やはり俺とブイモンの青春ラブコメは間違っている。   作:アルファ麻呂

16 / 30
めっちゃ長くなってしまいました。三話で文化祭編終わらせますって言っちゃったから…………


第十六話

「それではこれより、総武高校文化祭を開始します!!」

 

体育館に響き渡る城廻先輩の掛け声を受けて、総武高校の生徒たちの拍手喝采が轟いた。

 

色々あったが本日は文化祭当日。今日まで本当に辛かった。実行委員会として散々からこき使われ、さまざまなアクシデントに見舞われた悪夢のような毎日だった。

 

「いやー。やっぱり八幡は腹括ると働き者になるよなぁ」

「やっぱりってなんだよ。くそ、ただ否定出来ないのが悔しい…………」

「ずっと雪乃に尻叩いて貰えばめちゃくちゃ働くようになるんじゃないか?」

「俺にそんな性癖は無い」

 

実行委員なので体育館の控え室で待機しつつ、すっかりと定位置に定めやがった頭の上でしみじみと呟くブイモンを睨む。

 

「ブイモン。あまり悍ましい事を言わないで頂戴。何故私がその男の体に触れなくてはならないのかしら。触った所から腐っていきそうだわ」

「いやものの例え…………」

「諦めろブイモン。雪ノ下相手に論戦挑んでも時間の無駄だ。にしてもまぁ、なんとか間に合ったか。一時はどうなる事かと思ったが」

「そうね。何処かの誰かが委員長の尻を叩いたお陰じゃないかしら?」

 

一応この文化祭の功労者であり、文化祭実行委員長としての仕事を今日まで死に物狂いでやって来た相模。しかし今もなお暗い表情は一切変わらず、俺に対して怯えと恐怖とその他の感情をごちゃ混ぜになった目でチラと睨んでくる。

 

あの屋上での一件以来、相模は俺の命令通り実行委員長としての仕事に全力を注いできた。城廻先輩に頭を下げて仕事を割り振ってもらい、職員室との往復回数も雪ノ下や俺と変わらないくらいになった。

 

ただこれは少し可哀想というか仕方無しと言うかは人それぞれだが、相模の実行委員長としての人望はついぞ回復する事は無かった。

 

そりゃ何かに連れて城廻先輩やら雪ノ下に仕事の内容を聞いてその通りに動いて回る姿を見て、実行委員長だと思う人は少ないだろう。それにそれまでのやらかしの悪影響はかなり大きかった。信頼とは積み重ねだとはよく言ったものだ。

 

残念ながら相模の人望が雪ノ下や城廻先輩に匹敵する事は無く、終始決定権のあるハンコを持ってる人としか扱われなかった。その不満が相模のテンションを更に下げ、その態度が周りを引かせる悪循環。正直言って、なんだかんだで仕事はやり遂げているんだからその辺は認めてやってもいいんじゃないかと思ったのだが、一度固まったレッテルはなかなか剥がれないと言うことか。

 

城廻先輩の開催宣言を終えた後は実行委員長から生徒達へのルール説明と注意喚起があるのだが、相模は脇に戻って来た城廻先輩に肩を叩かれるまで動こうとしなかった。

 

「あ、で、では…………実行委員会から改めて、デジモンの、えーっと…………」

「デジモンの立ち入りに関して説明します、だ」

「あ、はい…………デジモンの立ち入りに関して説明します…………昨年と違い今年は…………」

 

耳についたインカムに通信を入れて、完全に用意した台本が頭からすっ飛んでいる相模に指示を出す。まぁこちらも台本を雪ノ下が突きつけて来ているのをまる読みしているだけだが。

 

「うーん。相模さん、ここはキッチリ決めて欲しかったなぁ」

「めぐり、あの子はあまり良くない波動を感じる…………本当にあそこに立たせて良かったのか?」

「仕方ないよ。そこまで含めて実行委員長の仕事だもん」

「…………そうか。それで?そこのブイモンは何故逃げる?」

 

俺が台本の内容を相模に伝えていると、不意に首からエックスのアクセサリーを下げて城廻先輩のパートナーのブイモンが姿を表した。ブイモンXはその姿を見てそろりそろりと逃げ出そうとする俺のブイモンを睨み、ブイモンは頭を掻きながら曖昧な顔をして戻って来た。

 

「あはは。ブイモン同盟集結だね」

「ひっ!?」

 

城廻先輩に抱き抱えられるブイモンだが、その顔はいつもの女子に抱かれてご満悦な顔では無くプレッシャーと恐怖で引き攣っていた。まぁそれもそうだろう。何せ以前ブイモンと一緒に遭遇した時は、マグナモンで苦戦していたキメラモンを一瞬で消し炭にしたのだから。

 

俺もあの日の遭遇は忘れもしない。総武高校に入って暴走デジモン対処の免許を取ったばかりの頃。デジタルワールドで発生したバグがキメラモンになって現実世界に侵攻して来た事件があった。偶然たまたま居合わせた俺とブイモンが初動対応をしたのだが、キメラモンは便宜上完全体デジモンとして扱われているだけの正真正銘の化け物だ。降り頻る雨の中で三分間縛りのあるマグナモンでは倒し切れず逃げようとしたその時、ふわりと城廻先輩が現れたのだ。

 

『あ、ブイモンだ。君、もしかして選ばれたテイマー?』

『え、えとそうですけど…………それよりあのキメラモンから逃げないと!』

『大丈夫大丈夫。私もブイモンがパートナーなんだ。行くよ、ブイモン』

『承知した。ブイモン、ワープ進化!』

 

ブイモンXは消耗している俺のブイモンを押しのけてアルフォースブイドラモンに進化すると、目にまとまらぬ早技でキメラモンを切り裂いてしまった。

 

『あ、アルフォースブイドラモン…………!?』

『マジかよ!八幡、完全に俺たちの上位互換だぞ!?』

『因みに、これだけじゃ無いよ。アルフォースブイドラモン、X-evolution!』

『ハアァッ!!』

『え、ええ…………?』

 

もはや勝負はついているのに、城廻先輩は満面の笑顔で持っていたデジヴァイスを掲げる。するとアルフォースブイドラモンの体が激しく輝いて、肉体を包む鎧がよりトゲトゲしく金色に染まった。そして右手の光の剣が更に太く強靭になり、アルフォースブイドラモンX抗体に進化してしまった。

 

『シャイニングVフォース!!』

 

胸から放たれた超巨大なレーザービームはキメラモンを跡形もなく消滅させてしまい、おまけにその余波で上空を覆っていた雨雲は全て吹き飛んでしまった。

 

『あ、やっちゃった。うふふ、初めて同じブイモンがパートナーのテイマーに会えて興奮しちゃったみたい。これから仲良くしようね?』

『ひっ…………!!』

 

天使の様に可愛らしい笑顔。なのにその背後に佇むアルフォースブイドラモンX抗体に加え、先程まで行われていた一方的な虐殺の光景が脳裏に焼きついた俺とブイモンは、その日以来城廻先輩とブイモンXを見るだけで体が震える体質になってしまったのだ。

 

「城廻先輩。そろそろ相模さんの挨拶が終わりますが…………」

「あ、そっかー。じゃ、打ち合わせ通りにお願いするね?」

「また後で会おう。ブイモン」

「ひっ…………わ、分かりました…………ブイモンX…………」

「流石にそこまで怯える事はねえんじゃね?」

 

