やはり俺とブイモンの青春ラブコメは間違っている。   作:アルファ麻呂

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ちょっと遅くなりました。


第二十七話

「あらぁ。貴方が結衣の彼氏のヒッキー君?」

「え?あ、はい…………」

「会えて良かったわー。結衣ったら本当に幸せそうに貴方の事話すんだもの。一回ちゃんと会って話してみたかったのに、結衣ってば中々合わせてくれなくて」

 

由比ヶ浜とのデートの翌日、由比ヶ浜の家に呼び出された俺は由比ヶ浜にそっくりな大人っぽいお姉さんに絡まれていた。純粋に大人っぽくなった由比ヶ浜って感じなので、聞いたことは無いが多分姉か何かだとは思うのだが、既にブイモンは抱っこされているし俺の手を握りしめていて逃れようが無い。ただでさえ由比ヶ浜の陽キャオーラには時折負けそうになるのだが、この推定姉ヶ浜さんの溢れんばかりの陽キャオーラにはもうノックアウト寸前だった。

 

「あ、えーっと、俺、由比ヶ浜さん?に、ちょっと呼ばれて居るんで…………」

「とりあえず座って。今お茶を淹れるから。そしたらジックリと結衣との馴れ初めから順に…………」

「ママ!?」

 

何故かソファに誘われてしまう俺達だったが、リビングに駆けつけてきた由比ヶ浜が顔を真っ赤にして推定姉…………ママ?

 

「結衣、はじめての彼氏をお母さんに紹介してくれたって良いじゃ無い?あ、ヒッキー君、家族アルバム見る?それとも一緒に写真撮ってアルバムに載せる?」

「ママ!!ヒッキーから離れて!!ブイモンも離す!!」

 

あれよあれよとママヶ浜さんに引き摺り込まれていく俺の手を掴み、由比ヶ浜がブイモンを力ずくで奪い返す。ママヶ浜さんは物凄い寂しそうな顔をするが、由比ヶ浜は全く怯まず俺を引っ張って行った。

 

「もう…………!!本当に恥ずかしい…………!!」

「…………何というか、若く見える母親だったな」

「むー!!ヒッキー!!」

 

顔が燃え上がらんばかりに真っ赤に染まった由比ヶ浜に手を引かれてリビングを出る。しかし思わず漏れたママヶ浜さんへの感想はお気に召さなかったのか、由比ヶ浜は恥ずかしさで若干涙目になりながらも睨みつけてきた。

 

「何だろうな、八幡。想像してた由比ヶ浜家のイメージの百倍くらい濃かったな」

「ブイモン?ヒッキー?私の家について何を想像してたの!?」

「…………」

「…………」

 

とてもじゃないが言えないが、由比ヶ浜の喧しさと恋愛脳っぷりが二倍になったイメージだった。しかし実際は由比ヶ浜が可愛く見えるくらいグイグイ来るママヶ浜さんだった。これでまだパパヶ浜さんが待ち構えて居るってのが怖い。

 

「ま、まあそれはともかくだ。ブルコモンが進化したって?」

「…………うん。昨日の夜にね。ちょっと予想と違った姿に進化したけど」

「ブルコモンなら普通に進化すればペイルドラモンだよな。それが、猫型の新種のデジモンに進化したって?」

「うん。で、とりあえずヒッキーとゆきのんに連絡したら…………」

 

由比ヶ浜が部屋の扉を開けると、雪ノ下が由比ヶ浜のベッドを占領していた。

 

「ふ、ふふふ…………猫。可愛いわ、これが新種のデジモンなら、私は世界で初めての抱き心地を堪能して居るのよ」

「ア…………アァ…………」

「め、メイクーモン!?」

 

オレンジの体色の猫型デジモンのメイクーモンは、雪ノ下の腕に抱かれて既に魂が抜けかけていた。もはや逃げ出そうと言う意志すら見受けられない程に衰弱し、されるがままに全身のあちこちを撫でられ、毛並みを延々と整えさせられている。

 

「由比ヶ浜さん、それに…………あら、比企谷君じゃない。大丈夫よ、貴方達の邪魔はしないわ。だからこの至福の時をもう少し堪能させて頂戴」

「こ、コイツ…………」

「お、おい雪乃!!カマクラは昨日のトラウマで今日動物病院に行ってるんだぞ!!」

「ふ、ふふ…………にゃー」

「…………にゃー…………」

「よく言えたわメイクーモン。ご褒美よ」

 

