やはり俺とブイモンの青春ラブコメは間違っている。   作:アルファ麻呂

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パソコンの方で書いた方が楽だと気が付きました。まあスマホだとどこでも書けるって利点もあるんですけどね。


第二十八話

由比ヶ浜から震える声で会いたいと電話で言われた時、俺は正直言って事態の深刻さをまだ理解できていなかった。電話を終えた直後は小町が本気で心配してくるくらいには不安そうな顔をしていたらしいのだが、由比ヶ浜の話を聞いた後に比べればどうって事は無いと言えるだろう。

 

しかし待ち合わせ場所が意識不明のままの雪ノ下が入院している病院だったこと、そして同じように何かしら不吉な予感を感じている葉山が呼び出されていたことを知った時から、俺とブイモンはすでに新しい戦いの前触れのようなものを感じていた。

 

だが、戦いの前触れであればどれだけ楽だったことだろう。

 

「それ、本当なのかい?」

 

病院の近くの他に客の居ない喫茶店。由比ヶ浜は真っ青な顔で膝の上の手を握り締めていた。葉山とワームモンが信じられないといった顔で眉をひそめる。由比ヶ浜が話してくれた内容はそれくらいに信じられない話だったのだが、由比ヶ浜が作り話で話す内容でもないのもまた事実だった。

 

「ロイヤルナイツのアルファモンがそう言ってたの。メイクーモンの身体を構成するデータにバグが混じってて、デジモンに感染するウィルスを撒き散らしてるって…………」

「………そうか。昨日、雪ノ下は結構長い間メイクーモンを愛でてたからな。感染経路としてはありえなくはない、か」

「比企谷!」

「事実を確認しただけだ。状況を把握できなきゃ動くに動けないだろ」

 

由比ヶ浜がビクッと肩を震わせたのを見た葉山が声を荒げてくるが、ここでなあなあに済ましたって良いことはないに決まってるだろうに。相変わらず変なところで話の腰を折るやつだ。

 

「メイクーモンは?」

「家に置いてきた。とりあえず、部屋を出ちゃ駄目って」

 

春にデジタマの状態で出会ってからこっち、ヒヤリモンやブルコモンだった頃は学校以外では基本的にずっと一緒にいた由比ヶ浜とメイクーモン。しかしメイクーモンから暴走ウィルスが発生しているとなっては外に連れ出すわけにもいかないだろう。外を歩けばパートナーデジモンを連れた人とすれ違うことも多いし、時には野生の野良デジモンが歩いていることもある。接触感染がいつ空気感染に進化、変異するか分からない以上は隔離するしかない。由比ヶ浜にとっても辛い状況ではあるが。

 

「そのアルファモンが本当に最後のロイヤルナイツなのかどうかは分からないが………そこを疑ってても時間の無駄だろうな」

「俺たちもアルファモンってのは聞いたことないんだよなぁ」

「十三番目のロイヤルナイツは欠番って噂だったよね」

「そこはまあ一度置いておこう。それで、アルファモンはどういった要求をしてきたんだい?」

「メイクーモンを、デリートさせてほしいって。代わりのパートナーを用意するからって。それが嫌なら、アルファモンの力で異空間に隔離するって………」

 

涙をこぼす由比ヶ浜に、どんな言葉をかけてやればいいのか分からず黙り込んでしまう俺たち。無言になってしまったせいで喫茶店のテレビのニュースの音声が遠くから聞こえてきた。

 

『先日発生したスサノオモン暴走事件の続報が入りました。行方不明になっていた最後の一人が瓦礫の下から発見され、意識不明の重体です。これで重軽傷者合わせて五十五人、今のところ死亡者はゼロですが、予断を許さない状況が続いているとのこと。また現場となった千葉駅はプラットホーム全線が崩壊し、鉄道全線及びモノレールは当面全線運休。復旧の見通しは立っていません。また今回スサノオモンが暴走した原因ですが、本日午前九時頃にデジタルワールドからの使者としてオメガモンが首相官邸に現れ、デジタルワールド内で未知のウィルスが発生したのが原因であると説明しました。究極体デジモンですら抵抗できないレベルでデジモンの理性を奪い、破壊衝動を植え付ける作用があり、ロイヤルナイツと共に調査を進めていたスサノオモンにも感染してしまったとのことです。オメガモンは今回の件をロイヤルナイツを代表すると共に、デジタルワールドの管理者イグドラシルの代理として謝罪。ウィルスの早期撲滅と、被害にあった千葉駅の復興に関する負担をデジタルワールドが保証することを約束しました』

