やはり俺とブイモンの青春ラブコメは間違っている。 作:アルファ麻呂
今回はバトルシーンは無いですが、修学旅行編はちょっとバトル多めになる予定です。
「おおー。これが新幹線の座席かぁ。初めて座ったぜ」
「言っておくが俺の座席だ。お前は床か俺の膝の上な」
「じゃ頭の上ー」
「オイコラ」
色々あって修学旅行当日。それなりの荷物とブイモンを連れて新幹線に乗れば、ブイモンはさっさと俺の座席を占領しようとしてきやがる。油断も隙もない奴だと睨みつつ、座席に座って膝の上にブイモンを置く。
こうして膝の上に置くと、昔はブイモンも俺の腰くらいだったなぁと思い出してしみじみしてしまう。だがその感傷に浸っている事がブイモンにバレれば何言われるかわからんので黙っておくが。
「あ、八幡。僕と隣だね」
「戸塚…………!!」
「ボクも居るよー」
「この間の時もありがとねー」
隣に座ってくれたのは天使だった。まるで絵画のような美しさと、幼児のような愛くるしさを併せ持った戸塚の笑顔に、ブイモンとの荒んだ会話でのストレスが吹っ飛んでいくようだった。
テリアモンとロップモンの耳をベッドにしようと目論んでいるブイモンの首根っこを引っ掴みつつ、スマホのアプリを起動する。この間市役所でダウンロードさせられた、危険なデジモン災害への対処を要請させられるアプリだ。
「八幡、そう言えばさっき平塚先生に呼ばれてたよね?葉山君に、川崎さんも呼ばれてたけど…………」
「ああ…………この間相模の件で学校でのイベントでデジモン災害が起き易くなる可能性があるって声が出て来たらしくてな。それなりに力のあるテイマーとして警戒と、何かあった時の対処を任されたんだよ」
そんな俺を戸塚が心配そうな顔で覗き込んできてくれた。ヤバい、めっちゃ可愛い。もう心臓がバクバク言うくらいだ。
しかし心苦しい事に、今の話は咄嗟に考えたカバーストーリーだ。実は平塚先生に呼び出された案件はめちゃくちゃ面倒くさい話だった。
実は今確認されているデジタルワールドを冒険している選ばれしテイマーグループの内の一つ、京都組のメンバーが全員デジタルワールドで行方不明になったと言うのだ。どうもデジタルワールドから現実世界に進出してこようとしている七大魔王と戦っていたらしいのだが、昨日あたりから全く足取りが掴めなくなったらしい。
今のテイマー達はある程度大人のバックアップが貰えるのかとちょっと羨ましく思ったりもしたが、七大魔王と戦っていた奴らが行方不明になったと聞けば嫌な予感がする。噂でしか聞いた事が無いが、七大魔王とやらはどいつもこいつも強いばかりでなく狡猾な奴ららしい。テイマー達を捕まえてその隙に現実世界に侵攻するくらいの事は十分あり得る。
と言うわけでもしも修学旅行中に七大魔王が京都に現れたら、多少の被害に目を瞑るから戦って欲しいと国から要請されてしまったのだ。ついでに中途半端なテイマーが七大魔王相手に下手に喧嘩を売らない様に、この話を広めないで欲しいとまで言われてしまった訳で。
「あー。忙しい修学旅行になりそうだ」
「奉仕部の依頼?」
「依頼人のプライバシーがあるから詳しくは教えられないが、厄介な依頼を抱えてるんだ」
ただでさえ奉仕部の活動としては、戸部と海老名さんの依頼が食い合うと言う意外な展開に右往左往させられている。俺としては海老名さんへの偽告白で大体終わりじゃないかと思うんだが、雪ノ下も由比ヶ浜も納得行っていない顔で話し合いを進めていた。
呑気に新幹線を堪能しているブイモン達を見て、果たして楽しい修学旅行になるのか不安になってきた。とりあえず七大魔王は京都組だけでなんとかしてくれ。俺たちの頃は外部の協力無しでなんとかしたんだからな。