色々とブレーキがぶっ壊れた雪ノ下にデジ肉を差し出され、僅かな体力を求めてメイクーモンがかぶりつく。だが、それと引き換えに雪ノ下はカメラを取り出してデジ肉を食べるメイクーモンを無言で連写し始めた。

 

「ずっとゆきのんこんな感じで…………」

「よし、サブレ連れて来い。コイツは犬を怖がるからな。追い払うにはサブレが一番だろ」

「ガッテン承知」

「いきなり実力行使から入った!?」

 

他に方法は無い。と言うわけで庭でドッグフードを食べていたサブレを抱いて連れて行く。因みに俺を見たサブレは物凄い勢いで尻尾を振って甘えて来た。その事に由比ヶ浜が何かしら言いたげな顔をしてはいたが、ここは割愛する。

 

「よし、吼えろサブレ」

 

俺の合図でサブレが吼え、雪ノ下の肩が震えてメイクーモンを抱く手が止まった。

 

「比企谷君…………貴方、まさかとは思うけれど、私がまだ小学生時代の犬嫌いを克服できていないとでも思って居るのかしら」

「だったらジリジリ逃げるのやめろ。それとメイクーモンを離せ」

「嫌よ。今日は一日この子と戯れると決めて居るの」

「…………タスケテ…………」

「め、メイクーモン!!」

 

なんやかんや言って俺がフッたせいか、雪ノ下にも変なスイッチが入ってしまったみたいだ。しかしこのままではメイクーモンは死んでしまいかねない。まぁうちのカマクラもだが、流石にそこまではいかないだろうけども。

 

しかしここは最悪の手段が一つある。ブイモンも同じ思いなのか、物凄い苦々しい顔で頷き返してきた。アレしか無いぞ、と。

 

「…………なあ雪ノ下。そう言えば陽乃さんと会ったか?」

「いいえ。そもそもなんで姉さんと会わないといけないのかしら?」

「よし。ちょっと待ってろ」

 

さらば千葉県。南無阿弥陀仏。俺はスマホから陽乃さんの連絡先を探し出して呼び出す。三コールで陽乃さんは出た。

 

『あ、比企谷君?君から連絡してくれるなんて珍しい。何か用事?』

「いえ、今暇ですか?」

『いやー。今日も雪乃ちゃんの部屋に突撃したけど居なくてさぁ。幾つか猫カフェ巡って探して回ろうかなって思ったたところ』

「…………今目の前にいるんで、スピーカーにしますね」

『あ、そう?なら、ひゃっはろー、雪乃ちゃん?』

「…………ふう。何かしら?今、姉さんに構って居る暇なんてないのだけれど」

『あ、すぐに済むよ。実はお姉ちゃんにもパートナーが出来たから紹介したかったんだよねー』

 

ピシリ、と空気が凍った。雪ノ下の胸の中でぐったりしていたメイクーモンが恐怖の余り小刻みに震え出す。そしてようやく雪ノ下の腕の中から抜け出す隙を見つけて慌てて由比ヶ浜の胸に飛び込んでいくが、雪ノ下がそれに気づく様子は無かった。

 

「ゆ、結衣…………」

「大丈夫?ブルコモ…………じゃ無かったメイクーモン」

 

なんか劇的な再会っぽい勢いの由比ヶ浜とメイクーモンを他所に、雪ノ下はおもむろにディースキャナーを取り出していた。

 

「そう。おめでとう姉さん。ようやくまともな人間への道を歩き出したのね」

『雪乃ちゃんひっどーい。でも、そう言うところも可愛いなーって今なら思うの。何せパートナーはスサノオモンにまでなれるんでしょ?私のパートナーなんて、七大魔王のリリスモンでしか無いんだしー』

『…………何のマウントの取り合いに巻き込まれたの?私…………』

 

リリスモンの呆然としたツッコミを他所に、雪ノ下と陽乃さんの全く感情の篭っていない笑い声が俺のスマホ越しにぶつかり合った。

 

「…………立場を分からせてあげる必要があるわね。マンションの前で待っていて頂戴」

『あ、大丈夫。リリスモンのお陰で雪乃ちゃんの部屋に入れたから、部屋で待ってるねー?』

『選ぶパートナー間違えたかもしれない…………』

 

