やはり俺とブイモンの青春ラブコメは間違っている。   作:アルファ麻呂

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文化祭編、準備編です。ちょっと長くなりました。


第十五話

「比企谷君…………お願いがあるの。とっても大事な話」

「…………多分、応えられないと思うぞ」

「話だけでも、聞いてもらえないかな?」

「…………嫌だと言ったら?」

「実は文化祭の劇の配役なんだけどね」

「あ、海老名さんこれ話聞く気ないな」

「王子様と僕…………もう王子様は葉山君で決まってるの。だからね?僕役は絶対比企谷君でやるべきだと思うの!!子供の頃は立場なんか気にしてなかったのに、時間が経つと住む世界が違うって気づいて疎遠になっちゃうの!!そしてそれでも愛する気持ちは止められない葉や違う王子様は城を飛び出して比企違う僕君の元へ走るの!!そしてお互いの気持ちを吐き出し合い本当の愛に気がつくのよぉぉぉぉぉぉ!!」

「だ、誰か助けて!!お願い!!三浦ぁ!!三浦さぁーん!!」

 

実行委員会開始二日目。

 

文化祭実行委員会が本格始動すると同じタイミングで、各クラスも出し物の準備を始めていた。俺たちのクラスは劇をする事が決まり、今では葉山軍団を中心に配役や脚本についての議論が白熱している。

 

しかし実行委員の仕事を理由にそんな流れに背を向けた俺は、今日も今日とて重たい足取りで会議室に向かう。別に足取りが重たいのは鼻血が制服にべったりとついてしまったせいでジャージを着ている事が原因では無く、単純にこれから待ち受けている仕事を思えば憂鬱になってしまうからだ。

 

「あれ?比企谷君ジャージなの?」

「色々ありまして…………疲れたので今日は帰っていいですか?」

「ダメよ。仕事は山のように残っているのだから。首から上が動いているのなら働きなさい」

 

会議室の扉を開ければ目の前に立っていた城廻先輩が心配そうに聞いてくる。これ幸いと帰ろうとするが、先に到着していた雪ノ下の氷のような冷たい眼差しによって自然と足が机の前に向かっていた。

 

「わー。雪乃ちゃん、上手だね」

 

城廻先輩に褒められてふふん、と少し自慢げに笑う雪ノ下。俺の座る予定の机の上には既に何枚かの書類が山になっていて、上から期日の近い順に積み重なっていた。

 

ペンを握りながら頭の中で城廻先輩の言葉をちょっと下衆く翻訳すると、ほお良く調教したなって言ってる気がする。だけど仕方ないじゃないか。あんな目で睨まれながら帰ったら間違いなく小町に連絡が行くんだし。

 

何食わぬ顔で既に俺の前の書類の山と同じくらいの量の仕事を完了済みの籠の中に積み重ねていく雪ノ下を恨めしげに睨みつつペンを握り、上から順に調べていく。高校にパートナーデジモンを連れて来るのに必要な役場への事前申請。炎系デジモンによる万一の引火を想定した消防設備の整備依頼書。来校したデジモンはどの形態までの進化を想定するかの意見案のまとめ。

 

どれもこれもパートナーデジモンの進化先が複数あるアーマー進化の使い手である俺にとっては馴染みのある申請書のパワーアップバージョンだ。年に何回かこう言った申請書を役場に提出させられている俺にしてみれば、多少文言をアレンジすればすんなり通せるモノを用意出来るだろう。

 

なるほど雪ノ下が上手いこと仕事を回した訳だ。個人的な知り合いが居るってのは確かに仕事を振るのに邪魔な前置きが要らなくなるメリットがあるのな。って、気がつくと社畜みたいな思考回路が…………いかんいかん。早く終わらせて次の仕事に移らないと…………

 

「ってデジモンの進化の想定は今日の会議で決めるんじゃなかったか?」

「それなら議長を務める実行委員長が来ないことには何ともならないわね」

「比企谷君、相模ちゃんも連れて来てくれたら嬉しかったなぁ?」

「無茶言わないでくださいよ」

 

会議室に集まった実行委員はもう大体揃っていた。書類仕事を片付けているのは俺と雪ノ下と城廻先輩くらいだが、会議で決めないと進まない仕事も多いことを考えればほとんどが待つことしか出来ないのは理解できる。

 

原因は当然ながら、相模が実行委員長に自ら立候補したにも関わらず遅刻しているからだ。

 

クラスの状況からは基本的に目を背けるようにしているし、特に今日はねっちょりと絡んで来た海老名さんの鼻血騒動で保健室に寄っていたから相模が何をしていたのかは分からない。だが実行委員はクラスの出し物より優先順位は高い事はクラスでも理解されている筈だから、相模が劇の配役で揉めているのはあり得ないだろう…………あれ?俺はさっき劇の配役で揉めてた様な気がするぞ?

 

「ごめんなさーい!クラスの打ち合わせで遅れちゃいましたー!」

 

会議室内からの苛立ち混じりの視線に気づいているのかどうか、相模は元気よく謝りながら会議室に入って来た。曖昧な顔をしている城廻先輩の隣にそそくさと座って筆記用具を並べる相模を見て思わず雪ノ下と顔を見合わせるが、雪ノ下の目は既に諦めの色が混ざっていた。

 

「えーじゃあ、第一回の実行委員会始めまーす。まずは、えーっと?校内で想定されるパートナーデジモンの進化形態…………?」

 

相模は城廻先輩がホワイトボードに書いた文字をそのまま読み始めた。まさかコイツ、事前に渡されていた今日の議題を読んですらいないのか?

