やはり俺とブイモンの青春ラブコメは間違っている。   作:アルファ麻呂

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今回の話と前回の話は本当は一話に纏める予定でした。


第二十話

「マッカンは無いかぁ…………」

「ある訳ねーだろ。常識ってモンを考えろよ」

 

再開したばかりの京都駅で、大手チェーン展開している喫茶店にやって来た俺とブイモンはレジ前のメニュー表を睨みながら首を傾げていた。普通のコーヒーか紅茶、後はソフトドリンク各種がそれぞれ500円でセットにトーストが着く。追加料金100円でゆで卵かヨーグルトが増えるが、俺もブイモンも奉仕部で集まって昼食を食べる事になっていることを考えればコーヒーとトーストだけで十分だった。

 

ガラ空きのテーブルに着き、とりあえず無言でトーストを齧る。うん、美味くも無いが不味くも無い。ブイモンに至っては不満げな顔を隠す事なくトーストを全部口に入れるとまだ熱いコーヒーで無理やり流し込んでいた。そうしたい気持ちは分からなくもないが、トーストの皿もコーヒーカップも空では喫茶店に居ずらいだろ。

 

とりあえずはトーストは片付けてお冷で流し込み、スマホを取り出す。京都全域で活動している暗黒のデジモンの反応を探すが、やはりと言うかなんと言うか、小規模な反応が幾つか現れては消えてを繰り返している。恐らくデジタルワールド帰りでなくても対処が出来るレベルのデジモンばかりで、さっき俺たちが倒したダークドラモンが一番厄介な奴だったっぽいな。

 

しかしそれはそれで嫌な予感が消えない。配下のデジモンで一番強いのがダークドラモンだと言うのは分からなくはないのだが、七大魔王が攻めてくるのがほぼ確実と言う状況で、デジタルワールド帰り以外でも対処可能な奴しか送り込まれて来ていないのはちょっとおかしい。

 

「何か目的があって弱いデジモンを送り込んでいる?そんな事しそうな奴に心当たりあるか?」

「知らねーなぁ。七大魔王と会ったこと無いし。前に旅してた頃は暗黒のデジモンと戦ったのも、せいぜいレディーデビモンの城に迷い込んだ時くらいだったしな」

「あー…………葉山が色気に屈して洗脳された時か。終わった後の全力土下座は今から思い出しても笑えるぜ」

 

思わずくっくっく、と我ながら悪人染みた笑い声が出てしまう。洞窟を彷徨ううちに気がつけばレディーデビモンの城の地下室に迷い込んでしまった俺たちは、レディーデビモンの様々な罠で分断されてしまった。とりわけ男だった俺と葉山は洗脳して手駒にしようと様々な幻覚を見せられてしまったが、良い顔して近寄ってくる女なんて信用出来ないと散々親父に言い聞かされて来た俺は騙されなかった。

 

が、何を見せられたのか葉山はめちゃくちゃあっさり洗脳されてしまった。そしてワームモン共々敵に回ってしまい、優しさもへったくれもないが優しさのデジメンタルでプッチーモンに進化して襲い掛かってくるわ、レディーデビモンと協力して襲って来てマグナモンに必要な奇跡のデジメンタルを奪うわでマジで厄介だった。

 

結局、ブチギレた雪ノ下がマグナガルルモンに初進化。ついでにディアナモンとガイオウモンとシャウトモンX7の女性陣の全戦力が葉山に集中。凄惨なリンチを尻目に取り戻した奇跡のデジメンタルで俺とマグナモンがレディーデビモンを倒した頃には、正気を取り戻した葉山が全力で土下座していたのだった。

 

「そう言う八幡もその次のエリアで心の中で呟いてた言葉が全部周りに聞こえる様になったせいで雪乃達に全力土下座してたじゃん」

「うっ…………それを言うなよ」

 

