やはり俺とブイモンの青春ラブコメは間違っている。   作:アルファ麻呂

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日刊ランキングにちょいちょい上がっててビビりました…………

皆さん本当にありがとうございます


第四話

満開な花が咲き誇る花畑。銀髪の男の子が、デジヴァイスを片手にフワフワと浮かび上がる二色の幼年期デジモンを追いかける。

 

「グミモン、チョコモン!」

 

まだ幼い男の子が頑張って追いかけるも、2匹の幼年期デジモン、グミモンとチョコモンは振り向き、クスクス笑ってまた逃げる。そんな様子にもー!と少年が怒った様に声を上げると、グミモンが少し反省したのか、パートナーの少年の方に戻っていく中、チョコモンの方はまだ遊び足りないのか更に先に進んでしまう。

その時、一層強い風が吹いて、少年と少年に抱きついたグミモンが思わず目を閉じる。そして…………

 

 

 

「あれ?ヒッキー?」

「…………なんだ、由比ヶ浜か」

 

昼休み、1人での幸せなランチタイムを堪能していた俺の耳に聞こえたのは、由比ヶ浜の明るい声だった。

偶然見つけただけの様だったが、俺のことを見つけて少し嬉しい様子の由比ヶ浜が目的も忘れて隣に座る。

俺としては孤独を堪能しているんだから、そんな柔らかくて良い匂いさせながら近寄られてしまうのは正直困る。

 

「ここでお昼食べてるんだ。教室だと見ないから、どこに行ってるのかなーって思ってたよ」

「ああ。ここは俺のベストプレイスだからな。騒がしい奴らから離れて、静かに昼飯を食べてマッカンを飲める。本当の意味で1人の時間ってのは得難い貴重な時間だからな」

「ふーん。そうなんだ」

 

結構露骨にだから早く行って下さいお願いしますと宣告したつもりだったのだが、由比ヶ浜は気にせず持っていた牛乳のストロー吸い始めた。

 

「お前こそ、何でここに?普通こんな所に来ないだろ」

「私?あー、私はゆきのんと一緒にお昼食べてて、で、食後の飲み物買いに行くジャンケンしてさー」

「アイツがそんなのに乗るのか…………?」

「負けるのが怖いんだーって言ったら、怖いわけが無いでしょう。由比ヶ浜さん、ふざけた事を言わないで頂戴、って。で、私が負けたらちょっとガッツポーズしてた」

「アイツらしい…………」

「む…………」

 

俺の独り言を聞いて、由比ヶ浜が微かにムッと口を尖らせると、拳一個分体を近づいてきた。

また一層柔らかくて暖かい匂いがして、微かに頬を染めつつ顔を背けるも、由比ヶ浜は視線を逸らされたと感じたのか更に距離を詰めていく。

 

「ねえヒッキー。ゆきのんと昔一緒にデジタルワールドに行ってたんだよね?結局、どんな関係だったの?」

「どんなって…………普通だろ。一緒に冒険したっても、アイツはあの頃は葉山にべったりだったし」

「葉山って…………隼人君も!?」

「まーな」

「そ、そうなんだ…………で、じゃあ他の女の子は?」

「他?妹の小町と…………」

 

その時、てんてん、と音がして、硬式テニスボールが俺と由比ヶ浜の目の前に転がって来た。

そしてそのテニスボールを追いかけて、学校指定のジャージを着た生徒が駆けてきた。

 

「あ、さいちゃん」

「由比ヶ浜さんに、あ、比企谷君?ここで何してるの?」

「ちょっと世間話かな?さいちゃんは?」

「僕はテニスの練習だよ」

 

美しくサラサラとしたシルバーの髪、可愛らしく丸みを帯びた目と顔の輪郭。

聞くもの全てに癒しを与える高めの声と、こちらに向けて走って来る仕草。

今目の前に現れた生徒は、俺が今まで出会って来たどの全ての人間をも凌駕する可愛らしさを持っていた。

そう、例えるのなら、天使。今日、俺に天使が舞い降りた…………。

なんて一瞬だけでも思ってしまった自分を恥じる。

どうせ、こんなレベルの高い女子なんて、由比ヶ浜みたいに距離感がやけに近いだけで住んでいる世界も違うのだ。

それを勘違いしてこっちから距離を詰めれば、あ、そう言うつもりじゃ無かったのにな、みたいな顔をされるのがオチだ。

 

「由比ヶ浜、知り合いなのか?」

「同じクラスだよ!?なんで知らないの!?」

「いや、ただでさえぼっちなのに、女子の事まで知る訳無いだろ」

 

ごく当たり前の事を言ったはずなのに、由比ヶ浜と天使の様な美少女は心の底から驚いた顔をしていた。

 

「え、えっと…………僕、男だよ…………?」

「は?」

 

一瞬、もう一度世界が止まった様な感じがした。

男と言ったか。

この目の前の天使は。

こんな可愛い女子、関わり合いになるはずも無いし、関わった所で多少の縁で終わると思った。だが、それが男子なら…………?