ガチガチに固まったブイモンがブイモンXに敬礼する姿を見て思わずツッコミを入れてしまうが、ニコッと笑う城廻先輩を見ると思わず俺も敬礼してしまった。当然、雪ノ下が物凄い可哀想なものを見る目で見て来た。

 

それはそれとして。文化祭当日は午前中は実行委員として見回りをして、午後からは三十分ほどクラスの方で受付の仕事をすれば自由時間だ。小町とシャウトモンはその後に迎えに行くとして、それまではブイモンと一緒に大嫌いな仕事の時間だ。

 

「行くか。見回り」

「そうね」

「うげぇ…………首掴むなぁ…………頭の上に優しく乗せろぉ…………」

「甘えんな。嫌なら歩け」

 

敬礼の形のまま動かないブイモンの首根っこを引っ掴み、それでも動こうとしないブイモンを抱えながら雪ノ下と並んで歩き出す。雪ノ下もブイモンの扱いを見てもそこまで気にしている様子は無かった。

 

雪ノ下と一緒に各クラスや部活の出し物リストを片手に見回りを始めると、やはりと言うかなんと言うか。

 

「え、えーっと…………べ、別にデジモン達を働かせていた訳では…………無いんですけどねー?ただあくまで手伝って貰っていただけで…………」

「一色…………」

 

一年のコスプレ喫茶店をやっているクラスの様子を見に行くと、まず聞こえて来たのは聞き覚えのあるヤバ、と言う声。仕切りで隠された厨房に突入すれば、ナース服を着た一色とルナモンがクラスメイト達のパートナーデジモンに紅茶を淹れさせていた。

 

「デジモンの参加はあくまで補助と言った筈よ。それと安全性を考えて原材料は全て市販品を購入し、実行委員に領収書を提出する決まりだったと思うのだけど…………これは、デジタルワールドで自生しているデジリンゴかしら?」

「ギク」

「バレたかー」

「一色…………ルナモン…………」

 

口笛を吹いて誤魔化そうとしていた一色とルナモンが流石に追い込まれて自然と正座し始めた。どちらが主犯格かは分からないが、なかなか上級生を舐めた不正をしてくれているじゃないか。

 

「ご、ごめんなさーい!!予想以上にお客さんが来ちゃって材料が足りなくなちゃったんです!!」

「ふう。それなら普通に後から追加申請してくれれば…………」

 

ナース服の一色がテヘッと自分の頭を小突いて舌を出して、思わず俺と雪ノ下がイラッとする。と言うか最早確信犯では、と言う疑いが俺たちの間で濃厚になっていく。

 

雪ノ下が心底疲れ切った顔で頭を抱える中、一色以外の働いている面々を見る。女子はキャビンアテンダントや婦警のコスプレをしていて、男子は野球やサッカーのユニフォームで選手のコスプレと言い張っていた。どう見ても女子の方で予算を食い潰したな。

 

「…………ん?」

「どした?八幡」

 

ふとある事実に気づいた俺。ブイモンがルナモンが渡して来た賄賂のジュースを片手に首を傾げる中、雪ノ下から預かった事前の申請書を確認する。

 

「一色。女子のコスプレ衣装だが…………」

「な、なんですかせんぱい!?まさか、せんぱいの癖に女子の服をガン見して批評しようってんですか!?そんな事辞めてください見るのは私だけにしてくださいお願いですから」

「お、おう…………お前のマシンガントークは心底どうでも良いがな。雪ノ下、これ」

「…………校内風紀規定に従い、スカートの裾は膝までに同意しているわね。一色さん?」

 

ナース服のミニスカを更に短くして生脚どころか太ももまでもを見せつけていた一色。見れば他の女子も事前の申請より明らかに露出が多い。

 

「い、いやー。私が試しにスカートの裾短くしたら、売上が明らかに上がりまして…………テヘッ」

「ブイモン!今すぐ教室行って川崎呼んで来い!!存分に叱られろお前!!」

「あ、辞めてー!!川崎先輩だけはー!!」

 

その後事情を知って掛けつけた川崎にめちゃくちゃ叱られた一色達が渋々コスプレ衣装の露出を元に戻したのを見届け、デジリンゴなどの不正に集めた材料を没収させて貰った。

 

「ったく、あの馬鹿…………」

「ああ言う悪知恵は働くのね…………」

「自称可愛い後輩らしいが、あの腹黒さを隠し切れてねえうちは絶対に俺は認めないぞ…………ん?」

 

没収したデジリンゴを両手に抱えながら、俺と雪ノ下は後でこの文化祭を手伝ってくれたデジモン達に配って回るか、なんてことを相談しつつ会議室に一度戻る。そして会議室の扉を開けようとすると、中に誰かが居る事に気づいた。相模だ。

 

雪ノ下も相模に気づいて口を閉じる。会議室の中の相模は俺たちに気づいた様子は無く、机の上で体調悪そうにグッタリしているドラクモンと並んで置いてあるアークをジッと見つめていた。

 

実行委員長としての仕事は暫くは無いし、多分取り巻きの連中引き連れて文化祭巡りしているモンだと勝手に思っていたのだが。

 

(様子が変ね。どうしようかしら?)

(…………仕方ないな。ま、最後の方は死ぬ気で頑張ってたんだし。少しは気を楽にしてやるか。雪ノ下、ブイモン任せるわ)

(はぁ。八幡、ホント変なところでお人好しだよなぁ)

 

今も相模の事は気に食わないブイモンを連れて行くのは少し気が引けたし、何より多分相模はブイモンの事トラウマになってるだろうしな。

 

「よお、相模」

「っ!?あ、アンタ…………!!」

「一年が勝手に持ち込んだデジリンゴ置きに来ただけだったが…………まぁちょうど良いか。ホレ」

 

本気で怯えた顔で立ち上がった相模に、俺は携帯を投げ渡した。相模は本気でビックリした顔でそれを受け取った。

 

「メモリの一番上にあの写真があるから、お前の手で消せよ。まだ文化祭は終わってないけど、俺たちの間の話はこれで終わりにしたほうがお互い良いだろ」

 

俺に促されて即座に俺の携帯を操作する相模。物凄い速度で動いていたが、まぁ自分の犯罪の証拠が消えるのならそんなもんか。まぁコイツ自身のアークの履歴は消えないから、いつか役場にはバレるかもしれないけどな。

 

「…………アンタ、結局何がしたかった訳?」

「そりゃ、文化祭を台無しにしたくなかっただけだ」

「なんなのよ、ホント…………」

 

相模が俺の携帯を机の上に置いたのを回収すると、相模はまたしても会議室の椅子に座り込んでしまった。

 

「なんだ。もう自由の身だろ?遊びに行けば良いじゃねえか」

「アンタには関係ないでしょ!!」

 

突然声を張り上げる相模。こう言うのはボッチじゃ無くてもキツイ。思わず何も言えずに会議室を出ると、複雑そうな顔の雪ノ下がブイモンを抱いて立っていた。

 

「結局、相模さんこそ何がしたかったのかしらね?」

「クラスカーストとか、葉山との距離感とか?ま、俺たちボッチにはには理解できない事だろ」

「そこで貴方と同類呼ばわりは非常に心外なのだけれど…………」

(似たものカップルめ…………)

 

ブイモンが小声で何か呟いた気がしたが、俺も雪ノ下もそれは無視した。ただ、お互い顔が微かに赤くなっていることはどちらも口にしない事にした。

 

「雪ノ下、俺そろそろクラスの受付の時間だわ。ブイモン、行くぞ」

「ほーい」

「そう。じゃあ、また後でね」

 