「あ、ヒッキー!居たぁ!!」
「女泣かせの八幡だ」
「おいヒヤリモン。ってか由比ヶ浜は何ヒヤリモンに変な言葉ばっか教えてんだよ」
「わ、私じゃないし!!ママが可愛がってて…………」
頬を染めてヒヤリモンを胸に抱く由比ヶ浜。顔を見たことはないのだが、そんな一般的には使われない単語ばかり教えている辺り由比ヶ浜の母親ともなれば相当な恋愛脳なんだろうか。まぁ偏見かもしれないがな。
三人掛けの座席だが、もう一人は別のグループのところに遊びに行っているので遠慮無く俺と戸塚の愛の巣に腰掛ける由比ヶ浜。戸塚も戸塚で何かしらの含みを持たせた顔で席を譲るせいで、ちょっと手を動かすだけで触れられるくらいの近くに由比ヶ浜が居て心臓に悪い。
「楽しみだね、京都。ヒッキーやさいちゃんは行ったことある?」
「ボクは家族旅行で行った事あるけど、その時はロップモンが居なかったから…………」
「さいかー」
「ぎゅーっ」
戸塚とテリアモンとロップモンが抱き合う。あ、尊い。
「じゃあヒッキーとブイモンは?」
「このぼっちが家族旅行になんか行くと思うかぁ?」
「五月蝿いぞブイモン。大体、スマホとパソコンとテレビさえあれば旅行に行く必要なんか無いだろ」
「う、うわー…………」
「結衣、なんでこんな人を?」
「うぅっ…………」
由比ヶ浜とヒヤリモンがなんだか哀しげな目で抱き合っている。あ、すっごい居心地悪い。
「まぁ良いだろ。大体、旅ならデジタルワールドで散々からしたしな」
「それは確かに」
「ふーん。凄い冒険だったって事は何となく分かるけど…………」
「具体的にはどんな冒険だったの?」
「…………新しい進化データを探す旅だったんだがな。何故か道中進化データにバグが混じったせいで暗黒化した一部のロイヤルナイツと戦うハメになった。真っ黒なオメガモンズワルドディフィードとか、カオスデュークモンとか…………思い出すだけで悪夢だ…………」
特に倒しても倒しても復活して襲いかかってくるオメガモンズワルドは今でも偶に夢に見るくらいの恐怖だった。カオスデュークモンもまだ完全体までしか進化させられなかった頃に襲ってきたから、全滅の恐怖だけならこっちも大概だが。
「よ、予想してたより過酷な旅だったんだ…………」
「そうだぞ。由比ヶ浜はまるで俺が雪ノ下達と楽しく仲良く冒険してたみたいに思ってたんだろうけどな」
「うっ…………そりゃまぁ、ちょっと思ってけど…………あ、富士山!」
「誤魔化すなよ…………ってちょっ!?」
不意に由比ヶ浜が新幹線の車窓を見てグイッと距離を詰めてきた。確かに外を見れば日本一の富士山が見えたが、それよりも俺の肩のあたりに当たる二つの富士山の感触の方が日本一だ。
「ん?どしたのヒッキー?」
「でた小悪魔結衣」
「アレでグラつく八幡も八幡だよな」
真っ赤になった顔を誤魔化そうとあらぬ方向を見つめつつ、ヒヤリモンとブイモンのひそひそ声に顔を顰める。全くもって可愛くないデジモンどもだ。
『間も無く京都、京都でござます』
「聞こえたな、降りる準備をしろー」
結局新幹線の車内では依頼の事も七大魔王の件も相談できないまま、京都駅に着いてしまった。平塚先生の誘導に従い、荷物をまとめて新幹線を降りる。そして改札を抜けると、肩の上に乗っていたブイモンがペシペシと俺の頬を叩いてきた。
「おい見ろよ八幡。京都駅だぜ京都駅。ここでガメラとイリスが戦ったんだな」
「お前の京都の知識はそれだけかよ」
「ガメラ?イリス?」
「特撮映画の話だ。気にするな」
由比ヶ浜が首を傾げるのを見て軽く説明しつつ、葉山軍団の様子を遠目に見る。案の定と言うべきか、戸部の奴が意味ありげな様子で海老名さんに近寄ろうとしては軽くいなされていた。あの様子からして脈がないと自分で察してくれれば後が楽なんだがな。