 

「僕は、戸塚彩加。男の子なんだけど…………証拠、見せよっか…………?」

 

もじもじと内股気味に足を閉じ、ジャージの裾を掴む戸塚。

その愛くるしさと奥ゆかしさとエロティシズムに溢れた仕草に、脳が沸騰するかと思った。

このまま、その証拠とやらを見せてもらおうか、と八幡の中の獣八幡がいきり立つ。

しかし、そんないきなり、と八幡の中の比較的理性的に八幡が落ち着きを取り戻そうとする。

しかし、こう言うのは順序が必要だろうと思ってしまう辺り、もう八幡の中の八幡は証拠を見せてもらおうと言う思いで一杯だった。

 

「ヒッキー…………その、目が、キモいよ?」

 

だが、そんな俺を見る由比ヶ浜の、本気で気持ち悪がっている目が八幡の中の八幡を一瞬で凍りつかせるのだった。

 

「そ、それにしても、良く俺のこと知ってたな」

「あ、それはね。体育の授業の時に、比企谷君のテニスの素振りの姿勢が綺麗だったから」

「…………っ!なぁ、戸塚って、呼んでもいいか?」

「良いよ。その代わり、八幡って、呼んでも良い?」

「ああ…………!!」

「…………ヒッキー、キモい」

 

由比ヶ浜の一言で、流石に一度に距離を縮めすぎたと反省した俺は、戸塚も一緒に少し距離を置いた。

その時、ピロピロピロピロ、と少し聞き覚えの無い電子音が三つ。

音の出所を探すと、それは俺のD-3、由比ヶ浜のデジヴァイス、そして戸塚もまたデジヴァイスを手にしていた。

 

「戸塚、お前もテイマーだったのか?」

「う、うん。そっか、八幡と由比ヶ浜さんもなんだね。でも、この反応…………」

「ふ、2人も知らないの?」

「ああ。5年前から持ってるが、こんな反応初めてだ」

 

その時、不意に空気が揺れる様な感覚が襲って来た。

見えない巨大な何かが、殴りかかって来る様な感覚。

このままだと不味い。

その一心で戸塚と由比ヶ浜の肩を掴み、地面に押し倒す。

 

「ひ、ヒッキー!?」

「八幡!?」

 

どちらも顔が真っ赤だったが、その直後に頭上を通り過ぎた何かが、学校の廊下の壁に激突してヒビを入れるのを見て愕然とした。

 

「な、何、あれ…………」

「見えない暴走デジモンか…………しゃーねえ」

 

スマホを取り出してD-3と突き合わせる。

デジタルゲートが開いてブイモンが転送されて来る筈だったが、それよりも先に見えない何かが八幡を襲う。

思わず目を閉じ、衝撃に備えるが、それよりも先に声が聞こえて来た。

 

「ブレイジングファイア!」

 

緑色の光弾が見えない暴走デジモンに直撃し、火花と煙が上がる。

八幡が振り向くと、そこには巨大な両耳を持つ、小柄な獣型デジモンが威嚇する様に何かを睨み付けていた。

 

「テリアモン!!」

「さいか、無事?」

「も、もしかしてこの子、さいちゃんのパートナー!?」

「学校にまでついて来たの!?」

「さいかが狙われてる気配がした。だから追いかけて来た」

 

テリアモンは可愛い外見からは想像もつかないくらいの好戦的な顔を見せると、再び口から必殺のブレイジングファイアを放ち、透明なデジモンは微かに後退する。

しかし、見えないながらもどうやら相手は成熟期以上らしく、成長期のテリアモンの攻撃では牽制程度にしかならない。

 

「来い、ブイモン!」

 

今度こそD-3を使いデジタルゲートを開くと、ブイモンが口いっぱいにカップ麺の麺を頬張りながら転送されて来た。

 

