やはり俺とブイモンの青春ラブコメは間違っている。   作:アルファ麻呂

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今回は原作のないオリジナルストーリー。あんまり出番のないメンバーのお話です。


第十二話

「サマーキャンプの引率…………?そう言えば居た様な気もするね」

「俺達は初日のうちにデジタルワールド転送されてたからなぁ」

 

予備校の終わり。偶然にも隣の椅子に座っていた川崎にこの間まで巻き込まれていたサマーキャンプでの経緯を語ると、川崎はそれなりに興味深そうに耳を傾けていた。

 

「デジモンが小さい子達の間でクラスカーストの根拠になってるのは知ってたけどね。京華の幼稚園でもパートナーデジモンが居る男子が偉そうにしてたし」

「確か、京華のパートナーはハックモンだったか。進化ツリーがロイヤルナイツ確定の超エリートだし、滅多な扱いは多分無いだろ」

「…………何かこの間、幼稚園に迎えに行ったら普通に成熟期のバオハックモンに進化させて一緒に遊んでたんだけど」

「あれ?もしかして京華、知らない間にデジタルワールド冒険してない?大丈夫?」

 

川崎の妹の京華はまだ幼稚園に通い始める前から、それこそ産まれて一日くらいにはもう既に手元にデジヴァイスとデジタマがあったらしい。そのせいかデジモンの気配や感情を感じたりなどの不思議な力がある。前に川崎に頼まれて一日だけ家で面倒を見た時は、リビングに居ながらデジタルワールドで起きた事件を遠視していたりもしていた。

 

ただ、幼稚園に通い始めた頃からその辺の力も消え始めて居る。デジモンとの触れ合いがキッカケで発生したバグが修正されたみたいだった。同様の事例はあちこちで報告されていて、京華の様に幼いうちからパートナーデジモンがいる子供が小さい頃までは不思議な力を見せている例は少なくない。

 

「京華ももう少しすれば小学生だしな。成熟期くらいまで進化させられれば変な奴らに舐められないし安心だな」

「…………ねえ」

「なんだよ」

「京華はアンタの妹じゃないんだけど?」

 

今更ながら目が据わり始めた川崎が拳を鳴らし始め、俺は思わず知らず荷物を片付けてスタコラサッサと逃げ出した。

 

 

マッカンを片手に自転車を漕ぎ、信号待ちのたびに川崎が鬼の形相で追いかけてこないか後ろを確認する。全く川崎のシスコンブラコンも大概だな。大体京華が俺に懐いたのは俺のせいじゃないぞ。

 

あのシスコンが闇討ちしてくる可能性を考えると余り安全とは言い難いが、それでも世界一心の安らぐ場所である自宅に辿り着く。自転車を置いて玄関の扉を開けると、不満げな顔のカマクラが出迎えた。

 

いつもならブイモンやシャウトモンと喧嘩でもしたのかとも思うところだが、今の比企谷家はカマクラが落ち着ける環境とは言い難かった。なのでいつもより高いキャットフードを皿に入れて差し出すと、カマクラはフンと鼻を鳴らして食べ始めた。

 

「だでーまぁ、小ま…………」

「あ、せんぱい。おかえりなさいでーす」

「お邪魔してるね」

「…………何で居るんだよ一色」

 

何故か一色がリビングで雑誌片手に小町と並んでブイモンとシャウトモンをゲームでボコボコにするルナモンを眺めていた。

 

「お兄ちゃん。そりゃー私今年受験生だし?一年先輩のいろはさんに色々と教えてほしい事があるから」

「どっからどう見ても暇だから遊びに来ただけだろ」

「今は休憩中ですよー。全くこれだからダメダメなせんぱいは…………」

「ねえそこでいきなりディスる必要あった?」

 

表紙に今年の夏の恋愛事情、とでっかく書かれている由比ヶ浜や一色が好きそうな頭の悪そうな雑誌をこれ見よがしに広げる二人に呆れつつ荷物を置いてそのまま部屋に戻ろうとする。