ブイモンのせいで嫌な思い出が蘇る。レディーデビモンの城の次にたどり着いたのはワイズモンの図書館だったのだが、そこでワイズモンの罠があるとは知らずに入ったのが運の尽き。まず一色の事を心の中で相変わらず頭軽そうな奴だと呟いた途端、一色の目のハイライトが消えた。そしてレディーデビモンの城で洗脳された葉山に陽乃さんの方が可愛いと言われて不機嫌さMAXだった雪ノ下を面倒くさい女とはこう言うものか、と口には出さなかったが心の中で呟いた。

 

川崎と一緒に先行していたが、事態に気づいて慌てて戻ってきた小町に言われてようやく気がつくいた頃には時すでに遅し。葉山と二人で全力土下座する羽目になってしまったのだった。

 

渋い顔でコーヒーを啜ると、スマホに通知が入る。電車とバスが復旧したらしい。

 

「まぁ昔の話は良いだろ。それより、そろそろ伏見稲荷に向かうか」

 

コーヒーの最後の一滴まで飲み干して、俺とブイモンは立ち上がった。空になったお冷のカップの氷が溶けて音を立て、その音に反応して黒いモヤが一瞬現れたが、その時の俺は気が付かなかった。

 

 

(雪乃、匂いは北からだ)

 

雪乃にしか聞こえないヴォルフモンの声に従い、渡月橋にたどり着いた頃にはもう正午がすぐそばまで来てしまっていた。

 

「本当にこちらであっているの?最近ヴォルフモンの鼻が利いていない事が多いし心配だわ」

(そう思うなら素直に私の指示に従って歩いてくれ)

「ちゃんと言う通りに歩いているじゃない」

(なら何故南に歩いている)

「えっ…………?」

 

橋に向かって歩いていた筈なのに、何故か駅が見えてきた。ヴォルフモンがついに呆れ果てた様子で黙り込んでしまい、雪乃は恥ずかしさを誤魔化そうと咳払いする。今の会話は誰にも聞こえていないはずなのだが、万が一八幡がこの周囲に居れば表情の変化でバレる可能性がある。

 

あくまでスマートに、クールにポーカーフェイスを維持して渡月橋に足を運ぶ。すると反対方向から葉山と戸部の二人が少しテンション高めに歩いて来ていた。葉山はともかく、戸部は声も大きくて周囲の観光客達が少し迷惑そうに顔を顰めているが、その事に気づく様子もない。

 

途切れ途切れに聞こえる声からして、恐らく絶好の告白スポットを見つけたのだろう。後はいくつか対策を奉仕部に立ててもらって、今夜辺りに海老名さんに告白する。葉山もそれを止める気は無いが、しかし戸部の考えている理想の結果にはならない可能性が高い事は知っているせいか、曖昧なリアクションをするばかりだった。

 

「シチュエーションとしては完璧っしょ!!後は夜にライトアップした所に呼び出して!!」

「あ、ああ。だが、シチュエーションだけでは完璧とは言えないんじゃないか?出来れば成功させたいんだし」

「わ、分かってますって!!だからこそ、奉仕部の三人に情報収集してもらって…………あ、雪ノ下さんじゃん!!」

 

雪乃に気づいた戸部が満面の笑顔で走り出す。その背中と、無感動な様子で何かを思案している雪乃を見て嫌な予感が過ぎる葉山。ワームモンが葉山の頬を叩き、警戒警報を伝えるが今更何か出来る訳もない。

 

「雪ノ下さーん!探しに来てくれた感じ!?」

「ええ。あまり良い話は出来ないけれど」

「え?」

 

雪乃の言葉にようやく冷たい態度に気づく戸部。雪乃は戸部の後ろの葉山にも冷たい目線を向けていたが、葉山とワームモンは気まずそうに顔を背けるばかりだった。

 

「先ずは謝罪からね。申し訳ないけれど、戸部君。貴方の依頼は打ち切らせて貰うわ」

「えっ…………?」

「理由としては色々とあるけれど…………下手に誤魔化しても意味が無いし教えるわ。貴方の依頼を受けた直後、三浦さんと海老名さんの二人から別口の依頼を受けたのよ。今のグループの関係性をこれ以上崩さないようにして欲しい、と」

「えっ?えっ!えっ!?ちょ、ちょい待ち!?海老名さんが!?なんで!?」

 

