やはり俺とブイモンの青春ラブコメは間違っている。   作:アルファ麻呂

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先週の私 ようやくコロナワクチン摂取できたぞ!1回目だし、副反応も少ないだろうから来週はワクチン摂取を理由に時間作れるぞ!!

今週の私 アレ…………めっちゃ痛いんですけど…………おまけに何かしんどい…………全然執筆進まない…………これ次の2回目大丈夫なの?


第十三話

「ほーらサブレ。餌だぞ」

 

買ってきたドッグフードを皿に乗せて差し出すと、サブレがワンワン、と嬉しそうに鳴きながら駆け寄ってきた。ここで本来の飼い主なら待て、とかお手、とか芸を仕込んでコミュニケーションを取るのだろう。だが、あくまでこのサブレは由比ヶ浜から預かっているだけ。素直に渡すとサブレは尻尾を千切れるくらいの勢いで振りながらドッグフードに齧り付いた。

 

「八幡、俺に飯食わすときはやけに渋る癖に…………」

「お前は犬じゃ無いからな」

「だったら次に渋ったら噛み付いてやるからな!!」

「やってみろ。まぁ、最終的にはどっちが先に小町に泣きつくかな…………」

 

比企谷家の台所事情を全て握っている小町には勝てないことは俺もブイモンもよく知っている。ついさっきまで一緒に小町が作ってくれた昼飯を食べていたのだし。

 

やがてドッグフードを食べ終えたサブレが寂しそうな顔で空になった皿を鼻先で突くと、俺を見てワンワン、とまた吠え始めた。

 

「何言ってんだコイツ?」

「こう言う時デジモンだと何して欲しいって口にするから助かるよな」

「だから、俺の要求を碌に聞こうとしない八幡が言うなよ!」

「何の話?」

 

昼寝しているシャウトモンをリビングから自分の部屋に運んで戻ってきた小町が降りて来て首を傾げた。俺とブイモンが無言で吠えるサブレを指差すと、小町がスマホを取り出した。

 

「あー。デジモンとは違うもんねー。そんな時には、こんなアプリ!じじゃーん!バウリンガルー!!」

 

頭の悪そうな青狸のモノマネをする小町。しかも今更ポチポチとアプリをダウンロードしているし。

 

「これを使うと、飼ってるペットの言ってる事が分かるようになるんだー」

「すごーい!じゃ、早速聞いてみようぜ!」

 

小町がスマホをサブレの前に突きつけると、サブレも理解しているのかより一層ワンワンと鳴き始めた。暫く待っていると、ぴろりん、と翻訳が終わって文章が現れた。

 

『お腹すいた!』

「オイ、ついさっき残りのドッグフード全部食わせた後だぞ」

「食い意地張ってんなぁ」

「ブイモンに言われちゃお終いだよー」

 

小町の言う通り、いつも暇さえあればシャウトモンとスナック菓子やカップ麺を食べてばっかりのブイモンに言われてはサブレも可哀想だ。ただ三日間預かって、ちょっと多めのドッグフードを食べさせたばかりでまだ腹が減ってると言われても困る。

 

「まぁ意訳じゃない?多分気持ちとしてはもうちょっと欲しいとかじゃないかな?」

『お腹空いた!早く食べさせて!!』

「オイ壊れてるぞこのアプリ」

「無料のアプリだからなぁ。八幡、代わりに吠えてみろよ」

「え?あー、ワンワン」

 

ブイモンに言われて試しに吠えてみると、ぴろりん、とまた翻訳が終わった音が聞こえて来た。

 

『働きたくないでござる!!』

「ほら壊れてる」

「…………そうだね。壊れてるのはお兄ちゃんの方だね」

「あーもうホント陽乃のパートナーになろうかなぁ…………」

 

小町とブイモンが心底冷え切った目つきで俺を見下して来た。全くもって失礼な。

 

その時玄関のチャイムが鳴ってインターホンのカメラを見ると、由比ヶ浜がヒヤリモンを胸に抱いて家の前で待っていた。

 

「ごめんねヒッキー!サブレ預かって貰っちゃって…………」

「これくらいは大丈夫だ。コイツがトラブルを起こすことはなかったしな」

「ホント?ありがとうヒッキー。じゃ、サブレ。おいで。お姉ちゃんだよー?」

 