 

「は、八幡!仇取ってくれ!!」

「俺達じゃ勝てないんだぁ…………!!」

 

その時、ブイモンとシャウトモンが俺の足元に縋り付いて来た。見れば任●堂オールスターの格ゲーのリザルト画面は、ルナモンの操作していたキャラによって蹂躙された結果をまざまざと見せつけていた。ルナモンはコントローラを両手で優しく持って可愛らしく小首を傾げていたが、その可愛らしい仕草すらルナモンと一色コンビの腹黒さを隠しきれていなかった。

 

「俺も多分勝てないぞ」

「それでも!!」

「三対一ならなんとか!!」

「プライドとか無い訳?」

 

ルナモンの冷たいツッコミなど何のその。デジモン達はみっともなく泣き喚いて俺の足に縋り付いて来ていた。仕方ないから部屋に荷物だけ置いて四つめのコントローラを握りしめた。そして、三対一でも案の定蹂躙され続けた。

 

「へぇー。本命の恋人との初デートにパートナーデジモンを連れて行くかアンケートだって。あ、結構連れてかない意見が多めだ。むしろ本命以外の時ほど連れてくみたい」

「意外ですね。いろはさんはどうです?」

「私は本命なら連れてくかなー」

 

後ろは後ろで生々しい会話をしてやがる。っていうか小町の勉強を見に来たのか邪魔しに来たのかどっちだ。

 

「わーい勝ったー」

「「「負けた…………」」」

 

そしてそんなこと考えているうちに三対一で完全敗北した俺たちは勝ち誇るルナモンを前に跪くしか無かった。

 

「せんぱい弱すぎー。じゃ、何してもらおっかな」

「おい待て。何でこの流れで俺が一色の言うこと聞く流れになるんだよ。大体俺はこれから用事があるんだよ」

「用事?せんぱいに?ハッ」

「本気で小馬鹿にした笑いじゃねえかそれ」

「あー、いろはさん。実は本当なんですよねー。おーい」

 

小町がリビングから出て声をかけると、廊下の辺りで寛いでいたのか一匹の小型犬がテンション高めに吠えながら駆け寄って来た。

 

「え?せんぱいの家って飼ってるのはかまくらちゃんですよね?犬まで飼い始めたんですか?」

「あー。実は由比ヶ浜のペットのサブレだ。家族旅行に行くから明日まで面倒みてくれって頼まれて昨日から預かってるんだ」

「パートナーデジモンは一人カウントして家族旅行に連れて行けるけど、ペットは連れてけないってのもちょっと可哀想だよね」

「ま、会話が成立するかしないかは大きいよな」

 

サブレの首輪にリードを繋いで財布とスマホとD-3をポケットに突っ込む。そしてルナモンの前に跪いたまま動かないブイモンの尻を小突くと、同じく跪くシャウトモンが恨めしげに睨んできた。

 

「じゃ、これから散歩ですか。それなら私も付いて行きますよ」

「そうか。駅までで良いか?」

「え?せんぱい、私の事送ってくれるんですか?嬉しいですけど…………って何ナチュラルに帰そうとしているんですかね」

「いろはも私も騙されないぞ、八幡」

「お兄ちゃん!いろはさんは今夜は家で食べていくんだからね!駅まで送るのはその後!!」

 

マジか。そうなると今夜の夕食は煩くなりそうだ。って言うか完全に小町と遊びに来たなコイツ。この間のサマーキャンプといい、小町の奴受験生の夏休みを甘く見てないか?それで泣きを見てもお兄ちゃん知らないぞ。

 

小町の受験の心配をしつつサブレを家の外に出し、とりあえず昨日歩いた散歩コースを歩き出す。サブレも下手に吠えたり逆らったりせず、並んで歩くブイモンに擦り寄ったり、時々俺をジッと見つめたりしていた。

 

