やはり俺とブイモンの青春ラブコメは間違っている。   作:アルファ麻呂

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文化祭編開始。現時点では三話を予定しております。


第十四話

「あ、ヒッキー。やっはろー」

「お、おう…………」

 

二学期の始業式の朝、学校の靴箱の前で待ち構えていた由比ヶ浜がにっこり笑って声をかけて来た。思わず挙動不審気な返事をしてしまうが、これは仕方ないと言うものだろう。由比ヶ浜もそれは理解しているらしく特に気にする様子も無く靴を履き替えて教室へ歩き出した。

 

「あれ、ヒッキー何してるの?教室行かないと」

 

そして二、三歩歩いて俺が付いてこない事に気づいて振り向いて来た。

 

「あ、いや…………俺に言ってる?」

「当たり前じゃん」

「え、あ、そう、か…………」

「キョドリ過ぎだって。ほら、行こう」

 

なにこれ。いつの間に由比ヶ浜さんはからかい上手になったん?と言うか何で俺相手にからかってくるんだよ。こちとら会うのは夏祭りのあの夜以来だからどんな顔して会えば良いのか分からなくて真顔だったってのに。

 

楽しそうな由比ヶ浜が軽い足取りで歩き出し、俺も慌てて靴を履き替えて追いかける。そして階段を登り始めるタイミングでふと上を見上げると、ちょうど雪ノ下が通りかかっていた。

 

「あ、ゆきのーん!久しぶりー!」

「由比ヶ浜さん、久しぶりと言っても一週間ぶりだと思うのだけれど」

「わたしには長かったよ!」

「そ、そう…………」

 

目にも止まらない速度で雪ノ下に抱きつきに行く由比ヶ浜。雪ノ下も力無く抵抗しているが、顔は満更では無さそうだった。しかしそれも俺を見つけるまでの事。

 

「あら、居たのね」

「そりゃ始業式だからな。来なきゃ小町に家を追い出される」

「何はともあれ!また奉仕部の活動再開だね!」

 

朝っぱらからハイテンションな由比ヶ浜に振り回される俺と雪ノ下。お互いに気が合わないと思い合う関係だが、今の雪ノ下の顔を見ていれば由比ヶ浜に関しては分かり合えると確信できた。

 

由比ヶ浜の底無しの明るさは俺達には眩しいが、悪くは無い。

 

そんな俺達を遠巻きに見ている同級生が居る事に、俺達は気が付かなかった。後から思い返せば、気が付いた所で何か出来た訳では無かったのだが。

 

 

始業式を挨拶から解散までを全て寝て過ごし、教室に戻ると同時にまた眠る。体育館から教室までの間で久しぶりの戸塚との時間を過ごせたのだから、もう今日やるべき事は全て終わらせたと言えるだろう。後はホームルームを寝て過ごし、帰り道についでに役場に寄って半年に一回の役場でデジヴァイスの履歴更新さえ終えれば自由時間だ。

 

と、思っていた。

 

「嘘だろ…………」

「ホームルームを最初から寝て過ごすからだ。私はキチンと言ったぞ?今日のホームルームは文化祭の実行委員を男女で一人ずつ決めるとな」

 

平塚先生の拳で目覚めたら、何故か文化祭の実行委員に就任していたでござる。いや、本当になんでだ。黒板に書かれた俺の名前を見て愕然としていると、平塚先生は冷たい眼差しで見下ろして来た。

 

冗談じゃあ無いぞ。俺にこれ以上仕事をしろって言うのか!

 

「あの、今から変更は…………」

「抗議は受け付けんぞ。嫌なら決める時にしっかり反論するんだったな」

「くっ…………」

 

今回だけは流石に反論の余地も無い。由比ヶ浜と葉山が遠くからしゃーない、みたいな目で見て来ていた。と言うか誰だ俺を推薦したの。寝てたから今更だけどさ。

 

「と言う訳で。これから最初の会議だから相模と一緒に会議室に行ってこい」

「あ?さ、さが、み?」

「クラスメイトだぞ。誰って顔をするな」

 

平塚先生が教室の入り口の方を指差すと、ショートカットの女子が二人ほどの取り巻きを従えてこちらをチラチラ見ていた。どうやらあのリーダーらしき女子が相模らしい。

 