それにしても、葉山の様子が少しおかしい。一応は今回の依頼は話が通っているわけだし、葉山軍団の関係性を崩したくないと言う三浦の声に同調していた筈。その割には三浦が戸部を止めようとしているのに気づいていないフリで話しかけたりしている。
「アイツ、本当に依頼の事分かってんのか?」
「隼人君の事?確かに、なんか様子がおかしいんだよね…………」
「海老名さんのはやはち妄想を止める為の俺の嘘告白作戦を聞いてた筈だ。まさかそれを当て込んで?だが、アイツも多分その辺は織り込み済みで嘘告白に参加するだろうと読んでたが…………」
思わず考えをまとめるために口に出してしまうが、嘘告白の予定を口にした途端に由比ヶ浜が頬を膨らませてしまった。
「ヒッキー…………ゆきのんとも話したんだけどさ。あのはやはち妄想止める為に姫菜の前で告白するだけなら、姫菜に嘘告白する必要無くない?」
「え?」
「戸部っちの件があるから難しいのは分かるんだけどさ。もしも嘘告白しなくて済ませられたら、姫菜の前で私がゆきのんのどっちかに告白してよ。ちゃんと話は合わせるから」
「お、おう…………まぁ確かにそれで済むならな」
「うん!じゃ、全力で戸部っちの邪魔をしようね!」
「ひでー決意だ…………」
「良いんじゃない?戸部って人より結衣と八幡の方が優先だし」
なんと言うか、哀れ戸部としか言えない会話だった。だが確かに、嘘告白して振られるのが目的なら、相手が海老名さんでなくても大丈夫か。雪ノ下か由比ヶ浜のどっちかって言うのが少しアレだが、由比ヶ浜は修学旅行にはそれくらいのサプライズがあったら嬉しいんだろうな。
「ヒヤリモン、ブイモンも協力してもらうからね!」
「うん!」
「俺は八幡と違って偶には働くぜ」
余計な事を言うブイモンからスナック菓子の袋を取り上げつつ、修学旅行初日の日程に従い在来線に乗った。初日は終日団体行動なのでブイモンと一緒に座席に座ると、隣はまさかの戸部だった。
「いやー、比企谷君助かるわー。海老名さんの好みのタイプ教えてくれるって?」
(由比ヶ浜ぁ…………そう言う話になってんなら先に言え…………!!)
「あ、ああ。一応な」
見れば由比ヶ浜が俺の視線に気づいて物凄いしまったって顔をしていた。そしてヒヤリモン共々ハンドサインで何かしら伝えようとしてきていた。仕方ない。ブイモンの背中を軽く押して由比ヶ浜の所まで行けと指示を出すが、ブイモンが嫌そうな顔をして振り向いた。いいから行け。
「とりあえずまずはアレだな。海老名さんの趣味からか?」
「いや、そこはまず好きな男子のタイプからっしょ!おなしゃす!!」
ここで適当に言って戸部を諦めさせるのは出来そうかどうか判断が付かないが、ブイモンが持ち帰ってくるだろう由比ヶ浜からの連絡はどうか。戻ってきたブイモンが持ってきたメモを見れば、由比ヶ浜が調べ上げた海老名さんの趣味趣向が走り書きしてあった。事前に渡しておいてくれればそれで済んだのにな。
「そうだな。俺の調べだと…………インドア派らしい」
「え?」
「異性として見ると、アウトドア派とはちょっと話が合わないらしいぞ。基本的には部屋の中で色々と描いているらしい」
「あ、そ、そっかぁ…………」
サッカー部所属で葉山と一緒にあちこち歩き回っているザ・アウトドア派な戸部の事だ。あの濃ゆい創作活動に付いていけるとは思えないし、海老名さんも外に連れ出されるのは多分嫌なんじゃないか、と勝手に思った事を言ってみた。
「相手に合わせたライフスタイルってのも、モテる男の秘訣だよな。サンキュー比企谷君!先に知れてよかったわ!」