 

あらゆるデジモンの中でも最上位に位置するスサノオモンが暴走し、千葉県の交通の要所が吹っ飛びかけるという世紀の大事件。昨日の夜からこっち、テレビではニュース特番が組まれて延々と同じような内容を繰り返されている。

 

由比ヶ浜がそのニュースの内容を聞いてさらに顔を青ざめさせ、俺たちもいたたまれない気持ちになってしまう。あくまで暴走したのはデジタルワールドのスサノオモンだということにしてくれたお陰で、今も意識を取り戻していない雪ノ下に何かしらの責任が向けられてしまうのは避けられたのは唯一の救いだろう。

 

「結衣。俺たちに相談してくれたのはありがたいよ。だけど、君がどうしたいかをまだ聞いていなかったね?」

 

葉山がふいに顔を上げた。ある意味答えは分かり切っている質問だが、由比ヶ浜は答えていいものなのか分からないのか中途半端に唇を震わせるばかり。

 

由比ヶ浜の中にある不安と恐怖が最後の一言を邪魔している。ここは一応彼氏として勇気を出せるようにしなければいけない場面だろう。分かっている。分かっているから足を蹴るなブイモンと葉山。足の小指踏むな。

 

「………あー。うん。そうだな。何といえばいいんだ?」

 

葉山とワームモンがその場でずっこけ、ブイモンが脛を蹴った。

 

「ぷっ………あ、あはは………!ありがとうヒッキー。ちょっと気が楽になったよ」

「結衣、さすがにチョロすぎはしないかい?惚れた弱みだからってここまでダメならダメと言ってあげるのも愛じゃないかな?」

 

好き放題言いやがって。黙ってろや葉山。とりあえずちょっとは由比ヶ浜が笑顔になったんだからいいだろ。

 

「うん。だからね………メイクーモンを助けて欲しい。いくら代わりをくれるって言ったって、私のパートナーはメイクーモンだもん。メイクーモンを見捨てたら、たとえ新しいパートナーが出来ても仲良くなんてなれない」

「そうか。そうだな。そうだよな」

「なら、やることは決まったね。久しぶりに一緒に暴れようじゃないか、相棒」

 

由比ヶ浜の言葉にしっかり頷き、隣でまたウザ絡みしてき始めた葉山を華麗にスルー。

 

 

「オメガブレードの力でとりあえずは押さえつけられるんだ。いつまでもは持たなくても、その事実で何とかアルファモンと交渉して時間を稼いで、ちょっくらデジタルワールド巡ってメイクーモンの体を何とかする方法がないか探す。大体の筋道としてはそんなところか」

「ははは。比企谷、まさかそれを一人でやろうってつもりじゃないよな?ここはちば組の仲間を改めて再結成するべき場面じゃないかな?」

「隼人、そろそろ八幡怒るよ………」

 

俺の額に走った青筋を見たワームモンが止めるが、もう遅い。喫茶店の伝票を葉山のポケットにねじ込んでブイモンと由比ヶ浜を連れて立ち上がった。

 

「あ、あれー?こう言う時って男二人で割り勘が筋じゃないかな?」

 

背中越しに葉山が呼びかけてくるが、当然無視して由比ヶ浜の手を取り喫茶店を後にした。

 

「とりあえずメイクーモンに会うか。ブイモンは由比ヶ浜の家の外で待ってろ」

「あいよ」

「う、うん。ありがと、ヒッキー」

 

恥ずかしそうにもじもじする由比ヶ浜。振り返ると視線をそらし、頬を染めながら空いてるほうの手で落ち着かない様子で服の裾を掴んでいた。そこでようやく俺は由比ヶ浜の手を自然に取っていたことに気づいてしまった。