ただ、明らかに目つきがこっちを馬鹿にした感じだ。ボッチとしての経験豊富な俺にとって、敵意や悪意のある視線なんかテイスティング出来るくらい浴びてきている。特に女子のそう言うジメッとした悪意は纏まりついてくるからな。

 

「…って………マー進…………ないん…………イテムに…………無い癖し…………」

 

耳を澄ましても良くは聞こえないが、とりあえず俺に対する悪意のある会話をあの三人でしているのは何となく分かった。

 

「ほら、行ってこい。多分雪ノ下辺りに会えるだろうしな」

「余計に行きたく無くなったんですが…………」

「そうか。なら次はこの拳で説得しなくてはならなくなるな」

 

既に拳をパキパキ言わせて抹殺のラストブリットの構えを取ろうとしているのを見て慌てて荷物をまとめて行く。そう何度も何度も殴られるのは勘弁だ。

 

「アンタが比企谷?」

「そうだ。えーっと…………」

「相模。相模南。言っとくけどウチにはあんまり話しかけないでよ」

 

平塚先生に追い立てられて教室の入り口に近づくと、相模は開口一番敵対心を隠そうともしない様子だった。その周囲を固めていた手下二人は見るからにコソコソとなにやら耳打ちを始めており、正直言って一緒に仕事したくは無い人種なのはお互いに同意見なのは良く分かった。

 

お互いに無言のまま会議室に向かう。俺としては無言の間と言うのは非常に居心地の良い空気なのだが、相模はそれが余計に苛立つのか見るからに不機嫌そうにポケットから取り出した灰色のDアークを弄び始めた。

 

コイツもテイマーだったとは。おまけに一色と同じアークか。一色と同じと言うと一色は烈火の如く怒るだろうが、多分俺が一色と知り合いじゃ無かったら、一色は俺と関わる際はこんな感じになるんじゃ無いかとも思った。けど、アイツの場合は余程の事が無ければ外面だけは取り繕うか。

 

アレはアレでまだ可愛い後輩の仮面を剥がさないのは凄いなと一色の事を心の中で見直しているうちに会議室に着いた。ちょっと待ったが相模は自分で開ける気は無さそうなので自分で開けると、既に半分くらいは椅子が埋まっていた。

 

遅刻では無さそうだとホッとしていると、ふと忙しそうに歩き回っていた女子生徒と視線が合った。

 

「あ、比企谷君!来てくれたんだねー」

「げっ…………城廻先輩…………」

「えー?げっ、って何ー?」

 

ポワポワした雰囲気を携えて、常に笑顔を絶やさない一年先輩の女子。しかしながら油断のならない鋭さを時折見せつけて来る、俺達ちば組の一年後輩のテイマー。城廻めぐりはとてとてと駆け寄って来て、俺の手を取って来た。

 

「え…………アンタ、生徒会長とまで知り合いなの…………?」

「知り合いって言うか、同盟相手で先輩なの。ねー?」

「いや、ねー?って可愛らしく言われても…………」

「だって千葉県のテイマーで、ブイモンがパートナーなの私と比企谷君だけなんだから。ブイモン同盟でしょ?」

 

城廻先輩は瞳をキラキラさせて俺の顔を覗き込んでくる。その目を見ているとなんだか俺が悪い事しているような気がしてしまうのでいつも苦手なのだが、城廻先輩は分かっているのか意地でも目を合わせようとして来る。

 

ポワポワした雰囲気とマイナスイオンを発生させているかのような安らぎを皆に与える総武高校の現生徒会長は、まるでそのマイナスイオンを俺に吸わせてあげようとしているみたいに距離を詰めてくる。葉山みたいなリア充達ですら味わえないであろう役得なのだが、ボッチにはただただ心臓に悪い。

 

「あら。何をしているのかしら比企谷君」

「げっ…………雪ノ下まで来やがった…………」

 

前門の虎である城廻先輩に苦戦する中で、今度は後門の狼の雪ノ下が心底不愉快そうな顔で睨んできた。

 

「あ、雪乃ちゃん!久しぶりー。雪乃ちゃんも実行委員に来てくれたんだね。助かるよー」

 

当然ながら雪ノ下とも顔見知りの城廻先輩は俺の手を握る手を離さずに雪ノ下にポワポワした笑顔を見せるが、雪ノ下は何故か不機嫌そうな顔を隠さずに俺を睨んでいた。

 