戸部は暫く混乱した様子でウロウロとその場を歩き回り始めた。とりあえずは落ち着くのを待ち、ようやく立ち止まった戸部を前に雪乃は改めて同じ説明を繰り返した。

 

「え、えー…………それ、無くね?ってか酷くね!?ここまで来てそれはさぁ!!」

「戸部、それは…………」

「だってそうっしょ!?三人とも知ってたって事だろ!?俺の告白が上手くいかないって分かっててさぁ!!」

「ええ。そうね。貴方の怒りは最もだし、批判も甘んじて受け入れるわ。ただ…………二人の依頼は、今はグループの変化を望んでいないと言うだけよ。将来的な変化そのものは否定していないわ」

「はぁ!?なんだよそれ!!そんな言い訳されたって同じじゃんかよ!!ふざけんな!!」

 

怒りのあまり、今にも雪乃に手をあげそうになるのを堪えて渡月橋の手すりに寄りかかる戸部。

 

「戸部、実を言うと俺もこの事は知ってたんだ」

「はあ!?」

「正直言って、雪乃ちゃん達より俺の方が酷いよ。優美子と姫菜が今の関係を変えたく無いって頑なになってしまっているのが、昔のちば組のようで辛かったんだ。それで、君の告白を利用して俺たちの関係を進展させようと思ってたんだ」

「え、えぇ…………」

 

もはや言葉も無い、と言わんばかりに額を押さえて後ずさる戸部。それも当然だろう。始まりは戸部の依頼からだったのに、何もかもが戸部をすっ飛ばして一桁くらい次元の違う話になっているのだから。

 

しかしその混乱が僅かに戸部の思考に冷静さを取り戻させていた。少しの間項垂れて深呼吸をしていたが、やがて大きく息を吐いて顔を上げた。

 

「分かった。色々あるのは。ここまで来たらもう全部教えて貰う!」

「そうね。まずは貴方が依頼に来た直後からよ」

 

戸部の依頼を受けた直後、三浦達が依頼に来た事。戸部の告白を妨害してほしいとはハッキリとは言わなかったが、それでも今の関係性をこれ以上壊したくはないので、修学旅行の間何かしら変化が起きそうなイベントがあれば阻止して欲しいと言う依頼だった。

 

依頼の内容が競合してしまったその時点でどちらかを断るべきだったのだが、女子達の依頼を断ってしまうと、告白するのを手伝ってほしいと言う戸部の依頼は100%失敗に終わってしまう。だからと言って戸部の依頼を下手に断っても戸部の告白すると言う気持ちを無くさない限りは女子達の依頼も失敗になってしまう。

 

その時点で奉仕部としては葉山に情報提供をして貰いつつ、双方が納得の行く形を模索するしか無かった。勿論幾つか強硬策もあったのだが、側から見ていて今の葉山グループはこのままでは修学旅行を無事に乗り過ごしても破綻してしまう可能性が高そうだと言う判断にたどり着いた。

 

「勿論そこの葉山君が孤立してワームモンとしか会話が成立しないボッチ化するのを遠くから見ているだけなら十分満足出来るのだけれど、奉仕部へ持ち込まれた依頼が原因で問題が悪化して終わらせるなんて出来ないわ」

「あれ?雪乃ちゃーん?」

「…………まぁ、奉仕部の三人がどうしてこんな事したのかは分かった」

「言い訳にもなっていないかもしれないけれど、由比ヶ浜さんは本気で貴方を応援しているわ。だから今、由比ヶ浜さんは三浦さんと海老名さんの説得に行っているわ」

「え?説得?」

「二人が私達に依頼をしてきたと言う事は、修学旅行中に貴方が告白するであろう事は分かっていると言う事よ。今はその告白を受け入れるかどうかよりも、変化することそのものを嫌がっている。だから、由比ヶ浜さんは変化していく事を拒絶しないように説得するつもりらしいわ」