 

「あ、わ、悪い」

「悪くなんてないよ。つ、付き合ってるんだし………」

「あ、そ、そうか………っておいブイモン、スマホ返せ!!」

 

二人して思わず立ち止まってしまっていると、ブイモンが俺のスマホをポケットから強奪してカメラのシャッターを切っていた。

 

「悪く思うなよ八幡。小町に報告すればその分晩飯のおかずが豪華になるんだ」

「ふざけんなこの野郎。お前の隠してるポテチ全部食ってやるからな」

 

当然みたいな顔してパートナーの秘密を家族とはいえ他人に売るパートナーとは一体何だ。

 

スマホを取り合いする俺たちを由比ヶ浜は微笑ましそうに、しかしどことなく羨まし気な顔で見つめていた。

 

「うん。私も、メイクーモンとまた一緒に………」

 

 

 

メイクーモンはたった一人で結衣の部屋のベッドで寝転がっていた。部屋のあちこちには漫画や雑誌が散乱していて、普段の結衣の部屋からは有り得ないくらいに散らかっている。メイクーモンが手当たり次第に部屋中の本を取り出し、開いては離れるということを繰り返していたからだ。

 

「僕は、ウィルス………」

 

今朝、目を覚ました時に体についていたデジタルワールドの雑草の切れ端を眺めながら呟くメイクーモン。

 

最初は夢を見ただけと思いたかった。だが、パートナーである結衣の蒼白な顔を見ればただの悪夢ではなく、現実に起きている出来事だということを否応なしに思い知らされた。

 

朝早くからその事実と向き合わざるを得なくなった結衣とメイクーモン。とりあえず八幡たちと相談してくると決めた結衣は、メイクーモンにこの部屋から出ちゃ駄目と言い残して出て行ってしまった。

 

きっと今頃、結衣は八幡達とメイクーモンを死なせるかどうかについて話し合っている。そう思うだけでメイクーモンは震えが止まらなかった。なんで、自分が死ななければいけないのか。そんなことばかりを考えてしまう。

 

理由は分かっている。昨日のスサノオモンとリリモンの暴走を引き起こしたのはメイクーモン自身。しかしそんなことをさせてしまった自覚なんて欠片もない。だけど、確かに昨日の時点であの二体と接触したのはメイクーモンだけ。そして何より、自覚もないのにそんな事態を引き起こす存在なんて早々に死なせなければどんな被害が周囲に出てしまうか分かったものではない。それは理解できてしまうからこそ、メイクーモンは落ち着くことなんて出来るわけがなかった。

 

どうすればいいのか。きっと結衣はメイクーモンを救う道を探してくれるだろう。だけどそれが見つからなかったら?それに代わりのパートナーは手に入るのだから、とメイクーモンを見捨ててしまうのではないのか?

 

結衣はそんなことをしないと断言したいが、メイクーモン自身ですらこの異常な体を治す方法がないのではないかという思いが沸々と湧いてきてしまう。もしも治す方法を見つけられなかった時、結衣でも死なせる決断を下してしまうのではないかと言う疑惑はメイクーモンは捨てきれなかった。

 

「やっぱり、僕は消えたほうがいいのかな………」

 

メイクーモンの中の不安な心が口から洩れると、体から赤黒い稲妻が走った。それはスサノオモンを暴走させたウィルスそのもので、メイクーモン自身も体の奥底から出てくる破壊衝動を自覚してしまった。

 

「いや、そんなことを考えちゃだめだ。パートナーの結衣を信じなきゃ。きっと、助ける方法をみんなも探してくれる。きっと、きっと大丈夫!僕は大丈夫………!」

『え?じゃ、結衣居ないんですか?』

『そうなのよー。今朝、いきなりご飯も食べずに飛び出して行って。多分入院しちゃったお友達のお見舞いだとは思うんだけど、メイクーモンを置いて行っちゃったのよ』

『パートナーを置いていく?優美子、彼女はそんなことをする人には見えなかったが………』

『なんか事情があるんでしょ。進化したばかりって言ってたし』

『あ、そうそう。あの子のパートナー、世界で初めての新種らしいのよ。ちょっと会っていく?』

『え?いいの?』

 