雪ノ下からブイモンを受け取り歩き出す。雪ノ下はかすかに微笑み、小さく手を振って来た。俺も少しだけ手を挙げて返したが、全くもってお互い珍しいことをしたもんだ。

 

 

「あ、ヒッキー!待ってたよ!」

「遅いよぉ。結衣が寂しがってたのに」

「わ、悪いな」

 

いつもの教室の前に作られた簡単な受付の椅子に既に座っている由比ヶ浜とヒヤリモンが俺とブイモンを見て大きく手を振っていた。当然、一斉に周囲の視線が俺たちに集中してしまった。

 

「お前な、俺が目立ちたくないって知ってるだろ…………」

「ん?でも、最近のヒッキーって実は結構有名だよ?クラスのみんなだけじゃ無くて、他のクラスや学年の人にヒッキーのこと聞かれたことあったし」

「はあ?嘘だろ?」

「最近は色々あったからね。それこそさいちゃんのグミモン騒動の時にマグナモンのパートナーが居るって噂が一気に広がったし」

「…………マジかぁ」

「八幡…………」

 

思わず肩を落とす俺とブイモン。そんな俺たちを由比ヶ浜とヒヤリモンが不思議そうな顔で見ていた。

 

そりゃ、由比ヶ浜には分からないよな。そんなの当たり前の事なんだから、その事で由比ヶ浜を責めたりなんかしない。けど、やっぱりモヤモヤする。

 

仏頂面で背もたれにもたれかかる俺を他所に、由比ヶ浜がカバンをゴソゴソと探り始め、ヒヤリモンの顔色が変わる。

 

「あ、そうだヒッキー。お昼食べた?」

「…………由比ヶ浜、落ち着け。深呼吸だ。まず、何をするつもりか聞くぞ?対象物の回収はその後だ」

「物凄い警戒されてる!?だ、大丈夫だよ!!ただのハニトーだから!!」

 

由比ヶ浜はカバンからタッパーを取り出して開くと、白い何かに包まれたパンらしきものが出てきた。それがハニトーなのか?いや、多分違うぞ。由比ヶ浜製のハニトーかもしれないが、それは多分ハニトーじゃない。

 

しかし由比ヶ浜がそのハニトーらしきのものを可愛らしく摘んで口に入れると、美味しそうに頬を緩めていた。

 

「うーん。ちょっと甘いけど美味しいよ?」

「ま、マジか…………?味覚神経に異常は無いよな?」

「ないし!!もう!じゃ、先にブイモンにあげちゃうから!!」

「ヒャアッ…………!!モグモグ…………うん。八幡。このハニトー、不味くはないがただただ甘いぞ」

「旨いとは言わないのな…………」

「うん…………」

 

一口目は大丈夫っぽいが、三口目くらいでブイモンとヒヤリモン、そして由比ヶ浜も微妙な顔をし始めた。改めて見てみるとそりゃそうだろってくらいの砂糖や蜂蜜の山だった。ハニトーとやらの本物は食べたことはないが、多分本物は甘みとトーストの元々の味のバランスとかちゃんと考えて作ってんだろ。

 

「全く。いい加減料理にアレンジ加えるの止して基本に忠実に作れよ。ってホントだ、マジで甘味しか感じねえ…………」

「あ、食べてくれるの…………?」

「用意してくれたんだろ?」

「っ!!うん!!」

「結衣ちょろーい」

「まぁまぁ」

 

うるさいぞヒヤリモン。ブイモンも口ではヒヤリモンを抑えつつも明らかに笑ってるし。

 

しかし由比ヶ浜も顔を少し赤くしてちょっとだけ近寄ってきた。柔らかい良い匂いが強くなって思わず顔を背けてしまうが、由比ヶ浜は肩が当たるくらいに近づくと俺の頬に手を伸ばしてきた。

 

「あ、ハニトー付いてるよ?」

「…………っ!?」

「あはは。ヒッキー顔真っ赤」

「揶揄うなよ…………」

「小悪魔ー」

「ヒヤリモン正解!」

 

なんか隣でデジモンどもが下らない事言ってる気がするが、そんな事俺には関係ない。無いったら無い。顔なんか別に赤くなってないし。由比ヶ浜が小悪魔なのは別に俺にはなんの関係もないんだからな。

 

ペットボトルのお茶をがぶ飲みして色々なことを誤魔化しておく俺を前に、由比ヶ浜は鼻歌を歌いながらハニトーの最後の一欠片を口に入れた。

 

「そう言えば、由比ヶ浜は劇に出ないのか?今更だけど」

「本当に今更だ…………私は衣装の用意とか手伝ってたからね。ヒッキーは実行委員の仕事で忙しかったから知らないだろうけど」

「まぁ相模みたいにほとんどこっちに居た奴も居たけどな」

「さがみんは多分特別だよ。あ、でも…………」

 

相模のことに話が向くと、由比ヶ浜が遠くを見つめる目をしていた。その視線の先を俺も見てみると、相模に張り付いていた相模軍団の二人が二人だけで文化祭巡りをしているのが見えた。

 

「ヒッキーがさがみんを叱った後さ、さがみんはこっちに顔を見せなくなった訳じゃん?元々実行委員長だって自慢して回ってるだけだったのもあるんだけどさ…………いきなり実行委員会の方に行ったせいでクラスでもちょっと浮いちゃったみたいで…………」

 

それでアイツ、会議室に一人で居たのか。初耳、と言うか知ろうともしていなかったので当たり前っちや当たり前だったが、まさか相模がボッチ化してしまっていたとは。自業自得感は無くはないがあのキャラだとボッチ化は堪えるだろうな。

 

由比ヶ浜はそんな相模の事もなんとかしてやりたそうな顔だったが、どうしようも無い事は俺も由比ヶ浜も分かっている。と言うか考えれば考えるほど自業自得でしかない訳だし。

 

「これだから人間関係って奴は…………」

「八幡…………」

「ヒッキー?ブイモン?」

「どうしたのー?」

 

思わずつぶやいた俺を不思議そうな目で見てくる由比ヶ浜。その時周囲がざわついている事に気がついた。見れば黒い小さな影、ドラクモンがしんどそうな顔でこちらに近づいてきていた。

 

「あ、お前相模のパートナーのドラクモンか?」

「…………うん」

「大丈夫?しんどそうだけど」

「ここに座れよ」

「…………うん」

 

言葉少なく大人しくクッションの上に座るドラクモン。まだ相模にインストールさせられた不正プログラムの悪影響は抜けきっていないらしい。

 

「大丈夫?確か、デジモンの病院が千葉駅にあるって聞いた事あるよ?さがみんに連れてってもらったら?」

「さがみん…………?あ、そうか。南のことか。それは大丈夫だって。だいぶ治ってきたし、もうちょっと休めばきっと…………」

「まぁデジモンは新陳代謝でバグプログラムも消えて行くらしいからな。それより、お前のパートナーの方も大丈夫なのか?こんな状況でお前だけで歩かせるってのもだいぶ非常識だぞ?」

「…………グスッ」

 

その時、ドラクモンが涙を流した。

 

「南は変わっちゃったんだ。昔の南は、あんなんじゃ無かったのに…………」

「…………ドラクモン、それは…………」

「俺、昔から悪戯が好きでさ…………色んな人間やデジモンに迷惑かけてきたさ。南はそんな俺を認めてくれて、たまに一緒に悪戯手伝ってくれたよ。だけど最近になって、階段を降りてるアンタに攻撃しろとか、水ぶっかけろとかさ…………もう悪戯のレベルじゃねえんだ」

