やはり俺とブイモンの青春ラブコメは間違っている。   作:アルファ麻呂

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後編です。


第七話

「ナックルファイア!!」

 

フレイドラモンの放つ炎が、青黒い機械仕掛けの完全体デジモン、ギガドラモンに直撃するが、ギガドラモンは特に効いた様子も無く突っ込んでくる。

 

「あー。効かねえよなぁ」

「言ってる場合かよ!!逃げろーっ!!」

 

フレイドラモンと一緒に全速力で走る。ギガドラモンの体当たりがついさっきまで立っていたアスファルトを抉って吹き飛ばし、背中に幾つか細かいアスファルトの破片が当たった。

 

「アーマー進化は流石に完全体には力不足か。分かっちゃいたけどな」

「だーかーら、雪乃か隼人に連絡しようって言ったんだよ!」

「いやだって、どっちも連絡先知らねえし…………」

 

ゆらり、と顔を起こすギガドラモンを前に、地面にへたり込んだ俺とフレイドラモンが思わず顔を見合わせる。

若干遅刻気味に学校に登校する途中、デジタルゲートが開く警報が鳴ったのを聞いて駆けつけてみれば、なんと完全体のギガドラモン。とりあえず勇気のデジメンタルでアーマー進化して立ち向ったが、分かってはいたが足止めくらいしか出来ない。

また目立ってしまう事を考えると余り使いたくは無いが、奇跡のデジメンタルを使うか、と思っていると、青白い風の様な勢いで女子が現れてギガドラモンを殴り飛ばした。

 

「川崎?なんでこんな時間に…………」

「アンタがそれ言う?たまたま通りかかっただけよ。アグモン、一気に決めるわよ」

「うん!」

 

川崎の全身から黄色いデジソウルが溢れ出し、懐から取り出したデジヴァイスicにデジソウルを注ぎ込んでいく。

 

「デジソウル、チャージ!!オーバードライブ!!」

「アグモン進化!!」

 

デジヴァイスicから放たれたデジソウルを限界以上に吸収し、アグモンが鼻先からデジタルデータに変換されていく。

デジタルデータが黒い炎に変わり、やがて二本の刀を持つ人型へと変わっていく。

 

「ガイオウモン!」

 

真っ黒な体躯に、ウォーグレイモンを思い起こさせる兜を被った竜人型の究極体デジモン、ガイオウモンが炎の軌跡を残しながらギガドラモンの元に瞬間移動にも見えるくらいの勢いで迫り、そして次の瞬間にはギガドラモンが呻き声を上げながら崩れ落ちていた。

 

「流石はガイオウモンだな。マグナモンや、雪ノ下のスサノオモンとか、一色のディアナモンだったらギガドラモンだけじゃなくて、公園一つくらいは吹っ飛ばせるからな」

「アンタと葉山のペアだと公園どころか街ごと吹っ飛ばすでしょ」

「別に俺とアイツはペアじゃねーよ…………」

 

動かなくなったギガドラモンを、俺のD-3と川崎のデジヴァイスicで開いたゲートでデジタルワールドへと強制送還していく。

 

完全体以上のデジモンの中には、核ミサイル級の火力を持つデジモンも居るが、究極体ともなるとその殆どが嘘みたいな火力を持つ。

それこそ雪ノ下は、その気になればスサノオモンに進化して総武高校の校舎を一瞬で跡形もなく消滅させられるし、マグナモンだって三分間の縛りが無ければ千葉県を全部更地に出来るだろう。

だが、川崎のパートナーデジモンであるアグモンの究極体のガイオウモンは、その火力を刀に集中させる事で周囲の被害を最小限に抑えられる。

 

「ま、いいか。今回は被害が出たのは俺が居た間だけだ。お前の取り分は多めで申告するぞ」

「だから、アンタの施しは受けないって言ってるでしょ」

「いやだって、こればっかりは事実だしな。俺はあくまで初動対応して、その時に被害が出た。で、お前が来てからは被害ゼロで解決した。だろ?」

「だからって…………!」

「それより早く学校行くぞ。デジモン関連の事故対応してたからって言い訳つくだろ」

 

