やはり俺とブイモンの青春ラブコメは間違っている。 作:アルファ麻呂
最近由比ヶ浜の様子がおかしい。
奉仕部に入って以来、基本的には雪ノ下に話しかけるか携帯を弄っているだけだった。だが、この所時折俺に話しかけてきたと思ったら言葉に詰まる様子を見せたり、ワザとらしくカレンダーを見つめてたり、かと思えば携帯電話を広げた状態でこっちをチラチラ見てきたり。
教室でも時々三浦と話しながらこっちに近寄ろうとして来たり、かと思えば海老名さんが奇声を上げて鼻血を…………これは多分由比ヶ浜関係無いな。
「比企谷君、最近由比ヶ浜さんが少し鬱陶しいのだけれど」
由比ヶ浜が三浦と遊びに行くから、と奉仕部を休んだその日の部活動中、不意に雪ノ下がそんな事を口にした。
「お前がそう言うレベルか…………まぁ本人の前で言わないだけ気を使ってるんだって事は分かった」
「あら、私は基本的には他人に気を使う性分よ。気にしないのはそんな値打ちも無い貴方みたいな甲斐性なし、かつジョグレスする人だけよ」
「オイ、ジョグレスを性癖の暗喩みたいな言い方するんじゃねえよ。そして俺はあくまでノーマルだ」
「…………そう。所でそう言う事なら身の危険を感じるから近寄らないで貰えるかしら。今までは貴方はジョグレス派だと思っていたから安心出来ていたのだけれど」
「安心しろ。最初に会った頃から体型の変わってないお前をそう言う対象として見」
「比企谷君。最初由比ヶ浜さんが少し鬱陶しいのだけれど」
「…………そこからもう一回やんのな」
ズタボロで椅子に崩れ落ちる俺と、ディースキャナーを懐に仕舞う雪ノ下。まぁ本人の気にしている事を言ったこっちが悪いが、なら雪ノ下のジョグレスを穢すみたいな言い方はどうなのか。
「俺が事情知ってると思うのか?」
「いいえ。でも、由比ヶ浜さんは貴方にも露骨にアピールをしているのだから、それくらい察しているのかと思っていただけよ。まぁ、貴方みたいな甲斐性なしには到底無理だったみたいだけど」
「ねえそこまで言われる程俺なんか悪い事してる?」
「ええ。強いて言うなら、そうね。存在そのものが、かしら」
ニッコリ笑顔でそう言い放つ雪ノ下。いつも以上に毒舌が冴え渡るこの雪ノ下には、なんとなく覚えがある。こう言う時の雪ノ下は、何かしら俺に頼みたい事があるけど、プライドなのか恥ずかしいのかは分からないが、口に出せない時だ。そう言う所がちば組以外とまともに人付き合いが出来なかった原因だぞ、と言いたいが、人付き合いで他人に口出しできる様な生活は送っていない。
「で?要件はなんだよ?」
「…………その私の事、理解している様な態度。不愉快だわ」
「お互い様だろ」
昔葉山がわざわざ教えてくれたのだが、こう言う態度を取った後の雪ノ下は、一人の時に物凄い勢いで自己嫌悪に陥ってパンさんとか言うぬいぐるみを抱き締めて動かなくなる、らしい。まぁアイツはその辺の事わざわざ俺に教えてる事がバレて雪ノ下に嫌われたんだが。
「由比ヶ浜さんだけれど、多分誕生日が近いんじゃないかしら」
「そうなのか?」
「カレンダーをジッと見ていたり、私の誕生日をわざわざ聞いて来たり、と言った様子を見てそう思ったの。貴方も心当たりはないかしら?」
「心当たりって言われてもな…………あ、そう言えば今日三浦と買い物行くって言って来た時に、もうすぐだし、みたいな事言ってた様な」
「…………それ、貴方が聞いた端から忘れてただけで散々から誕生日だと聞かされていたんじゃないかしら」
「あー、かもしれん」
雪ノ下の目からスッと光が消えて、居心地が悪くなって姿勢を正す。流石にこれはゴミを見る目で見られても仕方ない気がして来た。
「…………貴方にその辺りは期待するだけ無駄ね。でも、由比ヶ浜さんはまだ貴方に期待しているようだし。ここは仕方が無いわ。比企谷君」
軽く咳払いをし、雪ノ下はこっちに向いて視線を合わせて来た。微かに頬を赤らめ、少しスカートの裾を摘みながら口を開く。
「付き合って貰えるかしら」
「ったく。雪ノ下に誘われてデートな訳あるかっての」
「まぁたしかに、小町はそっち方面に話持って行きたがるよな」
休みの日の昼前、俺はブイモンと一緒にららぽのベンチでマッカンを飲みながら雪ノ下を待っていた。由比ヶ浜の誕生日プレゼントを買いに行きたいが、残念ながら雪ノ下は世間一般の女子高校生の感性を持っていないので助言が欲しいとの事だった。出来れば小町を連れて来て欲しいと言われたのだが、小町はそれを聞いて満面の笑顔でメモだけ渡して来やがった。