 

マジかよ、と言う空気が会議室内に充満していくが、相模はその空気に気づいていない様子でホワイトボードを睨むばかり。手元の書類の方には目を向ける気配すらない。

 

「校内でのパートナーデジモンの進化形態の上限ですが、パートナーの同行を初めて許可した昨年度は校舎内では成熟期まで。グラウンドなどの野外では完全体までを想定しています。ですが成熟期でもグレイモンなどの大型サイズのデジモンも居れば、完全体ではナノモンの様に小型サイズのデジモンも居ます。なので今年は校舎の中と外、サイズごとで許可を出す方向で進めます」

 

ついに堪忍袋の尾が切れた雪ノ下が手元の書類に目を落とす事も無く淡々と今日の議題について説明し始めた。相模が一瞬ギョッとするが、会議室の全員がその逸脱行為になんの違和感を抱いていない事を良いことにまるで自分が指示を出したみたいな顔をして頷いた。

 

「じゃあ、えーっと…………まずは校内の方から決めましょうか?」

 

ほぼ全員が相模ではなく雪ノ下を見ているのに、そんな事を臆面もなく言える相模の心臓は一体どうなっているのだろうかと内心驚愕しつつも会議は進んでいった。

 

実行委員会開始一週間目。

 

「劇にデジモン出す?」

「演技をさせる訳じゃ無いけどね。ワームモンの糸を使ったワイヤーアクションの真似事とかね。他にも優美子のファンビーモンが上空からシャボン玉降らしたりとか」

「別に良いが、デジモンありきの劇にならないか?パートナー居ない生徒もまだ多いだろ」

「いや、あくまで予算的な都合で難しい範囲の演出とか準備をデジモンに手伝ってもらうだけさ。本筋はクラスの人間でやらないとね」

 

文化祭準備が着々と進んでいくある日の昼休み。ベストプレイスに向かおうとする俺に珍しく葉山が話しかけて来た。俺がクラスで目立ちたく無いって事は葉山も理解しているので結構本気で驚いたが、文化祭の劇について実行委員に話を通しておこうって事らしい。これで普段のウザ絡みだったらマジでぶん殴ってたかもな。

 

「つーことはアレか。劇本番とそのリハーサルで何回か校舎内にデジモン連れて来たいから申請書欲しいって事か。だったら…………」

「あ、葉山君!何の話!?もしかして文化祭の準備で何か必要?」

 

その時、相模がわざとらしく大声張り上げて葉山にすり寄って来た。遠くの方で三浦が怪訝そうな目でこちらを睨んで来たが、葉山は営業用のスマイルを顔に貼り付けてこれまでの話の流れを改めて説明していった。こういう時はコイツも大変だなって思う。

 

「あーそう!私だったら実行委員長だから何とか出来るよ!じゃあこれから一緒に職員室に行こうよ!」

「あ、ああ助かるよ」

「いってら」

 

相模に無理やり昼休みの予定を変えられてしまった葉山。俺に向かって一瞬助けを求める目をするが、既に弁当箱片手にベストプレイスへ向かう気満々の俺を見て肩をすくめた。この流れはもうしゃーないだろ。

 

にしても、明らかにクラス中に聞こえるように声を張り上げる相模には少々呆れた。コイツ、散々から実行委員長としての仕事はしてない癖に、葉山とクラスへのアピールにはちゃっかり肩書きを利用してやがる。

 

あくまで厚意を無下には出来ない葉山が相模に連れられて教室を後にする一瞬、相模が勝ち誇った様な目で俺を見た気がした。これって勝ち負けか?と首を傾げる中で、入れ替わる様に三浦がこっちに近寄って来た。

 

「アレ、なんなの?」

「俺が知るかよ。文化祭準備の為だろ?」

「別にそんな事聞いてないし。あの相模のわざとらしい姿勢が気に食わないって言ってんの」

「いや俺に言われてもなぁ…………」

 

まさか相模の暴走を俺に抑えろとでも?と聞こうと思ったが、三浦の不機嫌そうな顔を見ればそんな事は口が裂けても言えない。ただ普段は葉山とあんまり一緒に居ない相模がここまで積極的に動いたって事は、文化祭準備の為って言い訳を作らないと葉山に近寄れないってことでもあるんだろう。三浦の眼光半端ないし。

 

「まあ別に良いだろ。どうせ今職員室行ったって申請書なんか無いしな」

「何で?」

「職員室に保管してた奴は全部、昨日文化祭当日の分で使い切ったばかりだからな。今日の会議の後に城廻先輩と相模で役場に届けて、新しい申請書を貰ってくる予定だったんだよ」

 

俺のその言葉が終わらないくらいのうちに、葉山が少し気まずそうな顔で一人で教室に戻って来た。三浦と話している俺に気づいてこっちに近寄って来る。どうやら想定通りの展開になった様だ。

 

「…………比企谷」

「何も言うなよ。下手に情報が漏れたら俺が逆恨みされるからな」

 

三浦は特に同情もしていない様子だったが、不毛な対立構造は望むものでは無いらしく鼻を鳴らすだけだった。

 

城廻先輩と雪ノ下に伝えておく、とだけ言い残して教室を出てベストプレイスに向かう。その途中で微かに耳が赤くなった相模とすれ違い、物凄い目で睨まれたが無視した。普通に考えて自業自得だろ。つーか何で昨日の実行委員会の仕事の中身をすっからかんと忘れられるんだよ。

 

まぁ自分のした事は自分に帰る。自然の理屈だな、と思いながら弁当片手にベストプレイスに向けて歩いて行く。時計を見ればまだ時間はあるので、五分くらいは穏やかな時間を過ごせるだろう。

 

「あ、ヒッキー。珍しいね、この時間に」

「あら、奇遇ね」

 