「へー。躾が行き届いたワンちゃんですね。由比ヶ浜先輩がキッチリ躾けたんですかね?」

「いや、初めて会った時は由比ヶ浜の腕から逃げ出して車に轢かれそうになってたな。人懐っこいのはご主人様に似たのかもしれんが」

「へー…………懐かれてるんですね」

 

微かに含みを持たせる一色。ルナモンとブイモンが僅かに距離を置き、その意味が分からず困惑する俺をよそにサブレにお手をさせていた。サブレは何の躊躇もなく一色の手の上に前足を置き、一色はよーしよーしと言いながら頭を撫でていた。

 

別にサブレが俺に懐いた事が一色のどの苛立ちポイントに触れたのか全く分からない。現にサブレは一色にも懐いているし。あれか。カワイイ私よりも先にサブレに懐かれるなんてせんぱいの癖に、みたいな感じか。

 

その時、ふとサブレが何かに気づいて空を見上げて唸り始める。俺たちがその行動の意味を把握しかねていると、今度は俺のD-3と一色のアークに反応が入った。

 

「デジタルゲートが開く?ここで?」

「いや、違う。この反応は…………」

 

断続的な警戒音に似た反応をするD-3。スマホにも着信が入り、国と県からの緊急デジモン速報と免許持ちテイマー専用アプリに反応が。

 

「デジタルシフトだ。一色、掴まれ!」

「は、はい!!」

 

サブレを脇に抱え、一色の手を掴む。ブイモンとルナモンも俺の身体にしがみ付き、辺り一面にノイズが走った。

 

 

デジタルシフト。デジタルワールドとの境界が曖昧になり、不定期的かつ局所的に巨大なデジタルゲートが開き現実の一区画がデジタル化してしまう現象だ。原理的には俺たちテイマーがデジタルワールドに呼ばれる時と同じような現象らしい。しかしデジタルワールドがある程度対象を絞って実行しているものと違い、完全な事故なのが面倒な所。

 

「お、終わりました?」

「みたいだな。ブイモン、ルナモンも居るか?」

「居るぜ」

「みんな居るよ」

 

一塊になってデジタルシフトを凌いだ俺たちは、周りを見渡しデジタルに侵食された街を見て絶句する。公園のブランコは一人でに動き出したかと思えばノイズと共に急停止を繰り返し、滑り台に至ってはノイズと一緒に消えたり現れたりを繰り返している。

 

さっきまで居なかった野良デジモン達が困惑した様子で街を彷徨って居るのを見ながら脇に抱えたサブレを地面に置こうとして、気づいた。ヤケにサブレがデカくて暑苦しい。

 

「は、八幡…………我に一体何が起きたのだ…………?」

「うおっ!?材木座!?何で!?」

 

サブレだと思って掴んでいたのは、材木座の極太の足だった。デジタルシフトの衝撃でサブレと材木座の座標が入れ替わってしまったのだろうか。

 

「あ、先輩、あれ!!」

「げっ!サブレ!!」

「逃げてるー!!」

 

おまけに一色が気づいて指差す先には、デジタルシフトに出くわして驚いたのかサブレが吠えながら走って行ってしまっていた。

 

「ま、不味いぞ八幡!!野生のデジモンに襲われたら…………」

「追いかけるぞ一色!!」

「ま、待ってぇ!?我を置いていかないでーっ!!」

「って掴むな材木座!!」

「はちまーーん!!」

 

事態を飲み込めていない材木座が不安の余り俺の足にしがみついて来てしまったせいでサブレが見えない所まで逃げてしまった。

 

「ああもう、材木座!説明してやるから離せ!!」

「せんぱい。この暑苦しい人知り合いですか?割と引くタイプの人種なんですけど…………」

「ってムオ!?は、八幡。こ、この女子は…………我、人見知りなの…………」

「あー!!鬱陶しい!!」

 

