やはり俺とブイモンの青春ラブコメは間違っている。 作:アルファ麻呂
本当に色々あった修学旅行二日目は、そろそろ終わりが見え始めていた。後一時間程で自由行動が終わり、ホテルに集合する時間になる。
気の早い奴らか集団行動が苦手な奴らはもうホテルに戻っている頃だろうな、と他人事ながらふと思う。何故ならボッチとは基本的にこう言う類の自由時間を持て余す生き物なのだからだ。誰かと一緒に行動してあちこち見て回るとは、言うなれば自分が見たいものを見る時間を削ってまで他人の都合を気にすることでもある。故に、ボッチの観光は自分のペースで見たいものを見て回れるので無駄な時間を掛けずに済む訳だ。
普段は見られない光景を他人と共有出来るのが旅の醍醐味と誰かが言ったが、俺の足元には可愛げのかけらもないブイモンが居るのだから共有も出来ている。つまりはパートナーデジモンとの二人旅こそが真の旅と言えるだろう。
「はー、色々見れたね。ゆきのんはどこが一番印象に残ってる?」
「そうね。侘び寂びを感じさせてくれた銀閣寺も捨てがたいけれど、色々あった渡月橋が印象に残るわね。コエモンとパートナーになった戸部君の、比企谷君の事を小町さんに押し付けられた時のブイモンみたいな顔とセットなのが不満だけれど」
「あー、分かるわー」
「オイ雪ノ下、それとブイモン。人のこと貧乏神か何かみたいに言いやがって。キングボンビーに進化するぞ」
「既にキングボンビーみたいなモンだろ」
が。何故か俺は今、総武高校二年女子の中でもトップクラスの美少女二人に挟まれてお茶と生八つ橋を食べていた。本来なら隣に座っているはずのブイモンは雪ノ下の膝の上に座り、同じく由比ヶ浜の膝の上のブルコモン共々女子メンバーと一緒になっているせいで非常にアウェーだ。
しかも何故か二人ともやけに距離感が近く、時折通りすがる男集団からの恨みがましい目線が俺に突き刺さる。道中、二人をナンパしようとしてきたチャラ男が居るには居たが、俺が何か言うまでもなく雪ノ下の絶対零度の視線に負けて下がっていってしまった。頑張られても困るが、もうちょい頑張っても良かったのでは、とも思ってしまった。
「結局、ダークドラモン以外の究極体デジモンは現れなかったし、デビドラモンの大量発生もすぐに打ち止めか。七大魔王は何とかデジタルワールドに押し止められた感じか?」
「こっちに情報来ねーしなぁ。デジモンの気配すらねーよ。なぁブルコモン?」
「うん。今はデジタルゲートの気配一つないよ」
「…………ヴォルフモンも同じ意見ね。それはそれで不気味だけれど」
奉仕部に持ち込まれた厄介な依頼も、暗黒のデジモンとの戦いも何もかもが理想的な流れで進んでいく。こうなるとなんだか逆に不気味だ。
「そろそろ戸部っちと姫菜の話し合いの時間だし、みんなで行こうよ」
二人が待ち合わせているのは竹林の小径。そこで二人を中心に葉山軍団のこれまでとこれからについて話し合いたいらしい。別にアイツらだけで話し合えば良いんじゃね、とは思うのだが、ここまで散々から葉山軍団に関わってきてしまった奉仕部には立ち会って欲しいと言うのがアイツらの言い分だった。
五人分のゴミをゴミ箱に片付けつつ竹林の小径までの道のりをスマホで調べる。ここからなら十分もかからないなと少し安心していると、戸塚から着信が入った。
「と、戸塚…………?」
いきなりの事で心臓が止まるかと思った。戸塚がわざわざスマホで俺に電話してきたという事は、早く出ないと戸塚に迷惑が掛かってしまう。だが、今すぐ電話に出たら間違いなく噛むか声が裏返る自信があった。それにこんな素早く出たら、なんか戸塚の電話に物凄い勢いでがっついてるように思われちゃうんじゃないだろうか。でも、出ないと…………
「八幡、気持ち悪い顔してないで早よ出ろって。マジで気持ち悪いぞ今の顔」
「二度気持ち悪いって言うんじゃねえよ。でも、うん。出るぞ。も、もしもし?戸塚か?」
「声裏返ってる…………」
「下らないわね…………」
「キモーい…………」
全員からの冷たい視線を背中に浴びつつスマホの画面をタップする。しかしそれだけでも心臓がバクバク言っていると言うのに、ブイモンの奴はそんな俺の緊張をバカにしやがって。
『あ、八幡。今大丈夫かな?』
「ああ。戸塚が話したいならいつだって時間を作るさ」
思わず渾身のキメ顔。戸塚とはテレビ通話じゃ無いのでこのキメ顔が伝わらないのが実に残念だったが、残念なことにブイモンが吐き気すらもよおしている顔で視線を背けたので、どうやらこの渾身のキメ顔は世間一般には大変不評らしい事はわかった。
既に竹林の小径まで歩き始めていた雪ノ下達を追いかけつつ、戸塚がスマホの向こうでどんな用件を抱えているのか考えを巡らせる。せいぜい暗黒のデジモン関連で何かしらのトラブルが起きたくらいだと思うのだが。