階段を降りていると、下からちょうど由比ヶ浜と雪ノ下が揃って上がってくる所だった。随分と静かだと思っていたが、奉仕部の部室で二人で百合百合しく昼を食べていたらしい。

 

「また葉山に捕まってたんだよ。まぁ今回は文化祭準備の話だったが」

 

そう言いながら階段を降りようとしたその時、雪ノ下の目つきが変わった。

 

「比企谷君!ダメ!!」

「え?うおっ!?」

 

その瞬間、足元に軽い衝撃が走って俺は思わず体勢を崩した。まるで何かに撃ち抜かれた様な感覚だが、それよりも先に俺は顔面から階段下へと落下しつつあった。

 

思わず目を閉じて衝撃に備えるが、俺の体を二つの柔らかい感触が押し返した。

 

「ん?」

「だ、大丈夫?ヒッキー」

「危機察知能力が著しく低下しているわね。小学生の頃の貴方なら自力で避けられたのに」

「ゆ、雪ノ下…………由比ヶ浜…………」

 

右肩を雪ノ下が、左肩を由比ヶ浜がそれぞれ支えていた。俺自身も少し足を踏み外して下に降りていたが、二人もあの一瞬で階段を駆け上がって俺の体を支えてくれていた。

 

「あ、ありがと、な…………」

「当然!」

「怪我は…………足首の辺りが少し腫れているわね」

「あ、あー。ちょっと打ったな」

「一応保健室に行きましょうか」

「い、いやそこまでじゃ…………」

「黙ってついて来なさい。由比ヶ浜さん、行くわよ」

「うん!ほら、ヒッキー!」

「あ、おいちょっと…………」

 

二人は俺の両肩を支えたまま歩き出し、まるで連行されて行くような形で保健室にまで歩かされる。道中の生徒達の視線が酷く鋭かったが、美少女二人に無理やり連行されて興奮する性癖は、多分、ない、と思う。

 

保健室にたどり着くと、養護教諭が診察して軽い打身で痛いなら湿布を貼ると言われたが断った。とりあえず痛みが引くまでここで弁当を食べさせてもらう事にしつつ、養護教諭が部屋から出ると雪ノ下が腕を組んだ。

 

「比企谷君。本当に気づいていないのかしら?」

「え?」

 

由比ヶ浜がちょっと首を傾げる中、俺はようやく落ち着いて来た頭で落下する前のあの謎の衝撃を思い出す。

 

「デジモンだよな。この足の打身」

「ええ。恐らくララモンのナッツシュートかしら。威力は抑えているみたいだけれど」

「え、ええ!?じゃあこれ、誰かがヒッキーを狙ったって事!?」

「可能性はゼロでは無いわね」

 

打身の後は確かに何かがぶつかった様な形をしていて、階段を落ちた時に擦ったとは思えない怪我の仕方だった。おまけに落下した際に雪ノ下は撃ち抜いた何かを探したが見つからなかったらしい。そんなピンポイントな狙撃が出来て、かつ弾が見つからないのなら、間違いなくデジモンの仕業だ。

 

「誰かが貴方を狙うとして…………動機はあるのかしら。存在が不愉快と言うのなら分からなくは無いのだけれど」

「オイ」

「冗談よ」

「ゆきのん…………でも、犯人はララモンなのかな?」

「それか…………ララモンのカードを持ったアーク持ちか、だな」

 

考えたくは無いが、どうしても一人の顔が思い浮かぶ。しかしながらそこまでの事をさせるほどの事をした覚えは一切無いのだが。

 

不安そうな由比ヶ浜をよそに、とりあえずは少し崩れた弁当箱を開く。色々とあり過ぎて時間が無くなってしまった。今日の放課後の文化祭実行委員会もある訳だし、これ以上何も無ければいいんだが。

 

 

『アークの細かいスペックですか?物凄い今更ですけど、何かあったんですか?』

『ちょっと事件って訳じゃ無いが、もしかしたらアーク持ちの違法テイマーが潜伏してる可能性が出て来てな』

『あー。確か寝てる間に文化祭実行委員になっちゃったんでしたっけ。って事は文化祭に近くのデジモン持ちの半グレ集団が乗り込んでくるんですか?』

『そこまでは分からん。ただ、用心に越した事はないと思ってな』

 

少し痛む足を引きずりながら会議室に向かう中、一色に送ったLINEの返信を読んでいく。ただこのLINEってアプリは初めて使ってみたが中々便利だな。由比ヶ浜に言われてインストールしてみると、勝手に番号を交換した数少ない面子のLINEアカウントが表示されたので、試しに一色に送ってみたのだ。まぁ最初の返信は偽物ですか?だったのは何となく面白くないが。

 

とりあえず送られてきた一色のデータを確認していく。デジモンカードをスキャンしてパートナーに全く違うデジモンの必殺技を使える事。成熟期までは通常のデジヴァイスと同じだが、完全体まで進化させるとテイマーとデジモンの痛覚を共有する事。そして究極体になるにはデジモンと完全に一つになる必要がある事。

 

まぁ確かにその辺の使い方を一色が手探りで見つけて行くのを隣で見てた訳だから別に今更って訳だが、こうして文章にまとめて貰えると色々と後で考える時に役に立つだろう。

 

そうこうしている間に会議室にたどり着いてしまったのでスマホをしまって扉を開ける。昼間は優しかった雪ノ下も、多分ここに来れば元の厳しいブラック上司の顔に戻っているのだろうと思うと涙が出て来てしまいそうだった。

 

「あ、比企谷君。ひゃっはろー」

「…………帰ろ」

 