メイクーモンが破壊衝動を抑えるので必死になっていた頃、一階のリビングでそんな会話が繰り広げられているとは知る由もなかった。

 

 

 

異変に気が付いたのは、由比ヶ浜の家の近くまで来たときだった。爆発音と、何かが焼けるような匂い。そして悲鳴。まさかと思い走り出す俺たちが見たものは、滅茶苦茶に壊された最初のデートの最後に立ち寄った公園。そして赤黒い稲妻によって体を侵食された大型の機械仕掛けの蜂のような完全体デジモン、キャノンビーモンだった。

 

「ファンビーモン!!何があったし!!落ち着け!!」

「優美子!?何があったの!?」

「結衣!?それにヒキオも………わ、わけわかんないし!!結衣の部屋に通されたら、ファンビーモンがいきなり今までになった姿に進化して暴れだしたの!!とりあえずこの公園に誘導したからまだ被害は出てないけど………ああもう何が起きてるのか説明しろし!!ファンビーモン!!」

 

今まで見たこともないほど取り乱す三浦に、言葉を詰まらせる由比ヶ浜。言えるはずがない、原因が由比ヶ浜のパートナーのせいだなんて。

 

「とりあえず落ち着かせるぞ。ブイモン、アーマー………」

「いや、ここは究極体の出番じゃないかな相棒!!」

「葉山ぁ………!!」

「隼人?なんでジャングルジムの上に?」

 

いつの間に追いついたのか、そしてなぜ、いつの間にジャングルジムのてっぺんにワームモン共々登っているのか。色々と疑問は尽きないが、奴は昔から低所恐怖症なのかバカなのかは分からないが高いところが好きなのだ。

 

「ふざけてる場合じゃないって見りゃわかるだろ!!」

「分かっているさ!!行こう、ワームモン!」

「はいはい」

 

若干呆れているワームモンを他所に、葉山がD‐3を構えた。俺も同じくD‐3を構えると、二つの光が一つに交じる。

 

「究極進化!!インペリアルドラモン!!」

 

対処方法は一つだし、出し惜しみしている場面ではない。既にキャノンビーモンのコンテナから放たれた大量のミサイルは公園の遊具のほとんどを吹き飛ばしており、葉山が立っていたジャングルジムも必殺技のニトロスティンガーの直撃を受けて爆破されてしまった。

 

「お前さ、なんでジャングルジム立ってたんだよ。普通に後ろから声をかければいいだろ」

「せっかくだからね」

「何がだよ」

 

インペリアルドラモン・ファイターモードの肩に乗っていた俺たちはそんな会話をしながらホーリーリングを出現させ、現れたオメガブレードを受け取ったインペリアルドラモンがパラディンモードにチェンジする。そしてオメガブレードでキャノンビーモンを貫き、邪悪なプログラムを抹消する。これでとりあえずは終わりになるかと思われた。

 

「ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」

「何っ!?」

「まさか!!」

 

しかしキャノンビーモンはオメガブレードに貫かれながらもコンテナを開いて大量のミサイルを連発してしまう。それらのミサイルは空中にまき散らされ、住宅地に降り注ごうとした。

 

「しまった!!」

 

インペリアルドラモンはオメガブレードを握りしめていて、まき散らされたミサイルの対処が出来ない。まだ人が残っている住宅地が炎に包まれてしまうかに思われたその時だった。

 

「ファイナル・エリシオン!!」

「ドラゴンズロア!!」

 

二つの激しい光がミサイルを全て焼き払ってしまった。声のした方を見上げれば、ロイヤルナイツのデュークモンとデュナスモンが必殺技の構えを取っていた。

 

「デュークモン!デュナスモン!!」

「案の定、こうなったか………やはり、時間をやったのは間違いだったのではないか?デュークモン」

「言うなデュナスモン。元はと言えば我らデジモンが原因なのだからな。人間たちの決断を尊重しよう。それよりも今は、あちらだ」

 