「戸塚、何か辺な事でもあったのか?暗黒のデジモンがあちこちで暴れてたが、ひょっとしてその関連で何か?」
『あ、うん。そっちは大丈夫。テリアモンとロップモンがいるしね。ガルゴモンとトゥルイエモンに進化して追い返したよ。たまたま近くにいた材木座君も、ブリッツモンに進化して手伝ってくれたし』
「な、なんだってぇ!?くそ、その場に居れば俺が守れたのに…………」
『大丈夫だよ。八幡にはやらなきゃいけない事があったんでしょ?。それより、今川崎さんに八幡の連絡先教えてって言われてて』
「川崎?あー。そういえば連絡先交換してなかったな。忘れてたぜ」
会話の内容を途切れ途切れにしか聞いていないはずのブイモンの目がどんどん冷たく冷えていくのが分かった。だって仕方ないじゃないか。川崎となんて会おうと思えばすぐ会えるんだし。
『あ、今すぐ話したいって。このまま代わるね?』
「おう」
『もしもし?アンタ、京都タワーでダークドラモンと戦ったんだっけ?』
「ああ。他に対処出来そうな奴が近くに居なかったからな」
いきなり戸塚の癒し系ボイスが川崎のツンツンボイスに変わる。コレはコレで需要はありそうだなと思いつつ周りを見渡せば、竹林の小径が見えてきたのでそろそろ用件を終わらせなければ。
『どうもダークマターらしいデータが、一時期京都中のネット回線にばら撒かれてたみたいなんだけど。アンタ、ちゃんとダークドラモンを倒したの?』
「失礼な。ちゃんと倒してデジタルゲートにぶち込んだぞ」
『ふーん。まぁ今のところはダークマターのデータも落ち着いてるから多分大丈夫だとは思うけど、何かあったらすぐに動いてよ。それじゃあね』
「あ、最後に戸塚の声…………切りやがったアイツ」
「…………俺はこんなダメダメなパートナーとの縁を切りたい気がしちゃうよ。全く…………」
ブイモンの冷たい目線を無視しつつ、ようやく辿り着いた竹林の小径で葉山達は既に全員揃って待ち構えていた。なんならもう話し合いとやらを終わらせてくれていれば俺達もやる事は無いんだが、そう言うわけにもいかないんだろう。
「さてと。揃ったし。アンタ達、チャッチャと話し合ってホテル戻るし」
「うん」
まだ少しお冠だが、それでも俺への敵意はだいぶ薄れた様子の三浦に促された海老名さんが少し前に出る。そんな海老名さんの胸には紫色のデジタマが抱かれていた。
「戸部、分かってるよな?」
「ふーっ!よし、気合い入った!!」
「フラれる気合いか?なるほど流石はボクの勇気あるパートナーだ」
「隼人君もワームモンもコイツ暫く黙らせておいてくれるかなー!」
「はいはい」
葉山に促された戸部が深呼吸しながら前に出るが、その肩に乗ったコエモンがペシペシと戸部の頭を叩く。額に青筋を立てた戸部に突き出されたコエモンの口をワームモンの糸が塞いだ。ここでコエモンをぶん殴らない辺り戸部の煽り耐性の高さに微かに驚いたのは内緒だ。
デジタマを抱く海老名さんと、口が塞がったコエモンを肩に乗せた戸部が一歩前に出て向かい合う。俺達奉仕部はあくまで立会人でしかなく、葉山も三浦も余計な口出しはせずに黙って見守るのみだった。
「あ、えーっと…………とりあえず、俺の気持ちはもう分かってるって事でOK?」
戸部の言葉に無言で頷く海老名さん。しかしその表情は側から見ても判別し辛く、戸部もどう反応して良いのか分からず暫く黙り込むしかなかった。そしてチラリと肩に乗ったコエモンを見ると、またもう一度深呼吸した。
「まぁ俺の気持ちはともかくさ。俺、海老名さん達が何考えてるかなんて全く分からなかった。勿論、分かろうとしてなかったって言われたら何とも言い返せないっつーか」
「大丈夫。私たちが変わりたくなかったのは、ただのわがままだったから。黙ってたのにそんな事まで分かってくれ、なんて言えないしね」
「それでも、俺が空気読めてなかったかなーとは思う訳よ。その辺り、ごめん」
「私こそ、勝手な事言っててごめんね。戸部っちの気持ち知ってて邪魔する様な動きしてさ」
海老名さんの言葉に、全力で戸部の告白の妨害をしようと目論んでいた俺はちょっと居心地が悪くなって視線を逸らす。晒した先の雪ノ下と由比ヶ浜も同じような顔をしていたので微かにホッとした。三浦と葉山も微妙に気まずそうに肩をすくめていた。
だが、謝り合った事で二人の間にあったある種の壁のような物が消えたと言う感触が俺たちの間にも伝わってきていた。戸部もだが、海老名さんもようやくぎこちないながらも笑顔を見せ始めていた。
「とりあえずさ。今は告白を諦めるよ。少しずつ変わっていければいいって事で」
「…………そうだね。分かった。今じゃ無ければいつでもどうぞ」