捲れ上がったアスファルトの破片で汚れた鞄を拾いつつ、駆けつけてきた警官達に2人分のデジヴァイスを渡す。

警官達がパソコンにデジヴァイスを専用コードで繋いでデータを保存し、印刷された証明書と一緒にすぐに返しつつ、早く学校に、とだけ言って現場の封鎖や検証を始めるのを見つつ、俺と川崎は学校に向かうのだった。

 

ちなみに、証明書を読んだ平塚先生に最初から遅刻してた事はバレていたりするが、それは余り関係は無い。

関係あるのは、川崎も一緒に遅刻しかけたと言うのに、何故か川崎は殴られなかった事だろうか。

 

 

「おーい!お兄ちゃんこっちー!!」

「早く来いよ八幡!!」

「俺たちじゃドリンクバー取れないんだよーっ!!」

 

下校後、小町に呼ばれてサイゼに到着すると、三人分の大声が出迎えてきた。あまりの大声に、すぐさま店員がシャウトモンとブイモンに静かに、とジェスチャーすると、流石に不味いと思ったのか小町も一緒に慌てて口を塞いでいた。

まぁ俺の妹はそんな所も可愛いんだがな。

 

「で?相談したい事あるって言ったけど、だったら何でサイゼなんだよ。家で良いだろ」

「だって、いっつも家じゃシャウトモン達可哀想じゃん。ねー?」

「流石小町、俺のパートナーだぜ!俺、ハンバーグセット!!」

「だったら俺はステーキアンドハンバーグの合盛り!!」

「コイツら…………」

 

俺の財布の中身も知らずにどんどん高いメニューを当て付けみたいに注文していくデジモン2体に思わず顔を顰めつつ、とりあえず四人分のドリンクバーを取りに行く。

 

「アレ?ヒッキー?」

 

その時、聞き覚えのある、と言うかついさっきまで部室で一緒に居た声が聞こえてきて振り向くと、二人分の空のコップを持った由比ヶ浜が不思議そうな顔でこっちを見ていた。

 

「珍しいね、ヒッキーとこんなとこで会うなんて」

「まぁ、たまにはな」

 

それだけ言ってトレイに四つのコップを乗せ、席に戻ろうとする。

 

「ちょ、ちょっと待ってよ!?せっかく会ったのにそれだけ!?」

「いや、わざわざ話す事無いだろ。それにお前も一緒に来た奴居るだろ」

「た、確かにゆきのんと一緒に来たけどさ。ってか、それなら奉仕部の延長戦、みたいな感じで…………って、四つ?ヒッキー、誰かと一緒に来てるの?」

 

何故か目付きがちょっと鋭くなる由比ヶ浜。ほんと何故だ。

だが、雪ノ下と一緒に来ているのなら、今頃小町とも顔を合わせているか。下手したら小町辺りがご一緒にどうですか、くらいの事言ってるだろ。

しつこく目で誰と来てるのか、と訴えてくる由比ヶ浜をいなしつつテーブルに戻ると、案の定雪ノ下が小町のとなりに座っていた。

 

「あら。残念だけど比企谷君も居たのね。本当に残念だわ」

「俺が小町と一緒に居るのは当たり前の事だろ。俺はお兄ちゃんだぞ」

「あ、それ小町的にポイント高いよお兄ちゃん。出来ればそのキメ顔は義姉ちゃん候補にして欲しいけど…………って、その女の人誰!?」

「こ、こんにちはー…………」

 

怪訝そうな顔の由比ヶ浜を見た小町が瞳を輝かせて飛び付いて来た。

 

「初めまして!私、そこのお兄ちゃんの妹の小町です!パートナーはシャウトモンで、雪乃さんと一緒にデジタルワールド冒険してました!!」

「あ、ヒッキーから聞いてるよ。私、由比ヶ浜結衣。ヒッキーに前助けてもらった事があって…………」

「えーっ!?お、お兄ちゃんが!?それ、詳しくっ!!」

 