予想以上のポジティブシンキング。俺にしてみれば異次元の発想なのだが、これが正真正銘の陽キャと言う事か。だが、この勢いでは戸部が海老名さんの好みとは違う作戦は余り通用しなさそうだ。
正直言ってめちゃくちゃ弱るが、俺には最終作戦がある。これ以上は由比ヶ浜と雪ノ下の作戦を聞いてからにするか。
そう思って戸部の質問攻めを適当にあしらう中、電車は目的地に到着した。
平等院鳳凰堂、清水寺、智積院、三十三間堂、京都国際博物館、豊国神社。京都の観光名所を巡る修学旅行初日は予想以上に楽しめた。
流石にずっと戸部の面倒を見てる訳にも行かないし、ちょいちょい由比ヶ浜と交代しながら少しずつ戸部を諦めさせようとはさせつつも観光の方も楽しませてもらった。
由比ヶ浜はなんとか他の方法を探したがっているが、ぶっちゃけ最終作戦は既にあるんだから俺としては別にそこまで頑張ることは無いだろうと思うんだが。
「おー。こんな料理テレビでしか見た事ないぞ。はてさて味は…………」
クラスごとでまとまって旅館の食堂に案内されると、俺の隣のデジモン用の椅子に座ったブイモンが早速箸に手を伸ばした。本当にコイツは食い意地の塊だな。由比ヶ浜がスプーンで食べさせてくれるのを大人しく待ってるヒヤリモンを見習えよ全く。
「偶には自分で作らない料理も悪くないね」
「いつもすまないなぁ、沙希」
「熟年夫婦かお前ら」
パートナーデジモンが居るメンバーはある程度集められているせいか、隣の席に座っていた川崎とアグモンに思わずツッコミを入れてしまった。
それにしても、改めて見直すとパートナーデジモンが居るのはこのクラスだと俺と戸塚と由比ヶ浜、そんでついでに葉山に川崎に三浦か。もう二、三年くらい下の世代ならともかく、俺たちの世代なら一クラスに六人も居ればまぁまぁ多い方か。前までもう一人居たけど…………。
「そう言えばさ。隼人君、前から聞きたかったんだけど…………」
「なんだい?」
その時ふと海老名さんが口を開いた。チラと見れば、どうも戸部が何かしら話かけようとしていた事に気付いたからみたいだ。まぁその誤魔化しの割には嫌な予感を抱かさせる話題だったが。
「確か昔、隼人君たちは選ばれし子供たちちば組ってチームだったんだよね?なんで解散しちゃったの?」
「…………」
「あー…………」
葉山の顔が強ばり、ワームモンがこっちをチラッと見てくる。川崎が軽く俺の脇腹を肘で突いてくるし、由比ヶ浜も不安そうな顔でこっちを見ていた。と言うかクラス中が俺と葉山を見ていた。まぁクラスどころか学校中の話題の的だしな。
しかし葉山もここは適当にあしらって終わらせるだろうと勝手に思っていたのだが、葉山は箸を置いて腕を組んだ。
「まぁ色々理由はあるさ。中学がバラバラだったから集まるのが大変だった事とかね。だけど…………一番の理由は、俺たちがいつまでもチームの形を小学生の頃のままで維持しようとしてしまっていた事かな」
「え?」
「時間が経てばどんなに深い繋がりだって変わってしまう。あの頃の俺たちはみんな、変わってしまっても大丈夫だって確信が持てなくてさ…………」
神妙に呟く葉山。だがそんな葉山を見ても、俺としてはお前それが分かっててあのウザ絡みだったのかよと激しくツッコミたかった。
「まぁ私は元々家庭の事情で抜けるつもりだったけどね」
「今の関係が一番ちょうどいいところに収まった感はあるよな」
川崎と他人には聞こえないくらいのひそひそ声で話しつつ、ふと葉山の様子がどこかおかしいことに気づく。
そもそも今回の依頼のややこしい点は、三浦と海老名さんが今の葉山軍団の関係性を維持したいと思っている事だ。別に告白のシチュエーションを作って欲しいだけの戸部が別に玉砕しようが知った事では無いし、海老名さんが変化を気にしなければ受けてもらうのもアリだろう。