海老名さんは微かに微笑みながらそう言った。その表情は、俺から見てもなんだか煌めいて見えた。そしてそれは戸部も同じだったのだろう。思いっきり驚いた顔で喋らなくされたコエモンと目を合わせ、コエモンが何度も激しく頷いた。
「え?そ、それって…………?ひょっとして…………?」
「あはは。今はダメだよ。でも、女の子が告白してきても良いよってのはそういう事だよ?」
「え?」
思わず小さな声が出た。ブイモンがヤベーって顔で天を仰ぎ、雪ノ下と由比ヶ浜の顔が凍り付く。事情を知らない葉山達が俺達を怪訝そうな顔で振り向いたその時、俺たちのスマホとデジヴァイスが激しく振動した。
「うわわっ!?」
「これ、まさか…………」
「来るのか、今!?」
「七大魔王!?」
八幡達が竹林の小径で凍り付いていたその頃。京都タワーは突如展望台から溢れ出したダークマターによって真っ黒に染まっていた。ダークマターはタワー展望台から地面に向けて落下していく勢いに乗って地下のネット回線を始めとする、ありとあらゆる電子機器を中継して京都中に広まっていく。その道中で途切れそうになれば、その近くに漂っていたデビドラモンの残滓を吸収して活性化を繰り返す。
やがて五分とたたずに京都全域はダークマターに包まれ、あらゆる光が消えてしまった。そしてそのダークマターを介してデジタルゲートが開く。
「グォォォォォォォォォォォォォォン!!!」
まず真っ黒に染まった桂川から真っ赤で巨大な鰐の様な、悪魔そのものと言った風貌の怪獣が浮上した。その余波でダークマターと川の水が混じった液体が一斉に河岸を越えて木々や家屋を薙ぎ倒していく。しかしその破壊すらも満足出来ないのか、その怪獣は咆哮を上げると四足歩行でゆっくりと動き出す。その巨体ゆえに歩くだけでも地震が起こり、人間たちは疎か成長期や成熟期のデジモン達すら立ち向かおうと言う発想すら浮かばないまま、ただひたすらにその巨大な足に踏まれない事を祈りながら震えることしか出来ない。
悪魔獣とも呼ばれるその魔王の名前は、リヴァイアモンと呼ばれていた。
「フフフ…………何一つのミスの無い予定通り。現実世界侵攻何てこんな物なのね」
清水寺を見上げる産寧坂に現れたのは、一見すれば大柄ながらも絶世の美女にも見える存在だった。しかし背中には悪魔の翼が生え、その吐息に触れた物は有機物どころか無機物すらも腐食していく。その美女はゆっくりと産寧坂を上がっていき、ダークマターの出現に戸惑っていた人間たちはその美女の存在に気づくと同時に、漂ってきた暗黒の吐息に触れて苦しみ出す。やがて美女が清水寺に辿り着く頃には、賑わっていた産寧坂の観光客達の声は聞こえなくなっていた。
暗黒の女神、リリスモン。今回の現実世界への侵攻作戦を先導した究極体デジモンだ。
「ウゥゥウ…………」
そして全ての始まりだった京都タワーのすぐ近く。京都駅前のロータリーに姿を現したのは、一見すれば鎖で雁字搦めな可愛らしい悪魔の人形のような存在だった。しかし、その大きさはロータリーを埋め尽くす程の巨大さだった。
その怪物の寝息が周囲に響き渡り、寝息は物理的な破壊へと変換されて周囲の人間達やデジモン達、そして建物にダメージを与えていた。
未だに眠り続けているが、それだけでも十分に脅威。ベルフェモン・スリープモードだ。
『京都全域に非常事態宣言発令!!京都駅、桂川、清水寺近郊に滞在している方は今すぐ避難して下さい!!繰り返します!!今すぐその場から逃げて下さい!!』
「オイオイヤバいな…………ダークドラモンを倒すだけじゃ不十分だったってのかよ!!」
「さっき沙希が電話で言ってたぞ!!でも、そんなのこっちじゃどうする事も出来なかったっての!!」
スマホに強制的に通信が入り、政府か役場なのかは分からないが今回の事件の対処をしていた大人達の悲鳴が聞こえてきた。そして、それと同時に事前に入れさせられた緊急事態用のアプリが起動する。
「え?ヒッキーとゆきのんと隼人君にだけ?」
「ひょっとして、デジタルワールド帰りには特別な命令が、とか?」
「ええ。どの道、こうなっては私たちが戦うしかこの世界を守れないわ」
三つの巨大な反応。そして実に癪に触るが、俺たちの最大戦力もまた、三つ。アプリの非常事態専用の通信機能が動き出し、川崎の顔が映った。
『もしもし、聞こえてる!?』
「川崎さんかい?聞こえてるさ。比企谷と雪乃ちゃんもいるよ!!」
「お前今どこ?どいつが一番近い?」
『清水寺だね。多分、リリスモンだ』
川崎とアグモンは清水寺でリリスモンと戦うらしい。
「なら私はここで、リヴァイアモンと戦うわ。大物相手なら、スサノオモンで行くわ」
雪ノ下は渡月橋でリヴァイアモンを待ち受ける。
「…………となると、俺達は京都駅のベルフェモンか」
「達って言うな。今回だけだぞ」
「ファォォォォォォォォォォォォォォッッ!!」
「うお!?え、海老名さん!?」