二人でいきなり盛り上がりだす小町と由比ヶ浜を尻目に、持って来たコップをそれぞれに並べていくが、ブイモンもシャウトモンも届いたばかりの肉に夢中で礼も言おうとしない。これだから食い意地の張ったデジモンは。

やれやれと思わず口に出しつつソファに座りストローを口に含むと、優雅に紅茶を飲んでいた雪ノ下がふとこちらを向いた。

 

「それにしても意外ね。今まで散々から名乗り出なかった癖に、今朝もデジモン案件の解決でしっかりバイト代受け取ったそうじゃない。どう言う心境の変化かしら?」

「そりゃ、こうしてサイゼで食い意地の張ったデジモンどもが何食っても大丈夫な様にだろ。ま、この間のららぽも今朝も、川崎と一緒に解決したから逃げられなかったってのもあるけどな」

「あ、そう言えばヒッキー!今朝、川崎さんと一緒に登校してた!!」

「無駄に反応良いな…………」

 

川崎の名前を出した途端に由比ヶ浜が食い付いてくる。

 

「そりゃ、沙希さんも一緒にデジタルワールド冒険した仲間ですから。小町とお兄ちゃん、雪乃さんに葉山先輩、それにいろはさんに沙希さんの六人。選ばれし子供達ちば組です」

「元、な。とっくに解散してる」

「え?なんで?」

「由比ヶ浜さん、逆に質問するけど、貴女、小学生の頃の友達や知り合いと今も連絡取り合っているかしら?」

「え?そ、それは、まぁ確かにしてないけど…………それとこれは話違くない!?そもそも全員総武高校だし!!」

 

やけにしつこい由比ヶ浜をあしらいつつ、食いすぎたのかソファにもたれてグッタリしているブイモンとシャウトモンに水を飲ます。と、不意に小町が何かに気づいて声を上げながら手を振りだした。

 

「あ、こっち!おーい!」

「お待たせしました、比企谷さん!」

「あ?って、お前かよ大志」

「相変わらずの塩対応…………」

 

呼ばれて駆けつけてきたのは、足元に帽子を被った熊の様な成長期デジモン、ベアモンを連れた中学生男子、川崎の弟の大志だった。

 

「比企谷全員に、あ、雪ノ下先輩も!!お久しぶりです!」

「ええ。久しぶりね川崎君。そこのシスコンの事は気にしなくても大丈夫よ」

「大志テメェ小町の周囲半径五十メートル以内に近づくなって言ったよな?」

 

俺が兄としての責任を果たそうとしていると、何故か雪ノ下が被せて別の事を言い出した。

ならば実力行使か、と立ち上がろうとしたが、それを何故か小町に抑えられた。

 

「実は今日は、大志君がお兄ちゃんに相談があるって」

「何ぃ?なら早く言えよ」

「は、はい、実は…………」

 

ベアモンと並んで座った大志が深刻そうな顔をする。

流石に小町関連ではなさそうだ。

雪ノ下も少し気にしているのか、紅茶を優雅に飲みつつ視線は大志に向いている。

 

「実は最近、姉ちゃんの帰りが遅くて。毎日夜遅くまで帰ってこないんすよ。そのせいで毎朝しんどそうにしてるから、何してるんだって聞いても、あんたには関係無い、の一点張りで」

「あー。そういえば今朝も思いっきり遅刻する様な時間だったな」

「アグモンに聞いても教えてくれないし。で、そしたらこの間、沙希がこんなの落として…………」

 

そう言ってベアモンの帽子の中から大志が取り出してテーブルに置いたのは、やけに大人っぽいお店の名刺だった。

 

 

「あの川崎が、ねえ」

 

翌日の昼休み。いつものベストプレイスではなく、奉仕部の部室に呼び出された俺はしみじみと購買部で買ったパンを齧りながら呟いていた。

雪ノ下も弁当を優雅に口に運びつつ、言いたい事は分かるわ、と言わんばかりに鼻を鳴らした。

 

「…………」

 

そして何故か、由比ヶ浜がズズズ、と音を立てて牛乳をストローで飲みながら不満げな態度を隠そうともしていなかった。

 