しかしそこに居たのは陽乃さんでした。ブラック上司の方が幾らかマシだったと思って引き返そうとするが、振り向いた先には満面の笑顔の城廻先輩が。

 

「比企谷君!今日も来てくれて本当にありがとう!!」

 

今さっき逃げようとした現場を見てましたよね?がっくりと肩を落とす俺の腕を城廻先輩と陽乃さんがガッチリと掴み会議室内に連行されていってしまった。

 

「あら。逃げたかと思ったわ」

「我ながらどう見ても逃亡失敗で収監される囚人にしか見えないと思うんだ」

「貴方に相応しい姿じゃない」

 

そして案の定昼間の優しかった雪ノ下はもう居なかった。チラリと俺を見てすぐに目の前の書類に目を通し始める。

 

「んもー。せっかく比企谷君が来てくれたのにねー?めぐり」

「そうだよー。はるさん先輩の言う通り」

 

そう言いながらギュッと俺を挟んだまま距離を詰めてくる陽乃さんと城廻先輩。その瞬間、俺の両腕はそれぞれ二つの柔らかい塊に包まれて言いようのない幸福を感じてしまった。まるで俺のためにオーダーメイドされた極上のクッションに包み込まれたかの様な柔らかさ。ああ、俺は今人生の絶頂期に居るのか…………

 

その時、バキッと音を立てて何かが折れた。雪ノ下がシャーペンを素手で握りしめてへし折っていた。

 

「あ、ご、ごめん、ねぇー」

「雪乃ちゃーん?お、怒った?」

「…………」

 

無言で新しいシャーペンを取り出す雪ノ下を前に、慌てて擦り寄って行く城廻先輩。そんな事するくらいなら最初からやらなければ良かったのに、と思いつつちょっと前屈みになってしまった。慌てて椅子に座って鞄を開けつつ、当たり前みたいな顔して隣に座った陽乃さんを睨む。

 

「で?何しに来たんですか?学校は部外者は立ち入り禁止ですよ?」

「いやー。卒業生としてアドバイスが欲しいってめぐりに頼まれちゃってさ。それより、足どうしたの?」

 

隣の椅子から足を伸ばして軽く蹴ってくる陽乃さん。思わず痛っと呟いてしまい、雪ノ下がこちらを見てきた。

 

それにしてもまさかあの一瞬で俺の足の怪我に気づくとは、相変わらず何を見ているのか分からん人だな。

 

「まぁ、ちょっと。それより雪ノ下、今日の議題はなんだっけか?」

「…………そうね。文化祭の出し物にパートナーデジモンの力を借りたいって言う申し出が幾つか出て来たから、どこまで認めるかを決めておかないと」

「え?もう葉山に城廻先輩に言っとくって言っちゃったぞ」

「安請け合いは感心しないわね。まぁ、全面解禁とはいかないでしょう?“パートナーが居ない”生徒の事も考えないと」

 

ニコリとも笑わず言い放つ雪ノ下に、陽乃さんが面白くなさそうな顔で黙り込む。城廻先輩も下手な事は言えなくてオロオロする中、会議室の扉が開いて相模が入って来た。

 

「みんな居る?じゃ、今日の実行委員始めましょ」

 

不機嫌そうな相模がチラとこちらを睨みながら委員長席に座った。

 

「あり?雪乃ちゃんじゃないんだ」

「色々とありましてね」

「ま、雪乃ちゃんはそう言うタイプじゃないしね。でも、その割には委員長みたいな仕事してるじゃん」

「そこもまあ、色々あって」

 

陽乃さんは不思議そうな顔で相模を見ていた。一応首から外部相談員と書かれたネームプレートを下げていたので相模は怪訝そうな顔をするだけで特にリアクションはしなかった。まぁ、その態度も含めて陽乃さんは不思議なんだろうが。

 

「議題に入る前に生徒会から通達です。最近、若者の間で違法なデジヴァイスの強化パーツが取引され始めて居ると警察の方から通達がありました。文化祭には外部の大人も参加する事もあり、我が校の生徒が文化祭の場でターゲットにされる危険があります。生徒会の方で警戒を促すポスターの張り出しは行いますが、実行委員会の方でも注意をお願いします」

「それでは今回の議題ですが、幾つかのクラスの出し物にパートナーデジモンを参加させて欲しいと言う要望が入りました。学校側としては過度に参加しないのであれば、と言う条件だそうです。これを実行委員会としてどこまで認めるかを決めましょう」

 

城廻先輩に続いて雪ノ下が口を開く。相模は最近では会議の流れをほぼ全て雪ノ下と城廻先輩にお任せして暇そうにしている。時には机の下で携帯を見ている事もあり、最早椅子に座っているだけでこの会議室の誰もが委員長を相模とは認識していない。

 

雪ノ下が代行して実行委員長の仕事をしているので今のところは特に支障は出ていないが、仮にも委員長が遅刻の常習犯に加えて堂々とサボられてしまっては、実行委員の仕事にやる気なんか起きるはずもない。今日の会議も最初の頃の半分くらいの人数だ。

 

とりあえず最低限の決め事だけは決め終えると、今度はまた残りの半分くらいの人数がクラスの準備の方に戻ってしまう。どうやら連絡事項だけは聞きに来ていただけだったらしく、残ったのはごく一部だけだった。

 

「いやあ。ひどいね。この間お母さんの代理で挨拶に行ったブラックな会社の会議を思い出しちゃったよ」

 

言葉も無い、といった様子の陽乃さん。頭の良い上流階級の世界で生きてきた陽乃さんにしてみれば珍しい光景なのかと思ったが、どうやら大人の社会でも意外とある光景なのかもしれない。まぁここまでハッキリと下の人間が仕事と態度に出すところまで含めれば珍しいだろうが。

