう言うあなたも、ゾンビのコスプレがとても良く似合っているわ」

「俺はノーメイクだぞ」

「あら、気が付かなかったわ」

 

ここに来てもまだ罵倒の嵐にげんなりしつつ、駆け寄ってきた葉山から順番表を受け取る。ちゃんと留美の居る班を最後に持っていけているな。これなら余計な邪魔も入らない。ここは素直に大人達に掛け合った葉山のお手柄だが、ハイタッチはやらねえぞ。満面の笑顔で構えるんじゃねえよ。

 

そして由比ヶ浜と小町が小学生達を誘導して肝試しが始まり、俺もチェックポイントに一足先に向かっておく。別れ道に立って、看板を無視して別方向に行こうとしたら声をかける程度の仕事なのだが、何故か小学生達は俺の顔を見て悲鳴を上げて逃げて行った。この現場を見られたら、また雪ノ下に嫌味を言われるな。

 

やがてスマホに由比ヶ浜から連絡が来て、最後の留美の班が出発したと分かると、俺は看板の向きを変えると持ち場を離れて走り出した。

 

「おし、準備するぞ」

「わかってるさ。お互いのデジメンタルを交換しよう」

 

葉山とD-3をケーブルで繋ぐ。そして俺が持つ勇気のデジメンタルと葉山が持っていた愛情のデジメンタルを交換する。その頃には後ろから子供の声が聞こえ始めた。

 

「よし、行くぞブイモン。理性を保てよ」

「やってはみるけどさ…………」

「ワームモン、厳しくなったら合図してくれ。すぐに助けが来るからな」

「信じてるよ?」

 

俺と葉山が同時にD-3のスイッチを入れる。

 

「「デジメンタル、アップ!」」

「ブイモン、アーマー進化!」

「ワームモン、アーマー進化!」

 

ブイモンに愛情のデジメンタルが、ワームモンに勇気のデジメンタルがロードされた。ブイモンは普段の二足歩行から四足歩行に変わり、背中から頭を覆う鎧と二本の牙、そして四肢が赤く染まって強靭になった。そして、ワームモンは逆に二足歩行の形になってフレイドラモンに似た姿だが、背中に炎で出来た蝶の羽を背負った形に変わる。

 

「セトモン!!」

「シェイドラモン!!」

 

普段のアーマー進化なら高らかに叫ぶはずの口上も無い。それどころか安定していないせいか俺たちよりもかなり大きい体躯になった二体は、ギリギリの理性の残った目で俺たちを見下ろした。

 

「ウグ…………八幡、結構キツイんだぞ!借りは返して貰うからな!!」

「早く終わらせて帰るぞ!」

 

どっちも普段の口調からは考えられないくらいドスの効いた声でゆっくりと歩き出す。どうやら普段は進化しないせいか、予想以上にエネルギーを溜め込んでいたらしい。

 

「これは、雪ノ下にも鎮圧役で来てもらった方が良かったか?」

「今更言うなよ!!来るぞ!!」

 

咄嗟に物陰に隠れる俺たち。視線の先には、俺がいじった看板のお陰で迷子になった留美達の班のメンツがパートナーと一緒に歩いてくる所だった。

 

留美をあからさまに無視している五人の女子達はともかく、ブラックテイルモン達パートナーデジモンは少し気まずそうにパートナーと距離を置いている。見る感じでは、留美とヌメモンに対する無視に賛同はしないが、だからといってパートナーの意向を無視は出来ないのだろう。一様に人間から距離を取っている。これは好都合だ。

 

「もー、何よブラックテイルモン。さっきから感じ悪いわ」

「だって…………」

「私達パートナーでしょ?だったら…………」

「ガオォォォォォォォ!!」

 

セトモンの雄叫びに、ブラックテイルモンに文句を言っていた班長を始め、留美達が怯えた顔で立ち止まる。ズン、ズン、とさらに大きくなったセトモン、そして夜の闇を怪しく炎で照らしながらゆっくりとシェイドラモンが留美達を前と後ろから包囲した。