「そうだな。今の相模はその分のツケを支払ってる状況だ。それを本人がどこまで理解してるかはわからないけどな」

「その辺りを教えてあげるのも、パートナーデジモンの役目だと思うよ?」

「分かってるさ。でも、俺の声も聞きたくないって追い出されちゃったんだ」

 

ドラクモンとの仲違いと言えば聞こえはいいが、これでは相模がもはやパートナーとの関係性すらまともに維持出来ていない。なんだか嫌な予感がしてきたが、今の文化祭を開催するにはこの状況は避けられない所まで来ていたのも事実だ。

 

相模を甘やかして俺たちで支えてやれば相模にとっては良かったかもしれないが、間違いなく文化祭は実行委員の機能不全で台無しになっていた事だろう。雪ノ下は優秀だが神様じゃない。相模が実行委員長の立場のまま甘え続けていれば、どこかで雪ノ下が潰れていただろう。

 

「俺たちが、アイツの尻を叩くのが遅すぎたのかもな」

「ヒッキー…………」

「でも、南が今のままじゃダメなのは俺だって分かるんだ。だから、先輩テイマーとそのパートナーのアンタ達に何か教えて欲しくて来たんだ!俺、どうすればいい!?」

 

必死に頭を下げるドラクモン。その姿に対してテイマーの情け無さに言葉を失ってしまうが、同時になんとかしてやれたらとも思ってしまう。

 

「ヒッキー、これは奉仕部への依頼だよ。私達でせめて、さがみんとドラクモンの仲直りを手伝ってあげようよ」

「結衣の言う通りだよ。ボク、ドラクモン助けてあげたい」

「あんな奴でも、ドラクモンのテイマーなんだろ?八幡、助けてやらないかな?」

 

由比ヶ浜もヒヤリモンもブイモンも俺に期待の眼差しを向けて来る。だが、簡単な話では無い事はこの場の全員が分かっていた。だからこその期待の眼差しなのだろうが、残念ながら今すぐ出来る解決案など頭に浮かんではこなかった。

 

「…………依頼を受けるのは問題ないけどな。流石に考えをまとめる時間が欲しい。雪ノ下にも相談したいしな。とりあえず、ドラクモンは暫く相模とは距離を置いとくべきだろ。今は、相模に近寄らないほうが良い」

「…………分かったよ」

「ヒッキー、どうしよう?」

「とりあえずもうすぐ小町が来る。今日いっぱいは小町とシャウトモンに面倒みてもらうか」

 

ちょうど受付の交代の時間だったので立ち上がりつつ小町に連絡を取る。そして事情をある程度のところまで話してみると、小町もすぐに理解してくれた。

 

「お兄ちゃん、この子?」

「ああ。まだちと体調不良みたいだから丁寧に扱えよ、シャウトモン」

「分かってるさ!にしても暗い顔してるな、新入り!せっかくのイベント、楽しまなきゃソンだぜ!?」

「え、ええ?」

「まずは校庭の飛び入り参加可能な歌唱大会に参加だな!!行くぜ行くぜ行くぜ!!」

 

俺の説明をどこまで聞いていたのか、シャウトモンはドラクモンを引っ張っていきなり走り出していた。小町が困った顔で止めようと追いかけて行くのを横目に由比ヶ浜の耳元に近寄った。

 

「俺は小町と一緒にドラクモンの方を見ておくわ。由比ヶ浜は雪ノ下を探して事情を教えてくれるか?」

「う、うん!がんばってね、ヒッキー。行くよ、ヒヤリモン」

 

ヒヤリモンを肩に乗せて走り出した由比ヶ浜の背中を見送り、俺とブイモンは小町達を追いかけて走り出すのだった。

 

 

それから数時間、俺たちはシャウトモンに振り回されるドラクモンを時折助けつつ文化祭をめぐって行った。途中で偶然出会った城廻先輩と陽乃さんのコンビに俺とブイモンが直立不動になって動けなくなるなどのトラブルもあったが、基本的は平和な文化祭巡りになったと思う。

 

しかし問題は既に起き始めていた。それを知ったのは実行委員としての最後の仕事、ラストのステージの準備の為に小町達と離れたタイミングで雪ノ下からの連絡が来た時だった。

 

「相模が消えた?」

『ええ。おまけに、ステージの後で発表する予定だった最優秀賞の結果が書かれた書類と一緒にね』

「保管してたのは相模だしな。盗もうと思えば簡単な訳だ。だが、まさかそこまでやるとは」

『お互いに考えが甘かったわね。比企谷君、彼女を探すのをお願い出来るかしら』

「分かった。ならラストステージ、時間稼いでくれるか?」

『ええ。由比ヶ浜さんも手伝ってくれるし…………何より余計な仕事を増やした姉さんと一色さんにも手伝わせるから』

『ひどーい、雪乃ちゃんのこと考えての事だったんだよ?』

『雪乃先輩、私結構反省してるんでー』

『二人とも、黙って準備しなさい。さもないとスピリットエボリューションするわよ。と言うわけで、三十分くらいは時間を稼げると思う』

「分かった。なんとか出来るかは分からないけどな」

 

まさか相模がそこまでするとは。犯罪の証拠を消すのが早かったか、と後悔するが、そもそもそんなことを後悔させるなと声を大にして言いたい。

 

電話を切り、とりあえず靴箱を探っていたブイモンを見る。よじ登った靴箱に首を突っ込んでいたブイモンが振り向いて首を横に振る。

 

「八幡、相模はまだ校内だ」

「何が目的って、文化祭の失敗か?それとも…………」

「誰かにSOSを送っているか、かい?」

「うおっ!?葉山ぁ…………!!」

「ボクもいるよー」

「ワームモン!」

 

突然後ろに現れた葉山とワームモン。本当にコイツ変なところで神出鬼没過ぎるだろ。ってか後ろに立つんじゃないよ色々怖いだろ。

 

「事情は俺も聞いてるよ。実行委員の方からこっちに相模さんが来てないかって連絡があってね」

「そりゃそうだろうけどな。これは実行委員の仕事だぞ」

「だけど相模さんは俺たちのクラスメイトじゃないか。それに、テイマー犯罪の気配も感じるし」

 

あいも変わらず鼻の効く奴だ。確かに相模は俺達が黙っているから何も言われていないだけで、然るべきところに通報すれば少年院送りもあり得るテイマー犯罪者だ。別に庇っている訳では無いのだが、対処を間違えば総武高校全体に飛び火しかねない火薬庫と化している。本人にその自覚は無さそうだが。

 

「比企谷、どこに居るかある程度の検討は付いてるんじゃないか?」

「なんでそう思うんだよ」

「相模さんがクラスに顔を出さなくなった日に雪乃ちゃんが風邪をひいてること。その日からやけに彼女が君に怯えていた事。後ついでに君の悪口を友達経由でばら撒こうとして失敗してた辺りからかな。彼女が何かしらのトラブルを起こしたのを君がなんとかしてあげたんだろうって想像してたよ」

「ケッ」

 

見透かした様な顔、と言うかドヤ顔する葉山に思わず舌打ちする。実際のところは微妙に違うのだが、わざわざ指摘する理由もないだろう。

 

「多分屋上だ。この間そこに居たからな」

「見つけてどうするつもりだい?まさかとは思うけど、説得出来る自信があるのかい?」

「自信はねえけど、なんだいきなり。お前にしちゃやけに相模に攻撃的だな。トップカーストのリーダーがそんなんで良いのかよ」

「俺だって人間だからね。今の相模さんを助けたいと思える気分じゃ無いのさ」

 