「姫菜、良い話した直後だし擬態するし」
「あ、あはは…………私達はここにいる事しか出来ないけど、頑張って!!」
鼻血を吹き出して今にも飛び上がりそうになっている海老名さんを戸部と三浦と由比ヶ浜の三人が介抱しつつ、俺達はそれぞれデジヴァイスを構えた。
「…………行くぞ!」
「「おう!!」」
D-3が激しく輝き、二つの光がブイモンとワームモンに降り注ぐ。
「ブイモン進化!!エクスブイモン!!」
「ワームモン進化!!スティングモン!!」
「「ジョグレス進化!!パイルドラモン!!」」
「究極進化!!インペリアルドラモン!!」
一気に進化、ジョグレス進化、そして究極進化でインペリアルドラモン・ドラゴンモードに進化する。俺と葉山はその背中に乗り、風を切って急上昇した。
インペリアルドラモンの背中の生体砲を風除けにしてしがみついていると、やがて京都上空を飛んでいた俺たちの視界には京都の街を埋め尽くす大量のダークマターと、その中心で安らかに眠るベルフェモン・スリープモードが。
「先手必勝だ!!撃て!!」
「メガデス!!」
インペリアルドラモンの必殺技、メガデスを連発しながら急降下していく。ベルフェモンはその直撃を真正面から受け止め、爆風に包まれていく。だがこの程度でデリートされる様な簡単な敵ではない。
モードチェンジでファイターモードに変形しつつ京都の街に滑り込む様にして着地するインペリアルドラモン。咆哮を上げて威嚇するが、爆風が晴れた先からインペリアルドラモンと同じくらいの大きさに巨大化し、鎖の封印を解き放ったベルフェモン・レイジモードが巨大な爪と翼を振り翳しながら咆哮を返してきた。
「京都が残るか…………?」
「だけど、やらなきゃ日本が残らないさ」
同じ頃。リリスモンの居城と化した清水寺の舞台の上で、沙希はアグモンを連れてデジヴァイスを構えつつ敵の気配を探っていた。しかしリリスモンの暗黒の吐息によって発生した霧は沙希の気配探知能力を大幅に削いでいた。
「アグモン、匂いは?」
「こんな闇の匂い塗れじゃ分からないよ」
「あらそう?良い匂いでしょ?」
「なっ!?」
「うわぁっ!?」
突然真っ黒の触手が沙希の右足と左手に巻き付いてきた。アグモンも触手に絡み取られてしまい、沙希共々清水の舞台の手すりを乗り越えた空中に吊るされてしまった。
「リリスモン…………!まさか、七大魔王が手を組むなんてね」
「単に利害が一致しただけよ。リヴァイアモンとベルフェモンはそろそろどこかで暴れたかっただけで…………私は現実世界に新しい城が欲しかった。今デジタルワールドにいる選ばれし子供が邪魔だって言うバルバモンとデーモン。ルーチェモンは…………何だったかしら。ああそう、たまには思いっきり暴れてみたいってね。今回の件に関わってないのはベルゼブモンだけじゃないかしら?」
「くっそー。仲間割れしてばっかの七大魔王の癖にー!!」
「元々仲悪いのが売りだもの。正義の味方のくせにいつも理由つけて内ゲバしてるロイヤルナイツよりかはずっとマシでしょ?」
「私達はロイヤルナイツじゃないからそんなの知った事じゃ、無い!!」
沙希は自分の体のあちこちに巻きついた触手に顔を顰めつつ、僅かに動く右拳で触手を殴り付ける。そしてそれをトリガーにして全身から溢れ出したデジソウルで触手をふり払うと、若干引いてる顔のリリスモンを他所に舞台から落下しながらデジヴァイスicにデジソウルを注ぎ込んでいく。
「デジソウル、チャージ!!オーバードライブ!!」
「アグモン進化!!ガイオウモン!!」
限界以上に注ぎ込まれたデジソウルを浴びて、アグモンもまた触手を振り解いて究極体のガイオウモンに進化する。そして落下する沙希に追いつくと優しく抱えてフワリと地面に着地。そしてまた再び飛び上がり清水寺の舞台に沙希共々降り立った。
「…………変なテイマーね。何で殴るの?」
「気合いよ。ガイオウモン!!」
「ああ!!」
リリスモンが右手の爪を巨大化させて飛びかかり、ガイオウモンが刀でそれを受け止める。リリスモンは暗黒の吐息で至近距離からガイオウモンを狙うが、ガイオウモンは咄嗟に飛び退いてそれを回避する。
自らの攻撃に恐れを成して飛び退いた事実にリリスモンは不敵に笑う。だがガイオウモンが刀を突きつけると、リリスモンの髪飾りに僅かな切り傷が入った。
「あの一瞬で…………!?」
「攻撃速度は五分と見た!!」
「なら私のサポートが入るこっちが有利!!」
「くっ…………舐めんじゃないわよぉっ!!」
無人の渡月橋の上。ダークマターの混じった川を遡ってこちらに近づいてきているリヴァイアモンの威容は、雪乃にももう見えていた。川は荒れに荒れて今にも氾濫が始まりそうな勢いで、リヴァイアモンがこのままこの勢いで人口密集地帯に上陸すれば被害は計り知れない。