「城廻先輩…………その、ゲテモノ好きは結構ですが時と場合を考えて頂かないと」

「オイ」

「そっかぁ。そうだね。そろそろ時間だもんね」

 

アレ?城廻先輩もゲテモノ扱いに反論してないぞ?しかしながら確かに会議室の椅子もほとんど埋まっていて、開始予定時間がもう間も無くまで迫っていた。

 

「じゃ、後でまたね。ブイモン同盟同士頑張ろ?」

「いやそんな同盟組んだつもりは…………」

 

反論している暇すらなく忙しそうに走って行く城廻先輩。しかしそんな後ろ姿すらポワポワしたオーラを醸し出しているのだから凄い。

 

とりあえず用意された椅子に座ると、既に座っていた相模がついに我慢の限界みたいな様子でこちらを向いて来た。

 

「あ、アンタ一体何なの?葉山君と元相棒って噂はあるし、生徒会長さんとあんな…………」

「あの人は俺と葉山達がデジタルワールドを冒険してから一年後にデジタルワールドを冒険した選ばれしテイマーの一人だ。パートナーが俺と同じブイモンだからってたまに絡んでくるんだよ」

「…………って事は、葉山君と元相棒って噂も本当なの…………」

「残念ながらな」

 

聞いた話によると城廻先輩達はデジタルワールドで大流行した致死性のあるコンピュータウィルスの対抗手段であり、更にデジモンの潜在能力を解放するX抗体なるデータを探す冒険をしていたらしい。

 

なので城廻先輩のパートナーのブイモンは俺のブイモンと違って単独で究極体になれる上に、X抗体の力で更にパワーアップする。あの人を怒らせればアルフォースブイドラモンX抗体によって消し炭にされる訳だ。

 

しかし相模はまるで魂が抜けた様な顔で背もたれに体を預けてグッタリしていた。なんだ一体。俺が城廻先輩にやたら絡まれている事がそんなにショックだったんだろうか。

 

「はい、じゃあ本年度の文化祭の実行委員会の第一回会議を始めます」

 

城廻先輩の声が聞こえて来た。ついさっきまで葉山級にウザ絡みして来た人とは同一人物とは思えないほどハッキリとした言葉にこちらも思わず姿勢を正す。少なくともこういう時私情を挟む人では無い事は良く知っている。

 

「総武高校は選ばれし子供支援学校ですから、文化祭には大勢のパートナーデジモンが来校します。大小さまざまなトラブルが予想されますが、全員が団結すれば必ず乗り越えられます。そこでまずは委員長を決めましょう」

 

城廻先輩の言う通り、選ばれし子供支援学校である総武高校は文化祭だけでなく体育大会や校外学習に修学旅行と言ったイベントの時はパートナーデジモンを連れて来ても良い事になっている。勿論その際のトラブルはテイマー達でしか解決できない事態も多く、生徒会にはそれら全てを対処しなくてはいけない関係でテイマーが一人は所属しないといけない決まりだ。正直言って城廻先輩と雪ノ下が居れば、例え七大魔王が攻めて来ても返り討ちに出来るとは思うのだが。

 

しかし委員長となれば恐ろしく激務なのは目に見えている。今回は寝ている間に勝手に決められては困ると、目を限界まで開いて瞬き一つせずにホワイトボードを見つめていた。が、城廻先輩がちょっと雪ノ下を見た事に気づいた。

 

「…………」

 

雪ノ下もその視線に気づいたらしく、少し迷うような顔を見せる。しかし城廻先輩は心の中ではもう雪ノ下に決めているような顔つきだった。と言うか雪ノ下の隣に座る女子や、雪ノ下の噂を聞いたことのある生徒たち全員が何処となく期待を込めた目で雪ノ下を見ていた。

 

学園一の秀才、伝説のスサノオモンに進化出来る最強クラスのテイマー。そして、あの雪ノ下陽乃の妹。

 

二年前まで総武高校に在籍していた陽乃さんは、今もなお教師や今の三年生の間では語り草だ。少なくとも勉学やコミュニケーション能力においては完全に雪ノ下の上位互換だし、文化祭では実行委員長として開校以来一番の大成功に導いたらしい。

 