葉山の意外な返事に思わず眉を顰める。しかし葉山は特に気にした様子もなくD-3をポケットから取り出した。もう戦闘態勢に入っている辺り、本気で相模相手に優しくする気は無いようだ。

 

何となくだけど、葉山がそんな事言う姿を見たくない気持ちだった。俺たちの元リーダーが、俺の元相棒はそんな汚い一面を醸し出す様な奴と思いたくなかった。だけど俺が不満げな顔をしているのが分かったのか、ワームモンが葉山の肩の上によじ登って俺を見つめてきた。

 

「八幡。隼人は怒ってるのは、あの女の人が八幡を陥れようとしてた事になんだよ。実行委員としてあんなにも必死に走り回ってたのに…………」

「それは別にお前らには関係無いだろ」

「関係なくは無いさ。君は俺の…………」

「相棒なんかじゃねえぞ」

 

葉山の言葉の続きはすぐに分かった。ただ、こればっかりは譲れない。

 

確かに俺と葉山は昔は相棒だった。だけどそれは小学生の頃の話であって、今の俺たちは接点の無いただのクラスメイト。それ以上でもそれ以外でも無い。

 

なのに未だにうじうじうじうじ。コイツがしつこいのは知ってたが、ここまで女々しいとは思わなかったし、それが余計に面白くない。

 

俺の元相棒はもうちょいカッコいい奴のままだなーって、遠くから小馬鹿にした感じで見ていたいんだよ。口には出さないけど。

 

「ジョグレスパートナーが欲しかったらな。他のD-3持ち探せよ。俺じゃなくて良いはずだろ。俺よりもっと凄い相棒見つけて活躍してろよ。俺は一人で良いから」

「は、八幡…………やめろよそんな言い方…………」

 

ブイモンが俺の制服のズボンの裾を掴んで来るが、こればっかりは例えブイモン相手でも譲れない。葉山とワームモンが顔を顰めるのがわかるが、お前らには分かってもらえるとは最初から思ってもない。

 

意地とだと思いたければ思え。笑いたきゃ笑え。俺にはもう、葉山と並ぶ理由なんか無いんだからな。

 

「…………君は本当に面倒くさいな」

 

しかし返ってきたのは葉山の冷たい目だった。ワームモンも心なしか冷え切った顔でため息を吐く仕草をしている様な気がする。

 

「なんだよ。文句あるのか?言っておくがな、これが俺なりのちば組解散へのケジメなんだよ。お前ら全員ちば組解散には言いたいことあるんだろ?だから…………」

「そりゃ色々言いたいさ。けど…………うん。薄々気が付いてたけど、あの頃のちば組に一番拘っているのは君だよね」

「は?」

「意地になるのは俺も人のことは言えないけど、君も一々あの頃の関係を引き合いに出してるじゃないか。本当にもうちば組の関係に未練が無いならそんな事言わないさ。だろう?」

「んぐっ…………」

「言い負かされちゃったね、八幡」

「いつもは八幡の屁理屈に丸め込まれてるのに、ここぞって時の隼人は強いよなぁ?」

 

葉山もワームモンも、ブイモンも俺を可哀想なものを見る目で見てくる。ええい、やめろ。せめて馬鹿にした感じにしろよ。それくらいの悪意のある目ならスルー出来るが、生暖かい目をされるとめっちゃ居心地悪いんだぞ。

 

「…………お前も変なところばっか変わらないじゃねえか。子供の頃から一々俺に構って来やがって」

「相棒だろ?」

「相棒って言うな。俺たちは先に屋上行ってるぞ」

「ああ。彼女の注意を引きつけておいてくれ」

 

こう言う時は別行動、と言うのが子供の頃からのお約束だった。打ち合わせをしていないのにここまでお互いの行動が読めると言うのは、なるほど確かに俺は葉山達との関係性に拘っているらしい。全く、そんな俺自身に不愉快だ。

 

ブイモンがまだ生暖かい目で俺を見つめているのが分かるので何も言わないまま屋上に向けて走る。屋上の扉は鍵が開いていて、少し開けて覗き込めば案の定相模が一人で佇んでいた。

 

「ブイモン、行くぞ」

「どうするんだよ。進化して脅すか?」

「葉山が作戦考えて来るまで時間を稼ぐ。それで良いだろ」

 

ブイモンと一緒に扉を開けて屋上に足を踏み入れる。その音に気づいて相模が一瞬何かに期待した様な顔で振り返り、そして俺の顔を見て顔を顰めた。分かりやすい奴め。

 

「葉山じゃなくて悪かったな」

 

大方、ここまで追い詰められた可哀想な私を助けに来てくれた葉山君、なんてストーリーを頭の中に思い浮かべて居たのだろう。どこまでも相模にとって都合の良い妄想通りに事態が動くと思っているのだろうか。

 

葉山は普通にお前の事助ける気なさそうだと言ったらどんな顔するかなコイツ。

 

「…………なんで、アンタが」

「お前が持ち出した最優秀賞の結果を取り戻しに来た。今ならまだ間に合うぞ。体育館に戻って結果発表をお前自身でやり切れれば少しはマシだろ」

「マシ?何が!?」

 

相模が書類を握りしめ、肩を怒らせてこちらを睨んできた。アークをポケットから取り出して臨戦態勢を取るが、ドラクモンは近くに居ないのに対してこっちにはブイモンが足元にいる。そもそもドラクモンが居ても相模に勝ち目は無いけどな。

 

しかし相模はアークと書類を握りしめて放さないまま後退り、絶対に俺には渡さないと意思表示してみせた。

 

「そんな事しても、クラスでの立ち位置は変わらないぞ」

「アンタなんかに何が分かるのよ!!本物の選ばれし子供の癖にさぁ!!ウチがどれだけ努力して来たと思ってる訳!?その努力を全部無駄にしたのはアンタ達でしょ!?」

「自業自得だろ。努力の方向性を間違えたんだ」

「間違えた!?ウチは頑張って来た!!みんなの為に頑張ったのに!!」

「その頑張りはお前にとって都合の良い頑張りだったんだよ。俺に言える事じゃないかも知らないけどな」

 

興奮状態の相模を落ち着かせ様にも、俺の顔を見るだけで怒りが湧いて来ているらしい。これでは落ち着かせるもクソもないが、相模の言う本物の選ばれし子供の癖にってセリフはなんか気に障るな。

 

「テイマーに本物もへったくれもないだろ。確かに俺たちはデジタルワールドを冒険した。だけどそれは個人の経験でしか無い。どんな経験をしたって成長出来るかどうかはそいつ自身の問題だ。違うか?」

「な、何よ!?そんな訳無いじゃん!!アンタ達には分からないわよ!!ウチ達偽物の気持ちなんか!!」

「俺が出会って来たテイマーには、デジタルワールドを冒険してなくてもしっかり成長して来た奴らは大勢いた。デジモンとの出会いをキッカケに成長して来た奴らだ。お前にだってそのチャンスはあったはずだろ」

「そんなの知らない!!」

「だったら今がそのチャンスだと思え。成長のチャンスを無駄にするな」

「知らない!知らない!!知らない!!!アンタなんかに何でウチが見下されなきゃならないのよ!!」

 

俺に絶対に書類を渡したく無い、との意思表示なのだろう。さらに後ずさって屋上の手すりにしがみつき、アークを潰さんばかりに握りしめた。だが、ドラクモンはここには居ない。