だが、戸部が告白してしまえば葉山軍団は明確に形を変えてしまう。良きにせよ悪しきにせよ、変化そのものを望まないから三浦と海老名さんは告白阻止の依頼をしてきた訳だ。海老名さんが戸部をどう思っているかは知らんし、この際関係ない。
なので渋々だが葉山にも事情を話して協力してもらう手筈だったのだが、それを踏まえて今の発言はどうだ。どう聞いても、昔のちば組の二の舞にはなりたくないからみんな変化を受け入れないか?と聞いているではないか。
「いやー、人に歴史アリって事?俺はてっきり隼人君と比企谷君が女子取り合って喧嘩別れした、みたいな想像しちゃってたわー」
「そ、それは無いよ戸部っち!!」
三浦も海老名さんも何処となく察した顔で俯いてしまい、変な空気になってしまった場を戸部がバカ話で吹き飛ばし、そしてそれに乗っかった由比ヶ浜の必死な叫びがクラスの雰囲気を明るく変えた。
しかしその間俺は葉山の真意を掴み切れずに難しい顔をし続けていたことは、隣の川崎の訝しむ顔で分かっていた。
「あー。ようやく静かになったな」
「相変わらず人間は集まれば集まるほど煩くなるよな」
夕食を終え、ついでに騒がしい露天風呂を出た俺とブイモンはクラスの喧騒を離れて旅館のフロントに降りてきていた。
ボッチの俺としてはあの騒がしさは色々と辛いものがある。どのみち男女で部屋が分かれているし、戸部を言葉だけで説得するのは難しい事は今日一日で嫌と言うほど思い知らされた。アイツの無駄なポジティブシンキングもだが、やはり要所要所で葉山が戸部を煽るような発言をしていたからだ。
「あの野郎、本気で今のグループを変えたいんなら素直にそう言えば良いだろ。何俺たちの依頼を隠れ蓑にしようとしてんだ」
「それくらい昔の八幡の解散宣言がトラウマなんじゃね?」
「あーヤダヤダ。女々しい奴だぜ」
元相棒の事を考えてしまうだけでも十分忌々しいと言うのに、その元相棒の女々しさがまたしても俺の平穏なぼっちライフを侵食したくきていると思うだけで胸焼けがしそうだ。
安らぎを求めてマッカンを探すが、売店にも自販機にもマッカンは売っていない。
「う、ウソだろ…………俺のマッカンが…………」
「別にお前のじゃねーけどな。あ、俺このリンゴジュースな」
「しゃーねえな。くそ、レビューサイトにマッカンがないって書いてやろうか」
「止めとけ止めとけ。サンキュー」
俺が買ってやったリンゴジュースを有り難みのかけらも感じさせない勢いで一気飲みしていくブイモン。俺がマッカンが無いと嘆いているのを見てそんな態度とは、本当にコイツはパートナーデジモンなのかと疑いたい気分だった。
「ん?そう言えばこのアクセサリー、雪乃が好きなキャラじゃね?」
「ああ、パンさんだな。しっかし相変わらず微妙な顔だな。俺としてはパンダモンの方が可愛いと思」
「ひ き が や 君 ?」
「ひっ!?」
その時、背後から殺気すら滲ませた声が聞こえて来た。それと同時にデジコードが浮かんだ手が俺の肩を掴み、無理やり振り向かされた先には今にもスキャンしてスピリットエボリューションしそうな勢いの雪ノ下が目を見開いていた。
「貴方今…………パンさんを侮辱したのかしら?私の聞き間違いであれば良いのだけれど…………もしも聞き間違いで無いのなら…………」
「な、無いのなら…………?」
「スサノオモンの力で貴方がこの世界に存在したと言う事実ごと抹消するわ。さあ、教えてもらえるかしら?パンさんの事を、貴方は、なんだと言ったのかしら?」
「ひ、ひぃぃぃぃぃぃっ!!」
あまりの迫力に足元でブイモンが震えて動けなくなってしまった。それも当然と言えるほどの殺意の塊。俺だって正直言ってブイモンと一緒に震えて動けなくなっていたいが、雪ノ下の目がそれを許さない。