スマホの通話が終わり、余りの怒りで赤黒い稲妻のようなもの幻視させながら雪ノ下はお邪魔したわね、とだけ言い残して由比ヶ浜家を後にした。そしてすぐにスピリットエボリューションの光が外から一瞬見えて、ガルムモンが雪ノ下のマンション目掛けて飛んでいくのが見えた。

 

「これで良かったのかなぁ…………」

「これしか無いんだ。陽乃さんがバイタルブレスのデジタルシフト能力に気づいて居ることを願おう…………!!」

 

 

 

『速報です。先程日本時間の正午過ぎ、デジタルワールドで大規模な爆発が観測されました。人間世界への影響は今のところ無く、また未確認の情報ですがオメガモンらしきデジモンが巨大な龍の様なデジモンと戦っている光景を見たと言う証言も…………』

「うん。千葉県内での爆発のニュースは無いな」

 

千葉駅にある動物病院の待合室で流れているテレビを見ながら思わず安堵のため息を吐く。隣に座っていたブイモンも肩の力が抜けたのかソファに背中を預けた。

 

雪ノ下の出陣を見届けた俺たちは、そのままやけに引き留めたがるママヶ浜さんを振り切り千葉駅の動物病院に向かった。ここの動物病院はデジモンの治療や検査も請け負っており、千葉県のテイマー達御用達の病院だ。完全な新種のメイクーモンの特性とか色々を調べたいのもあったが、何よりメイクーモンが雪ノ下のせいでだいぶ衰弱していたからだ。

 

「あれ?アンタ達…………」

「あー!はーちゃん!ブイモン!」

「ん?」

「あ、沙希に京華だ」

 

不意に聞き覚えのある声がして顔を上げると、見覚えのある髪色の幼稚園児がガバッと俺に抱きついて来た。

 

「おー。けーちゃんか。久しぶりな気がするな」

「中々八幡もブイモンも、会いに来てくれないもんな」

 

初めて会った時の川崎が更に小さくなって、ついでに可愛らしくなった感じの少女、川崎京華。当然ながら川崎と大志の妹だ。川崎との繋がりでちょいちょい家で預かったりしているせいかやけに懐かれてしまった。パートナーのハックモンもこっちには一切警戒心を抱いていないし、なんやかんやでもう一人の妹みたいな気がしてしまう。

 

「アンタ…………京華に手を出すんじゃ無いよ…………!!」

「沙希、落ち着けー。京華が抱きついてるだけだぞ」

 

しかしそれが許せないのか、川崎が額に青筋を立てて拳にデジソウルを溜め始めた。アグモンが必死に抑えているが、京華が抱きついて来ていなければ殴りかかって来ている事だろう。

 

「って、何だってここに?」

「京華とハックモンの定期検診。小学生上がるまでは半年に一回は検診受けるのが義務なの」

「僕たちはその付き添いだよ」

「あー。京華はデジタルワールドを検知出来る特異体質だったからな」

 

生まれた時からデジモンと一緒に居る京華みたいな子供は、幼稚園くらいまではデジタルワールド関連の異変を感知する特異体質になる事があるらしい。そろそろ京華の力も消え始める年と言う事もあり、これが最後の定期検診なのだろう。

 

「けーちゃんも大変だな。もう変なものは見えないか?」

「んー…………あ、でも、なんか昨日からちょっと怖いかなー」

「怖い?」

 

京華がちょっと震え始め、川崎が微かに眉を顰める。しかしこれ以上は詳しく言語化出来ないのか、京華は首を傾げるばかり。代わりに答えたのはハックモンだった。

 

「僕もはっきりとした事はわからない。けど、ロイヤルナイツの間で意見の相違があったみたいなんだ」

「あ、さっきのテレビのニュースか。なら、オメガモンと戦ってた龍みたいなデジモンはエグザモンか?」

「またロイヤルナイツの内ゲバ?飽きないね、アイツら…………」

「正義の味方なのに喧嘩早いんだよな」

 

川崎の呆れ果てた顔に、思わず昔の冒険の時を思い出す。俺たちは新しい進化データを探す冒険をしていたのだが、その際に発生したバグデータのせいでオメガモンとデュークモンが暗黒化して暴れ出してしまった。俺たちはその二体の対処に命をかける羽目になったせいで、ロイヤルナイツに対して余り良い感情を抱けないのだ。暴走していたとは言え、正義の味方達に何度も殺されかけた経験があっては仕方ないだろう。