由比ヶ浜がサブレを抱き締めようと手を広げるのを見たサブレがワンワン、と鳴く。ぴろりん、とまたバウリンガルが反応した。

 

『誰?』

「サブレぇ!?」

 

たった三日間で飼い主の顔を忘れるサブレ。由比ヶ浜が愕然とするが、サブレは首を傾げるばかりだった。由比ヶ浜がショックの余りわーん、と泣きながらサブレを抱きしめるが、結局サブレは由比ヶ浜の事を思い出す事は無かった。もしかして、飼い主の頭の悪さが似てしまったのだろうか。

 

「うう…………家に帰ったらもう一回仲良くならないと…………とにかく、ありがとうね、ヒッキー。それに小町ちゃんも」

 

リビングの端でヒヤリモンを頭に乗せて涼しそうにするブイモンを他所に、旅行先のお土産を片手にリビングに上がって来た由比ヶ浜が両手を合わせて謝って来た。因みにサブレはまだ俺の膝の上に頭を乗せてリラックスしている。

 

「まぁ仕方ないだろ。俺らも昔カマクラを雪ノ下の家に預けたしな」

「…………一日で円形脱毛症になるくらい構われてたけどね」

 

雪ノ下の名前を出すと、クーラーの風を浴びていたカマクラが怯えた様子でこちらを見て来た。俺が小学校の修学旅行に行って、小町も友達の家に泊まりに行く事が決まった時、雪ノ下が猫が好きと言う話を知っていた俺達は一日だけカマクラを預ける事にした。が、余りに構われすぎて相当なストレスだったらしく、カマクラは背中の辺りに円形脱毛症の症状が出てしまっていた。今でもカマクラは雪ノ下の名前や顔写真を見ると怯える程だ。

 

「あはは。ゆきのんってば…………ホント、私も一緒にデジタルワールドを冒険してたらなぁ…………」

「大丈夫ですよ結衣さん!このゴミいちゃんはそのちば組を解散してますし」

「別にちば組解散は俺がゴミいちゃんかどうかには関係無いだろ。大体解散してなかったら今もほぼ毎日葉山がこの家にやって来るんだぞ?いいのか?」

「あ、あぁー…………」

「隼人君小町ちゃんにまでめちゃくちゃ嫌われてる!?でもあんな感じだったら仕方ないか…………」

 

ついに由比ヶ浜にまで引かれ始めた葉山。哀れ、とは言わんぞ。自業自得だ。

 

やがてコーヒーを片手に旅行先の思い出話に花が咲く由比ヶ浜と小町。俺としては部屋に戻っても良いとは思うのだが、立ち上がろうとするたびに小町が足を踏んでくる。おまけに由比ヶ浜のお土産の菓子に手を伸ばそうとするとペシっと叩いて来るし。

 

「はーいブイモン、ちゃんとシャウトモンと分けて食べてね」

「お、ラッキー!!頂いていくぜ!!」

 

小町がブイモンにお土産を渡してしまうと、ブイモンが箱ごと持って2階に上がって行ってしまった。小町が何故そこまでして俺に由比ヶ浜のお土産に手を出させないのか分かりかねていると、小町はニヤリと笑って俺の膝の上に顔を置いたサブレの頭を撫でた。

 

「あ、そうだ結衣さん。実は昨日お兄ちゃん、サブレがデジタルシフトに巻き込まれた事件を解決してるんですよ」

「で、でじたるしふと?」

「由比ヶ浜。ひらがなじゃなくてカタカナで読むんだぞ」

「分かってるし!!って、めちゃくちゃ危ない事件に巻き込まれてるじゃん!!そっかぁ…………だから私の事忘れてこんなにもヒッキーに懐いてるんだぁ…………」

「それは多分関係無いと思うがな…………」

 

サブレはデジタルシフト時間の時はほとんどスヤスヤ寝てただけだしな。そもそも家に預かりに来た時からやけに俺に懐いてたし。

 

「と言う訳で…………ゴニョゴニョ」

「え?ふぇっ!?」

「小町も最近の受験勉強でこのゴミいちゃんの世話に疲れ始めてましてね」

「おーい、小町?黙って聞いてるけど流石に怒るよ?」

 