「…………って事は、雪ノ下さんは俺を説得するつもりで?」

「ええ。ただ、説得と言うよりかは…………もっとタイミングを見計らうべきと伝えに来たのよ。貴方は告白すると決めて一直線だけれど、今の海老名さんはそれを受け入れるか否かの判断を決めるだけの余裕が無い」

 

雪乃の言葉を聞いて微かに表情を固くする戸部。相手の気持ちを確かめるために告白すると言われればそれまでかもしれないが、それでも相手が今そんな話を聞ける状況かどうかは察してあげるべきだったのだ。戸部はようやくその事実に思考が届いた。

 

後ろで雑に切り捨てられた葉山がワームモン共々顔を見合わせ、雪乃も戸部の顔の険しさが取れてきた事に僅かに安堵の吐息を吐く。戸部も暫くは頭の中で色々と考えていたが、やがて顔を上げた。その眉間に寄っていた皺は消えて、普段の戸部の顔が戻ってきていた。

 

「いや、こう言う展開は予想外だったケド…………結果としては良かったって事っしょ!!俺、このまま海老名さんに勢いで告白してたら多分、盛大にフラれる所だったわ!!」

「と、戸部…………」

「マジでありがと!この先告白するかどうかはともかくとしてさ、とりあえず海老名さんとはどっかで話してみるかな」

「それが良いと思うわ」

 

その時、戸部の携帯に着信が入った。画面には、海老名さんの文字が。

 

「きっと由比ヶ浜さんの説得も上手くいったのね。何とか上手く収まりそう…………」

「それはそうと何故ここまで俺を虐めるんだい雪乃ちゃん」

「隼人が鬱陶しいのは分かるけど…………」

「ワームモン?あれ?俺、君のパートナーだよね?まぁそれより、こう言う説得は比企谷の方が合うと思ってたんだけどな」

「彼は今、京都駅の辺りに現れた究極体と戦っていると思うわ。アプリだともう反応は無いし、彼の方もなんとかなったみたいね」

「ああ、七大魔王が攻めてくるかもしれないって話?今のところはボクには何の気配も感じないよ」

「俺達が何もしなくても大丈夫ならそれで充分さ」

 

しかし葉山の言葉が何かしらのフラグを立ててしまったのか、二人のスマホのアプリに通知が入る。近隣に暗黒のデジモン出現警報が出たのだ。思わず雪乃とワームモンが葉山を意味ありげな目で見つめて、葉山は違うよと首を横に振るが、現実は変わらない。

 

「戸部!とりあえず避難だ!暗黒のデジモンが来る!」

「ま、マジで!?」

 

突然の展開に驚く戸部だが、その頭上に暗黒のデジタルゲートが現れていた。

 

「仕方ないな!!ワームモン!!」

「うん!!ワームモン、ワープ進化!!」

 

今は何か気にしている場合では無い。咄嗟にD-3を取り出した葉山はワームモンを一才の躊躇無く究極体へとワープ進化させた。

 

「バンチョースティングモン!!」

 

飛び上がったバンチョースティングモンは、戸部の頭上から襲い掛かろうとしてきた悪魔の様な龍形デジモン、デビドラモンに蹴りを入れる。肉弾戦に特化した究極体であるバンチョースティングモンの蹴りを受け止められる成熟期が居るはずも無く、デジタルゲートに蹴り返されたデビドラモンは一瞬で見えなくなる。

 

だが、スマホのアプリの通知はまだ消えていない。その証拠にデジタルゲートは戸部の頭上だけで無く、辺り一面に幾つも現れていた。

 

「仕方ないわね…………」

(雪乃、女子トイレはあそこだ)

 

ヴォルフモンに言われた通り、女子トイレの個室に駆け込んだ雪乃はディースキャナーを構えた。

 

「成熟期相手に手加減出来るのはダブルまでね。行くよ。スピリットエボリューション!!」

 

普段使っている基本の姿でありヴォルフモンの意識が宿っている光のヒューマンスピリットでは無く、光のビーストスピリットをスキャンする。パワーはヒューマンの時よりも強いが制御が難しく、進化の際には全身が燃え上がる様な熱に晒される。思わず悲鳴を堪えきれずに叫んでしまうが、その叫びは気がつくと獣の雄叫びに変わる。