 

「まぁまぁ。残りのロイヤルナイツのメンバーは暴走しないように自分で自分を封印してくれてたお陰で助かっただろ?マグナモンなんか、奇跡のデジメンタルの場所をテレパシーで教えてくれたし」

「だからってなぁ…………」

 

ブイモンの擁護も正論だとは分かっているのだが、それでも苦々しい顔は納められなかった。川崎も無言で同意してくれているし、多分他の奴らも同じ気分だろう。

 

やがて由比ヶ浜とメイクーモンがナース服を着ているリリモンと一緒に出て来た。

 

「とりあえず今日一日は安静にしててくださいねー」

「はい、ありがとうございます!」

「うー…………苦しい…………」

 

やけにぐったりしているメイクーモンを胸に抱く由比ヶ浜が一礼して俺たちのところに駆け寄ってくる。

 

「あれ?川崎さん?」

「偶然…………ってそうか。アンタ達付き合い始めたんだっけ。いろはから聞いたよ」

「…………はーちゃん、顔真っ赤」

 

川崎に言われて由比ヶ浜が一瞬で顔を真っ赤にし、当然ながら俺も赤面する。京華の謎のジト目に居心地の悪い思いをしてしまうが、咳払いで誤魔化しつつ京華を隣の椅子に座らせて立ち上がった。

 

「と、とりあえず今日のところは帰るか。小町がカマクラを病院連れてってるから夕食の買い物もして来ないと…………」

 

その時だった。

 

「グォォォォォォォォ=#%^=^#]>|*[#{£!!!!」

 

突然、千葉駅の上空に赤黒い稲妻のようなノイズが走り、巨大な裂け目が現れた。

 

「な、何だ!?」

 

快晴の空が赤黒い色に染まり、現れた裂け目から黒い何かが落下してくる。それは人型の二つの影だった。

 

「不味いな。ブイモン!」

「ああ!!ブイモン進化!!エクスブイモン!!」

 

咄嗟にエクスブイモンに進化させ、落下してくる影を回収させる。空中で上手くキャッチしたエクスブイモンが俺の元に戻ってくるが、その顔は困惑の色に染まっていた。その理由はすぐに分かった。

 

「え?陽乃さん?」

「何でリリスモンがここに?」

 

エクスブイモンが助けたのはズタボロの陽乃さんとリリスモンだった。俺たちがその事実に困惑する隙すら与えず、裂け目から伸びた巨大な腕が裂け目を無理矢理こじ開け、中からスサノオモンが現れた。

 

「スサノオモン!?ゆきのん!?」

「雪ノ下!?何やってんだ!?陽乃さん、どんだけ煽ったんです!?」

「ち、違う…………アレは、あの子じゃない…………!」

 

裂け目から飛び出して来たスサノオモンの全身には赤黒い稲妻のようなモノが走り、意思のない獣のような雄叫びを上げる。だが、その叫び声はまるで、音なのに文字化けしているかの様な意味不明なノイズ混じりの雑音でしかなかった。

 

「最初は、ただの口論だったわ…………だけど、突然雪乃ちゃんのディースキャナーが異常な反応を見せて…………」

「無理矢理スサノオモンに進化させられてすぐは抵抗出来てたみたいだけど、すぐに理性を塗りつぶされたみたいな感じ。力が戻りきってない私じゃ、時間稼ぎだって無理よ。デジタル空間すらこじ開けて追いかけてこられちゃね…………」

 

陽乃さんとリリスモンはそれぞれボロボロの身体を押してなんとか立ちあがろうとするが、暴走しているスサノオモンを前に今は足手纏いでしかない。

 

「由比ヶ浜さん、京華と陽乃さん連れて下がってて。行くよ、アグモン!!デジソウルチャージ!!オーバードライブ!!」

「アグモン進化!ガイオウモン!!」

 

まずは川崎とガイオウモンが飛び交っていく。ガイオウモンの刀の一閃を両腕の籠手で受け止めたスサノオモンが弾き返して蹴りを入れ、ガイオウモンは千葉駅のホームに叩き込まれた。

 

「くっ…………流石に強い!!」

 