小町に耳打ちされた由比ヶ浜が顔を真っ赤にして慌てふためく。一体何を言われたのか分かりかねていると、膝の上に戻って来たヒヤリモンを撫でながら由比ヶ浜がふーっと深呼吸した。小町がちょっと電話してくるーとわざとらしく立ち上がってリビングを出ると、由比ヶ浜が意を決したのか口を開いた。

 

「あ、あのねヒッキー!今日の夜なんだけど…………」

 

 

「まさか真夏の夜に家を追い出されるとは…………」

「まさか俺のパートナーが夏祭りデートに誘われるとは…………」

「ブイモン。なんか変な勘違いしてるぞ」

「あーはいはい。わかってるわかってるわかってる」

 

由比ヶ浜にサブレのお世話のお礼がしたいから今やってる夏祭りで一緒に遊ばないか、と誘われてしまった。俺としては断ろうと思ったのだが、飛んできた小町に今夜は由比ヶ浜を満足させないと家に入れないと宣言されてしまった。おまけに勝手に戻ればシャウトモンに夜中中耳元で歌うと言われれば逆らえない。

 

待ち合わせの時計の前でブイモンと一緒にアイスを食べていると、普通に待ち合わせていた男女のカップルが腕を組みながら歩いていくのが見える。ぶっちゃけ完全に場違いだ。

 

「そんな服着てりゃーな」

「馬鹿言え一張羅だぞ」

 

俺の考えを呼んだブイモンの冷たいツッコミ。俺が持っている全部の服の中で一番良い服を小町に選んでもらったのだが、思い返せば小町もなんか物凄い微妙な顔をしていた。

 

「ご、ごめんヒッキー!遅くなっちゃった!!」

「あつーい…………」

 

その時、聞き覚えのある声が聞こえて来た。振り向けばヒヤリモンを抱えて、着慣れていない浴衣を着た由比ヶ浜がこっちに向かって走って来ていた。その姿を見た途端に思わず心臓がドキリと震えるのを感じた。由比ヶ浜の姿は周囲の男は愚か女達すらも思わず振り向く程に可愛らしく似合っていた。

 

「お、おい八幡?」

「んあ?」

「声上ずってるぞ…………」

 

ブイモンが小馬鹿にした様な感じで笑うが、こんな由比ヶ浜を見せられては仕方ないだろう。どう考えてもぼっちの俺が一生に一度あるかないかの役得と思ってしまえば、声も上ずるし目も泳ぐ。

 

「え、えへへ。着付けに時間掛かっちゃった。どう?似合うかな?」

「ああ。まぁ、似合ってる、と、思う…………」

「ひでー褒め方…………」

「ダメな男?」

 

ブイモンはおろかヒヤリモンまでもが冷たい目で俺を見てくるが、由比ヶ浜はそれなりに嬉しそうに髪の毛を弄っていた。

 

「ほ、ホント?ありがと、ヒッキー」

「ええー。今ので?」

「コレが…………チョロい?」

 

産まれてまだ一ヶ月も経ってないヒヤリモンにどんな言葉を教えているんだ由比ヶ浜家。まぁそれはともかく。

 

「じゃあ、行くか?」

「うん!」

 

ブイモンが俺の頭の上に乗り、ヒヤリモンを肩に乗せた由比ヶ浜が俺の手を握って来た。思わずブイモンが落ちそうになるくらいビックリしてしまうが、人混みではぐれてはいけないしな。

 

「ねえヒッキー!あっちで射的やってるよ!」

「あ、見て見て!ロイヤルナイツのお面!マグナモンも居る!」

「一緒にリンゴ飴食べよー!」

 

気がつくと、俺とブイモンは由比ヶ浜のペースに呑まれてどんどん引っ張られていっていた。由比ヶ浜は事前に廻るルートを決めていたかのように次々に新しい屋台に俺の手を引いていく。しかしその一方でヒヤリモンが居る事もあってか、無理やり引き摺り回されていく様な感覚も無い。心地よい疲労感を覚えながら休憩所のベンチに腰を下ろす頃には、もう間も無く花火の時間が近づいて来ていた。

 