 

「ちょっと比企谷」

「あ?」

「デジモン関連の申請書、どうなってる訳?昼に職員室に貰いに行ったらもう全部なくなってたんだけど」

「そりゃ、実行委員の仕事で全部使ったからな」

「はあ?私、聞いてないんだけど」

「まぁ言ってないからな」

「何それ!ウチは実行委員長なのに…………!!」

 

その時相模がいきなりこっちに絡んできた。正直言って仕事の邪魔でしかないのだが、相模の理不尽な怒りのボルテージは俺の態度に更に高まりつつあった。

 

「ちゃんと報告してよ!葉山君だってアンタがそんな適当な仕事してるのかって言ってたし…………」

「葉山がそんな事言うかよ」

「っ!?」

 

何勝手に葉山の発言捏造してんだよ相模。あいつは例え誰かの不始末で不愉快な思いをしたって、それを口に出さないから今のポジションを確保出来てるんだ。俺の元相棒は、例え口が裂けても誰かに聞かれる様な場所で人の仕事にケチなんかつけるかっての。

 

「ダメだよ比企谷君。上の人間はちゃんと立てておかないと。社会に出た時苦労するよ?」

 

思わず頭に血が上りかけたその時、突然陽乃さんが相模に加勢して来た。いい加減イライラして来た雪ノ下や、本来ならこのまま一緒に警察に書類を届けに行く予定だった城廻先輩が相模に声を掛けようとして辞める。

 

こう言う時に陽乃さんは本当に性格が悪いから、一体何を仕出かすか分からないのが怖い。だが、相模は見知らぬ外部相談員の援護に気を良くしてまた声が大きくなった。

 

「ホントそうですよー!せっかくウチがみんなの為に頑張ろうとしてたのに!」

「うんうん。そう言う態度は大事だよ」

「こんなことされちゃったら、ウチ仕事出来ないじゃん!」

「そうだねぇ」

「どうしてくれんのよ!」

「そうそう。ここは責任とって…………比企谷君と雪乃ちゃんと二人で実行委員長やっちゃえば?」

「…………え?」

「陽乃さん…………」

 

来た、と天井を仰ぐ俺たちを他所に、いきなりハシゴを外された相模が凍り付く。

 

「だって見る限りじゃ今の実行委員会で一番働いてるのは雪乃ちゃんで、その下っ端として働いているのは比企谷君でしょ?だったら一々報告する時間を省略しちゃえば良いんだよ。そうすれば、可愛い雪乃ちゃんもたっぷり見れるよ?ね?お得じゃないかな?」

「あ、あのですね…………」

「姉さん…………」

「ね?雪乃ちゃんもそう思うでしょ?」

 

書類の上に手を置き、半眼で陽乃さんを睨む雪ノ下。

 

「邪魔」

 

これ以上無い的確な一言だった。

 

その横で蚊帳の外にされてしまった相模がただただ黙り込んで俺たちを見ていたが、今更そんな事を気にする者は一人も居なかった。当たり前の話ではあったが。

 

 

 

 

相模南は学校の屋上で一人イライラした様子でスマホを弄っていた。本来なら文化祭実行委員会の時間だが、今日はそんな気分にはなれない。その原因は分かりきっている。せっかく相模が実行委員長に立候補したのにその仕事を横取りする雪ノ下とやらと、その雪ノ下について回る比企谷のせいだ。

 

「ドラクモン、来てるよね」

「まーな。呼ばれりゃいつだって俺は来るぜ」

 

相模の足元にフラリと現れた黒い成長期デジモン、ドラクモンはどこからかっぱらって来たのか野菜ジュースの紙パックを片手に座り込んだ。

 

「で?どうするんだよ。俺を呼んだって事はまた新しい悪戯なんだろ?」

「…………アンタはそればっかだね」

「悪戯は俺の生き甲斐だからな」

 

出会った時から悪戯が大好きで、時には制御できない事もあったドラクモン。思えばこのドラクモンとの出会いが相模の人生と価値観を大きく変えたのだった。

 

相模とドラクモンが出会ったのは小学六年生の夏だった。学校では思うように目立てなかったその頃の相模の学校生活は、実家のパソコンからデジタマとアークが現れたその日から大きく変わった。

 

デジモンの存在が大きく世間に認知され、選ばれし子供達となれば問答無用で学校のスターになれる時代。特に相模が通っていた小学校では全学年見渡しても選ばれし子供は居なかった為か、同級生や下級生はおろか大人達からも一目置かれるようになった。

 

二学期が始まってから相模の人生はまさに絶頂期だった。誰も彼もが相模の事を意識していたし、相模の側に居れればパートナーが見つかると言う噂が立つほどだった。

 

多少のドラクモンの悪戯も許されるくらいの特別扱いに違和感を抱くことすらなく半年近くを過ごした相模の絶頂期が終わったのは、中学に進学した時だった。

 

同じクラスにデジタルワールドを冒険した本物の選ばれし子供が居たのだ。パートナーとの運命的な出会い。デジモンだけでなく心の底から信頼し合える人間の仲間達との思い出。そして何より、大小様々な修羅場を潜り抜けた事で手に入れた本物のリーダーシップであっという間にクラスの中心に立ったその人を前にすれば、相模は井の中の蛙でしかなかった。

 

勿論その選ばれた子供は相模にも手を差し伸べた。だが、相模はその手を振り払った。そして中学に上がってもパートナーが見つかっていなかった相手達と連むようになった。選ばれし子供に対して無条件で羨望を抱く様な相手を友達に選んだ。それで虚しくなった事もなくは無かったが、どうしようもなかった。