激突の衝撃で発生した瓦礫から逃げ遅れた人達を庇いつつ、なんとか立ち上がったガイオウモン。二本の刀を合わせて強烈な光のビームを放つ必殺技の燐火撃放つが、スサノオモンはそれを回避して接近していく。

 

「このままでは、犠牲者が出る!」

「ガイオウモン!どの道接近するしか無いよ!!」

「ああ!!」

 

スサノオモンの必殺技はどれも地形を変えるほどの威力のある技ばかり。なら接近戦で一気に蹴りをつけてしまわなければ。

 

「雪ノ下の目を覚まさせるよ!!チャージ!バースト!!」

「ガイオウモン、厳刀ノ型!」

 

パワーアップしたガイオウモン厳刀ノ型は一本になった刀を振り下ろす。だが、スサノオモンもまたゼロアームズ:オロチを呼び出して激しい鍔迫り合いを始めた。

 

「くそ、凄い戦いだ…………」

「どうする八幡。マグナモンじゃ、足手纏いじゃ無いかこれ?」

 

いつ余波で千葉駅を吹っ飛ばしてもおかしくない戦いに思わず歯噛みする俺とエクスブイモンだが、葉山とワームモンが居ない今では最高戦力が制限時間アリのマグナモンまでしかない以上どうすることもできない。

 

「ひ、ヒッキー!」

 

その時、由比ヶ浜の悲鳴に思わず振り向く。するとそこには、ナース服を着たリリモンが、スサノオモンと同じ様に赤黒い稲妻のようなモノを全身に走らせながらフラウカノンの構えを由比ヶ浜達に向けている所だった。

 

「エクスブイモン!威力は抑えろよ!」

「ああ!!エクスレイザー!!」

 

威力を絞ったエクスレイザーがリリモンに直撃し、完全体とは言え体勢を崩したリリモンのフラウカノンが誰もいない空に向かって飛んでいく。そこにフラフラになりながらもリリスモンが黒いモヤを放ち、リリモンがその場に崩れ落ちた。

 

「夢を見ていて頂戴。でも、まさかこれは…………」

「暴走…………?文化祭の時みたいな感じか?」

 

今の所はリリモンだけしか暴走はしていないし、相模の暗黒進化に誘発させられた時とは違い、完全体のデジモンどころか神クラスの存在に近いスサノオモンすら暴走の影響下にあり、赤黒い稲妻のようなモノを放っている。

 

「なんなんだ、これ…………俺たちデジモンに感染するウィルスか?」

「死のXウィルスみたいなやつか?」

 

メイクーモンの言う通り、以前にデジタルワールドで流行ったと言う致死性のあるXウィルスと言う実例がある。ならブイモンの言う通り、暴走させるタイプの新しいデジモンへのウィルスがばら撒かれている可能性はある。だとすれば、ブイモン達も危ないのだが…………。

 

「…………はーちゃん!オメガブレード!!オメガブレードの力ならみんなを元に戻せるよ!!」

「え?京華?」

「オメガブレード!!オメガブレード早く!!」

「そ、そうは言ってもなぁ…………」

 

京華が突然叫び出す。しかしオメガブレードはそんなすぐにホイホイ出せる代物ではない。アレはかつての冒険のオメガモンズワルドディフィートとの最終決戦の時、ロイヤルナイツ達が最後の力を合わせて二つのホーリーリングに変えて俺と葉山に託した代物だ。俺と葉山が揃っていないと出てこないし、そもそも使いこなせるのはインペリアルドラモンだけだ。

 

「くそ、由比ヶ浜!葉山と連絡取れるか!?」

「や、やってみる!!」

 

慌てて由比ヶ浜が携帯を取り出す。だが、それよりも先に黒っぽい緑の影が俺たちの前に降り立った。

 

「その必要は無いかな。こんなにも派手な事件、気が付かない方がおかしいじゃないか」

「葉山ぁ…………!!」

 

影の正体はスティングモンと一緒に駆けつけた葉山だった。嫌なタイミングで来やがったな、コイツ。

 

「状況の把握は?」

「雪乃ちゃんですら抵抗できない暴走ウィルスが蔓延している事。それ以上は?」

「けーちゃ、いや、京華が言うにはオメガブレードの力ならなんとか出来るらしい」

「なら、出し惜しみはなしで行こう!」

 

俺たちのD-3が輝いた。

 

「エクスブイモン!」

「スティングモン!」

「「ジョグレス進化!!パイルドラモン!!」」

「究極進化!!インペリアルドラモン!!」

 