デュークモンとデュナスモンは槍と両の掌から光のエネルギーを照射し、インペリアルドラモンのオメガブレードに力を注ぐ。すると暴れていたキャノンビーモンは次第に大人しくなり、やがてファンビーモンの姿に戻った。

 

「オメガブレードの出力不足か………?」

「いいや。違う。お前たちは昨日、そのオメガブレードでウィルスの発生源を切った。その時発生源がオメガブレードへの耐性を得てしまったのだ」

 

俺たちが戦闘態勢を解くと、デュークモンとデュナスモンが俺たちのそばに降り立った。しかし語った内容は俺たちにしてみれば絶望的な事実だった。

 

「あまり時間は残されていない。早めに答えを出して欲しい」

「我々もあまり現実世界に来れるわけではない。今回は特別だと理解してもらおう」

 

あくまで穏やかに語りかけてくるデュークモンだが、デュナスモンは明らかにトゲトゲしい態度を隠そうとしなかった。言葉を失う俺たちを一瞥し、最後に立ち尽くす由比ヶ浜をハッキリと睨みつけたデュナスモン。

 

「………パートナーから目を離すな」

「さらばだ。可能ならば、もう会うことのないことを祈ろう」

 

それだけ言い残して二体はデジタルシフトを利用してデジタルワールドに戻っていった。

 

「………そうだ。メイクーモン!メイクーモンは!?」

 

由比ヶ浜がそこでようやくデュナスモンの言葉が、メイクーモンの行方を調べろという意味だと気づいて探し出す。だがただ一人事情が分かっていない三浦は意識を失ったファンビーモンを抱きしめながら俺を睨んできた。

 

「ってか、何が起きてるわけ!?説明しろし!!どうせまたアンタが何か関わってるんでしょ!?」

「優美子、それは………」

 

由比ヶ浜のこれからに関わる話なので、どこまで話していいのか分からず思わず言葉を濁す俺たち。三浦がその態度に余計と怒りのボルテージを上げようとしたその時だった。

 

「っ!メイクーモン!!」

 

かつて公園だった瓦礫の山の上、視線を落として地面を見つめるメイクーモンが姿を現した。その姿を見て思わず戦闘態勢を取ってしまう俺達を見て三浦が怪訝そうな顔をするが、それよりも問題なのはメイクーモンのほうだった。

 

「やっぱり。もう僕を治す方法なんて無いんだね」

「メイクーモン!!落ち着いて!!絶対に何とかするから!!デジタルワールドに行けば、治療法だって見つかるから!!」

「でももう待てないんでしょ?ロイヤルナイツも、みんなも」

 

そう言って顔を上げるメイクーモンの目は、あの暴走ウィルスと同じ色に染まっていた。抱きしめようと駆け寄っていった由比ヶ浜を睨み据え、メイクーモンは牙を見せつけるように唸る。

 

「僕は消えるしかないんでしょ!?だけど僕は消えたくない!!死にたくなんかない!!ただ殺されるなんて嫌なんだ!!」

 

喉が裂けるほどの大声で叫び、メイクーモンは全身から暴走ウィルスを吹き出しながら歪に光る。俺たちがその光に一瞬目を背けてしまい、再度メイクーモンを見ればそこに居たのは禍々しい姿に進化した後だった。

 

「メイクーモン!!」

「違う!!僕は、メイクラックモンだ!!」

 

メイクーモンが歪に成長し、全身にヒビが入ったような姿のメイクラックモンは由比ヶ浜を巨大な爪で切りつけ、態勢を崩した由比ヶ浜が背中から倒れこむのを何とか抱き留める。メイクラックモンは牙をむき出しにして唸ると、再び俺達に爪を向けた。

 

「くそっ!!ブイモン、アーマー進化!!」

「奇跡の輝き、マグナモン!!」

 

咄嗟にブイモンをマグナモンに進化させ、割って入ったマグナモンは光の壁を作ってメイクラックモンをはじき返す。黄金の鎧で受け止めるという手もあったが、今のメイクラックモンは暴走ウィルスの塊のような存在だ。直接接触は避けたほうがいい。