 

「で、デジモン!?な、何!?」

「ニンゲン、ここは俺たちのナワバリだぞ?誰の許可を得てここに来た?」

「ヒッ!?ぶ、ブラックテイルモン!!」

「ネコパンチ!」

 

班長のブラックテイルモンが殴りかかるが、セトモンには通じず頭突きの一発でノックアウトされてしまう。

 

「わ、私達、サマーキャンプの肝試しで来たの!大人がここに行けって…………」

「ニンゲンの都合なんて関係ないね。どの道、餌が足りなかったんだ」

「ヒッ!?」

 

セトモンに加え、シェイドラモンが涎を垂らしながら迫って来ると、留美も含めて女の子達は腰を抜かしてしまう。なかなかに演技派だな。

 

「まぁでも、俺たちはそこまで悪いデジモンじゃない。六匹も餌は要らねえや。半分は食わずに帰してやるよ。お前ら、餌になるニンゲン三匹を決めな」

「は、半分…………」

 

女子達の視線が留美に集中する。その視線に留美が睨み返すが、ブラックテイルモンを一撃で倒してしまう様な凶暴かつ強力なデジモンに囲まれた異常な状況で冷静さを失った少女達はそれに気にする余裕はない。だが、要求される生贄は一人ではない。

 

「一人は決まったか?けどな、もう後二人は餌になってもらうぜ?」

「い、いや!!ピコデビモン、なんとかしてよぉ!!」

「こんなん無理だって…………」

「ツカイモン!!」

「ボク、戦えるデジモンじゃないよ」

 

パートナーの悲痛なSOSに首を横に振るデジモン達。しかし、気絶しているフリのブラックテイルモン共々、セトモンとシェイドラモンの様子からある程度状況を理解しているのか今のところは戦うつもりは全く無いようだった。

 

「な、何よそれ…………だったら、班長が…………」

「何で!?それなら、アンタが!!」

「私は嫌!!嫌だよぉ!!」

「うわあああん!!」

 

結果、当然ながら女子達の間で仲間割れが起こった。人はいざと言うときに本性が出ると言うが、他人をハブって団結する女子達の繋がりなんてそんなものだ。

 

「よし、これでもう十分だろ。戸塚と三浦に合図を…………」

「いや待て、見ろ、比企谷」

「あ?」

 

葉山に止められて視線を戻すと、震える女子達の間で留美が一人立ち上がっていた。さっきまで留美を虐めていた女子達が泣き腫らした目で留美を見上げる中、ヌメモンと一緒にセトモンに立ちはだかった留美はセトモンとシェイドラモンを睨み据えた。

 

「私と、ヌメモンが、なんとかするから、その隙に逃げて」

「え?」

「留美、大丈夫なのぉ!?」

「大丈夫。だって、私は…………もっとヌメモンと一緒に居たいから」

 

そして、留美のデジヴァイスが光り輝く。そして光が収まるとノーマルの水色の八角形のデジヴァイスが、見たことのない完全円形に近い新型デジヴァイスに変わった。

 

「ヌメモン、超進化!!」

 

留美のデジヴァイスの液晶画面の周りを黄色い光が何度も走り、ヌメモンの体を一回り大きなヌメモンが包む。そしてそのヌメモンの進化先のデータがヌメモンから、今度は黄色いクマの様なシルエットに変わり、そのシルエットがヌメモンを包み込む。

 

雪ノ下がスピリットエボリューションするときの様なデジコードが光り輝くヌメモンの周囲に浮かび上がり一際激しく輝く。爆発的なエネルギーと共にデジコードを吹き飛ばし、黄色いクマのぬいぐるみの様な完全体デジモンが姿を表した。

 

「もんざえモン!!」

「通常の奴よりデカイ…………!?」

 