一気に究極体まで進化し、右腕の生体砲を掲げながら巨大化するようにインペリアルドラモンファイターモードが出現する。

 

「インペリアルドラモン!葉山も来た!?」

「流石にキツイと思っていたところだ…………!」

 

背中の向こうにある千葉駅の建物や人々を庇うためにスサノオモンのゼロアームズ:オロチと真正面から打ち合っていたガイオウモン厳刀ノ型。力負けはしなくても、守りながら戦うガイオウモンと被害など一切気にしていない暴走状態のスサノオモンでは負う傷の差は大きかった。

 

「ガイオウモン!下がってろ!!行くぞ、オメガブレードだ!!」

「ああ!!来い、ホーリーリング!!」

 

俺たちのD-3から二つのホーリーリングが飛び出し、合体。巨大なオメガブレードへと変化すると、インペリアルドラモンファイターモードがそれをキャッチしてパラディンモードへと変化した。

 

インペリアルドラモンパラディンモードはオメガブレードを構えて真っ白な翼を広げる。そして放たれた聖なるオーラを浴びたスサノオモンが一瞬だけ動きが鈍るが直ぐに戻った。

 

「直接切らなきゃ治らないか!!」

「だけど完全体以下ならなんとかなるだろ。インペリアルドラモン!もう少し強めの奴を頼む!!」

 

完全に治るわけでは無いが、葉山の指示でインペリアルドラモンパラディンモードはオメガブレードを千葉駅のホームに突き刺すと、更に強烈な聖なるオーラが周囲を照らした。そのエネルギーに触れた事でリリモンが体に走っていた赤黒い稲妻のようなモノから解放されて動かなくなるが、本命のスサノオモンはまだ健在だった。

 

「ガイオウモン!まだやれるか!」

「インペリアルドラモン!俺が隙を作る、そこにオメガブレードを叩き込んでくれ!」

「分かった!!」

 

スサノオモンが再び雄叫びを上げてゼロアームズ:オロチにエネルギーを溜め始める。ガイオウモンはそこに真正面から突撃していくと、刀から強烈な竜巻を放つ。

 

「旋風縛!!」

 

竜巻に触れたスサノオモンの動きは微かに鈍るが、即座にエネルギーを放出して縛りから解放されると、そこに向けて突撃して行ったガイオウモン厳刀ノ型の必殺技目掛けゼロアームズ:オロチを向ける。

 

「菊燐一閃・號雷斬!!」

 

ガイオウモンの必殺技の一閃と、ゼロアームズ:オロチから放たれる天羽々斬がぶつかり合う。激しい光の明滅と爆風が周囲を襲い、やがてガイオウモンとスサノオモンの双方が体勢を崩して落下を始めた。

 

「そこだ!!」

 

そしてそこにインペリアルドラモンパラディンモードが突撃し、オメガブレードでスサノオモンを切った。悪しきデータだけを切り裂くオメガブレードはスサノオモンの身体にはダメージを与えず、暴走させていたウィルスだけを消去させた。するとスサノオモンは光に包まれ、やがて意識を失った雪ノ下がインペリアルドラモンパラディンモードの掌の中に収まるのだった。

 

 

 

「なんだかどっと疲れたね、メイクーモン」

「うん。変な一日だった」

 

千葉駅での戦いが収まり、長い長い事情聴取を終えた頃にはもう夜だった。一応インペリアルドラモンパラディンモードのオメガブレードであの付近にいたデジモン達の浄化は完了したが、結局その後は八幡とは会えず、雪乃に至っては意識不明で入院させられてしまった。何かわかったらすぐに連絡する、と陽乃は言ってくれたが、何が起きているのかもわからない状況ばかりで頭の中がごちゃごちゃだ。

 

「でも、今までもこんな感じだったもんね」

「んー?」

「デジモン関係無く、色んな事件が起きて…………私じゃどうすることもできない状況が続いて…………でも、ヒッキーやゆきのんが色んなこと思いついて、それで…………」

 

そう。これまでだってなんとかなった。雪乃が意識を失うくらいの異常事態であっても、奉仕部の本物の絆と、メイクーモンがいればなんとかなる。

 

「メイクーモン、今夜も一緒のベッドで寝よ?」

「いいよー。お邪魔するね」

 