「セ、セカイデイチバン、カワイラシクテ、ステキナマスコットキャラクターダトオモッテイマス…………」
「ならいいわ。それよりも比企谷君、この限定パンさんキーホルダーは私に似合うと思うかしら?」
「ニアウニアウ。ダカラオレカラプレゼント、サセテクダサイ」
「ふふ、ありがとう比企谷君。大切にするわね」
誰もが見惚れるくらい可愛らしいすてきな笑顔。だけど恐喝で訴えたら勝てねえかなコレ。
暫く雪ノ下は俺に買わせたパンさんキーホルダーを眺めて微笑んでいたが、やがて咳払いをしてポケットに入れた。
「そんな事より依頼はどんな状況かしら。今日はクラスごとでの行動だったから私は何も出来なかったけど」
「それなんだが…………ちと葉山の奴が妙な動きをしててな」
他にもいろいろあるが、とりあえず葉山の不審な言動を中心に今日一日の出来事を報告していく。当然っちゃ当然だが、話を聞いた雪ノ下も眉を顰めて腕組みをしていた。
「一応、葉山君もグループの変化を止めて欲しいと依頼した側よね?」
「まぁあくまで事情を話したら協力させてくれって言ってきただけだけどな」
「成程。彼としてはどちらの依頼に協力しているのかを明言していない訳ね。後出しジャンケンみたいで卑怯だわ…………」
雪ノ下の言う通りだ。葉山のやり方は俺たちを利用する為にあえて肝心なところを口にしないことで、後から騙したなとは言い難い悪辣な手法だ。
「それって八幡がやりそうな手だよなー」
「言うなよ…………内心ちょっと思ってたんだよ」
「相棒らしさ全開ね」
「止めろ」
仕方ないから二人揃ってブイモンがデジモン用の小型マッサージチェアに腰掛けてなんとも言えない顔で呻く声を聞きながら、缶コーヒーとペットボトルの紅茶を飲みつつ寛ぐ。
無言の時間が続く。しかし何となくだけど、凄いリラックス出来る時間だった。さっきまで雪ノ下の殺気に満ち満ちた目に振り回されたのは一度横に置いておくとして、だが。
別にそれが悪いわけでは無いが、これが雪ノ下ではなく由比ヶ浜だったらちょいちょい声を掛けられるだろうからここまでリラックスは出来なかった気がする。ただ、その場合はリラックスでは無くもしかしたら楽しい時間になるのかもしれないな。
「…………そういえば、由比ヶ浜から聞いたか?」
「海老名さんへの嘘告白を阻止出来たら、貴方が私と由比ヶ浜さんのどちらかに嘘告白する話かしら?」
「ああ。ちゃんと断ってくれるんだろうな?」
「あら。まさかとは思うけれど、受けてもらえるなんて考えているのかしら」
「…………それこそまさかだな。いや、嘘告白に嘘OKで振り回されるかなって…………」
「そんな事しないわ。ちゃんと話は合わせるから」
もうそろそろ消灯時間が近づいてくる。この安らかな時間もそろそろ終わりかと思うと寂しいような気がしてしまうが、だからと言って教師達の指示を無視して雪ノ下と一緒に居たいなんて口が裂けても言えないしな。
空になった缶コーヒーの中身をを覗き込んで、そろそろ立ち上がるかと足に力を込めようとしたその時だった。
「…………あれ?」
マスクで顔を隠した、見覚えのある女性がコソコソと旅館から外に出ようとしている現場を俺たちは見つけてしまった。
「平塚先生?」
「っ!?ゆ、雪ノ下に比企谷!?何故ここにいる!?そろそろ消灯時間だぞ!?」
「人のことを言える格好では無いようですが」
一応は教師らしく見せようとした平塚先生だったが、明らかに他人の視線を気にしている不審者でしかない今の格好では説得力は皆無だった。
「…………くっ!こうなったら…………お前達!!共犯者になってもらうぞ!!」