「ふーっ。疲れてきたね、ヒッキー」

「まぁ、それなりにはな。けど何か意外だな。なんと言うか…………ここまで由比ヶ浜がテキパキと動くとは」

「…………八幡」

「あ、あはは。まぁそこまで私は頭良く無いのは流石に自覚してるよ。でも、今日は頑張りたかったんだ」

 

膝の上のヒヤリモンに冷たいかき氷を食べさせながら小さく笑う由比ヶ浜。その横顔が余りにも綺麗で、思わず言葉を失った。こんなにも綺麗な景色を、俺はこれまでの人生で数える程しか見てこれなかった。デジタルワールドを冒険していたあの頃、何度か感じたあの美しさ。あの冒険を終えて二度と出会えないと思っていた輝きが、今俺の目の前にあった。

 

「ヒッキー…………?」

「あ、ああ。ちょっと昔を思い出してた」

「昔?それって、デジタルワールドを冒険してた頃?」

「何でだろうな。今の由比ヶ浜を見てたら、あの頃のアイツらを思い出した。ホント、良い奴らだったんだけどなぁ…………」

 

口には出さんが特に葉山。

 

「ふーん。やっぱりヒッキーにとっても特別なんだね。ちば組の思い出は」

「そりゃあそうだろ。今やどいつもコイツも暗黒進化しやがって…………」

「多分雪乃達は八幡の事をそう思ってると思うぞ」

「五月蝿いぞブイモン」

 

ブイモンの分のたこ焼きをぶんどって睨みつけるが、ブイモンは素知らぬ顔で腕を組む。

 

「ねぇ、もしも私がヒヤリモンともっと早く出逢えていたら…………」

 

そう言ってヒヤリモンを抱く手に微かな力が入る由比ヶ浜。ヒヤリモンが首を傾げるが、ヒヤリモンが悪いわけでは無い事は分かっているのだろう。

 

「…………俺がちば組の解散を言い出したのは色々と理由がある。説明するのは難しいけど、あの頃の俺達の関係性は…………本物じゃなかった。小学生から中学生に進学して、デジモンが世間に認知されて。色々と変わっていく中で、デジタルワールドを冒険していた頃の関係性を維持したってなぁ」

「もしかして、好きな人が出来たとか?」

「俺はそんなんじゃ無かったけど…………そうだな、ちば組の中でもそう言う話が無かった訳じゃない。でも小学生同士の恋愛ごっこの延長戦を中学生がやってたら、それは気持ち悪いだろ?」

「…………そうかも」

「俺が言う資格が無いかもしれんが、俺たちは多分関係性のアップデートに失敗してたんだろうな。葉山見れば分かるだろ?あそこまで酷くは無いけど、あの頃は雪ノ下も川崎も一色もな」

 

人間関係なんてものは所詮はそんなものかもしれない。例えどれだけ完璧で本物の関係だったとしても、どう頑張っても時間経過と共に変化していく。そしてその変化が望むものとは限らない。俺はこれから先の人生であの頃のちば組の関係以上の関係を作れない事はもう分かりきっている。なら、わざわざ作ろうとする方が間違いだ。

 

「…………その話をしてくれたのは何で?」

「何でだろうな。何となく、としか言えん」

「それは比企谷君がその子をちば組のみんなと同じくらい気に入ってるからじゃないかな?」

「うぉっ!?」

「ひゃあっ!?」

「いやぁー。比企谷君の珍しい姿見ちゃったよ。お姉さん感激!」

 

真後ろから聞こえて来た声に振り向くと、そこにはニンマリと笑う陽乃さんが立っていた。

 

「え、ええ?ヒッキー、この人、誰!?誰なの!?」

「あー…………雪ノ下の姉ちゃんの陽乃さん」

「デート中邪魔してごめんねー。お、このヒヤリモンは君のパートナー?」

 

そう言えばこの二人面識が無かったな、と何となく考えていると、陽乃さんは自然な流れでヒヤリモンを胸に抱いた。悪意は無いのでヒヤリモンは抵抗しなかったが、この場に雪ノ下が居れば間違いなく陽乃さんに嫌味の連発だった事だろう。

 