ここに来て陽乃さんと言うプレッシャーが雪ノ下を襲っている。俺としても半端な奴が立候補して仕事が増えるくらいなら雪ノ下がやってくれた方が勿論良いのだが、こんな形での雪ノ下の委員長就任にはなんとなく納得がいかなかった。

 

「あー…………」

 

誰かに聞こえるか聞こえないか分からないくらいの小さい声だったが、それでも口を開いて思わず手を上げようとしたその時だった。

 

「ウチ、やりたいです!!」

「は?」

 

勢いよく手を挙げて立ち上がったのは、俺の隣の席の相模だった。

 

 

何となく微妙な雰囲気の中で文化祭の実行委員長が相模に決まり、とりあえず明日から本格始動だと告げられてその場は解散になった。相模の思惑は読めないが、下手な仕事さえしなきゃ関係無いか。

 

相模は城廻先輩に呼ばれて委員長の仕事についての説明を受けていたので、待つ理由もない俺はそのまま会議室を出て下校しようと歩き出す。

 

「ねえ、比企谷君」

「んあ?」

「…………その返事の仕方には二、三ほど言いたい事はあるけれど、この際置いておくわ」

 

不意打ち気味に声をかけられて思わず変な声が出てしまったが、雪ノ下は眉を顰めるだけでそれ以上は何も言わなかった。

 

「まさかとは思うのだけれど、貴方さっき委員長に立候補しようとしていたのかしら?」

「そんなわけ無いだろ。俺の勤労意欲の無さを忘れたか?」

「そうね。小町さんの脛をかじって平然とするヒモ谷君にはあり得ない事だわ。だからさっきの声を出して手をあげるような不審な素振りの理由を教えて欲しいのよ」

 

いちいちこっちを罵倒して来る雪ノ下にげんなりしつつ、しかしまぁよく俺のことをそこまで見ていたモンだと少し感心してしまった。まぁ確かに、俺っぽくは無い行動だったとは思うが。

 

だけど、俺としては今日の会議の流れは正直言って不愉快だった。城廻先輩も悪意があった訳では無いんだろうし、雪ノ下に期待感を寄せていた連中も別に悪気は無かっただろう。

 

俺が相模に城廻先輩との関係を聞かれている時も、視界の隅の方で生徒会顧問の先生が雪ノ下の事を陽乃さんの妹だし期待できるな、なんてみんなに聞こえるような声で言っていたし。

 

「…………会議の流れがなんとなく気に入らなかったからな。適当なこと言ってぐちゃぐちゃにしてやろうかなって思っただけだ」

「それは、姉さんを引き合いに出された私が可哀想だとでも?」

「いや、それは無い。単純に立候補制の癖に誰かに期待するような空気が気持ち悪かっただけだ。ま、結果は予想外の展開に終わったけどな」

 

あの状況で手を挙げた相模は、思惑はどうアレ相当な勇者なのは間違いない。それが蛮勇なのかどうかはこれから決まるわけだが、どうにも嫌な予感がする。

 

ただまぁ、まだ先のことを考えても仕方ない。それは雪ノ下も同じなのかチラと会議室の方を見たが、特に何も言わずに腕を組んだ。

 

「姉さんが私よりも優れているなんて事は分かっているわ。私は、あんな風には生きられないもの」

「あー。まぁお前が夏祭りとかで挨拶回りとかしてるイメージは湧かないよな」

「そうね。私には無理よ。今でこそ私は実家とは半分絶縁状態で自由に生きているけれど、もしもヴォルフモンと出会えていなければどうなっていたでしょうね」

 

もしもは無いとはいえ、雪ノ下がデジモンと関わっていなければ、多分陽乃さん相手に結構拗らせていたのでは無いだろうかと思う。デジモンとの出会いで成長した事で実家と距離を取れたというのはちょっと皮肉かもしれないが。

 

ただ今の雪ノ下は、陽乃さんとの差や違いを真正面から見つめている。認めるのは悔しいのだろうが、それをディースキャナーを握りしめてグッと堪えて顔を上げる。

 

「私は私で、姉さんは姉さん。貴方が心配してくれているのは、少し嬉しいわ。でも大丈夫よ。ちゃんと分かっているから」

「…………お、おう」

 

穏やかな笑顔を見せる雪ノ下。その笑顔に一瞬ドキッとしてしまう。

 