 

ブイモンがもはや言葉も無いと言わんばかりに拳を握りしめる。視線で力ずくで取り押さえようかと訴えかけて来た。だが、相模もそれを警戒してか書類をいつでも破れる様に両手で掴んだ。ここで真正面から取り押さえにかかれば間違いなく破り捨ててしまうだろう。

 

「もうウチの事なんか誰も気にしてないんでしょ!?だったらせめてこの文化祭を…………」

「そうはさせない!!」

「っ!?」

 

その時、屋上の手すりの向こうから黒緑色の影が飛び上がって来た。スティングモンだ。

 

相模は突然背後に現れたスティングモンに反応出来ないまま、現れたスティングモンが相模から書類を素早く奪う。

 

「スティングモン…………」

「悪いね、相模さん。俺も実は聖人君子って訳じゃ無いんだ」

 

屋上に姿を現した葉山はなんの感慨も湧いていない顔でポケットに手を突っ込みながら俺の隣に立つ。なんとなく面白く無いので一歩離れておいた。

 

スティングモンは葉山に書類を渡すと、葉山は結果を確認してから呆然としている相模を見る。

 

「これで最優秀賞の結果は君だけが知っている訳じゃなくなったね。勿論、スティングモンにひったくりをさせたと言われたら申し開きも無いけど」

「驚いたな。お前がこんなリスクのあるやり方を取るなんて」

「たまには良いだろ?昔、俺の相棒がよくやってた手さ」

「その時は俺達が真正面で戦ってたら、気がつくと八幡達が敵の後ろに回り込んでたっけな」

 

葉山とスティングモンのドヤ顔に軽く引きつつ、呆然と立ち尽くす相模を見る。もはや打つ手は無い事は理解しているのだろう。脂汗を滲ませ、やがてその顔は絶望と恐怖で激しく歪む。

 

俺も葉山も別に、相模に嫌がらせがしたい訳ではない。助ける義理は無いのだが、今の相模をこのままにしておくのも後味が悪いのはお互い同じだ。

 

「相模さん、これは取引だ。このまま君が実行委員長としての仕事を全うすると言うのならこの書類を返すよ。ついでに今の俺の犯罪行為を黙っていてくれるともっと嬉しいかな」

「実質脅しじゃねえか、それ」

「人の事を言えるのかい?」

 

変なところで俺の真似しやがって。似合わないんだよ、全く。

 

「…………よ、そんな…………」

「ん?」

 

その時、相模が不意に声を震わせた。

 

「なんでよ…………なんでよ!!ウチも選ばれたのに!!ウチは何したって上手くいかなくて!!なんでアンタたちは何でもかんでも!!」

「お、おい相模…………」

「本物がそんなに偉いって訳なの!?なんでウチは、本物になれないのよォォォォォォォ!!」

 

真っ黒なエネルギーが相模の体とアークから吹き出した。

 

 

ステージの上で雪乃と結衣をメインボーカルとしたバンドが体育館に集まった総武高校の生徒やデジモン達が盛り上げる中で、小町とシャウトモンはドラクモンと一緒にそのステージを見ていた。その後ろではルナモンやテリアモンやロップモンが踊って見せてステージに華を備えていた。

 

「いやー。流石は雪乃さん達だねぇ」

「俺も!!俺も参加させろー!!」

「あーはいはい。我慢してよー。また来年ね。それよりもドラクモン、大丈夫?」

 

ハンドマイクを片手に叫ぶシャウトモンを小町が抑えつつ、また少しよろめいたドラクモンに手を差し伸べる。だが、ドラクモンの様子は頭の辺りを押さえて蹲った。

 

「ドラクモン?」

「う、うう…………み、南…………ダメだ…………南、止まって…………」

 

その時、小町は気づいた。闇のオーラ、暗黒の力がどこかで膨れ上がっている。かつてデジタルワールドを冒険していた頃、雪乃が怒りで心を闇に囚われて暴走した事があった。真っ黒に染まったヴォルフモンが辺り一面を焼き払い、それを止める為に八幡と葉山は初めてジョグレス進化をしたのだ。

 

「雪乃さん!!ヤバいですよこれ!!」

 

その声がステージの上の雪乃達に聞こえる筈はなく、どこからともなく降り注いだ闇のエネルギーがドラクモンの体を包み込む。ドラクモンの全身を構成するテクスチャデータが剥がれ、ワイヤーデータが歪に歪む。そしてドラクモンの体は闇のエネルギーを帯びて膨れ上がった。

 

「オオオォォォォォォォッッッ!!!!」

「な、何!?」

「この気配…………デジタルシフト!?」

 

結衣と雪乃が邪悪な気配を感じて演奏を止めると、ドラクモンを包む闇のエネルギーが更に増大していく。そのエネルギーは現実すらも侵食していき、総武高校の敷地内がゼロとIの世界に変換されて行く。上下左右も存在しない、どんな色とも言える謎の空間の中に総武高校は存在していた。

 

「こ、これは…………」

「デジタル空間…………デジタルワールドと現実世界の中間にある世界…………だけど、この闇のエネルギーは…………」

「オオオ…………」

「グゥぅぅぅぅぅ…………」

 

雪乃が感じた通り、闇のエネルギーはどんどん増幅していく。そのエネルギーを浴びた総武高校のデジモン達の目から理性の色が消え、牙と爪をむき出しにして吠え始めた。それは結衣のヒヤリモンや、戸塚のテリアモンとロップモンも同じだった。

 

「う、うう…………結衣…………」

「ヒヤリモン!!」

「さ、さいか…………」

「また、暴走しちゃうよぉ…………」

「テリアモン!ロップモン!!」

「このデジタル空間内のデジモンは凶暴化してしまうと言う事…………?」

「だが、俺たちは大丈夫だぞ!?」

 

城廻先輩が周りを見渡す中で、ブイモンXは自分の中に流れ込む闇のエネルギーを抑え込めていた。それはいろはのパートナーのルナモンや、川崎のパートナーのアグモン、そして小町のシャウトモンも同じく抑え込めていた。

 

「ある程度力のあるデジモンは抑え込めているわけですねー。けど…………」

「暴れてるのは、成長期や幼年期。せいぜい成熟期まで」

「余り強い姿に進化させたら、暴れてる子達を死なせてしまうわ」

 

いろは、川崎、雪乃の三人はそれぞれデジヴァイスを構え、同じくステージに駆け込んできた小町もクロスローダーを構えた。

 

「雪乃さん!私たちもたまには頑張りますよ!!」

「この状況でなら、デジクロスは役に立つと思うぜ!!」

「で、デジクロス?」

 

聞き覚えのない言葉に結衣が首を傾げる。小町は前に説明した様なと一瞬思ったが、今は見せた方が早そうだ。

 

「結衣さん、戸塚さん!小町とシャウトモンに、パートナーを一旦預けてもらえますか!?」

「え?」

「そっか、デジクロスすれば、テリアモンやロップモンも暴走に巻き込まれないんだね!?」

「そう言う事!!久しぶりに行くぜ、小町!!」

「うん!!」

「シャウトモン!ヒヤリモン!テリアモン!ロップモン!!デジクロス!!」

 

小町がクロスローダーを構え、シャウトモンが蹲っているヒヤリモンとテリアモンとロップモンの肩に触れる。

 

「シャウトモン!」

「ヒヤリモン!」

「テリアモン!」

「ロップモン!」

「「「「デジクロス!!」」」」

 