 

「ガルムモン!!」

 

四足歩行の白い聖なる獣が姿を表すと、既に空にはデビドラモンの群れが五体ほど出現していた。バンチョースティングモンがその内の三体を叩きのめしているが、また新たに現れた六体目ともども半分はこの場を離れようとしていた。

 

「させないわ!スピードスター!!」

 

超高速に加速したガルムモンが背中のウィングを展開し、逃げようとしたデビドラモンの背中を激しく打ち据える。ただでさえ暗黒のデジモンに効果の高い聖なるエネルギーを浴びたガルムモンのウィングを叩き込まれたデビドラモンが動かなくなり、残りの二体も逃げるのを諦めてガルムモン目掛けて飛び掛かってくる。

 

「バンチョースティングモン!雪乃ちゃんが倒した相手をゲートに投げ込んでいってくれ!!」

「ちっ!しゃーないな!!」

 

プライドの高いバンチョーの称号を持つバンチョースティングモンにとって、倒すのでは無く後片付けを任されるのは不本意ではあった。だが、現実世界でデジモンを死なせるのは極力避けたいのはバンチョースティングモンのプライドよりも優先出来る事だった。

 

「ソーラレーザー!!」

 

立ち向かって来るデビドラモン軍団を前に、ガルムモンは口に溜めた光のエネルギーを放つ。直撃を受けたデビドラモン軍団が次々と墜落して行き、それらを回収していくバンチョースティングモン。やがてその場のデビドラモン達を全てゲートに叩き込むと、ガルムモンもバンチョースティングモンも葉山と戸部の元に戻ってきた。

 

「う、うわー。すっげーもん見た気がする」

「平和な生活をしていれば、デジモンの進化なんてそうそう見るものではないからな」

「それに、お互いに珍しい形態だものね。バンチョースティングモンに進化出来る事は知っていたけど、見るのは初めてだわ」

「え?雪乃ちゃんも知っていたのかい?秘密だったんだけどなぁ…………」

「別に比企谷君が相棒関係を解消したのは、貴方達が単独で究極体になれるようになったからではないわよ。それより、この姿だとスマホ触れないのよ。デジモンの反応はどうなっているのかしら?」

 

ガルムモンが雪乃の声で喋ると言う摩訶不思議な光景に戸部が目を見開いていた。一応、ヴォルフモンの姿なら物凄い頑張ればスマホを操作出来るのだが、四足歩行のガルムモンではスマホを取り出すことも出来ない。

 

葉山はスマホを取り出してアプリを確認すると、案の定周囲のデジモン反応は幾つか残っていた。

 

「どうやら、まだ幾つか出現スポットがあったみたいだね。三方向に散られている。戸部、ここは安全だから戻るまでここに居てくれ。雪乃ちゃんは北、俺は数が多い西に向かう。残りは他の免許持ちが間に合う事を祈るしかない」

 

スピードの速いガルムモンなら人口密集地に向かっている群れに直ぐに追い付くし、バンチョースティングモンは多少数で押されても返り討ちに出来る。どうする事も出来ないのなら、少ない残り群れは他の免許持ちが持ち堪えてくれると思うしかない。

 

「なら善は急げね!行くわ!!」

「戸部、すぐに戻るから待っていてくれ!行くぞ、バンチョースティングモン!!」

「ああ!!」

「い、いってらー…………」

 

物凄い勢いでバンチョースティングモンとガルムモンが飛び去って行き、一瞬で見えなくなってしまったその後ろ姿を見送るしかない戸部としてはポカンとした顔で立ち尽くしながら手を振るしか無かった。

 

とりあえず近くのベンチまで向かえば、同じ総武高校生も含めた観光客達が集まって携帯やスマホで情報を集めていて、そのうちの何人かはパートナーデジモンと一緒に周囲を警戒していた。

 