俺のこれまでの人生で今日この時ほど、葉山に来て欲しいと思った事は無い。アイツさえ居れば少なくとも一色、そしてついでに材木座を任せられる。雪ノ下だと材木座を受取拒否するだろうからな。

 

とりあえず二人を落ち着かせ、材木座にデジタルシフトの説明をする。材木座が落ち着いて来た事もあって大体の事は理解できたらしいが、やがて眼鏡を光らせて鼻息を荒くし始めた。

 

「ほほう…………つまりはこの異常事態の解決こそ!選ばれし子供である我らの出番という訳だな!!」

「ちげーよ。専門の大人のスタッフが対処するんだ。材木座。大体お前免許持ってんのか?」

「え?免許?いやぁ…………」

 

持ってないな、コイツ。一色も明らかに足手纏いを見る目で見ているし。

 

「前に受けたのだが、何某かの陰謀でだな」

「素直に試験に落ちたって言え」

「ぎゃふん」

「とりあえず俺たちはさっき逃げた犬を探してくるから、邪魔だけはするなよ」

 

一色とルナモンが既にアークを片手に歩き出しているのを追いかけていく。

 

「ま、待って!置いてかないで!!」

 

そんな俺たちを、材木座が泣きそうな顔で追いかけて来た。

 

「犬?プロットモンならさっき通り過ぎたぞ?」

「イヌってなんだ?美味いのか?」

「そっかぁ。ありがとね」

 

一色に追いつくと、ルナモンがガジモン二体に話を聞いている所だった。しかしガジモン達もそこまで興味の無さそうな態度を隠そうともしておらず、ルナモンが可愛らしく話しかけなければまともに会話も成立しなかっただろう事は明白だった。

 

「せんぱい、サブレの目撃情報は今の所ゼロです。人間はみんな建物の中に逃げ込んでるからデジモンに聞くしか無いんですけど…………」

「デジモン達はサブレの事をまともに認識すらしてないって事か」

「と言うかいろはが話しかけてもまともに会話にならないから、私が話しかけて回るしか無いんだよね。ブイモンも手伝ってよ」

「分かったよ。けど、手が足りねえよなぁ」

 

あちこちでデジモン達がそれぞれ好き勝手に動き回っている。見ればエレキモンやゴブリモンなどの成長期デジモンを纏めようと悪戦苦闘するレオモンが居たが、あれでは今話しかけられても迷惑だろう。

 

「俺と一色はあのレオモンの手伝いをして、その後にサブレについて聞くか。ブイモンとルナモンは手当たり次第聞いて回って来てくれ」

「分かった!」

「了解ー」

「ならば、我も手伝わせて貰おうか!!」

「あ?」

 

フンス、と一際デカい鼻息が聞こえて来て振り向くと、そこには材木座がディースキャナーを片手にポーズを決めていた。

 

「デジモン達に話を聞くのにデジモンの手が必要なら、我にもできる事はあると言うもの!行くぞ!スピリットエボリューション!!」

「うわっ」

「うげっ」

 

何の躊躇いも無くディースキャナでデジコードをスキャンする材木座。材木座の全身が光り輝くと、その見るには少々、と言うかだいぶ見るに耐えない贅肉だらけの身体が露わになった。とりあえず一色の目は俺の手で塞いでやろう。

 

「ブリッツモン!!」

 

伝説の十闘士のエンシェントビートモンの雷のスピリットを宿す、高圧電流を全身に流すカブトムシ型のハイブリッド体デジモンだ。

 

「ようし。聞き込み捜査だ!!我に任せよ!!あ、あのーすみませーん…………あ、ちょっと、行かないで下さーい…………あ、違うんです。脅かすつもりは無くて…………」

 

意気揚々とデジモン達に向かって行ったブリッツモンだったが、即座に低姿勢になった挙句デジモン達に威嚇されて引き下がって行った。マジで使えねえなアイツ。

 

「せんぱい。早くこっち手伝って下さいよ」

 

一色がもはや存在を認識しているのかどうかも怪しいくらいブリッツモンに触れる事なく俺を呼んできた。ま、気持ちは分かるぞ。

 