「なんだよー。シャウトモンとカップ麺戦争してたってのに」

「言ってる場合かっての。進化だ、デジメンタル、アップ」

 

D-3を起動し、勇気のデジメンタルをロードする。

そのエネルギーを浴びたブイモンは、成長期からアーマー進化体に進化する。

 

「ブイモン、アーマー進化!燃え上がる勇気、フレイドラモン!」

 

フレイドラモンは必殺技のナックルファイアを放ち、見えないデジモンが微かによろめく。

しかし、それは見えないデジモンが余計に怒るばかりだった。

 

「は、八幡!流石に火力不足だぞ!」

「どうせここにはテイマーばっかり居るんだ!誰か援軍が来るまでやるだけやるぞ!」

 

突進して来る見えないデジモンを紙一重で避けるフレイドラモンだったが、二発目のファイアナックルを放とうにも敵の居所が分からない。

テリアモンも同じ様子だった。

 

「せめて見えればな…………」

「なら手を貸しますよ。先輩」

「は?…………って、げっ」

「再開して早々、げってなんですか。全くもう」

 

姿を表したのは、栗色の髪をした、一年生の女子だった。

校則で許される範囲できっちり化粧を決め、お洒落なアクセサリーをデジヴァイス、D-アークに付けた後輩、一色いろは。

そしてそのパートナー、ウサギの様な成長期デジモン、ルナモンがすぐ後ろに現れていた。

 

「非常事態じゃ無かったら、素通りしてましたケド、そうも言ってられないみたいですねー。ルナモン、行くよ」

「うん!」

 

ルナモンが飛び上がり、透明なデジモンがフレイドラモンとテリアモンを相手に飛び掛かり、砂埃を上げる姿を目視する。

そこで一色は、懐から一枚のカードを取り出してD-アークでスキャンする。

 

「カードスラッシュ!ゲソモン!!」

「デッドリーシェード!!」

 

ゲソモンのデータが入ったカードの力がD-アークを通じてルナモンに届き、ルナモンの口からイカ墨が放たれる。

そのイカ墨を浴びた透明なデジモンは、少なくとも二足歩行の巨大な兎の様なデジモンである事は見た目で分かった。

 

「一色、あのデジモンのデータ取れるか?」

「バッチリ取れてますよ。ウェンディモン、成熟期のウィルス種。なら、こっちも成熟期で行くよ、ルナモン」

「うん!」

 

一色のD-アークが輝いて、画面に浮かぶ『EVOLUTION』の文字。

放たれた光を浴びて、ルナモンの全身の表面を構成するテクスチャデータが剥がれていく。

 

「ルナモン、進化!」

 

全身がワイヤーデータに変わったルナモンの頭身が一気に上がる。

腰は細くなり、逆に太ももが太く、強靭に膨れ上がり、拳と顔に鉄製のカバーが装着された。

 

「レキスモン!」

「一気に決めて!」

 

空中から一気に飛びかかり、ウェンディモンの頭頂部に蹴りを入れるレキスモン。

ウェンディモンがよろめき、動きが止まった隙にテリアモンがブレイジングファイアを、フレイドラモンがナックルファイアを放つ。

ウェンディモンは大ダメージを負って後ずさると、強烈な風を巻き起こして姿を消してしまった。

 

「消えた?」

「アークにも反応無いです。どうなってるんですか?先輩」

「知らねえよ。ってか、一色…………お前も総武来てたのか」

 

デジモン達がそれぞれ成長期に戻っていく中で、消えたウェンディモンの行方を探す一色。

D-アークは出会ったデジモンのデータを解析する力があるから、こう言う時に居てくれると実に便利な後輩だ。

だが、一色はふうとため息を吐くと、駆け寄って来たルナモンを抱き抱えてこっちを睨んで来た。

 

「なんですか先輩。一応、小町ちゃん経由でちゃんと連絡しましたよね?私も総武に入学したって。なのになんで挨拶に来ないどころか初めて知ったみたいな事言ってるんですか?」

「え?マジで?小町そんな事言ってたっけか」

「…………先輩」

「八幡、ひどーい」

 

一色とルナモンの咎める様な視線に負けて、思わず知らず顔を背ける。

だって、一年生だから生活圏が違うし、こいつと今更関わることなんて無いと思ってたし、何より昔の仲間に顔合わせる気なかったし。

 

「ひ、ヒッキー…………この子って」

「八幡?」

 