戸部もスマホを取り出して近隣のデジモン情報を探してみれば、出現したデビドラモンの反応があちこちに散っては消えていく。異常事態ではあるけれど、デジタルワールド帰りが居ればこんなものかと避難してた誰かが呟いているのが聞こえた。そしてまだ小さい子供や、同じ総武高校生の内の何人が口々に俺もデジタルワールド帰りになりたい、と呟いていた。

 

だが、戸部は別に羨ましいとは思わなかった。葉山達が戦っている光景を結構直近で見てきた事もあってなのだろうが、戸部から見てデジタルワールド帰り達はいざと言う時に扱き使われる人柱にも見えてしまったのだ。

 

「そんなことより、海老名さんに何て話をすりゃ良いんかなー」

 

こう言う時にこそ、パートナーデジモンって必要なんじゃないかと戸部は思った。空いていたベンチに座って空を見上げて唸っていると、再びデジタルゲートが戸部の目の前に開いた。

 

「え?」

「あぁぁぁぁぁぁぁれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」

「ぶふぇっ!?」

 

デジタルゲートから落ちて来た、緑色の猿のようなデジモンが戸部の顔面に着地した。

 

「い、いたた…………ちょーど良いクッションがあって良かった」

「クッションじゃねーよ!!」

「ウキ?」

 

背中に巨大な木製のパチンコを背負う、緑色の小猿形デジモン。コエモンは頭を掻きながら尻の下から聞こえて来る戸部の声に首を傾げた。

 

「はてさて人の声。しかも座り心地の悪いクッション。果たしてボクは本当にクッションに着地出来たんだろうか?」

「降りろぉ!!」

 

いつまで経っても動こうとしないコエモンの首根っこを掴み、顔の上から引き剥がす戸部。しかしコエモンは戸部に首根っこを引っ掴まれて吊り下げられても表情ひとつ変えずにジッと戸部の目を見つめた。

 

「ウキ」

「…………なんだよ。見つめるなよ。お前の目をジッと見てると吸い込まれそうになるんだけど」

「ウキ」

「お前俺を馬鹿にしてね?」

「ウキ」

 

余りにも人を小馬鹿にした様な態度のコエモンを見て、思わず地面に叩きつけたい気持ちを堪えてベンチの上に下ろした。

 

「ありがとうクッションの人。魔王の城に忍び込んで遊んでいたらデビドラモン達が次々とゲートに入っていくのを見てな。楽しそうだと思って入ってみたら落ちてしまったのだ」

「自業自得じゃね、それ」

「そうとも言う」

「そうとしか言わねー」

「黙らっしゃいな。とりあえず人間の世界に来られたのだ。少し楽しんでから帰るとしよう。またな」

 

そう言い残してコエモンは戸部に軽く頭を下げて何処かへと去っていった。戸部はその後ろ姿を唖然としたまま見届けていたが、特にこれ以上関わる理由もないので見送っておいた。

 

そしてまた暫くは何もない時間が続き、そろそろ葉山か雪乃が帰ってこないかなと思い始めていた頃。幾つか土産物屋の袋を抱えたコエモンが戸部の前に現れた。

 

「何しに来たん?」

「いや何、クッションの人には世話になったと思ってな。デジタルワールドに戻る前にお礼の一つでも渡しておこうかと」

 

予想外の言葉に戸部は怪訝な表情を見せつつも、まぁちょっと話しただけの相手の内面など分かるわけもなかったなと反省する。しかしコエモンは一体なんのお土産を持っているのかは気になった。というかコエモンが日本円持っていたのだろうかと色々な事が気になって来たが、コエモンは気にせず土産物袋を幾つか漁り始めた。

 

「ウキ。これとコレだな。まずはデジタル腕時計だ。デジタルワールドでも使える優れものだぞ」

「へー。まぁデジタルワールドに行く事ないと思うけどな。ってどうやったら起動するんだコレ」

「起動用のキーが居る。このdimカードを差し込んでくれ」

「珍しいデジタル腕時計だな。わざわざ起動キー居るなんてさ」

 

コエモンに渡された黒いデジタル腕時計を腕に巻いてみる。少しベルトは小さめな気はするが、デザインは悪くない。液晶横の三つ並んだスイッチを触ってみるが、何故か起動しない。そこにコエモンが差し出したdimカードとやらを差し込んで見ると、周囲に謎のエネルギーが放たれた。