やがて混乱している幼年期から成長期のデジモン達を落ち着かせ、レオモンが俺たちに頭を下げた。

 

「助かったぞ。ありがとう人間」

「お礼は大丈夫です。それより、ちっちゃいワンちゃん見ませんでした?」

「ワンちゃん?ああ、あのプロットモンに似た生き物か?ここから北の方角の、森があった辺りでマーキングをしていたぞ」

「北の方角か、助かった」

「礼には及ばない。もう間も無く二度目のデジタルシフトで我々は元の場所に戻るが、万が一がある。急いだ方がいい」

 

レオモンの言う通り、デジタルシフトは本来なら現実の世界にあった物は現実に、デジタルワールドの物はデジタルワールドに戻る。だがデジタルシフト中にデジタルワールドに近づき過ぎると、そのままデジタルワールドに転移してしまう事があるのだ。

 

「おい、行くぞ材木座」

「…………グスン」

「泣くなよ…………」

 

ブリッツモンのまま膝を抱えて泣いていた材木座の肩を叩き、とりあえずレオモンの言う通り北に向かう。

 

「にしてもせんぱい。デジモン相手なら普通に会話とか成立するじゃないですか。なのに何で人間相手だといつもあんな気持ち悪い感じなんですか?」

「気持ち悪い言うなよ。傷つくぞ。まぁデジモンは普通のデジモンか悪いデジモンかしか居ないからな。シンプルだ」

 

別にデジモンの全てが良いやつとは限らない事は知っている。昔の冒険の時も何体か暗黒のデジモン達と戦った事があるしな。ただ悪いデジモンは悪いデジモンとハッキリしていて、人間は悪い奴ほど良いやつみたいな顔して近づいてくる。まぁ一色みたいに腹黒さを可愛らしさで誤魔化している奴も居るが。

 

そんな中で現実の光景である住宅地が唐突に消えて、デジタルワールドで見たことのある植物や木が現れ始める。そしてレオモンが言っていた通り森の入り口が見えると、そこには大きな切り株があった。サブレはその切り株の上でスヤスヤとリラックスした様子で眠っていた。

 

「…………俺たちの苦労も知らねえでまぁ」

「イヌにそんなこと言っても仕方ないだろ?」

 

ブイモンが切り株の上に乗ってサブレを揺するが、サブレは気持ちよさそうに欠伸をしてそのまま眠り続けていた。

 

「こんなにも気持ち良さそうならこのままここで寝かせてあげても良いですけどね」

「でもそんなことしたらこの子デジタルワールドに転移しちゃうね」

「ま、走り回って疲れたんだろ。家に連れて帰って休ませるか…………ん?」

 

その時サブレが何かを抱えている事に気づいてサブレを持ち上げると、なんだか見覚えのあるモノが見えた。

 

「あ!せんぱい、これってスピリットじゃないですか?」

「ああ。昔雪ノ下が回収した奴と同じデータだな。しかも、雷のビーストスピリットだぞ材木座」

「え?何それ知らない」

「お前のブリッツモンの新しい進化に必要なデータだぞ。良かったな」

「え?」

 

材木座はその存在そのものを知らなかった様だが、ハイブリッド体の進化に必要なのはテイマーとデジモンでは無く各種のスピリットだ。雪ノ下は昔の冒険の時に全種類のヒューマンとビーストのスピリットを集めた事でダブル、ハイパー、そしてエンシェントスピリットエボリューションへの進化が可能になった。材木座も進化して活躍したければ、それこそデジタルワールドを冒険してスピリットを集めるべきだったのだ。まぁ、その知識があってもなんやかんや言って冒険する気はなさそうだが。

 