初めて目の前でデジモン同士の戦いを見たせいか、少し声が震えている由比ヶ浜と戸塚。

と言うか不安げな顔で戸塚はテリアモンを抱きしめていて、なんと言うかこう、そそる物を感じる。

可愛い×可愛いがこんなにも相乗効果を発揮するとは。数学には興味もかけらも無いが、この時ばかりは…………

 

「比企谷!」

 

その時、平塚先生を始めとした教員達が駆けつけて来た。

遅い、とは思いはしたが、一色の冷たい眼差しと由比ヶ浜と戸塚の不安げな眼差しに針の筵状態からは脱出出来そうだった。

 

 

 

「雪ノ下せんぱーい!!お久しぶりです!!」

 

放課後の奉仕部の部室。

喧しい声に思わず顔をしかめ、一刻も早くこの時間が終わる事を祈る中、その喧しさの元凶である一色は雪ノ下に抱き付き、雪ノ下は心底呆れ果てた顔で一色を引き剥がした。

 

「一色さん。入学式以来ね。でも余りしがみ付かないでくれるかしら。暑いのだけれど」

「あ、ごめんなさい」

「ルナモンも久しぶりね」

「雪乃、久しぶり。ヴォルフモンもね」

 

ぴょんぴょん飛び回るルナモンが一色が離れた直後の雪ノ下の膝の上に乗り、雪ノ下が頭を撫でると気持ちよさそうに目を閉じた。

 

「え、えーっと…………一色、いろは、ちゃん?」

「一年生の一色いろはです。元選ばれし子供達ちば組のメンバーで、パートナーはルナモン」

「あ、可愛い」

「ですよねー。私の自慢のパートナーなんですよ、由比ヶ浜先輩」

 

雪ノ下からルナモンを取り戻した一色がルナモンを抱きしめ、由比ヶ浜がその様子を見て目を輝かせる。

確かに一見可愛らしいのは認めるが、ルナモンはともかく子供の頃から一色の腹黒さを知ってるので騙されない。

例えるのなら、獲物を綺麗な花の蜜で誘い出す食虫植物みたいな奴だ。

そんな人食いサラセニアンが、さっきまでの外面フェイスを引き剥がして鋭く冷たい目でこっちを睨んできた。

早速本性表したな。

 

「で、先輩?」

「で?でって何だよ」

「小町ちゃん経由でちゃんと連絡してあげたのに、なんで挨拶に来てくれなかったんですか?シスコンの先輩の事だから、絶対に覚えてるはずですよね?忘れたフリですよねー?」

「…………いや、本当に忘れてた」

「えー?じゃ、今から小町ちゃんに伝えますねー。先輩が、小町ちゃんの言った事忘れてたってー」

「ぐっ…………分かった。小町の言った事だしな。ちゃんと覚えてたぞ。ただ…………」

「ただ?」

「お前とまた会うと思うと気分が重かったんだよ…………絶対に面倒くさいし」

「はぁー!?」

 

誤魔化そうとしたが、無理だと分かれば正直に話す。

これが一番ダメージを負わない処世術なのだ。

しかし、まぁ目の前の一色の目が釣り上がっていくのを見ると、失敗だった事は理解できた。

おまけに雪ノ下が遠目で呆れ果てたと言わんばかりの態度で額に手を付き、由比ヶ浜が本気で引いた顔で距離を置き始めた。

一色は腰に手を当て、グイッと顔を近づけてくる。

薄いファンデーションの香りと、一色本人の香りが混じった、由比ヶ浜とは違う柔らかい匂いに思わず仰反る。

 

「だ、大体。お前葉山にべったりだったし、そっちに会いに行けば良いだろ。なのにわざわざ俺が挨拶しに行く理由は無いだろ。お互いに無駄な時間を使わずに済むし、WIN-WINの関係だ」

「先輩、それマジで言ってます?」

「ああ」

 

ガクリ、と首を落とす一色。

はぁーっと今度は聞こえよがしにため息を吐く。

相変わらずわざとらしい仕草が似合う奴だ。

 

「雪ノ下先輩、これを更生するなんて無理じゃないですかー?」

「そうね…………最近、少し自信が無くなってきた所よ」

「ブイモン、この3年間何してたの?」

「俺に言うなよー」

 

一色がこっちを指差しながら雪ノ下に向けて叫ぶ。

それにしても一色、人をこれ呼ばわりしたり、指差しちゃいけませんって習わなかったの?

雪ノ下もここは礼儀作法について語るべきタイミングじゃ無いの?