一瞬だけデジタルワールドを冒険していた頃のキラキラしていた雪ノ下の姿がダブって見えたが、それも一瞬の事。あの頃の雪ノ下の面影ではなく、今の雪ノ下が輝いて見えた。

 

「私は今日これから由比ヶ浜さんと一緒に役場でのデジヴァイスの履歴登録だけれど、貴方もどうかしら?」

「まぁ、俺もそのつもりだったしな」

「なら由比ヶ浜さんに連絡して、三人で行きましょう」

 

多分騒がしい事になる。きっとあの輝いて見えたのは嘘のように雪ノ下からは罵倒され、由比ヶ浜のトンチンカンな発言に言葉を失う。まるで意味の感じられない時間だが、たまにはそう言うのも悪くは無いな。

 

「何回か名前呼ばれてもすやすや寝てた時は流石に引いたよ。ほんと、変なところばっかり変わらないなあ比企谷」

「由比ヶ浜…………なんでこいつ連れて来た…………」

「ごめん…………優美子と履歴登録の話してたら付いて来ちゃった…………」

 

しかし靴箱の前で満面の笑顔で待ち構えていた葉山を見て、さっきまでの気持ちは一瞬にして消え去っていた。

 

憮然としている三浦の隣で両手を合わせて謝って来る由比ヶ浜。俺も雪ノ下もそんな程度でこの不愉快な気分が治る事は無いのだが、その顔を見た三浦が一歩前に出て来た。

 

「何か言いたいことでもある訳?言っとくけど、あーしはアンタ達と一緒なのマジで不愉快なんだけど」

「奇遇ね。私も貴女に噛みつかれると思うととても不愉快よ」

「ま、まーまー。ゆきのんも優美子も落ち着いて…………」

 

由比ヶ浜、そこはもうどうどうって言った方が適切だぞ。勿論口には出さんが。

 

しかしここまで来てはもう仕方ない。目的地と出発地が同じならわざわざ遠回りでもしない限りは一緒になってしまうのだし。

 

渋々靴を履き替えて自転車を押しながら歩く。雪ノ下と由比ヶ浜が俺の左右を囲み、三浦と葉山のペアが少し離れつつも由比ヶ浜の逆隣を歩く。話す内容は当然ながら、ついさっきまでやっていた文化祭実行委員会での出来事だ。

 

「そっかぁ。さがみんが実行委員長に立候補したんだ」

「さがみん…………ああ、相模か」

「うん。比企谷はもうちょっとクラスメイトに関心を寄せるべきじゃないかな?」

「つーか、喋らないにしても顔と名前くらいは把握しとけし」

「んな事言っても、三浦はこの間まで俺の存在を認識してなかっただろ」

「…………」

「優美子!?そこは否定してよ!!」

「この人が相手なら流石に仕方ないんじゃ無いかしら…………」

「昔から目立たないようにコソコソするのが得意だったからね」

 

しかし何故かちょいちょい葉山と三浦が話に入り込んでくる。別に葉山と三浦で話してれば良いだろ。由比ヶ浜は頃合いを見て勝手にこっちに入って来るんだし。

 

「結衣、確か一年の頃アイツと連んでなかった?」

「うーん。さがみんかぁ…………」

 

三浦に聞かれて由比ヶ浜がちょっと視線を逸らした。由比ヶ浜人の印象聞かれて言い淀むのは珍しい。まぁ、確かに相模は個人的にはあんまり関わり合いになりたいタイプでは無いが。

 

「あ、でも悪い人じゃ無いよ。パートナーのドラクモンとも仲良かったし」

「そう…………彼女も選ばれし子供の一人なのね」

「灰色のDアーク持ってたな。アレだ、イメージとしては一色の更に態度の悪いバージョン」

「…………君の態度を見ていると、時々いろはが可哀想になって来るよ」

 

一色に可哀想なものを見る目で見られているお前が何をいう。

 

そんな事を言いながら歩き続ける中で、ふと気がつくともう役場は目の前だった。

 

「おーい、お兄ちゃーん!」

「八幡!遅いぞーって、なんかめっちゃ居る!?」

「こりゃもうボッチとは口が裂けても言えねーなぁ」

「うるさいぞブイモン」

 

役場に足を踏み入れると、元々ここで待ち合わせていた小町がブイモンとシャウトモンと一緒に待合室の座り心地の良さそうな椅子に座っていた。

 