セトモンよりも巨大なもんざえモンは、その柔らかそうな右手でセトモンを殴りつけると、セトモンは派手な悲鳴を上げながら森の奥まで吹き飛んでしまう。

 

「セトモンをワンパンかよ…………」

 

偶然にも俺のすぐ近くに落ちたセトモンはそのままブイモンに退化し、そしてシェイドラモンも拳を構えて殴りかかる。しかしもんざえモンの体には炎すらも通じない。

 

もんざえモンは下弦の月の様な感情の見えない目でシェイドラモンを見下ろし、炎が当たった所をポンポン、と叩く。シェイドラモンが怯えて後ずさるが、次の瞬間にはもんざえモンはシェイドラモンの目の前に立っていた。

 

「ひっ!?」

 

シェイドラモンの頭を掴み、持ち上げるもんざえモン。シェイドラモンが苦しんで悲鳴を上げる。だが何かに気付いたのかもんざえモンが首を傾げ、ポイっとシェイドラモンをまるで飽きたオモチャみたいに森の奥に投げ捨ててしまった。

 

「す、すっごい…………」

「留美、これでオイラもカッコいいデジモンの仲間入りかな?」

「…………ヌメモンの方が可愛いのに」

「あれ?」

 

女子達の留美を見る視線が変わるが、もんざえモンを見る留美は心底残念そうな顔だった。もんざえモンががっくりと肩を落とすと、エネルギーが切れたのかヌメモンの姿に戻ってしまった。

 

「うん。こっちの方がしっくり来るね。お疲れ様、ヌメモン」

「くぅ…………」

 

 

 

予想外の形ではあったが、事態は解決と言っていい状況になった。あの後、迷子になった留美達を探しに来た、と言う名目で俺たちが合流すると、留美を始めとした班の面々は全く会話は無かった。ただ、ブラックテイルモン達は進化したばかりのヌメモンを褒めそやし、その間虐めていた面々は居心地悪そうに肩をすくめるばかり。

 

「結果は上々、か。まぁ綱渡り過ぎて褒められた手段では無いがな」

 

戻って来た留美達を見て、そして何故かボロボロのブイモンとワームモンを見た平塚先生は開口一番俺に向けてそう言って来た。

 

「見てたんすか?」

「いや、君のやりそうな事だと思っただけさ。しかし、あの女子グループはもうコミュニティとしては再起不能。ついでに虐められていたあの子はむしろ一目置かれる存在になったと言うわけか」

「頑張ったのは、あの子とヌメモンっすよ。まさかあそこまで強いもんざえモンが出て来るとは思わなかったけど」

「ああ、ヌメモンから進化するもんざえモンはとてつもないパワーを秘めている事があるって都市伝説は聞いた事があったんだけど、まさか本当だったとは…………今度、ワームモンに高級デジ肉食わせてやるかな」

「ってまたお前か葉山…………」

 

最後のキャンプファイヤーの準備をしていたはずの葉山がすぐそばに擦り寄って来て思わず距離を置いてしまう。

 

「一応、バレたら事故で普段使っていないデジメンタルをロードしてしまい、ブイモンとワームモンが暴走した、と言う筋書きか。無茶をする」

「それでも効果は絶大だった。比企谷、やはり君はみんなを変えられる男だよ。君との出会いでみんな救われたんだ。彼女も、雪乃ちゃんも、俺も」

「キモいぞ葉山…………って足元に血が!?」

「はやはちはやはちはやはちはやはちはやはちはやはち…………」

「うわあぁぁぁぁぁぁ!?」

「え、海老名さん!?また海老名さんかい!?」

 

テントの影に隠れて話を聞いていた海老名さんの鼻血が俺たちの足元を真っ赤に染めていた。三浦に引き取って貰い、サンダルを交換して戻って来ると、ヒヤリモンを胸に抱えた由比ヶ浜と雪ノ下が待っていた。

 