 

「やめて!!メイクラックモン!!」

「ウワアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

狂ったようにマグナモンの光の壁を爪で何度も何度も切りつけるメイクラックモン。光の壁はびくともしないが、パートナーに殺されようとしている由比ヶ浜のショックを思えばいつまでも見せたい光景ではない。

 

「ワームモン、ワープ進化!!バンチョースティングモン!!」

 

そこへ飛び込んできたバンチョースティングモンが光の壁をこちら側から蹴り飛ばし、接近戦では最強クラスの究極体のキックの勢いでメイクラックモンは大きく吹っ飛ばされた。

 

「わ、わけわかんないけど、とりあえずは結衣!ここから離れるし!!荒事は慣れてる二人に任せたほうがよさそうじゃん?」

「め、メイクラックモン………」

「由比ヶ浜、あいつは俺たちが何とかする。一度落ち着かせてから、もう一回語りかけてみろ」

「そう言うことだよ。優美子、説明はあとでちゃんとするから、とりあえずは結衣をお願いするよ」

「分かった!!」

 

由比ヶ浜を連れて走り去っていく三浦。その間に葉山はスマホを取り出して何やら操作をしていた。

 

「誰を呼んだら一番何とかできそうかな?」

「ガイオウモンは接近型だし、小町は論外だ。一色だな」

「ならちょっと難しいな。今日、彼女は生徒会の仕事で学校に行っているらしいし」

「肝心な時に居ない奴だ」

 

とりあえずはこのまま立ち向かうしかない。復活して再び飛びかかってきたメイクラックモンを睨み据え、俺たちは二手に分かれた。

 

「マグナモン!!」

「ああ!!エクストリーム・ジハード!!」

 

メイクラックモンの真横に回り込んだマグナモンの必殺技の光線がメイクラックモンに直撃し、聖なるオーラで赤黒い稲妻が一瞬薄れる。そこに飛び込んだバンチョースティングモンの飛び蹴りがメイクラックモンの顔面に叩き込まれた。再び吹き飛ばされたメイクラックモンが瓦礫の山の中に消え、マグナモンとバンチョースティングモンが並び立つ。

 

「バンチョースティングモン、ウィルスの影響はありそうか?」

「今のところは、無しだな。もっとも今のところはってだけだが」

 

一応ホーリーリングの加護があるという可能性も考えても、そう何度も接触するのはリスキーだ。マグナモンの制限時間問題もあるし、速攻で倒す以外にないだろう。

 

しかし、瓦礫の山が吹き飛び赤黒い暴走ウィルスと同じ波動が膨れ上がる。邪悪、とは言い難いがよくはないもののオーラをまき散らしてゆっくりと姿を現したメイクラックモンが低い唸り声をあげ、全身の毛が逆立つ。背中からは灰色の炎のような翼が生え、体全体が次第に膨れ上がり、黒く汚れた黄金の鎧が現れた。

 

「メイクラックモン………究極進化ァ!!ラグエルモン!!」

「マジか………」

 

ラグエルモンは両腕の紫色爪を振りかざし、マグナモンとバンチョースティングモンに襲い掛かる。咄嗟に飛びのいてよける二体だが、ラグエルモンは両腕と腹部の宝玉から大出力のレーザーを発射する。既に周囲の人の避難は終わっているはずだが、被害は甚大な公園どころか住宅街にもレーザーが届く。

 

レーザーをバリアで防いだマグナモンは大きく態勢を崩し、回避したバンチョースティングモンは回避しきれなかった為に背負ったガクランが焼けてしまった。

 

「くそっ!!俺のガクランが!!」

「なんてパワーだ!!ただの究極体デジモンじゃないぞ、八幡!!」

「マグナモン、エネルギーの残量はどのくらいだ!?」

「見りゃ分かるけど、そろそろ限界だ!!」

 

マグナモンの全身を覆う黄金のオーラがさながら某光の巨人のタイマーのごとく明滅を始め、バンチョースティングモンも肩で息をし始める。

 