「なんだ由比ヶ浜。もうそのパックに牛乳は残ってないぞ」

「むーっ!!そのくらい分かってるし!!せっかく奉仕部の仕事って聞いて駆けつけたのに、さっきからゆきのんとヒッキーが何か異人転身みたいな感じで置いてけぼりじゃん私!!」

「ゆ、由比ヶ浜さん?もしかして、以心伝心、かしら?」

「そ、そうそれ!!いしんでんしん!!」

 

この由比ヶ浜結衣と言う女子は、本当にこの総武高校の生徒なのか、いやそれ以前に本当に同じ年の高校生なのか不安になってきた。

まぁそれはともかく、雪ノ下が箸を置き、大志から受け取った名刺を取り出して机の上に置く。

 

「川崎さんの事情、私たちは知ってるわ。勿論、比企谷君も」

「ちょいデリケートな話だけど、話進まねえし言うか。端的に言うと、アイツの家は経済的に余裕がねえんだよ。大志と、その下に京華って幼稚園に通ってる妹も居るし、おまけに三人ともパートナーが居るからな」

「由比ヶ浜さんはまだ知らないと思うけど、デジモン達の食費などの生活費はまだこの国では保障されていないわ。前に聞いたけど、アグモンやベアモンは、内職で自分達の生活費を稼いでいるそうよ」

 

雪ノ下の説明を聞いて、思わず顔を顰める。

畜生、デジモンですら食っちゃ寝のヒキニート生活を送れる訳ではないのか。

あ、でも家に居るブイモンとシャウトモンは完全に食っちゃ寝のヒキニート生活だったな。

なんだか理不尽だ。今度小町に相談してアイツらにも内職させるか。

 

「って事は、やっぱりこの名刺のお店で働いてるんだよね…………でも、うちの学校、アルバイト禁止…………」

「オマケに夜遅くまで働いてるって事は、多分店には年齢誤魔化してるんだろ。バレれば退学も十分あり得る話だな」

 

流石に小町や大志の前では話さなかったが、この辺の事情も含めて二人とも既に理解しているだろう。

しかし、川崎の家庭の経済事情に関しては俺たちではどうする事も出来ない。

現に俺が要らないって言ってるデジモン案件のバイト代も受け取らないって言ってる訳だし。

 

「一色に説得してもらうか?川崎、あいつの事可愛がってるんだし」

「実の弟の川崎君にすら相談していないんだし、無理でしょうね」

「うーん、なら大丈夫そうな人居ない?」

「彼女、誰かに説得されて素直に聞くとは思えないわね。でも、流石に夜のアルバイトは止めないと」

「…………なら、今夜この店に突入するしかねえか」

 

パンの最後の一欠片を口に入れ、由比ヶ浜も弁当の箸箱に箸を収め、雪ノ下が空になったティーカップを洗いに立ち上がる。

もうすぐ昼休みも終わりだ。

 

 

夜、名刺に書かれた住所を訪ねてみれば、繁華街のビルの中にある大人向けのバーだった。

 

「マジで大人の店で働いてんだな、アイツ…………」

「ここ、私たち来ても本当に大丈夫なとこ!?」

「ダメでしょうね。だから来たのよ」

 

未成年が歩いていては補導されてしまうので、一応雪ノ下の計らいで大人っぽいスーツに身を包み、ブイモン達には家で待機してもらっている。

学生が歩いてはいけない時間帯に、子供が居てはいけない街で、大人の店で働いている川崎。

どれ一つとっても川崎の人生に消えない汚れになりかねない汚点だ。

別に俺はアイツや、雪ノ下や、葉山や一色を今でも仲間だなんだと言うつもりは無いが、小町が持ってきた依頼だ。

川崎が人生を狂わせてしまう前に何とかしてやらないとな。

 

「いらっしゃいま…………」

「よう、川崎。今朝ぶりだな」

「私は二ヶ月ぶりかしら」

「わ、私は…………えーっと…………?」

「由比ヶ浜は別にいいだろ。一応、俺達客だぞ」

「…………未成年でしょ」

「それを言うのならお前もだろ、高校生。とりあえずマッカン」

「無い」

 