「え?」
「ブイモンは預かった!!返して欲しければ私と一緒に来るがいい!!」
「あーれー」
「ブイモン!!なんつーやる気の無い人質役だ!!」
ブイモンを抱えて走り出す平塚先生。普通に犯罪者として通報しても良かったんだが、何かしらの理由があるのだろう。俺と雪ノ下はお互いに顔を見合わせ合い、ため息を吐くと渋々平塚先生を追いかけるのだった。
そして追いついた先には、何と閉店まで後一時間くらいのラーメン屋が。
「平塚先生…………」
「し、仕方ないじゃないか!!今まで仕事で来られなかった上に、消灯時間まで待っていては閉店してしまうんだぞ!!ずっと来たくて今年こそはって…………!!」
(そう言う所が結婚できない理由ではないかしら…………)
(言ってやるなよ。可哀想じゃないか)
「そこ!!聞こえているんだからな!!どのみちここまで来た以上は共犯だ。私がお前達の分も奢ってやるから、学校には黙ってくれないか?」
本当に教師かこの人と思う反面、この残念さの混ざった親しみやすさこそ平塚先生だよなぁとも思ってしまう。それに、平塚先生のチョイスのラーメン屋の味も気になるしな。
「おし、ブイモン。一番高いやつ頼むぞ」
「おっしゃー!!」
「偶には夜食も良いですけど…………」
「はっはっは。コレで取引成立だな!!ガオモンにも食わせてやるからなー」
「かたじけない」
平塚先生のデジヴァイスから光が溢れて、平塚先生のパートナーのガオガモンが成長期のガオモンに退化して現れた。そして俺たちは三人と二体でラーメン屋に足を踏み入れた。
結論から言わせて貰うと、平塚先生チョイスのラーメン屋は確かに美味かった。他の連中が部屋で寝ている時間に食べるラーメンと言う背徳感も絶妙なスパイスになって貴重な時間だった。
「それにしても、七大魔王出現警報か。おまけに戦えるのは君たちだけ。全くどうしてこんな事になってしまったのか」
そしてその帰り道、平塚先生がふと呟いた。
「デジモンを究極体に進化させられるのは、やっぱりまだ俺たちの前後の世代までっすからね」
「平塚先生は最近になってガオガモンと出会ったと聞きましたが…………」
「ああ。一年半位前だな」
「現実世界に迷い込んで行き倒れかけていた私を拾って頂いた訳です」
普段は成熟期のガオガモンの姿なのでデジヴァイスの中に収納されているのだが、今は成長期なので平塚先生の足元にトコトコとついて来ながら満腹の腹をさするガオモン。腹を空かせたところを助けられた恩義もあるのだろうが、単純に平塚先生に心を許した事でパートナー関係を築いたのだろう。
「ただ私も成熟期までしか進化出来ませんし、七大魔王なんか戦っても一瞬で消し炭ですよ」
「分かっているさ。お前が居るなら、あくまで生徒を守る自衛力さえあれば充分さ」
ぶっちゃけ七大魔王となれば、究極体に進化出来ても半端なやつでは勝負にならないくらいの力がある。そんな奴らが攻めてくるのなら、確かにデジタルワールド帰りでしか迎え撃てないだろう。
「私と比企谷君と葉山君、それに川崎さんも居ます。七大魔王の半分くらいまでなら返り討ちに出来ますから」
「まぁ京都が無事かどうかは保証できないけどな」
「更地にさえならなければ大丈夫さ。国が何とかするだろう。本当に、君たちが居てくれて良かったと言うべきか…………」
そう言う平塚先生とガオモンの背中には、大人と言う立場でありながら何も出来ない悔しさが満ちていた。
「ブイモン、もしもの時は出来る限り被害を抑えるぞ」
「出来れば、な。八幡もジョグレス進化を嫌がるなよ?」
「海老名さんが近くに居なければな」
多分今頃デジタルワールドではベルゼブモンが京都組(登場予定無し)に絆されてる頃だと思います。