そうはさせない、と雪乃は心に誓った。そしてディースキャナーを構えると、全てのエレメントが激しく発光した。
「エンシェントスピリット…………エボリューション!!」
ディースキャナーでデジコードをスキャンするのではなく、デジタルデータに変換された雪乃の体に各種のエレメントがそれぞれ変形して出来たパーツが装着されていく。腕、脚、顔、胴体、そして背中に日輪を背負い、神にも等しい力を秘めた伝説のデジモンがその姿を現した。
「スサノオモン!!」
桂川を猛スピードで逆走してきたリヴァイアモンが顎を開き、降臨したスサノオモンを食いちぎろうと迫る。しかし、スサノオモンはリヴァイアモンの顎の力を真正面から受け止めて見せた。
「ガッ…………!?」
噛み締めようとする顎の力を、真正面から受け止めて口をこじ開けていくスサノオモン。リヴァイアモンが驚きで動きを止めるが、少しの迷いを乗り越え、ならばと今度はその場で横に一回転。鰐のデスロールと呼ばれる技で、顎の力に勢いを乗せたリヴァイアモンの攻撃でスサノオモンは口の中から弾き飛ばされてしまった。
「無駄な事ね。いくら貴方が魔王でも、破壊神の力には遠く及ばない…………!!」
今度は自ら飛び込み、パンチ一発でリヴァイアモンを大きくよろめかせるスサノオモン。しかし確実にリヴァイアモンをデリート、ないしは戦闘不能に追い込めるレベルの大技を出せば、間違いなく現実世界に少なくないダメージを与えてしまう事を考えると、この格闘でちまちま削っていくしかないと内心歯噛みしていた。
リヴァイアモンの尻尾が迫り、急上昇して回避しつつリヴァイアモンの脳天に蹴りを入れる。ひっくり返ったリヴァイアモンがジタバタ暴れた事で起きた小さな津波が街まで届きそうになり、スサノオモンはそれをエレメントの余剰パーツから作り上げた神器、ゼロアームズ・オロチの一閃で蒸発させる。
だが、その光景を見ていたリヴァイアモンがニヤリと口角を上げた。尻尾を張り上げると、周囲の水とダークマターを跳ね飛ばして再び小さな津波を起こしたのだ。
スサノオモンはそれらを蒸発させていくが、そのせいで発生した蒸気によって塞がれた視界の端から巨大な尻尾が迫る。
「くっ…………!!」
吹き飛ばされたスサノオモンが背中から地面に叩きつけられ、ゼロアームズ・オロチが手元から離れてしまう。そこへ再びリヴァイアモンの尻尾が迫り、スサノオモンはそれを腕で受け止めるので精一杯だった。
リヴァイアモンの尻尾が振り下ろされる度に地震が起こり、比較的近くに居た結衣達は立っている事すら出来ないままスサノオモンが叩きのめされるのを見ている事しか出来なかった。
この場に居るのは全員がテイマーだ。しかし目の前で繰り広げられているのは、今まで見てきたデジモン同士の戦いとはまるでスケールが違う。神様と怪獣が神話の中から飛び出して戦っているかの様な光景を前に、何か出来る事を探そうと言う気持ちすら浮かんでこない。
「す、凄い…………でも、このままじゃゆきのんが負けちゃう!?」
「スサノオモンの力は無限大だよ。でも、この現実世界ではスサノオモンが全力出したら辺り一面消えちゃう」
「ああ。ブルコモンの言う通りだ。スサノオモンの必殺技はどれもこれも威力があり過ぎて、下手に放てば京都の街に少なくない被害が出てしまう」
ブルコモンとファンビーモンの言葉に背筋に冷たい物が流れる結衣達。このままでは戦局はリヴァイアモン有利のまま、ジリジリとスサノオモンが消耗していくばかりだ。ここは必殺技を放って状況を変えるべきなのだが、雪乃が周囲の被害を全く気にしない、或いは考えの及ばない人間ならとっくに必殺技を放っている事だろう。流れ弾一つで一区画は簡単に消滅させかねない火力を持つスサノオモンが全力を出すには、現実世界は小さすぎるのだ。
「ムーム。ムームー…………ムッ!」
「コエモン、どした?」
その時、コエモンが戸部の肩の上で不思議な踊りを踊り始めた。左腕を叩きながら首を横に振り、ジャンプして一回転して戸部の肩に着地するとポーズを決める。
「だから何?遊んでほしいなら後でな」
「いや別にそう言うわけでは無いんだが。察しの悪いパートナーだと嘆いて居たんだ」
「今の流れで何を察しろと?」
自分で口を塞いでいた糸を引っ剥がし、コエモンは呆れた声を出した。当然ながら戸部のイライラゲージはどんどん上がっていくのだが、コエモンはするりするりと肩から肘のあたりまで降りると戸部の腕に装着されたデジヴァイス、バイタルブレスを叩いた。
「全く。この新型デジヴァイスはだな、なんと戦っているデジモンとパートナー達をデジタル空間に転移させる機能が搭載されているのだ。ボクはこのバイタルブレスを人間達に届ける使命を背負ってやって来たのだ」
「はあ?遊びに来たんじゃなかったのかよ!?」