おまけにルナモンとブイモンも露骨に距離を置きだし、奉仕部の部室でどんどん孤立していく。

だが孤立なんて、それくらいの事は日常茶飯事。

別に気にはしないが、全員冷たい視線で睨まれると流石に居心地が悪いのでやめて下さいお願いします。

 

「先輩」

「な、なんだ?一色」

「取り敢えず、携帯寄越してください」

「え?なんで」

 

一色は、お前の答えは求めん、と言わんばかりの冷徹な目で見下ろしてくる。

そんな目で睨まないで、お願い。

八幡、こう見えても小動物並みに心弱いんだから。

渋々携帯を手渡すと、一色は素早い指さばきで自分の携帯共々何やら操作し始める。

 

「先輩、葉山先輩はともかく、雪ノ下先輩とも連絡先交換して無いんですねー。別に意外、って訳じゃないか」

「ま、お互いそう言う関係じゃねえし」

「へー」

 

気のない返事を終えて、一色が携帯を閉じて突き返してくる。

受け取って開いてみると、連絡先に一色の名前が。

 

「え?何でわざわざ?」

「煩いですね。じゃ、次からは携帯で呼び出すので。無視したら即座に小町ちゃんに連絡行きますからそのつもりで」

「お、おま…………それは卑怯じゃないか?」

「私今葉山先輩の居るサッカー部のマネージャーやってるので、今日の所は帰りますね。また来ますから、その時までに少しでも良いから更生してて下さいねー。行くよ、ルナモン」

「ばいばーい。またねー」

 

こっちの言い分など知った事じゃないと言わんばかりの様子でルナモンを肩に乗せて、一色が肩を怒らせて部室を去っていく。

それにしても、また来ます、とは一体何か。

めちゃくちゃ怒ってるのは背中からも分かるくらいなのに、何故わざわざまた来るのか。

何一つ理解出来ん。

そして何より、半目で睨んでくる雪ノ下と由比ヶ浜、そしてブイモンの視線も理解出来ん。

だが、雪ノ下のハンドシグナルは、間違い無く床に正座、と指示を出していて、逆らえば殺されると言う事実を前に冷たく硬い床に正座した。

 

「なぁな。これは一体どう言う状況なの?」

 

ずっと部室の隅っこで眠っていたテリアモンが目を擦りながら呟くのを聞きつつ、痺れ始める両足の痛みに耐え続けるしかなかった。

 

 

「ごめん、テリアモン!待った!?」

 

可愛らしい声と一緒に飛び込んできた戸塚が、一直線にテリアモンの元へ駆けつけ、抱き締めた。

その姿を見れば、戸塚が心の底からテリアモンを大切にしていることは分かるし、満面の笑顔のテリアモンも戸塚が大切なのは分かる。

これがデジモンとパートナーの理想的な関係だぞ、分かるかブイモン。

いつもいつも人のベッド占領したり、トマトを押し付けたり、おまけに雪ノ下や小町に短い尻尾振りやがって。

今は由比ヶ浜の膝の上で満足げな顔をしているブイモンを睨むが、視線に気付いたブイモンはニヤッと笑うばかり。

べ、別に由比ヶ浜の膝の上って柔らかそうとか羨ましいとか思ってねえからな、勘違いするなよブイモン。

 

「八幡、それに由比ヶ浜さんに、えっと…………」

「雪ノ下雪乃よ。2-Fの戸塚彩加さんね。テリアモンを返しても大丈夫かしら?」

「はい!今日はテリアモンと一緒にこのまま帰る予定だから」

「さいか、帰るの?」

 

テリアモンが戸塚のジャージの裾を掴んで不安げな顔を見せる。

戸塚も微かに心細そうな顔を見せ、だけど抱えている問題に他人を巻き込みたくなさそうな顔をしていた。

分かるぞ戸塚、その気持ち。

 

「戸塚、昼間に襲って来たデジモンがまた襲ってくるかもしれないんだ。俺に、ボディガードをさせてくれないか?」

「は、八幡…………本当にいいの?」

「いいさ。戸塚の為だからな」

「八幡…………」

「ちょー!!ちょーっとストーップ!!」

 

何だ由比ヶ浜、せっかく戸塚と2人きりの世界が出来上がりつつあったと言うのに。

プンスカ怒った様子の由比ヶ浜は戸塚を半ば無理やり依頼人席に座らせる。

 