「私、ヒッキーやゆきのんと一緒に奉仕部やってる由比ヶ浜結衣です!」

「由比ヶ浜ちゃん、ね?ふーん。なるほど?比企谷君、うちの雪乃ちゃんよりこのガハマちゃんを取るのかな?」

「ふえっ!?」

「いや何でそう相変わらず話が飛ぶんですか」

 

ニヤニヤ笑いながら胸にヒヤリモンを抱えたままブイモンに手を伸ばす陽乃さん。ホント節操の無い人だなと思って白い目で見ていると、陽乃さんは小さくウィンクして来た。べ、別にそんな仕草されたって色っぽいとか思ったりしないぞ。

 

「ま、知り合いに声掛けに来ただけだったけど、デートの邪魔しちゃったみたいだしね。お詫びに良いとこ連れて行ってあげるよ」

 

陽乃さんに連れられて辿り着いたのは、何と花火見学の関係者席だった。

 

「え?大丈夫なんですか!?」

「大丈夫大丈夫。この夏祭りの主催側に雪ノ下家も居てね。お母さんもお父さんも忙しいから私が代わりに来てるのよ」

「あ、相変わらず凄い家っすね…………」

「じゃあゆきのんも?」

「雪乃ちゃんは家とは半分絶縁状態だからねー。滅多な事でも無い限りは来ないよ」

「え?それも大丈夫なんですか!?」

「大丈夫だから学校に来れてるんだろ。そろそろ始まるか」

 

その時、遠くから風を切る音が聞こえて来た。空を見上げると一筋の光が重力に逆らって打ち上がり、そしてバーンと大きな音を立てて巨大な花火が空一面に広がった。

 

「おおーっ!!」

「すごーい!!」

「うんうん。デジモン達は素直で宜しい」

 

俺と由比ヶ浜の膝の上ではしゃぐブイモンとヒヤリモンを見て頬を緩ませる陽乃さん。しかしその緩ませ具合も俺たちに見られていることを意識しているのが分かってしまう。

 

「凄いねヒッキー!めっちゃ良い席じゃん!!」

「そうでしょそうでしょ?どう?感想言ってみせてよ比企谷君?」

「陽乃さんに貸し押し付けられてる感じさえ無ければ完璧なんすけどね」

「あはは。別にそんな事しないよー。でも…………」

 

陽乃さんはブイモンとヒヤリモンの頭をちょっとだけ撫でると、俺と由比ヶ浜を見て微笑んだ。

 

「これからも雪乃ちゃんと仲良くしてあげて欲しいな。比企谷君は知ってるけど、雪乃ちゃんは今も結構実家と揉めてて大変だから」

「ゆきのん、わたしにはそんな事一言も…………」

「アイツは自分の弱みを見せるの嫌がるからな」

「そうそう。だからね、君達には無理やりにでもついて行ってあげて欲しいの。あの子は結構寂しがり屋だから」

 

本心なのか、それともからかっているのか。どちらにせよ雪ノ下陽乃は親しげなちょっと大人のお姉さんの仮面を外す事なく俺達を見つめていた。

 

 

「楽しかったね、ヒッキー。ヒヤリモンはどうだった?」

「楽しかったよ。ユイ。でも眠いや」

「あ、ごめん。じゃあ抱っこしててあげるから寝てて良いよ」

「ありがとー」

 

夏祭りの帰り道。ヒヤリモンを優しく抱く由比ヶ浜と一緒に歩きながら、歩くのがめんどいと言って俺の頭の上から離れようとしないブイモンに少しイラッとくる。産まれたばかりで正真正銘の幼年期のヒヤリモンとは違うだろうが。

 

「まぁ、由比ヶ浜が楽しめたんなら良いんじゃないか?俺も小町に家を追い出されずに済むしな」

「言っておくけどな。俺は小町に頼まれて八幡の失言は全部記録してるぞ。家追い出されるかどうかはこれからだからな」

「お前、まさかベッド占領する為に有る事無い事小町に告げ口する気か!?」

「有る事の方が多いって言ってんだよ!!先に戻って報告してやるぜ!!」

 

ブイモンがそう言い残して俺の頭の上から飛び降りて走り去って行ってしまった。あの野郎、と二、三歩追いかけようとして、俺の手を由比ヶ浜が掴んだ。

 

「ねぇ、ヒッキー…………」

「由比ヶ浜?」

「変わらない関係は無いって言ってたよね。それって、今の奉仕部も?」

 