「じゃ、じゃあ、これさえあれば我も進化出来るのか…………?八幡のブイモンみたいに?」

「それはお前次第だけどな。ビーストスピリットは制御難しいらしいし」

「あー。そう言えば昔雪ノ下先輩、ビーストスピリットで初めて進化した時に暴走してましたもんね」

「あの時は大変だったねー。ブイモンと八幡が何故か集中攻撃されてたし」

「うっ…………思い出すだけで全身に痛みが…………」

 

ルナモンの言葉で、その昔雪ノ下が進化したガルムモンに地の果てまで追いかけ回された記憶が俺とブイモンの脳裏に蘇る。ガルムモンは本人が悪と認識した存在が消え去るまで永遠に追いかけて殲滅せずにはいられない、と言う厄介な性質を持っていた。

 

「八幡が雪乃と喧嘩してたからだぞ!」

「しゃーねーだろ。あの頃俺と喧嘩してなかったら一色がノイローゼになってたぞ」

「あっ…………そう言えば…………」

 

簡単に言えば、小学生の頃の一色の甘ったれた態度に雪ノ下がキレたのがまず発端だった。下手に庇うと雪ノ下火山が一色相手に大噴火する可能性が高かったので、俺がわざと全員の前で一色の態度を全肯定して雪ノ下の怒りの矛先を俺に向けさせて雪ノ下対一色の構図を壊したのだ。

 

「いや、あの頃はほんとごめんなさいです…………」

「いろは、あの頃毎日泣いてたもんね」

 

ルナモンも一色も流石に申し訳なさそうな顔で謝るが、まぁ結局雪ノ下怒りのビーストスピリット事件は雪ノ下対一色の喧嘩は円満解決のキッカケになったので良しとしよう。

 

「ふむ、なるほど。つまりはこうすれば良いのだな!スライドエボリューション!!」

「え?あ、馬鹿!!話聞いておけよ!!」

「ぬおおおおおおおおおおお!!!!」

 

昔の話をしている間にビーストスピリットをスキャンしたブリッツモンがデジコードをもう一度スキャンしてしまった。

 

巨大な戦車の様なイメージがブリッツモンの背後に浮かび上がり、雷と共に新たな装甲が全身に取り付く。そして足も巨大なキャタピラに変わり、頭のツノが砲口になった。最後に両手もバズーカに変わり、高らかにボルグモンと名乗る筈だった。が、ボルグモンは目を光らせると、理性を感じさせない雄叫びを上げた。

 

「ウガァァァァァァァッッ!!」

「案の定かよぉ!?」

「もー!!何しに来たんですかこの人!!」

 

俺がD-3を、一色がアークを構える。しかしボルグモンは即座にツノの砲口を此方に向けて来た。不味い、と感じたその瞬間、俺たちの脇をすり抜けて飛び込んで来た人影が。川崎だ。デジソウルを拳に宿した川崎のパンチがボルグモンをよろめかせ、少し遅れてアグモンが息を切らせながら追いついて来た。

 

「あ、あれ?沙希、八幡を粛清に行くって言ってなかった?これどう言う状況?」

「とりあえず暴走してるっぽいデジモンが居ればそっち優先でしょ」

「おい、真顔で何言ってんだお前ら」

「せんぱい、川崎先輩に何やったんですか…………?」

「京華に手を出そうとした…………!!」

「え?」

「んな訳あるか!!とりあえず、あの材木座を大人しくさせるぞ!!」

 

川崎のシスコンがどんどん話の通じないレベルにまでなっていく。一色も川崎の言う事なら信じてしまうからマジで頭が痛くなるが、まずは目の前の暴走した材木座だ。

 

「デジメンタル、アップ!」

「ブイモン、アーマー進化!燃え上がる勇気、フレイドラモン!!」

「カードスラッシュ!」

「ルナモン進化!レキスモン!!」

「デジソウル、チャージ!!」

「アグモン進化!グレイモン!!」

 

フレイドラモン、レキスモン、グレイモンviが揃う。まずパワーファイターのグレイモンviがボルグモンを真正面からぶつかって行くと、ボルグモンはそれを苦もなく押し返してしまう。だが、その間に横から回り込んだフレイドラモンが炎を放った。