 

二年生に上がる頃にはなんとか気持ちの整理を付けられた。そしてクラスカースト最上位になれなくても、せめて最上位集団には居たい。そう思ってクラスの中心に居続けたその人に擦り寄ったが、その人はそんな心持ちを察したのか曖昧な態度を見せた。その時の胡散臭そうな目がトラウマになってしまい、結局相模の中学時代はトップカーストには二、三落ちる小規模集団のリーダーで終わってしまった。

 

そして総武高校に入学して、まず目についたのが葉山だった。中学時代にクラスカースト最上位の椅子を相模からあっさり奪った奴と同じ、デジタルワールド帰りの本物の選ばれし子供。中学時代の過ちを繰り返す訳には行かないと思って擦り寄ろうとしたが、その隣によく居る三浦が中学時代にトラウマになったその人に何となく似ていたせいで近寄れないまま二年になってしまった。

 

おまけに総武高校で見つけたパートナーの居ない私の友達の三人のうち、遙とゆっこはともかく結衣は二年に上がる頃には疎遠になって、気がついたら葉山や三浦と一緒にいた。それだけでは無くて、奉仕部とか言うよく分からない面子と関わったのを機にパートナーが出来たと言うのだ。

 

正直言って裏切りだと思った。ドラクモンに悪戯させようかとも思ったけど、三浦が目を光らせている間は結衣に手を出せない。

 

そんな風に悶々としていると、今度は学校内で究極体デジモンが暴れると言う事件が起きた。解決したのは葉山や三浦達と奉仕部。そしてその奉仕部の唯一の男子生徒がパートナーのブイモンを伝説のロイヤルナイツの一角、マグナモンに進化させて大活躍したと言うのだ。

 

噂は一瞬で広がった。比企谷八幡。デジタルワールド帰りの選ばれし子供で、葉山とはかつて相棒だった。しかし何かしらの理由があって今はお互いに距離を取っているらしい。

 

最強クラスのテイマーだが群れる事を嫌う孤高の戦士だとか、葉山とは両片思いだとか(?)、奉仕部で学内最上位の美少女二人と一緒に過ごしている羨まけしからん男だとか。様々な噂は流れたが、葉山がそんな噂をしている人に対してコッソリと説明して回った為に今は収まっている。

 

『アイツは下手に目立つと体調を崩すデリケートな奴でさ。俺と一緒に居るとどうしても目立つから嫌なんだそうだ。質問には俺が答えるから、アイツ相手にはあんまり騒ぎ立てないでくれないか?』

 

分かるような、分からないような葉山の説明で比企谷への噂の嵐は収まっていった。

 

しかし比企谷八幡の存在は相模にとっては理解不可能な異物だった。相模がなりたくてなりたくて仕方なかった本物の選ばれし子供でありながら、クラスカーストには全く興味すら見せないその姿。そんな事許せなかった。

 

「ドラクモン。やるよ」

「おっしゃ!で、何するんだよ?」

「ターゲットはコイツら。多分もうそろそろ三人で出て来ると思う」

 

下校のチャイムが鳴り、文化祭の準備をしていた生徒達が帰っていく。しかし実行委員の仕事を長々とやっている雪ノ下と比企谷と、その付き添いをしている結衣は最後らへんまで残っている事だろう。

 

前の会議で少し話を聞いた、デジヴァイスの強化パーツとやらを幾つか用意しつつターゲットを探す。そして、見つけた。

 

「居たよ。ドラクモン」

「おっしゃ!!」

 

陽乃さん襲撃事件翌日。

 

今日も今日とて仕事の山々をなんとか片付けて雪ノ下の机の上に置く。雪ノ下は既に自分の分の仕事を終わらせて他の人の分までやっていたが、少しやつれた目つきで俺の顔を見上げた。

 

「そろそろ時間だし、俺は帰るぞ。お前も由比ヶ浜が待ってるだろ?」

「由比ヶ浜さんは私じゃなくて、私たちを待っているんだと思うけれど…………そうね」

 

雪ノ下が荷物を片付ける中、俺は処理済みの書類の山を一眼見て分かるようにメモを貼った重石代わりのセロテープを上に乗せた。これで明日城廻先輩か教師の誰かが回収してくれるだろう。

 

「相模が来ないのはもう想定内だったが、城廻先輩も居ないとなると流石にキツイな」

「…………仕方ないわ。あの人は今日東京の方に出張だもの」

「Dセイバーズの予備隊員に内定済みだもんな、あの人。とりあえずは大学行ってから正規隊員になるか決めるらしいけど」

「まぁアルフォースブイドラモン、しかもX抗体を政府が泳がせる訳がないでしょうしね」

 

なんて事ない会話をしつつも、やはり少し動きにキレのない雪ノ下に気付く。ホントこいつ体力無いからな。このところの激務でだいぶやられているらしい。

 

「…………途中までは荷物持ってもいいぞ」

「お断りよ」

「意地っ張りめ」

「貴方に荷物を預けたらどんな気持ちの悪い事をされるか分かったものではないもの」

「…………ああそう」

 

とりあえずは無理矢理にでも雪ノ下の荷物を持ち、抗議の目を向けてくる雪ノ下の目力がいつもより弱々しいのを確認する。

 

「なら由比ヶ浜に持ってもらうか?」

「…………それだけはやめて頂戴。もう、卑怯よ貴方は…………」

 

今更な事を言って顔を背ける雪ノ下。しかし耳が真っ赤なのは夕焼けに明るさの中でも分かるくらいだった。

 

「ゆきのーん!ヒッキー!!」

 