クロスローダーの液晶画面の上が開き、ブイの字の装飾が現れる。すると四体のデジモン達がシャウトモンを中心に光となって、一つになったシャウトモンの背中にはテリアモンとロップモンを思わせる色の翼が生え、体はヒヤリモンを思わせる水色の氷の鎧に変わった。

 

「シャウトモンX4!!」

「現実世界限定ニューバージョン!!」

 

全く新しいデジクロス形態になったシャウトモンX4が襲いかかって来るピコデビモンを殴り飛ばす。

 

「こっちは私達でなんとかしましょう!!姉さん、由比ヶ浜さん、皆を外へ!」

「そうね。それ以外にやれる事は無さそう」

「わ、分かった!みんな、お願いね!!」

 

雪乃に頼まれた結衣達が走り出し、改めてその場の選ばれし子供達はデジヴァイスを構えた。一応、雪乃は舞台袖に駆け込んだ。

 

「スピリットエボリューション!」

「カードスラッシュ!」

「デジソウル、チャージ!」

 

体育館に強烈な光が瞬いた。

 

 

デジタルシフトの衝撃を受けて吹き飛ばされた俺と葉山がようやく起き上がると、周囲は既にデジタル空間へと変換されていた。おまけに強烈な闇の波動を感じて見上げれば、そこには歪なケンタウロスともケルベロスとも見える巨大な悪魔の様なデジモンが。

 

「グランドラクモン!!」

「暗黒進化…………!!」

「やっぱり来やがった…………ドラクモンは近くにいないから大丈夫だと思ったが、甘かったか…………」

 

相模の不安定さを考えれば暗黒進化は考えられる事態ではあった。なので小町にドラクモンを引き離して置いてもらっていたのだが、まさかデジタルシフトを利用して空間を飛び越えて暗黒進化させてしまうとは。おまけに相模の姿が見えないと言う事は、暗黒進化版のマトリックスエボリューションまでしてやがる。

 

「どこまでも面倒かける奴だなオイ!」

「二人とも、ここは全力で行かないと不味いよぉ!」

 

ブイモンとワームモンが俺たち、と言うか俺を相手にせっついてくる。そりゃそうだ。嫌がっているのは俺だからな。

 

葉山はもう無言でD-3を構えて用意していて、俺相手に無駄な交渉もするつもりはないらしい。とにかく今は黙ってやれって事か。

 

「あーもう!今だけだ!!一回だけだぞ!!」

「それで良いさ!行こう!!」

 

俺もD-3を構え、二つのD-3が同じパターンで発光する。ブイモンとワームモンが同時に走り出し、そして光り輝いた。

 

「ブイモン進化!エクスブイモン!!」

「ワームモン進化!スティングモン!!」

 

エクスブイモンとスティングモンに進化し、そして更に光を増した。

 

「「ジョグレス進化!!」」

 

二つの光がぶつかり、巨大な人形の龍が姿を見せる。顔や体のあちこちにスティングモンを思わせる装甲が包み込み、そして腰のあたりに一対の生体砲が生える。

 

「パイルドラモン!!」

 

生体砲からエネルギー弾を連射しながら上空のグランドラクモンに向けて飛び掛かっていくパイルドラモン。グランドラクモンには多少痛い豆鉄砲くらいにしか感じないのだろうが、それでも攻撃対象に選ばれたのか腰のあたりにある巨大な二つの頭から氷を吐き飛ばしてくる。

 

パイルドラモンはそれを素早く避けて一気に接近すると、噛み付いてくる二つの頭を回避してグランドラクモンの顔面に迫る。そして両腕の甲からスパイクを生やして強烈なラッシュを放った。

 

「くらえ!エスグリーマ!!」

「ウググッッッ!!」

 

何発も強烈なラッシュを喰らい、微かにグランドラクモンが顔を顰める。反撃に出たグランドラクモンが強靭な腕でパイルドラモンを叩き落とそうとするが、即座に離脱したパイルドラモンは生体砲を構えた。

 

「デスペラードブラスター!!」

 

最大出力の生体砲の連続発射をまともに食らったグランドラクモンが僅かによろめいた。だが、着弾の煙が晴れると僅かについた傷がみるみるうちに修復されていた。

 

「コイツ、再生している!?」

「超高速再生プラグインか!!まだ不正パーツ持ってたのかよアイツ!!」

「隠し持ってた不正パーツ全てがインストールされていると考えるべきだろうね。なら、一気に焼き尽くすまでだよ!!」

 

デジタル空間であることを利用してパイルドラモンの側まで来た俺たちは、もう一度D-3を構え直す。すると空の彼方から竜の形の光が降り注ぎ、その光はパイルドラモンの体の周囲を巡る。

 

「パイルドラモン、究極進化!!」

 

ただでさえ巨大なパイルドラモンが更に巨大化し、四足歩行のドラゴンへと姿を変える。翼が更に大きく広がり、強靭な四肢を黒い装甲が覆う。そして背中に巨大な生体砲が現れ、ドラモン系譜において最強格とも呼ばれる究極体デジモンがデジタル空間に姿を現した。

 

「インペリアルドラモン!!」

 

口から放たれたエネルギー弾の直撃を受けたグランドラクモンが吹き飛び、デジタル空間に僅かに残された地面に叩き落とされる。だがそのダメージの分もまた再生してしまった上に、更にグランドラクモンは巨大になっていく。

 

「ダメージ吸収と活性化のプラグインも入ってたか。ありゃ元を消さないとイタチごっこだ」

「俺たちの火力なら跡形もなく消し飛ばせちまうぞ?」

「そんな事をすれば、相模さんも消し炭だ。ドラクモンも死んでしまう」

「なら、まずは不正データを消させてもらう事にするか」

 

巨大化したグランドラクモンが吠えながら氷のエネルギー弾を連射してくるのを、猛スピードで回避しながら突っ込んでいくインペリアルドラモン。すれ違い様に前脚でラリアットを放ってグランドラクモンを薙ぎ倒すが、それでもダメージ分は再生しつつ巨大化してしまう。

 

「出し惜しみ無しで行くぞ!」

「ああ!!」

「インペリアルドラモン、モードチェンジ!!」

 

インペリアルドラモンの目が光り、四足歩行から直立二足歩行へと進化する。全身を覆っていた昆虫の様な甲殻は鎧に変わり、龍の顔が精悍な人のような顔になる。最後に背中にあった生体砲が右手に装着され、上空に向けて試し撃ちする。

 

「ファイターモード!!」

 

人型となった事で格闘能力を得たインペリアルドラモンは、グランドラクモンの首を掴み強烈な膝蹴りを腰の二つの顔に叩き込む。そして生体砲が付いた右手でチョップを放ってグランドラクモンを大きくよろめかせると、俺たちの方を振り向いて頷いた。

 

「行け!ホーリーリング!!」

「受け取れ!」

 

俺たちのD-3に二つに分けて保管されていたデータが一体化し、巨大なホーリーリングに変わる。そしてそのホーリーリングは巨大な剣──聖剣オメガブレードに変わり、インペリアルドラモンがそれをキャッチすると、全身の鎧と翼が白く染まった。ロイヤルナイツの始祖と言われるインペリアルドラモン・パラディンモードだ。

 

「邪悪なプログラムは全て抹消させてもらう!オメガブレード!!」

 

オメガブレードを掲げ、グランドラクモンの体を一閃。オメガブレードの刃はグランドラクモンの体に傷を付けなかったが、内部に蠢いていた不正プログラムの全てが一瞬にして抹消された。

 

「ウオォォオォォォォォォ!?」

 