 

「ナックルファイア!」

 

真横から放たれた炎を浴びたボルグモンが微かによろめき、その隙にグレイモンviが力任せに地面に叩きのめす。そこへレキスモンが飛び込んでいき、至近距離で両手のグローブから水の泡を放つ。

 

「ムーンナイトボム!」

 

催眠効果のある水の泡がボルグモンの顔面に直撃して微かに目を瞬くが、首を振って耐え抜くと両腕のバズーカを発射してグレイモンviを吹き飛ばしてしまった。

 

「流石にハイブリッド体か…………なら、デジソウルチャージ!フルバースト!!」

「グレイモン進化、メタルグレイモン!!」

 

更に川崎が注ぎ込んだデジソウルを浴びたグレイモンviが完全体のメタルグレイモンviに進化したと同時に機械の腕でボルグモンを殴りつける。完全体のパンチは流石に効いたのか、ボルグモンが大きくよろめいた。

 

「よーし!俺も大技行くぞ!ファイヤロケット!!」

 

フレイドラモンもボルグモン目掛けて炎を纏って飛び掛かり、よろめいたボルグモンを追撃の爆発が襲った。

 

「お、オオ…………」

「後もう一押しだ!一色、頼めるか!」

「任せてください!!レキスモン、行くよ!」

『Matrix evolution』

 

一色のアークにマトリックスエボリューションの文字が表示され、レキスモンに新しいデータがダウンロードされていく。

 

「レキスモン進化!」

 

レキスモンが更に大きく強靭になり、そして顔から胴体にかけてまるで騎士の様な鎧が装着される。月の形を模した盾と斧が手元に現れ、まるで月夜にダンスをしているかの様な優雅さを感じるステップを踏みながら地面に着地した。

 

「クレシェモン!!」

 

完全体のクレシェモンはふらつくボルグモンを睨み据えると、再び踊る様なステップを踏みながら接近し一気にボルグモンを切り裂いた。

 

「ルナティックダンス!!」

「うぎゃあああっ!!」

 

実に小物っぽい叫び声を上げながら吹き飛んだボルグモンが地面に倒れ伏すと、その姿は元の材木座に戻ってしまった。

 

「きゅう…………」

「全く、手間取らせやがって…………」

 

気絶した材木座を前に思わず呟くと、少し離れてこの光景を見ていたサブレが同意する様に吠えるのだった。

 

 

「へえ、お兄ちゃんにそんな友達居たんだ」

「小町ちゃん?材木座はただの顔見知りってだけだぞ。俺の名誉に関わる事実だから気をつける様に」

「八幡に名誉なんてものがあったのか?」

「おいこらシャウトモン、その肉食うぞ」

「醜い争いだなぁ…………」

「ホントだね」

「まぁ確かにクラスのみんなに知り合いって事を隠したいタイプの人ではありましたけどねー」

 

その夜、一色とルナモンも混ざった夕食の時間。今日の散歩の一部始終を小町に聞かせると、帰って来たのは実に不愉快な勘違いだった。

 

「でも、とりあえずはその材木座って先輩の暴走は役所には黙っておくんでしょ?」

「アイツも流石に懲りただろうしな。そもそも基本的には平和なこのご時世に、必要以上に進化させる理由が無いんだし」

「最近じゃ、公園にも進化禁止の立て看板置いてありますしね」

 

一色の言う通り、テレビのニュースでやっていた話だが最近の公園でデジモンを進化させていると、公園を利用している年寄りやらが恐怖を感じるとかなんとか言って役所にクレームを付けたらしい。そのせいで暴走デジモンが現れたとかで自衛などの正当な理由無しに公の場で進化させると最悪警察沙汰になってしまう。まぁ、確かに成熟期以上のデジモンが街に普通に居ると考えると結構怖いのは分かるけどな。

 