「強敵だな、ラグエルモン。結衣には悪いが、大人しくさせるのは無理かもしれない」

「だが進化したばかりであそこまで飛ばせばエネルギーは直ぐに枯渇する。せめて、あと一体究極体がいればな」

 

なんやかんやでここまで来たら駆除も選択肢に入れなくてはならないと言うことは分かっている。しかしそんな簡単に割り切れるものではない。せめてラグエルモンのエネルギー切れを願うしかないが、マグナモンのエネルギーのほうが先に無くなってしまうのは明らかだった。

 

「後一体、居ればいいの?」

「え?」

「優美子?」

「結衣からある程度聞いてきた。大人しくさせなきゃいけないんでしょ」

 

その時、三浦がファンビーモンを抱えたまま駆けつけてきた。その後ろには由比ヶ浜も控えていて、二人とも遠くに離れているはずという俺たちの淡い希望が消え去ってしまった。

 

「そもそも優美子とファンビーモンは成熟期が限界だろう。下がっていてくれ」

「つーか戦える状態じゃないだろ」

「い、いや………少し気分は悪いが、力が漲っている。多分、さっきのオメガブレードを通じて進化に必要なエネルギーを手に入れられたんだ」

「あーし達も戦う。そんで、あのラグエルモンは元のメイクーモンに戻ってもらうし!!やるよ、ファンビーモン!!」

「ああ!!ファンビーモン、ワープ進化!!」

 

デジヴァイスを構えた三浦と、光に包まれたファンビーモン。光の中でワスプモン、キャノンビーモンの順に形を変えた後、黄金の爆発と共にスマートな人型の影が現れる。影に黄金と黒の蜂模様の鎧が装着され、赤いマフラーが首元に現れる。そしてその両腕に莫大なエネルギーを帯びた二振りの秘蜜兵器ローヤルマイスターが握りしめられる。

 

「タイガーヴェスパモン!!」

 

進化を終えると同時にタイガーヴェスパモンがラグエルモンに飛びかかり、ローヤルマイスターとラグエルモンの爪で激しい鍔迫り合いが始まる。

 

「さっさとやるし!!二人とも!!」

「あ、ああ!!」

「助かった!!」

 

タイガーヴェスパモンとラグエルモンの激しい剣戟の隙に接近したマグナモンのプラズマシュートがラグエルモンの足元を打ち抜き、態勢を崩した瞬間にタイガーヴェスパモンと入れ替わったバンチョースティングモンの前蹴りがラグエルモンを蹴り飛ばす。地面に爪を突き立てて吹き飛ぶのを阻止したラグエルモンが睨み据えるが、その時にはすでにバンチョースティングモンのドリルとタイガーヴェスパモンのローヤルマイスターがラグエルモンを斬りつけていた。

 

「うぅっ!!」

 

そして最後に突撃していったマグナモンが残された最後のエネルギーを全て収束させ、崩れ落ちたラグエルモンの前で炸裂させようとする。

 

「シャイニングゴールドソーラー………」

 

とどめの一撃があと一歩で放たれようとするその時、ついさっきまで力の限り暴れていたラグエルモンの腕が力なく垂れ、一瞬由比ヶ浜を見つめていた。

 

「マグナモン、待て!!」

「っと!!」

 

マグナモンが必殺技の構えを解き、ラグエルモンが困惑した様子でこちらを見てくる。と言うか葉山と三浦も疑念のこもった眼でこっちを睨んでくるが、この時点で無防備なマグナモンに攻撃していない時点で俺の中にあった疑いは半ば確信に変わっていた。

 

「ラグエルモン………お前、わざと暴れたな?」

「え?」

 

ラグエルモンが肩を震わせ、やがて赤黒い光と共に元のメイクーモンの姿に戻った。かすり傷を負った足を庇いながらも駆け寄って来た由比ヶ浜が俺の手を握りしめてきた。

 

「ヒッキー、メイクーモン。どういうこと?」

「散々から暴れて害獣だって思い知らせれば、由比ヶ浜が心置きなく新しいパートナーを選べると思ったんだろ」

「………」

「そんな………」

 