やがて由比ヶ浜が駆け寄ってきて、俺が雪ノ下の荷物を持っている事で一悶着ありつつもそのまま下校していく。まぁ由比ヶ浜もすぐに雪ノ下の体力がだいぶやられている事に気づいて引き下がったが。

 

「大丈夫?ゆきのんもだけど、ヒッキーも。なんかさがみんずっとクラスの方に顔出してるし」

「彼女が実行委員長の仕事をしていないのは明白よ。でも、だからと言って私たちも同じことをする訳にはいかないわ」

「責任はアイツにあっても、それで文化祭台無しになるのはアイツだけじゃ無いからな。奉仕部への依頼じゃないが、これが奉仕部の文化祭の出し物って事で良いだろ」

「だ、だったら私も実行委員の仕事を手伝うよ!!」

「い、いえ由比ヶ浜さんはクラスの劇の方を集中してくれれば…………」

 

靴を履き替えて俺の自転車が置いてある所まで向かおうとしていたその時だった。不意に何かしらの危機的な気配を感じて俺は真上を見上げた。屋上に誰かが居て、そいつが何かをしたのが見えた。

 

「雪ノ下!由比ヶ浜!!」

「きゃっ!?」

 

咄嗟に二人を突き飛ばそうとしたが、由比ヶ浜はともかく雪ノ下は逆に俺を突き飛ばそうとしていた。結果、降り注いだ大量の水を被らなかったのは由比ヶ浜だけだった。

 

「ヒッキー!?ゆきのん!?」

「由比ヶ浜、雪ノ下を頼む!!来い、ブイモン!!」

「んあ?なんかトラブルか?」

 

雪ノ下は水に濡れた衝撃で腰を抜かしていて、即座に動けそうに無い。俺はD-3とスマホを合わせてブイモンを呼び出すと、屋上の敵が逃げ出そうとしているのを見て覚悟を決めた。

 

「ブイモン、進化だ!」

「おっしゃ!状況はよく分からねーが、八幡と雪乃の敵だ!久しぶりに行くぜ!!」

 

D-3が輝き、ギターをかき鳴らすような起動音が響く。普段のデジメンタルをロードしてのアーマー進化とは違い、ブイモンに新しいデータが降り注ぐ。

 

「ブイモン、進化!」

 

ブイモンの体がゆっくりと回転し、一瞬素早く回転して姿がブレた。するとその姿は翼の生えたマッシブなボディの竜に変わる。鼻先にはナイフのようなツノが生えて、胸には上下に二つのブイの字がエックスの形を描く。

 

「エクスブイモン!!」

「わ、新しい進化…………ブイモンの成熟期!?」

「追え!」

「がってん承知!!」

 

空を自在に飛べるエクスブイモンは屋上にまで飛び上がる。そこには既に人間は居なかったが、紫色の狼型成熟期デジモン、サングルゥモンが待ち構えていた。

 

「お前!テイマーが居るんだな!!どこに行った!!」

「教えるかよ!!」

 

サングルゥモンはエクスブイモンに向けて飛びかかるが、エクスブイモンはその突進を片手で受け止めて強烈な膝蹴りを叩き込む。サングルゥモンが悲鳴を上げて屋上の床の上をのたうち回るが、エクスブイモンは容赦無く追撃の踏み付けでサングルゥモンに悲鳴を上げさせる。

 

「お前のテイマーは誰だ!」

「い、言うかよぉ!」

「この状況でお前を置いて逃げたテイマーだぞ!」

「そんなの関係無いだろ!!俺のテイマーなんだ!!」

 

サングルゥモンが起き上がってエクスブイモンの右手に噛み付くが、エクスブイモンはそのままサングルゥモンを投げ飛ばしてしまった。

 

「俺とお前じゃ勝負にもならないぞ!」

「ううっ…………」

 

同じ成熟期でも、実戦経験の豊富なエクスブイモンとほとんどまともに喧嘩すらしてこなかったサングルゥモンでは大きな差があった。その光景を見て、屋上の階段に隠れて様子を見ていた相模は震えていた。

 

(な、何よあれ…………比企谷はアーマー進化しか出来ないんじゃなかったの!?空を飛べるなんて…………)

 

フレイドラモン、万が一の場合はマグナモンが出てくることは考えていたが、どちらも空を飛べない事を考えれば、すぐに屋上から逃げればバレないと踏んでいた。しかし空を飛ぶエクスブイモンの登場で一気に劣勢に陥った相模は階段の片隅でアークを抱きながら必死にこの状況をひっくり返す方法を探していた。

 

早くここを逃げないと。だけどもうボロボロのサングルゥモンを見捨てて逃げてもすぐに追いつかれる。このままじゃサングルゥモンは叩きのめされ、あのエクスブイモンに捕まってしまう。もしここに隠れてエクスブイモンをやり過ごしたとしても、もうすぐ比企谷がここに来れば捕まってしまう。

 

「こ、こうなったら…………超進化プラグインで!カードスラッシュ!」

 

アーク専用の強化パーツ。一度だけ完全体への進化を可能にする人工的なブルーカードをアークにスキャンする。

 

「グオォォォォォォォ!」

「何!?」

 

サングルゥモンが悲鳴を上げ、押さえ込んでいたエクスブイモンが動揺した隙を突いて飛び上がる。そして真っ黒な光を放って一瞬にして人型の姿に進化した。赤いマントとズボンを履いた、マタドゥルモンだ。

 

「完全体に進化したのか…………いきなりだな!」

「シャアアッ!!」

「くっ!?」

 

マタドゥルモンは一気に距離を詰め、エクスブイモンの肩に爪のような仕込み剣で切り傷を付ける。しかしエクスブイモンも負けじとマタドゥルモンの仕込み剣を掴むと、胸のエックスのような模様が光った。