グランドラクモンの体がどんどん縮んでいき、デジタルシフトも解除されて普通の景色が戻ってくる。だが、総武高校とその周囲を焼き尽くさんばかりのグランドラクモンはまだ残っている。

 

「は、隼人…………」

「むお!?は、八幡!?」

 

生徒達が避難しているグラウンドに着地した俺たちのD-3に反応が入り、グランドラクモンの胸の辺りに消えかけているアークの反応を見つけた。にしても三浦と材木座はやけに存在感凄いな。

 

「インペリアルドラモン!胸の辺りだ!」

「分かった!!」

 

俺の合図を聞いたインペリアルドラモンはオメガブレードを手放しファイターモードに戻ると、左手でグランドラクモンの胸に貫手を放つ。グランドラクモンが悲鳴を上げ、めり込んだインペリアルドラモンの左手が何かを掴んで引き抜かれた。

 

「グォォォォォォォォ!?」

「ごめんな、ドラクモン…………皆んな!デジヴァイスを持っているなら、ゲートを開いてくれ!!アイツをデジタルワールドに強制送還する!!」

「わ、分かった!!」

 

葉山の号令で慌てて三浦達がデジヴァイスを構えてデジタルゲートを開く準備を始める。その間、インペリアルドラモンは左手に掴んでいたモノ、意識を失った相模をグラウンドに優しく置くとふらついているグランドラクモンを睨む。

 

「飛ぶぞ!インペリアルドラモン!」

「ああ!モードチェンジ!!ドラゴンモード!!」

 

ドラゴンモードに戻ったインペリアルドラモンはグランドラクモンを咥えて遥か上空に飛び上がる。そして作った時間でグラウンドに超巨大なデジタルゲートが開いたのを確認し、グランドラクモンを離して落下させた。

 

「「撃て!!」」

「メガデス!!」

 

口から放たれた超極力なエネルギー弾がグランドラクモンの背中に直撃し、目にも止まらない程の速度で落下。そのままデジタルゲートを通ってデジタルワールドへと強制送還されていった。

 

「終わった…………」

 

俺がそう呟くちょうどその頃、相模の手元に落ちていた灰色のアークがひび割れ、砕け散っていた。

 

 

 

 

本当に色々あった文化祭の時間から一週間後。俺たち奉仕部と葉山と城廻先輩は警察署に呼び出されていた。要件はもちろん、相模の引き起こした事件の調書を取るためだった。

 

「あ、あの…………さがみん、じゃなかった。相模さんはどうなるんですか?」

「まぁ、私達にはなんとも出来ない話ではあるよ」

 

由比ヶ浜が不安げな顔で警察官から話を聞いてきた平塚先生に聞いていた。まぁ、由比ヶ浜が不安そうになるのも分かる。あの事件から一週間、相模は一度も学校には来なかった。

 

パートナーデジモンを悪事に利用し、禁止されている違法パーツに手を出し、挙げ句の果てに暗黒進化させてあと一歩で大惨事になるところだった。お咎め無しになるには罪が重すぎる。

 

だが、相模にはもう既に罰は下されているとも言えるだろう。あの事件で相模のデジヴァイス、アークは砕け散ってドラクモンもデジタルワールドから戻ってこない。これはつまり、相模はドラクモンとのパートナー関係を解消されてしまった事になる訳だ。

 

「少年院送りは免れたよ。相模はこれから保護観察処分を受ける事になる。四国の方の親戚に預けられるそうだ」

「それって…………」

「転校…………いえ、正確に言えば退学かしら」

「…………ここまでやらかせばなぁ」

 

結果的に言えば俺達の文化祭は台無しになってしまった上に、ドラクモンの依頼も果たせなかった。頭の中で色々なモヤモヤが広がっていくのを感じて思いっきり掻きむしるが、だからといってなんとかできる様な権力を持っているはずも無い。そもそも、相模が色々やらかしたのは事実なのだし。

 

「相模は反省しているよ。お前達にもだが、ドラクモンに謝り続けている。またパートナーになりたいなんて言えないけど、直接謝れたら…………ってな」

「保護観察処分って事は、俺たちとも直接会うのは無理ですよね」

「うん。私も会えないし…………」

 

こんな後味の悪い結末になるとは思わなかった。俺の判断ミスだなんて自惚れる気は無いが、もう少し何かあれば…………。

 

「…………あ。そうだ、平塚先生。相模にこれ渡しておいてもらえませんか?」

 

こんな事しか出来ないが、自己満足くらいにはなる。いくつかのデータの入ったUSBメモリを平塚先生に渡すと、平塚先生は怪訝そうな顔を見せつつも受け取ってくれた。

 

「一応、警察の方で中身は改められると思うが…………」

「多分大丈夫っすよ。だって中身は…………」

 

 

 

 

 

私、相模南は新幹線の車内で保護監察官の人と一緒に四国に向かっていた。色々あったこの一ヶ月。何もかも失ってしまったが、それも仕方が無いと言えるくらい私は酷い事ばかりしてきた。

 

友達も、家族からの信頼も、パートナーデジモンも、千葉での居場所も失った。これからは誰も私を知らない四国の地でひっそりと暮らす事になる。その事には何の不満も無い。むしろ問答無用で少年院に送られると思っていたから意外だって思いもあった。

 

ただ、迷惑をかけてしまった皆んなに直接謝る事が出来なかった事だけが心残りだった。この心のしこりが私の胸の中で渦巻いていて、新幹線の窓から見える景色にも何の感情も浮かんでこなかった。

 

「あ、そうだ相模さん。比企谷って子が貴女にこれをって」

「比企谷が?」

「中身の音声データは確認したから、聞いてみて」

 

なんだろう。私への怒りの声だろうか。それならそれで仕方ないと思える。携帯にデータを入れ、音声データを再生する。

 

『でも、南が今のままじゃダメなのは俺だって分かるんだ。だから、先輩テイマーとそのパートナーのアンタ達に何か教えて欲しくて来たんだ!俺、どうすればいい!?』

「っ!?ドラクモン…………」

『俺は南のパートナーなんだ。これから先どんな事があっても。だから、今の南のままでいてほしく無いんだよ…………』

 

それは、比企谷がドラクモンを預かっている間に録音していた音声データだった。ドラクモンが、私の事を想って言っていた言葉の数々。どれもこれも聞いているだけで涙が止まらなかった。

 

どうして、こんなにも私を想ってくれているパートナーが居たのに。私はずっとドラクモンを、クラスでの立ち位置とか、友達へのマウント取りの道具みたいにしか想っていなかったなんて。

 

音声データは合わせて三分も無かった。すぐに止まってしまって、もう一度再生しようとしたけど、データは音声だけじゃ無かった。地図アプリに表示されたのは、デジタルワールドでの座標だった。

 

「いつか、保護観察処分が終わったらデジタルワールドのその場所に行きなさい。きっと、ドラクモンはそこで待っているから」

 

私はただただ、涙を流して頷くしかなかった。




言い訳させて下さい。
あんまりオリジナルのデジモンを出したくは無いのですが、デジクロスはアニメ版のメンバー以外でやるとどうなるかの設定がほとんどないんですよ。そうなると、クロスウォーズのレギュラーメンバーを全員出すか、オリジナルのデジクロス形態出すかしか無いじゃないですか。
実はその辺の都合を付けられなくて、今まで小町とシャウトモンを戦いに参加させなかったんですね。
とりあえず、また後日改めてオリジナルデジクロス形態ってタグつけておきます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。