無言ではあるが、メイクーモンの姿に自分で戻ることができたということ。それが答えだった。

 

その場にいた全員が、由比ヶ浜にもメイクーモンにもかける言葉が見つからなかった。誰かが大丈夫、何とかする、と言ってくれるのを待っていた。俺達じゃない誰かが、多分でもいいから何とか出来ると言ってほしかった。何故なら、今の俺達にできる最後の手段であるオメガブレードがもう通じないのだから。

 

「答えは出たようだね」

「っ!?この声は………!?」

 

強烈なデジタルシフトがその場に発生し、真っ黒な聖騎士型デジモン………アルファモンがその姿を現した。

 

「デュークモンとデュナスモンから話は聞いている。そしてこの場で起きたこともね。メイクーモンと由比ヶ浜結衣さん………それだけじゃないな。ワームモンと葉山隼人君。ファンビーモンと三浦優美子さん。そして………ブイモンと比企谷八幡君。ここまでの事態になっては、もう私たちではどうすることもできない。非常に残念だし………謝って済む話ではないことも理解している」

 

アルファモンはそう言って本心から心苦しそうに顔を伏せた。

 

「本当に、どうすることもできないのか!?イグドラシルの力を使ってもか!?」

「………すまない」

 

思わずと言った顔で叫ぶ葉山に、アルファモンはそれ以上答えなかった。答えられなかったのかもしれない。俺たちに理解できるわけもなかったが。

 

「由比ヶ浜結衣さん。答えを聞こう」

「………少し、待ってて」

 

アルファモンに見つめられた由比ヶ浜は顔を伏せ、そして俺の所まで駆け寄って来た。その顔はに揺るがぬ決心と、涙が。俺の心はそれだけで激しく揺れて、初めて由比ヶ浜の言葉を聞きたくないと思ってしまった。

 

「由比ヶ浜、俺は………」

 

せめてもう少しだけでも時間があれば。そんな言い訳が思わず口をついて出てしまいそうになるのを、由比ヶ浜の柔らかい唇が塞いだ。

 

暖かくて、優しくて、涙の塩辛さ。それが俺たちのファーストキスだった。

 

俺がどうすればいいのか分からず凍り付いていると、やがて由比ヶ浜の方から離れた。その様子を見て、そして俺のポケットに押し込まれた遊園地のチケットで、俺はようやく由比ヶ浜の答えに気づいた。

 

「ありがとう。大好き。それと………ごめんね。さよなら」

「由比ヶ浜………!!」

 

それだけ言い残して走り去った由比ヶ浜は、メイクーモンを抱き上げてアルファモンの足元で立ち止まった。

 

「アルファモン!!メイクーモンはデリートさせない代わりに………私も、私とメイクーモンを一緒に隔離して!!」

「結衣!?」

「………それが、君の答えなら」

 

由比ヶ浜の答えを聞いたアルファモンは右手を虚空に掲げ、空中に魔法陣が現れる。

 

「結衣、よせ!!考え直すんだ!!」

「待ってよ!!まさかこのまま居なくなる気!?」

 

葉山と三浦が叫ぶが、メイクーモンを抱く由比ヶ浜は寂しそうに笑うばかりだった。

 

「メイクーモンを一人には出来ないよ。だって、パートナーだもん」

「結衣………ごめん。ごめんね。ごめんね………」

「あはは。いいよ。一緒に居よう、メイクーモン。あ、そうだ、アルファモン。後でパパとママにメールだけはさせて欲しいな………」

 

その言葉だけを言い残し、由比ヶ浜はメイクーモンと共に魔法陣の彼方へと消えてしまった。後に残された俺達は茫然とその場にへたり込むしかなくて、何もできないままだった。

 

「………納得できないのは分かる。落ち着いたら、私を殴りに来てくれていい。デジタルワールドの始まりの町に、我らロイヤルナイツの居城であるカーネルへの入り口を開けておくよ」

 

やがてアルファモンもまた姿を消し、残された俺達は何一つ出来ないまま、ただただ蹲るしかなかった。




曇らせは今回まで。次回からは反撃していきますよ
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