「さいちゃん。私達、奉仕部は学校のみんなの悩みとか、そう言うのを相談して貰うのが活動内容だから、悩んでるならヒッキーだけじゃなくて、私達3人に相談して欲しいの」

「由比ヶ浜さん…………」

「そうね。由比ヶ浜さんの言う通りだし、それにデジモン関連の相談は私達の専門よ。襲われる理由に心当たりがあるのなら、教えて頂戴」

「雪ノ下さん…………」

「さいか、またあいつが襲って来たら、多分ボクじゃ勝てないよ。ブイモン達の力、借りないと」

 

テリアモンの進言もあってか、戸塚はやがて小さく頷いた。

 

 

始まりは10年前。

戸塚は自宅のパソコンから出てきたデジタマとデジヴァイスを手に入れた。

そのデジタマからうまれたのが、双子の幼年期デジモン、グミモンと、チョコモンだった。

デジタルワールドへ呼び出される事が無かった戸塚は、毎日グミモンとチョコモンと遊んで暮らしていたが、ある時チョコモンが行方不明になってしまった。

探しても見つからず、10年が経って、すっかり諦めてしまったこの頃、時々チョコモンの気配をテリアモンが感じるようになってきた。

そして今日、昼休みの最中に襲って来たウェンディモン。

戸塚とテリアモンは、あのウェンディモンは、行方不明のチョコモンが進化した姿ではないか、と感じていた。

そしてそのウェンディモンの気配を特に強く感じる時、それが…………

 

「テニスの練習、してる時、か」

 

中庭のテニスコートの脇のベンチに腰掛け、テリアモンがポカリスエットのペットボトルをラッパ飲みするのを見つめる。

テニスコートでは戸塚が雪ノ下の指導を受けて素振りのフォームを矯正されていて、雪ノ下の強すぎる言葉を由比ヶ浜が優しく翻訳していた。

総武高校にテニス部があった事をそもそも知らなかったのだが、どうも部員達はみんなやる気がないらしく、戸塚が1人で盛り立てている状況らしい。

戸塚としては、自分が上手くなって、試合に勝てるようになれば、部員達もやる気を出してくれるんじゃないかと思って練習を続けていたらしいが、そうやって練習すればする程ウェンディモンの気配が近づいてくるのだとか。

 

「チョコモンは、お前の双子の兄弟なんだよな。だから気配を感じられるのか?」

「多分ねー。でも、近づいてこないと分かんないし。それにむこうは成熟期まで進化してるけど、ボクはまだ成長期だし。ウェンディモンは多分こっちの状況とか、全部把握してると思うよ」

「そうか…………厄介だな」

 

プハっとポカリのペットボトルから口を離したテリアモンが口を拭いながらなんて事なさそうに答える。

その様子に、傍目で見る限りでは無理や我慢の気配は感じられない。

どうやらテリアモンは、既に覚悟を決めているのだろう。

パートナーの為なら双子の兄弟を倒す覚悟を。

 

「なぁ八幡、パートナーとはぐれたデジモンって、どんな気持ちなんだろうなぁ」

「分からねえよ。そんなの。当事者しか分からねえ気持ちを、他所者が勝手に想像して同情するモンじゃねえだろ」

「そっかぁ」

「俺たちに出来るのは、チョコモンがまだチョコモンでいれる内に止めてやる事くらいだ。だろ?」

「それしか、かぁ」

 

珍しく俺の膝の上で微睡むブイモン。

チョコモンの境遇に同情してしまったのだろう。

普段はパートナー解消してえだの何だの口うるさい奴だが、これでも俺のパートナーだ。

俺も、コイツがある日突然居なくなるなんて想像も出来ないし、したくない。

それはきっと、雪ノ下も、一色も、葉山も、ヴォルフモンもルナモンもワームモンも同じだろう。

それがテイマーとパートナーデジモンと言うものだ。

 

「比企谷君、貴方いつまで休むつもりかしら。依頼を受けた以上は貴方もしっかりと動いて貰うわよ」

 

雪ノ下の叱責がこっちにも飛んできた。思わずビクッとなって、ブイモンが驚いた顔で飛び起きる。

雪ノ下からの部長命令には逆らえないんだし、この場合は俺の膝の上で寝ていたブイモンが悪いからしゃーない。

ブイモンの非難の視線を躱しつつ、俺は立て掛けていたテニスラケットを手にコート入りする。

その日はもう、ウェンディモンは現れなかった。




今回は前後編の前編です。
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