由比ヶ浜は少し不安さを隠しきれない声だった。一体何をそこまで怯えているのかは俺には分からないが、俺の手を握る由比ヶ浜の手は汗で濡れていた。

 

「そりゃそうだろ。部活だしな」

「卒業とか?」

「ああ。当たり前の事だろ」

「そっか…………そうだよね」

「由比ヶ浜?」

 

そう言って名残惜しそうな顔をして手を離す由比ヶ浜。しかしすぐにまた笑顔になると、何かを決心する様に深呼吸した。

 

「実を言うとずっと、私もちば組の一員だったらって思ってたんだ。私もヒッキーやゆきのんと一緒にデジタルワールドを冒険していたらって…………でも、そんなのヒッキーには関係無いんだよね」

「ああ。多分お前がちば組の一員だったとしても、きっと俺たちの関係はどっかで無理が出て…………解散は変わらなかったと思う」

「だからね。私はもうみんなに憧れるのは辞める。時間や環境に邪魔されないホントの関係って言うのがどんな関係なのか、私は見つけたいんだ」

「由比ヶ浜…………」

「ヒッキー。私を変えてくれて、ありがとう」

 

ずっとクラスカーストの頂点グループの中に居続けて来た由比ヶ浜。勿論それは悪い事なんかじゃ無い。俺には関係のない世界で生きているだけの話だし、その為に由比ヶ浜や葉山達が続けている努力が俺には必要ないと言うだけの話だった。

 

勿論、その中でも本物の関係を作る事は可能だと思う。きっと由比ヶ浜ならあの葉山軍団を変えられると思いたい。だけど俺はそんな風に笑う由比ヶ浜が本気で羨ましくて、眩しかった。

 

そしてようやく、俺はさっき由比ヶ浜に感じた美しさの正体に気づいた。その昔デジタルワールドで初めて雪ノ下を見た時と同じだ。俺はその美しさに、心の底から尊敬していたんだ。

 

「凄いな、由比ヶ浜」

 

それは心からの言葉だった。由比ヶ浜もそれが分かってか微笑んだ。

 

「だからねヒッキー…………」

 

由比ヶ浜の続きの言葉を、俺は聞きたい様な聞きたくない様な気持ちだった。

 

フラッシュバックするちば組解散宣言の時の記憶。あの頃の俺は解散を宣言する側だったのに、今の俺はあの頃の雪ノ下や葉山の様な気持ちが気がした。

 

由比ヶ浜はもう、俺たちの奉仕を必要としていない。それならもう由比ヶ浜が俺と一緒に居る理由なんて無い。それはきっと、仕方のない事なんだ。

 

「これからは待ってないで、こっちから行くからね」

「え?」

 

予想だにしない言葉に思わず変な声が出た。由比ヶ浜が思わずと言った様子で噴き出すと、ヒヤリモンを抱きながら背中を向けた。

 

「ヒッキー、私が奉仕部辞めるって言い出すと思ってたでしょ?」

「あ、ああ…………話の流れ的に…………」

「そんな訳無いじゃん。私も奉仕部の一員だし。それに私が本物を見つけたい人は、待ってるだけじゃダメだから」

 

由比ヶ浜は心底嬉しそうな声で笑っていた。俺はただただそんな由比ヶ浜の背中を呆然と見つめることしか出来なかった。

 

「もうすぐ二学期だね。ヒッキー、覚悟しててよ」

 

それだけ言い残して由比ヶ浜はいつの間にか辿り着いていた自宅の扉に向けて歩いて行ってしまっていた。後に残された俺が立ち尽くしていると、家に入る前の由比ヶ浜が一緒こちらを見てウィンクしていた。

 

(本物の関係、かぁ…………)

 

由比ヶ浜の言葉を頭の中で何度も繰り返しながら、ようやく再起動した俺はフラつきながら帰宅するのだった。




今回は夏祭りデート回。デジモンとのバトルも無く、純粋に話を進める為のお話。

一応パートナーデジモンを悪事に使う半グレやら、文化祭編に出てくる彼女と遭遇する展開を考えてはいたのですが、この小説における結衣との関係性を再確認する話としては邪魔でしか無かったので無くなりました。
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