「あ、小町ちゃん。それにブイモンにシャウトモンも。やっはろー」

「や、やっは?ろー?」

 

由比ヶ浜の明るい挨拶に、小町すら困惑気味だった。絶対流行らんぞその挨拶。何年後かに黒歴史になっても知らんからな。

 

「私はもう登録終わったから、早く終わらせて来てねー」

「あいよ。行くぞブイモン」

 

ブイモンが小町の隣から俺の足元まで駆け寄って来る。そしてそのまま勝手に定位置に決めてやがる頭の上に登ろうとするの阻止しつつ、デジモン関連課の窓口に向かう。

 

「比企谷八幡さんとブイモンですね。デジヴァイス出して下さい」

 

D-3を専用の台の上に置くと、職員が通信ケーブルを差し込みこの半年のデータが吸い上げられていく。

 

「あー。やっぱり結構戦ってますね」

「やっぱりって、他のテイマーもっすか?」

「さっき登録してくれた妹さんはそうでもないですけど、今年に入ってからデジモン関連の事件が前年比140%超えてますからね。どうも、デジタルワールドで七大魔王の勢力が活動してるらしく…………」

「え?マジで?」

「噂ですけどね。ただ、究極体のデジモンが現実世界で暴れるケースが増え始めてるのは事実でして。というわけで、こちらのアプリダウンロードしてもらえます?」

 

やけに饒舌な役場の職員だと思っていたら、どうやらこちらが本命だったらしい。QRコードが印刷された紙を差し出されたので読んでみると、役所特有のやけに長ったらしい文章で色々と書かれてあった。

 

「えーっと、つまり…………?」

「要約すると、非常事態時にはこのアプリで政府から君たちに正式な協力要請を出す訳です。このアプリで要請された案件なら建物や人的被害に対して君たちにペナルティは一切無く、協力金も多めに出すみたいですね」

「なら、このアプリが鳴らないのが一番って話ですか」

「それはそうですね」

 

とりあえずはアプリだけはダウンロードしつつ、ちょうどD-3の登録も終わったタイミングだったので席を立つ。と、隣の窓口で登録していた葉山もちょうど終わるタイミングだったらしく目が合ってしまった。

 

思わず顔を顰める俺と、弾けるような満面の笑顔になる葉山。本当に鬱陶しい奴だ。そんな俺たちを見て役場の職員の一人がキャッ、と紫色の声をあげていた。まさか海老名さんの親族じゃ無いよね?

 

「比企谷もアプリ入れさせられたみたいだね。まぁ俺たちが七大魔王クラスのデジモンと遭遇するとは思えないけど」

「そん時はお前に押し付けて全力で逃げてやるからな」

「そんな事言わないでくれよ、相棒」

「相棒って言うな…………くそ、懐かしいやり取りに乗せられちまった…………」

 

昔、葉山の家に置いてあったニチアサヒーローのDVDを一緒に見た時からちょいちょい葉山が振ってくるネタだった。久しぶりだったこともあって条件反射で返してしまったが、次からは無視してやるぞと心の内で決心する。

 

「ほんと、素直じゃ無いなー八幡」

「隼人もいい加減しつこいと思うけど…………もう諦めたよ」

 

ワームモンの疲れ切った目に同情を禁じ得なかった。ホント、良くこのバカのパートナーが務まるよなぁワームモン。

 

ただ多分葉山もちょっとブイモンの事を良くこんな奴のパートナーで居られるよなーって目で見ていた気がしてちょっとイラッとしたが、まぁ気のせいだと思っておこう。

 

結局その日は役場の前で解散になり、俺は小町達を連れてサイゼへ。葉山と三浦、そして雪ノ下と由比ヶ浜に分かれて帰る事になった。小町を除く全員が全員、明日からの文化祭実行委員会へのなんとも言えない不安を抱えて。




ここに書くのをすっかり忘れてましたが、いつも感想や誤字脱字の指摘ありがとうございます。本当に助かってます。

因みに私事ですが、ゴーストゲーム記念にデジモンバイタルブレスを買ってちょいちょい遊んでみました。デジモンを連れて歩いてる感は結構やってて楽しいんですが、某任天堂のGOみたいにスマホの歩数計やARを使った方が没入感あるんじゃ…………と思ってみたり。
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