「それもある」
「え、ええ…………」
ツッコミどころが満載過ぎて一瞬言葉を失う中、今度は姫菜が胸に抱いて居たデジタマにヒビが入った。
「うわ、もう産まれた!?」
「ブルコモンの時は何ヶ月もかかったのに!?」
一気にデジタマが孵り、姫菜の腕の中に葉っぱの様な幼年期デジモンのニョキモンが産まれた。そして姫菜の左腕には戸部と同じバイタルブレスとdimカードが。
「海老名さん、とりまそのdimカードを差し込んで!」
「こ、こう?」
戸部のアドバイスに従い、正式なパートナー契約が姫菜とリーフモンの間に結ばれる。姫菜のバイタルブレスも起動したのを確認したコエモンが戸部のバイタルブレスのスイッチを弄る。
「こうだぞ。こうすると…………ほれ」
姫菜もコエモンの動きを真似してバイタルブレスのスイッチを幾つか押してみる。すると、不思議な光が二人の足元から広がって行った。そしてその光は京都のあちこちから広がっていき、やがてこの戦いに関わって居ない人々の視界から七大魔王と、その魔王達と戦っているデジモン達の姿が消えた。
「これは、デジタル空間?」
スサノオモンもまた、突然周囲の景色が変わったのを見て困惑を隠しきれない。だが、その時遠くから声が聞こえて来た。
「ゆきのーん!!もう大丈夫だから、思いっきりやっちゃって!!」
「由比ヶ浜さん…………?」
どう言う理屈なのかは分からないが、信頼できる友達の言葉だ。スサノオモンは奮起し、リヴァイアモンの尻尾を回避してゼロアームズ・オロチを回収する。
「七大魔王なら、デジタマに返す余裕は無いわね。残念だけど、デリートさせる!!」
ゼロアームズ・オロチから光の剣が出現し、リヴァイアモンが真正面から飛びかかってくる。巨大な顎を全力で開き、渾身の闇のパワーを込めた噛み砕き攻撃を放つ。リヴァイアモンの必殺技、ロストルムだ。
「天羽々斬…………!!」
しかしスサノオモンも負けじと必殺技の天羽々斬を放つ。リヴァイアモンの顎の中に飛び込み、光の剣が上顎を突き刺し切り裂いていく。そしてリヴァイアモンの喉にたどり着くと同時に剣を真正面に振り下ろすと、リヴァイアモンの巨体は天羽々斬によって真っ二つに両断され、やがて果てしない余剰エネルギーは暴発して爆発を起こす。
「フッ!」
だがその爆風すらも切り裂き、スサノオモンはその威容を持って勝鬨を上げた。
清水寺。現実のこの場所は僅かな傷を残して無事だが、デジタル空間と化したこの清水寺は舞台の半分は腐食によって崩れ落ち、お堂は刀傷によって斜めに切り裂かれて居た。
「なかなかやるわね。かつてデジタルワールドを冒険した子供が成長してるって話は聞いてたけど、まさかそんな奴らと鉢合わせるなんてねぇ」
「そっちこそ、魔王の称号は伊達じゃないな」
「ガイオウモン、まだやれる?」
「勿論さ、沙希」
肩を抑えながら後ずさるリリスモン。だがガイオウモンも片膝を付き、刀の切っ先も少し下がっていた。テイマーである沙希としてはリリスモンの攻撃範囲外から適宜指示を出す事くらいしか出来ないが、それでもリリスモンの暗黒の吐息による呼吸への悪影響は避けられない。ハンカチで口元を覆っていても、せいぜい無いよりかはマシ程度のものだ。
「そろそろテイマーが限界かい?だったら私の力で操り人形にしてあげるよ」
「何!?」
「それは、X抗体!?」
リリスモンがどこからともなく取り出したのは、城廻先輩のブイモンが首に下げているものと同じXの文字のペンダントだった。リリスモンはそれを自分の胸に突き刺すと、邪悪な光がリリスモンから溢れ出す。
沙希とガイオウモンがその光を前に背筋が凍りつく様な闇を感じる中で、やがて光が収まるとそこには更に若返った様な姿のリリスモンX抗体が。着ていた着物が大きく広がり、背中には禍々しい蝶の様な羽根を生やし、頭には色欲の冠が装着されたその姿を見た沙希の心臓に嫌な振動が走る。
「あぐっ…………!?」
「沙希!?」
「なん、だ、これ…………!?」
「私の下僕になりなさい…………」
視覚を通じて無理やりリリスモンへの色欲を植え付けられてしまった沙希。しかしそれに強靭な精神力で耐えたせいで、心臓に強烈な負荷が掛かってしまったのだ。
その場に崩れ落ち、何とか片膝で立つのがやっとの沙希。ガイオウモンは何とか沙希を守ろうとするが、リリスモンX抗体は瞬間移動とも見間違えるほどの速度でガイオウモンに接近すると張り手一発でガイオウモンを吹き飛ばしてしまう。
「ぐあっ!?」
「ガイオウモン!!」
今度はガイオウモンが清水の舞台から突き落とされてしまい、たった一人残された沙希の腰にリリスモンX抗体の手が艶かしく伸びる。無理やり立たされ、魔爪のナザルネイルが沙希の顎を持ち上げる。
「我慢なんかしても無駄よ。苦しいだけ。まあそれが嬉しいなら我慢すればいいわ」