ベッドの上に飛び乗り、結衣の頭が来るであろう枕の近くに丸まったメイクーモン。その仕草にちょっと微笑ましいモノを感じながらゆっくりとベッドに倒れ込む結衣。

 

(それにしても、どうしてゆきのんだったんだろ…………)

 

一番暴走ウィルスの影響を受けていたのは雪乃だった。そしてその次に影響を受けたのは病院のリリモン。たまたま何だろうとは思うが、どちらもメイクーモンと強く触れ合っていた気がする。なら、メイクーモンもまたウィルスの影響を受けてしまうかもしれない。

 

「君の疑問に応えよう」

「え?」

「誰?」

 

不意に、聞き覚えのない声が聞こえた。そして結衣とメイクーモンはベッドの上に居たはずなのに雄大な大草原のど真ん中に倒れ込んでいた。限りない青空と、見たこともない植物達。結衣にしてみれば初めて見る光景だった。

 

「こ、ここどこ!?」

「…………多分、デジタルワールドだよ。ここ」

「ここが!?でも、何で!?」

「私が呼んだんだ。いきなりで申し訳ない」

 

声がした方を見れば、真っ黒な鎧を着た騎士の様なデジモンかそこに佇んでいた。青いマントにあちこちに黄金の装飾。見たこともないデジモンだった。

 

「人間に名乗るのは初めてだな。初めまして、私はアルファモン。十三番目のロイヤルナイツだ」

「アルファモン…………十三番目のロイヤルナイツ?」

「そ、そう言えばロイヤルナイツって、十三体って決まりなのに十二体までしか居ないんだったっけ…………」

「メイクーモンの言う通りさ。私はロイヤルナイツの中でも少々特殊な立場でね。本来はロイヤルナイツが本来の役目を果たさずに暴走した時の抑止力なんだが…………今回は事が事でね」

 

穏やかに語りかけてくるアルファモンだが、急にデジタルワールドに呼び出される謂れなど無い結衣にしてみれば不信感しか湧いてこない。アルファモンもそれを理解しているのか、必要以上の会話はすぐに諦めた。

 

「単刀直入に言わせてもらうよ。君のパートナーデジモンのメイクーモンに重篤なバグが混入している」

「ジュウトクな、ばぐ?」

「ボク、何かの病気なの?」

「そうだね。病気、と言い換えた方がいいかもしれない。メイクーモン、君がその姿に進化する際に体を構成するデータが悪質なウィルスに変貌してしまった」

 

アルファモンの言葉に反応したメイクーモンの体が震えて、赤黒い稲妻の様な何かが漏れた。それは、暴走したスサノオモンやリリモンの体に走っていたモノ。結衣はそれに気づいてしまった。

 

「既に被害が出てしまっているから分かるだろう?どれだけ強力なデジモンであっても抵抗出来ず凶暴化させてしまうウィルス。それがメイクーモンの体から発生している。今は接触感染程度ではあるが、いずれは空気感染へと変貌する可能性もある」

「じゃ、じゃあゆきのんが目を覚さないのは…………で、でもインペリアルドラモンのオメガブレードでなら治せたし、なんとか出来るんじゃ…………!!」

「今はね。しかし我々デジモンの体を構成するデータは常に更新されている。メイクーモンも同じだ。オメガブレードの力では浄化しきれなくなるのも時間の問題だろう。だから、ロイヤルナイツを代表として君に提案がある」

 

震えるメイクーモンをまっすぐ見つめ、アルファモンは言い放った。

 

「メイクーモンをデリートさせて欲しい。勿論、新しいパートナーは用意する」

 

アルファモンの言葉に結衣の目の前は真っ黒になった。気がつくと結衣とメイクーモンは元のベッドの上で抱き合って眠っていて、さっきまでのアルファモンとの会話もまるで夢だったかの様な気持ちになる。

 

しかし、二人の体についていたデジタルワールドの草花が現実に起きていた事実だと突き付けてくる。

 

『余り時間はあげられない。もしもデリートを受け入れられないのなら、私の力で永遠に異空間に閉じ込めるしか無くなる。キチンと話し合い、どちらが良いか決めて欲しい』

 

脳裏に響くアルファモンの声が、結衣の耳にこびりつく様にいつまでも残っていた。




アルファモンのキャラは個人的にはサイスルの時のちょっとお茶目な感じが好きです
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