 

「…………え"?」

「おめでとう。コレでボクとクッションの人はパートナー関係が成立した。早速だが、この土産物のツケを支払って来てくれないか」

 

後に戸部は言った。多分、俺とコエモンのパートナー関係は世界一最悪な出会いだった、と。

 

 

「そうか。どっちも上手く行ったか」

「うん!姫菜も優美子も、とりあえず変化していく事そのものは受け入れないとって。それが戸部っちの告白にOKするかどうかは別の話だけどって事も言ってたけど」

「その辺りは仕方のない話よ。戸部君にもその辺りはちゃんと納得させられたと思うし。まぁ意外な展開でそれどころじゃ無さそうだったけど…………」

 

伏見稲荷神社でようやく再会できた雪ノ下と由比ヶ浜は、それぞれやりきった顔で満面の笑顔を見せていた。

 

「まぁ意外じゃない展開だろ?八幡。二人なら上手くいくって思ってたみたいだし」

「え?」

「あら…………?

「は?そんな事…………」

 

確かに内心では二人なら何とか出来るだろうとは思っていたのだが、ブイモンの暴露で思わず顔を背けてしまう。口には出してないのに、この野郎とブイモンを睨むが、ブイモンはニヤニヤ笑ってブルコモンと並んでアイスクリームを舐めるだけだった。

 

「ヒッキー?」

「比企谷君?」

 

グイッと近寄ってくる二人。めちゃくちゃ良い匂いが二種類、まるで俺を逃さないと言わんばかりに包囲してくる。思わず後ずさってしまうが、これ以上逃げたら飛びかかられるのではという謎の予感で足が止まる。

 

一体なんなんだこの二人。今朝まではここまで距離感近くなかったのに、それぞれのミッションをこなした途端にまるでパートナーデジモンみたいにピッタリ近付いて来る。

 

「そ、それよりもコレで依頼は終わりなのか?俺、海老名さんに嘘告白しなくても良いんだな?」

「それはもう大丈夫。とりあえず今夜に戸部っちと姫菜で話し合いはしたいから、そこに私達も立ち会って欲しいとは言われてるけど」

「その話し合いを見届けた時点で依頼達成ね。これは想定以上の成果よ。私達奉仕部の、ね」

「うん!!」

「俺の最終手段の案はボツになったけどな」

「あら。大丈夫よ、貴方の案が論外過ぎるから私達か気合を入れ直せたのよ。つまりは貴方はちゃんと踏み台としての役割を果たせたじゃない」

「さいですか…………」

「あ、アレだよ!ヒッキーが京都駅の究極体を何とかしてくれたから私達が頑張れたんだし!!」

 

そう言って由比ヶ浜が俺の手を取り、ギュッと抱きしめた。やばい、めちゃくちゃ柔らかくて心地良い。由比ヶ浜の巨大な富士山は言わずもがなだが、それ以上に由比ヶ浜の腕から伝わってくる体温と柔らかさは最早極上の枕に包まれているかのような多幸感が。

 

思わず頭がトリップしそうになっている俺を気色悪そうに見ていた雪ノ下だが、そんな雪ノ下の腕を由比ヶ浜はギュッと抱きしめた。

 

「ゆ、由比ヶ浜さん…………?」

「えへへ。三人一緒だね!」

「…………」

 

頭が沸騰しそうな程の熱が全身に走る中、満面の笑顔の由比ヶ浜とその隣で控えめに笑う雪ノ下。一瞬ガラスに写って見えた俺たちの姿は、本当に幸せそうだった。

 

「へへへ。八幡はもっと素直に生きれば良いんだよ」

「ブイモン。なんで人間ってあそこまで触れ合うんだろうね?」

「それはブルコモンももうちょいこの世界に住んでりゃ分かるさ」

 

デジモン達のそんな会話を背中で聞きながら俺たちは少し遅れて修学旅行の京都旅行を楽しんだ。




次回は修学旅行編完結の予定です。
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