「た、大変だったねヒッキー」

「ねーねー。何であの人鼻から血を出してたの?」

「ヒヤリモン、いつか分かるわ…………それより、今回は貴方が居なければなんともならなかったわね」

「雪ノ下に素直に褒められるとはな。天変地異の前触れか?」

「貴方をあのキャンプファイヤーの薪の一つにしても良いのよ?」

「その発想が怖えよ。全く、そろそろ着火か」

 

テリアモンが必殺技のブレイジングファイアを放ち、キャンプファイヤーに火がついた。最初はゆっくりだったが次第に激しく燃え上がり、小学生達がその周囲で輪になって踊りだす。

 

「結果的にだけど、良い夏休みの思い出になったんじゃないかな。留美ちゃんの問題も解決したし、ヒヤリモンも産まれたし。奉仕部の夏休みって感じ」

「…………そうね」

「これで依頼は完了。ま、あとは家でゆっくり出来るんだろ?」

「ヒッキー、まさか夏休み後はもう何もしない気!?」

「まぁな。それ以外何がある?」

「諦めなさい由比ヶ浜さん。この男はそう言う男よ」

 

由比ヶ浜と雪ノ下がジトっとした目で睨んでくるが、だからといって俺に何をしろと?まさか夏休みなのに奉仕部の部室に来て依頼待ちの読書をしろとでも?

 

「ふんだ、小町ちゃん経由でお願いすれば聞いてくれるって分かってるんだし」

「おい待て、小町を利用するのは卑怯だろ」

「ベー、だ。小町ちゃんに頼んだら喜んで貸してくれるって言ってたし!帰ったらまた連絡するからね、ヒッキー!行こ、ゆきのん、ヒヤリモン!」

「あ、由比ヶ浜さん…………」

「レッツゴー」

 

それだけ言い残し、キャンプファイヤー周りのフォークダンスの流れに由比ヶ浜と雪ノ下も混じっていった。あの行動力でまた俺の夏休みを侵食する気なのだろうか。辞めてくれ、と言いたいが、なんとなくだけどそれも悪く無い気もしてしまった。

 

「うげー、疲れたー」

「お、起きたかブイモン」

「起きたか、じゃねえよ。なんだよあのもんざえモン…………まだ頬が痛ーよ」

 

よろめくブイモンが座っている俺の膝の上に乗ってため息を吐いた。相当疲れたらしい。流石に酷使し過ぎたな。

 

その時、俺の隣に留美とヌメモンがやって来た。

 

「やっぱり、さっきのは八幡達の仕業だったんだ」

「変な気配がしてたんだよなー」

「…………なんの話だ?」

「…………誤魔化すんだ。なら、それで良いよ」

 

隣に座った留美は新しいデジヴァイスをポケットから取り出した。改めて見ても、今まで確認されたどのデジヴァイスとも違うデザインだ。デジモンとテイマーはこれまでもこれからもどんどん新しい可能性を発揮していく。これも留美が見つけた新しい可能性なんだろう。

 

「状況はだいぶ良くなった。少なくとも無視みたいな事は無くなった。むしろさっきまで無視してた奴らの方が周りから浮いてるくらい」

「そうか。ま、これが新しいスタートだ。これからどうなるかは留美次第ってな。良くなるか悪くなるかは保証しないぞ」

「別にそれは良いよ。今は、惨めじゃないから」

「オイラも完全体に進化出来る様になったしな」

 

そう言ってヌメモンを抱く留美。やっぱり、ヌメモンが一番らしい。独特の感性ではあるが、俺はその感性を否定しない。それがこれから先の留美達の小学校のスタンダードになっていく事を祈りたい。

 

「ま、いつかまた会う事があったら…………その時また何か困ってるなら、相談しろよ。残念ながら俺は、奉仕部の一員らしいからな」

「なにそれ。馬鹿みたい」

 

そう言う留美の顔は今まで見たことのない笑顔だった。




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