リリスモンと体が密着し、まるで人間の女の様な柔らかさと暖かさを再現されたデジタルデータが沙希の脳に過剰に注ぎ込まれていく。
「わ、私、は…………デジモン相手に、そんなことする趣味は無い!!」
「そう?ああ、手が届かないと諦めている好きな男がいるのね。まぁこのリリスモンに屈すれば忘れられるわよ?」
「ふ、ふざけないでよッ!」
しかし無理やり沙希の脳内を探って知った顔で語るその言葉に激昂した沙希が咄嗟にリリスモンに頭突きを放った。
「なあっ!?正気!?」
究極体デジモンと言う事もあってダメージは無いが、人間の女に頭突きをされたと言うショックで思わず距離を取ってしまうリリスモンX抗体。そして沙希もその頭突きのダメージが気付けになって心臓への負荷も消えていくのを感じていた。
「私が今、一番大事なのは!!ここでアンタを倒して!!選ばれし子供達ちば組には川崎沙希が居るって事を!!大人達に知らしめる事!!ガイオウモン!!」
「ウオオオオオオオオオオ!!」
再び飛び上がって来たガイオウモンと再びデジソウルを漲らせる沙希。デジモンとテイマーが心を一つに合わせ、デジヴァイスicが激しく輝いた。
「チャージ!!デジソウルバースト!!」
限界を更に超えたデジソウルがデジヴァイスicを介してガイオウモンに注ぎ込まれていく。そのデジソウルは炎に変わってガイオウモンの頭上に太陽の如く輝いた。
ガイオウモンはその太陽の炎を浴びて全身の鎧が赤く染まり、二本の刀が一本の巨大な剣に変わる。デジコアの中に眠っていた鬼のデータが、沙希の炎に変わるほどのデジソウルを浴びて覚醒したのだ。
「ガイオウモン・厳刀ノ型!!」
「っ!?そっちも奥の手を隠してたわけね!!」
ガイオウモン・厳刀ノ型は巨大な剣を構え、リリスモンX抗体を前にしてかかってこいと言わんばかりに鼻息を鳴らす。明らかな挑発と分かっていたリリスモンX抗体だったが、一分の隙もない今のガイオウモンを前にして離脱やテイマー狙いの戦術は、逆に隙を作ることに他ならないと気づいてしまった。
今のガイオウモンから逃れるには、この一騎打ちを受けて勝つしかない。ゴクリと唾を飲み込み、ナザルネイルを構えるリリスモンX抗体。そしてさっきガイオウモンが反応しきれなかった時と同じ速度で飛び掛かる。
「遅い」
それが、リリスモンX抗体が認識した最後の言葉だった。
デジタル空間の京都駅。インペリアルドラモンファイターモードと、ベルフェモンレイジモードは真正面から取っ組み合いを繰り広げていた。双方どちらも一歩踏み出すだけでコンクリートが捲れ上がり、殴り合いの余波でビルに穴が空く。しかし俺達も立ち止まる訳にはいかず、デジタル京都駅の室町小路広場から戦うインペリアルドラモンを見つめていた。
「ここがデジタル空間なら、どれだけ壊して構わないってことか?」
「だけど、俺たちは壊れたら戻らないって事は忘れるなよ」
「分かってるっての」
インペリアルドラモンのパンチがベルフェモンの顔面に入り、僅かによろめいたベルフェモンがタックルを返す。ぶつかり合った二体の衝撃は俺達も態勢を思わず崩すほどだった。
「くっ…………」
「インペリアルドラモン!!」
体重の差なのか、インペリアルドラモンの方が僅かに大きくよろめいてしまう。その隙にベルフェモンの方が態勢を入れ替え、インペリアルドラモンに更なる追撃の体当たりを決める。二度目の体当たりで今度こそ大きく体勢を崩されたインペリアルドラモンは、背中から京都駅の壁にぶち当たり、そのまま二体のデジモンは俺たちの目の前で京都駅の構内になだれ込んでいった。
「不味い!!体勢を整えるんだ!!」
俺の声にインペリアルドラモンが応えるよりも先に、ベルフェモンが地獄の炎を纏った爪を振り下ろす。激しく地面が揺れ、周囲の壁にヒビが入る中でインペリアルドラモンの悲鳴が轟いた。
「こうなったら、ドラゴンモードだ!!」
「分かった!モードチェンジ!!」
葉山が叫び、二度目の爪が振り下ろされる直前にドラゴンモードにモードチェンジしたインペリアルドラモンがベルフェモンの肩の辺りに噛みついた。そしてそのまま四足歩行の利点を活かし、インペリアルドラモンの全体重をベルフェモンにかける。ベルフェモンは体勢を崩し中央改札口を潰しながら倒れた。
ベルフェモンが抵抗するが、四肢を全て使ってベルフェモンを抑え込んだインペリアルドラモンがゼロ距離でメガデスを放とうとする。しかし、ベルフェモンの体に巻き付いた鎖が赤黒く輝いた。
「ランプランツス!!」
「ぐあっ!?」
鎖から放たれた炎に吹き飛ばされたインペリアルドラモンが大階段に頭から突っ込み、立ち上がったベルフェモンが追撃を放とうと近寄ってくる。しかし俺はそれを見ていた為に、D-3を介してインペリアルドラモンに指示を出す。