「でも俺たちは結構窮屈だぞ。シャウトモンはいいかも知れないけど」

「俺だってたまにはデジクロスして大暴れしてーよ!けど、そんな相手居ないしなー」

「小町はまだ免許取れる年じゃないしね」

 

ブイモン達もそれなりには窮屈には感じているのだろうが、その辺は現実の世界で生きていくには仕方ない事だ。それに、デジタルワールドに行けば好きなだけ暴れられるから良いだろう。

 

「偶には、デジタルワールドに行って大会にでも出るか?」

「それも悪くないけど、小町は今年受験生だからなー」

「自覚があったのか…………」

「お兄ちゃん!それどう言う意味!!」

 

思わず呟くと、小町が若干自覚していたのか顔を思いっきり顰めるのだった。そんな小町を見て俺も一色も、ブイモン達も大声で笑っていた。

 

そして夕食を終えて小町が皿を洗う中、俺とブイモンは一色とルナモンを駅まで送る事になってしまった。小町に行かなきゃダメ、と散々から怒られて渋々だったが、一色はそれなりに楽しそうだった。

 

「なんかこの間のケルビモンの時もでしたけど、やっぱりせんぱいってデジモン関連のトラブルを解決して回ってる姿が良く似合ってますよ」

「は?俺が?そんな、嫌だ…………俺は社畜になんてなりたくないんだ…………」

「そんな事言う癖に、せんぱいってトラブルを前に逃げたりしませんよね。昔から」

 

そう言って少し前を歩いていた一色が振り向いて、かすかに緊張している様子で深呼吸する。ルナモンとブイモンがまた距離を取る中、一色は胸に手を置いてニコリと笑った。

 

「ずっと、言いたかった事があるんです。聞いてくれますか?」

「…………内容による」

「それじゃ言います。本当に、ありがとうございました。デジタルワールドを冒険してた頃、何度も助けてもらって」

 

一色は今まで見たこともないくらい眩しく、自然な笑顔で笑っていた。いつものあざとい外面の仮面を投げ捨て、昔から良く知る後輩の心からの笑顔だ。

 

「雪ノ下先輩とのトラブルだけじゃなくて、川崎先輩に素直になれなかった時もだし…………トノサマゲコモンと結婚させられそうになった時とか、色々ありましたね」

「最後の奴は、助けに行くって言い張ったのは葉山だぞ」

「知ってます。だから葉山先輩にはもうお礼は言い終えてます」

「そうか。なら、これで俺達の腐れ縁は終わりか?」

 

だってそうだろう。一応可愛い系で売ってる一色が、一年年上のクラスカースト最下位の俺を相手にわざわざ絡んでくる理由なんて、過去の借りを返したいから以外に思いつかない。むしろ、そうであってくれなければ困る。

 

ブイモンが思いっきり視線の隅っこで肩を落とし、ルナモンがそんなブイモンを責める様に蹴りを入れる。一色も微かに唇を震わせるが、やがてニッといつものあざとい笑顔に戻った。

 

「はい。だから、これからはただの先輩後輩として宜しくお願いしますね」

「え?」

「もう私は選ばれし子供達ちば組の元メンバーじゃ無くて、せんぱいの事を個人的に慕う可愛い後輩ですから。と、言うわけでせんぱい。そろそろ暑いんでアイスの一つでも買ってくれたらとっても嬉しいです!」

 

そう言って俺の手を掴む一色。その手は汗で濡れていて、そう言うのを隠したがる筈の一色の手じゃないみたいだった。だけど、この手は紛れも無く一色の手だ。俺相手には汗をかいていることを隠さず、自分の欲求に素直に従う厚かましさ。これこそが一色だと思い、ため息が出た。

 

「…………甘えるな。俺は俺の分とブイモンの分と、ついでに小町とシャウトモンの分を買うので精一杯なんだよ」

「えー!酷いですせんぱい!!」

 

本当に、可愛くない後輩だ。




次回は夏祭りデート編です。
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