 

「エクスレイザー!!」

「グアっ!?」

「痛っ!?」

 

エクスブイモンの必殺技、エクスレイザーはマタドゥルモンの右手に直撃した。すると同時に相模の右手にも激しい痛みが走り、エックスのような形のアザが出来ていた。

 

「な、何よこれ…………」

「アークは完全体まで進化させると、パートナーと肉体的ダメージを共有する。そのことも知らなかったみたいだな」

「ひっ…………!?」

 

ポタポタと水を滴らせながら姿を見せた俺を見て、相模は目に見えて怯え始めた。

 

「やっぱりお前だったみたいだな。おまけに、不正な強化パーツにまで手を出したか」

「な、何を言ってんのかさっぱりわからないんですけど!?」

「その右手のエックスのアザが証拠だ。言い逃れは出来ねえぞ相模」

 

顔面を真っ青にして震え続ける相模。屋上の戦いも相模が戦意喪失したせいかマタドゥルモンがドラクモンに戻って気絶していて、ブイモンがドラクモンを抱えて走ってきた。

 

「八幡、コイツが犯人かよ。こんなわけわかんねーデータをねじ込みやがって。デジモンの事をなんだと思ってんだ」

「ど、ドラクモン!?」

「不正パーツをインストールさせた反動だな。自業自得だ」

 

気絶して動かないドラクモンを抱きしめる相模だが、ドラクモンが返事することは無かった。ブイモンが心底嫌そうな顔で相模を見つめるが、俺だって言いたいことやらは幾つもある。

 

「相模。今のお前は違法パーツの所持に加えてパートナーデジモン管理法違反の現行犯だ。俺が通報すれば警察に引き渡されることになる」

「な、なんでよ…………アンタなんかが…………」

「やった事には責任が伴うんだよ。相手が誰かって話じゃ無い。今のお前はドラクモンのパートナーを名乗る資格はねえ」

「…………っ!?」

 

ドラクモンを抱きしめる手に力が篭る。こんな奴でも本当にパートナーには愛があるんだろうか、と思ってしまう。だがそれは俺には分からない。

 

そんな事よりこれから先の事を考えないと。警察や城廻先輩に通報する事も考えたが、そんな事をすれば間違いなく文化祭にケチが付く。不本意ながらも実行委員としてこれまで仕事して来たんだし、何より雪ノ下があんなボロボロになるまで頑張ってきた事を無駄にしたくない。

 

「いいか相模。通報されたくなきゃ、明日から実行委員長としての仕事を死ぬ気でやれ。やり方が分からないなら城廻先輩とかに聞け。この仕事をやり遂げられるかどうかで今日の件を俺の中で帳消しにするかどうか決めるからな」

「…………何よそれ…………脅し…………?」

「いや、ここまで温情かけられて脅し呼ばわりはねえよな?事情は知らねえけど」

「ひっ…………!?」

 

ブイモンが口を挟むと更に相模が怯え始めた。そして必死に首を縦に振り出す。

 

「わ、わかった…………うち、頑張るから…………誰にも言わないで…………」

「くそ。なんで俺が悪者みたいなシチュエーションになってんだよ…………」

 

とりあえずはエックスのアザの写真とD-3の履歴を見せて犯行の証拠は揃っている事は見せつけつつ、泣いて動かない相模を背に歩き出した。その間ブイモンは本気で相模のことを睨み続けていた。

 

 

「うっ…………ゴホッゴホッ!」

「ゆきのん。大丈夫…………?」

「大丈夫よ由比ヶ浜さん…………だからそのお粥を私に食べさせようとしないで」

 

翌日の放課後。俺と由比ヶ浜はブイモンとヒヤリモンを連れて雪ノ下のマンションを訪れていた。あれだけ疲れていた所に相模に水ぶっかけられたせいで風邪をひいてしまったのだ。

 

「うおぇっ…………」

「は、八幡…………なんでお粥にケチャップの味がついてんだよ…………」

「知らねえよ…………早く食えブイモン。帰りになんか買わせてやるから」

 

平塚先生から渡されたJ組の授業ノートにお見舞いの果物を幾つかを持って久しぶりの雪ノ下の部屋を訪れた俺は、まず由比ヶ浜が張り切って作ろうとしたお粥をブイモンと一緒に処理させられていた。なんでお粥にケチャップとマヨネーズが同時に使われているのかは全く分からないのだが、由比ヶ浜は善意100%なのが恐ろしい。

 

「それより、今日の実行委員会は大丈夫かしら…………」

「さあな?今頃相模が死に物狂いでやってるだろ」

「なー」

「ヒッキー?ブイモン?」

「ねえねえ結衣、この人たちなんか悪い顔してるよー」

「全く…………でも、ここは仇を撃ってくれたと思っておくわ」

 

事情は誰にも話していない。あくまで保険でアイツの犯罪の証拠は残しているが、文化祭が終われば多分消去する事になると思う。

 

「ま、たまには休めよ。お前は体力無いんだし」

「…………その私の事を理解しているような顔、本当に不愉快だわ」

「相変わらず雪乃は素直じゃないなー」

「ブイモン、何か言ったかしら…………う、ゴホッゴホッ!」

「あーもうゆきのん?意地張ってないで休んでったら」

 

ホント、たまにはこんな時間も悪くない。心の底から安らぎを感じながら俺は思わず笑っていた。




相模をここまで叩きのめしてしまうと、アンチ、ヘイトタグつけた方が良いんでしょうかね…………?

一応言い訳すると、パートナーデジモンが出来たとしてもそこから成長出来るかどうかは別問題だよね?と言う話を書きたかったんですが…………
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