「今だ!」
インペリアルドラモンが尻尾でベルフェモンの足を払い、体勢を崩した隙に再びファイターモードにチェンジする。大量の瓦礫が背中や翼から落ち、少なくない傷を負いながらも立ち上がったインペリアルドラモンは右手の生体砲をベルフェモンに向け発射する。
「ポジトロンレーザー!」
腹部にポジトロンレーザーの直撃を受けたベルフェモンが苦悶の表情を浮かべて二歩ほど後ずさるが、すぐに足を止めて再び鎖から炎を放った。インペリアルドラモンも炎の直撃を受けてポジトロンレーザーが止まってしまい、その場に片膝をついてしまった。
「インペリアルドラモン!大丈夫か!?」
「くっ…………流石は魔王だ…………!!」
「今のポジトロンレーザーでも倒し切れないなら、もう最後の技を使うしかないな」
「ああ…………物陰に隠れていてくれ!!」
ベルフェモンもまた消耗を隠しきれていない様子だが、それでも再びインペリアルドラモン相手に格闘戦を挑もうとしてくる。俺たちはとりあえず離れて丈夫そうな物陰に隠れ、再びぶつかり合った二体の衝撃に耐える。
「いいぞ!!」
「撃て!!インペリアルドラモン!!」
「ああ!!」
取っ組み合ったインペリアルドラモンとベルフェモン。しかしベルフェモンは、インペリアルドラモンの右腕に生体砲が無い事に気づくのが一瞬遅かった。
「終わりだ!ベルフェモン!!」
胸のユニットに移動していた生体砲が輝き、思わず逃げようとするベルフェモンをインペリアルドラモンが両腕で掴んで離さない。ベルフェモンが吠え、爪に炎を纏わせて振り下ろそうとしたその時だった。
「ギガデス!!」
インペリアルドラモンの全エネルギーが込められたフルパワーの必殺技。ドラゴンモードの時のメガデスの十倍のエネルギーが込められた最強の必殺技、ギガデスを至近距離から叩き込まれたベルフェモンが悲鳴を上げる。
インペリアルドラモンの拘束からも離れて吹き飛ばされていくベルフェモンが京都駅の壁を突き破り、一瞬だけ地面に足をつけて耐える素振りを見せる。だが、インペリアルドラモンが更にエネルギーを込めるとベルフェモンの足が浮いた。
「消えろォォォォォォォ!!」
「ガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッッ!!!」
遂にベルフェモンが背中から線路に倒れ込み、大爆発を起こしてデータごと消滅していった。最後の足掻きなのか、黒い炎が咆哮と共に爆炎を突き抜けて天へと昇り、それが消えた頃にはベルフェモンは完全に消滅した。
「か、勝った…………」
インペリアルドラモンがその場に崩れ落ちると同時に光に変わり、ブイモンの幼年期のチビモンとワームモンの幼年期のミノモンがその場に倒れていた。
「チビモン、大丈夫か?」
「腹、減ったぁ…………」
「隼人、死ぬかと思ったよぉ…………」
「無理させたな、ミノモン。ゆっくり休んでくれ」
俺も葉山もチビモンとミノモンを抱き上げて立ち上がると、再び光が走ってデジタル空間から元の京都駅に帰還した。先程までの瓦礫の山ではなく、無人ではあるが無事な京都駅だ。
「本当に終わったのか…………」
「ああ。俺たちの勝ちだ」
こうして、俺たちの京都の戦いは始まった時と同じくらい急に終わった。
後になって分かった事だが、全く同じタイミングでデジタルワールドで選ばれし子供達京都組がルーチェモンとの決戦の果てに勝利していたらしい。バルバモンとデーモンは唯一味方をしてくれた七大魔王の一角のベルゼブモンが倒し、残された魔王勢力下のデジモン達を連れてデジタルワールドの奥地に消えたんだとか。
これで七大魔王は暫く集結することは無くなり、現実世界への被害も新型デジヴァイスのバイタルブレスのお陰で最小限に留まった。戦った俺達四人は政府からの感謝状とそれなりの報酬、そしてついでにDセイバーズ隊員の内定資格を手に入れた。俺としては別に要らないんだが、川崎は希望する進路へのチケットが手に入ったのでめちゃくちゃ嬉しそうだった。
戸部と海老名さんは修学旅行を終えたばかりの今のところは付き合い始めてはいない。あくまで仲のいい男女の友達といった雰囲気のままだ。葉山軍団の空中分解は避けられたのだろう。
だが、俺にはどうしても看過できない問題が出来てしまった。
「あ、ヒッキー…………」
「よ、よう…………」
朝の教室では由比ヶ浜と。
「ッ!?ひ、比企谷、君。そう。来たのね」
「…………あー。まあ、平塚先生に来なきゃ殴られるからな…………」
「そ、そう…………」
放課後の奉仕部では雪ノ下と。
学年一の美少女二人から、異性として好意を寄せていますと宣言されました。どうすりゃ良いんですか教えて下さいお願いします。
次回は奉仕部の人間模様を整理しつついろはす回の予定です。