由比ヶ浜に頼んで持ってきてもらったクラス写真をカウンターに置くと、川崎が即座にそれを奪い取る。

まぁ何枚か印刷しているから、ズラっと広げれば川崎も諦めたのか、ため息混じりに額を押さえた。

 

「川崎さん。貴女の事情は、昔の仲間だもの。理解しているわ。けれどだからといってこれは流石にリスキー過ぎはしないかしら」

「だったら何?そこの目の腐った奴じゃ無いけど、もうとっくに、ちば組は解散してるじゃん。今更口出ししないでくれる?」

「そうはいかないわ。川崎君から私たち奉仕部への依頼だもの」

「…………っ!!」

「あ、あの!弟さんの大志君が、川崎さんの事すっごい心配してて…………」

「部外者が余計な口出ししないでって言ってるでしょ」

 

由比ヶ浜はともかく、雪ノ下に対しても全く表情を変える事すらなく言い切る川崎。

取りつく島もないとはまさにこの事だろう。

ノンアルコールのオレンジジュースを三人分並べて伝票を出すと、レジの近くに置く。飲んだらすぐ帰れ、と言う意味だ。

 

「だから俺が要らないって言った分のバイト代受け取れば良かったんだよ」

「川崎さん。その男の施しを受ける程落ちぶれてはいないわよね?」

「当然でしょ」

「そこで息合わせるなよな…………」

 

昔の仲間、ちば組のメンバーでなんやかんや言って一番距離があったのが俺と葉山なら、その次に距離感があったのは雪ノ下と川崎だった。

クール系だが負けん気の強い女子同士、下手に近寄れば喧嘩になりかねない。

なのでお互い相互不干渉協定みたいな物を結んでいた。

…………思い返せば小学生の女子同士の関係性じゃねえな。

人間関係でとやかく言える様な立場じゃねえけど。

 

「でもどうするんだ?バレれば退学もあり得る綱渡りの上、学校も遅刻気味だろ。このままだと苦労するって事くらい、分かってるだろ」

「…………別に良い。学校なんて行けなくなったって、いざとなったら、Dセイバーズに就職するから」

「Dセイバーズ?」

「デジモン関連の事件や事故の対処をする公的機関よ。来年から試験運用が始まる予定だけれど…………」

「あくまで役所が予定してるだけの奴だろ。それ」

 

これまでも何回か、公的機関でデジモン案件の対処が可能な組織を作る、と言う話はあった。

しかしお役所仕事故か、予算がどーの、人員がこーの。

挙げ句にはテイマーがまだ殆どが未成年、と言う点に目をつけたPTAやらが未成年を国が搾取しようとしてる、なんてトンチンカンな主張をしたりして、結果、未だに公的なデジモン案件の対処チームは設立されておらず、免許を持った俺達がバイト代を受け取り対処している。

だが今年に入り、第一世代のテイマーが成人する頃合いを見計らい、改めて正式にデジモン案件の対処を任される公的機関が作られることになった。

それがDセイバーズだ。

雪ノ下の説明を聞いた由比ヶ浜がほへー、とまたしても知性のかけらもない顔を晒す中で、俺は思わずため息を吐く。

 

「…………お前、本気でそう思ってるのか?」

「何。なんか文句あるわけ」

 

ジロリと睨まれ、一瞬ビビる。

昔から雪ノ下とはまた一味違った迫力があるんだよな、コイツ。

だが、怯んでばかりもいられない。

 

「Dセイバーズが本当に運用されるのかって話もあるが、それ以前に高校退学処分されたやつを、公的機関が雇うかって話だろ」

「…………っ!だから、昨日だってギガドラモンの対処を…………」

「東京の方には、俺達よりもずっとデジモン案件を解決してるってチームが幾つもある。それこそ世界を一度や二度救ったってレベルのチームだ。そんな奴らが、しっかり大学で勉強して、その上でDセイバーズに応募してみろ。勝ち目なんて無いだろ」

「そ、それ、は…………」

 

川崎の手に力が籠る。

確かに理不尽な話だとは思う。

生まれや育ち、住んでる環境の違いで、川崎みたいに危ない橋渡って学業を疎かにせざるを得ない場合も有れば、雪ノ下や葉山みたいに何不自由無く学業やらスポーツに打ち込める奴もいる。

ただ、雪ノ下の場合はまた少し違うか。

 

「…………川崎さん。私は実家と確執があるわ」

「知ってる」

「デジモンと関わるのを止めろ、デジヴァイスを捨てろ、と何度言われたか分からないわ。だから私は家を出て、これまで受け取った生活費や学費を全て記帳しているわ。社会に出て、全部纏めて返す為にね。だからこそ、逆に学業に於いて一切妥協はしないできたわ。優秀生徒用の奨学金なんかを使って、いつか実家に返す分を少しでも減らす為にね。私と同じ境遇なんて言わないけど、同じ手段は使えるんじゃ無いかしら?」

「…………誰にだって出来る事じゃないでしょ、それ。それに私は、今必要な事してるだけだから」

 

雪ノ下の説得は悪く無かったのか、微かに揺らぐ川崎。

たしかに、今から総武高校で成績優秀生徒として奨学金くれ、なんて言っても通じないだろう。

だが、川崎は本心では学業に専念したいのだろう。

悔しげな顔と、しかしだからと言って何か出来る訳ではないと言う諦めが顔に浮かぶ。

コイツにそんな顔をさせるのは、なんとなく忍びない。

小町だって川崎には懐いているしな。

 

「…………なら、今すぐ出来る錬金術を教えてやるよ」

「は?」

「スカラシップって、知ってるか?」

 

 

「ありがとうございます、比企谷先輩!!」

「おう大志、本気で感謝してるんなら今すぐ俺の目の前で小町の連絡先消して二度と小町に近づかないと誓え。それから…………」

「アンタ、何大志に絡んでんの?」

「ひっ!?」

 

週末、通っている予備校の前で待ち構えていた川崎とその弟の大志に絡まれた。

一応要件はわかっている。川崎が夜のバイトを辞めて、大志に事情を説明したことは、小町経由で聞いていた。

だが、なぜ大志の情報が小町の口から出てくるのか。

それがどうしても気になるので聞いてみただけなのだが、川崎は鋭い目つきで睨んでくる。

一応俺、川崎にスカラシップ錬金術を教えた恩人なんだけどな。

 

「予備校での成績上位の授業料免除制度、そんなのがあったなんて、知らなかった」

「知ろうとしなきゃそうだろ。俺のとっておきだ。親には予備校通いと言えば授業料分を懐に入れられるからな」

「アンタ、いつか天罰下るよ。でも、あ、ありが、とう」

 

微かに頬を赤く染め、川崎が俯きがちにそう言ってきた。

珍しい事もあるもんだ、と思って見つめていると、川崎はプイッと顔を背けて予備校へと走って行ってしまった。

 

「久しぶりに照れてる姉ちゃんを見たっす」

「俺相手に照れるタマじゃねーだろ」

「…………相変わらずっすね。比企谷先輩。でも、改めてありがとうございます!」

「別に良いだろ。スカラシップ取れるくらいに努力するのは、川崎自身だしな」

 

思い返せば、中学時代は同じクラスにはならなかったが、成績は悪くなかった事は覚えている。

まぁ、中学時代はそれ以外はあんまり思い出したくもない黒歴史の集合体だが。

思わず遠い目をする俺をみて、中学時代を思い返していると察したのか、大志は恐る恐る口を開いた。

 

「…………比企谷先輩達が中学居た頃、姉ちゃんが何も出来ないって悔しがってたの、思い出すっす。比企谷先輩は、何も悪く無かったのに」

「…………人生ってか、人間関係なんてそんなモンだろ。お前も周りとは適度な距離を保っとけよ。特に小町には近寄るんじゃねえぞ」

「え、ええ?そんなぁ…………」

 

そろそろ予備校の授業が始まる。

スカラシップ錬金術で少し暖かくなった財布を意識しつつ、俺は大志を置いて予備校へと走って行った。




今回もちょいちょい日刊ランキングに入っててビビりました…………

皆さんのおかげです、今後ともよろしくお願いします。
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