世間一般的な女子高校生の感性が無いのは俺も同じだと言うのは小町だってわかっている筈なのになぁ、とブイモン共々愚痴っていると、不意に由比ヶ浜とはまた違う柔らかい匂いがして振り向くと、大人っぽい白のワンピースを着た雪ノ下が、ちょうどららぽの地図が載っているパンフレットを片手に俺達の座るベンチの後ろを通り過ぎていく所だった。
「ヴォルフモン、本当にこっちなのかしら?え?行き過ぎている?そんなわけが無いでしょう。やはり地図を見る限り、さっきの角を曲がった方が…………」
「パートナーデジモンとの信頼関係はどこ行ったんだよ」
「ひゃっ!?」
「あ、珍しい声が出た」
小学生時代から方向音痴で、にも関わらず負けず嫌いな気質のせいかその事実をいつまでも認めない雪ノ下。俺は内心雪ノ下はヴォルフモンの道案内が無ければまともな生活を送れないのでは、と疑っているのだが、どうやら雪ノ下はヴォルフモン相手でも方向音痴を認めていないらしい。とんだパートナーを持って災難だな、ヴォルフモン。
しかしまぁ、最悪な場面を見られた事に動揺していつものすました態度が吹き飛び可愛らしい悲鳴をあげる雪ノ下、と言う珍しい光景を見れたのは得した気分だ。別にマウントを取る気はないが、コイツは普段から弱みを見せようとしないからな。
「ブイモン、忘れなさい」
そう言って雪ノ下はディースキャナーからデジ肉をリアライズさせてブイモンに渡すと、ブイモンはヨダレを垂らして激しく頷いていた。ここまで他人に飼い慣らされたデジモンも珍しいだろうな。
「さあ行くわよ比企谷君。余り貴方と二人きりの時間を過ごすと身の危険を感じるのだから」
「おい、ブイモンにはデジ肉の賄賂送っておいて俺には罵倒っておかしくね?」
「貴方にはご褒美でしょう?」
「ちげーよ。この間からやけに勝手に人の性癖決めつけてくるけどな、改めて言うぞ。俺はノーマルだ。葉山とジョグレスだの、罵倒に興奮するだの、そんなアブノーマルな性癖は持ってないからな」
とりあえずは由比ヶ浜の誕生日プレゼントを探して小物店を目指して歩きつつ、やけに罵倒してくる雪ノ下と口でやり合い続ける。ここまで来ると、もうこれが俺たちのコミュニケーションな気がしてくる。そう考えると、たしかに俺達は世間一般からはかけ離れた性癖を持っていると言われても否定しきれないな。その場合は雪ノ下も道連れだが。
「相変わらず仲良いよなー」
「何処が?」
デジ肉の油で口元を汚すブイモンに、その辺で配っていたティッシュを投げ渡す。雪ノ下はそのブイモンの言葉には反応すら示さずにたどり着いた女物の小物店に迷いなく入って行った。
「うん、俺が入ったら不審者扱いの店だな。ブイモン、行け」
「ええー。俺は八幡のパシリじゃねーぞ。俺を動かしたきゃさっきのデジ肉もっと寄越せ」
「ただ飯食って人のベッドで寝るだけの穀潰しが良く言うな…………」
「へへん。羨ましいからって妬むなよ」
「何をしているのかしら?早く一緒に来なさい」
ブイモンと口論をしていたら、雪ノ下が若干の苛立ちを見せつつ店から出て来た。お前のせいだぞ、ブイモン。ブイモンも同じ目つきで睨んで来たが。
結局、店員に明らかに不審者を見る目で見られながら、小物店で雪ノ下と一緒にプレゼントを探す羽目になった挙句、雪ノ下も俺も納得のいく物は見つけられなかった。別に適当に決めても良いかもしれないが、それは何となくしてはいけない気がした。
「と言うかお互いのコンセプトは最初に決めとくべきだったんじゃね?俺と被るのやだって幾つか辞めにしてたらキリがないだろ」
「…………そうね。同じ様なものを二つも渡されれば困るでしょうし」
結局、昼を過ぎても決められず、仕方なくフードコートで席と昼飯を確保する羽目になった俺達は、これまで決まらなかった原因を考察していた。
ブイモンと並んでラーメンを啜る俺達の前で、優雅にパスタをフォークで巻く雪ノ下。たったそれだけの光景なのに、育ちとか気品とか色々な差を感じさせる辺り流石はお嬢様と言った感じだ。
子供の頃から知っている間柄だし、雪ノ下がお嬢様である事は紛れも無い事実だが、その割には罵倒のバリエーションが豊富なのは、やはり雪ノ下の家庭環境が原因なのだろうか。
「あれ?雪乃ちゃんじゃない?」
「うわ、出た」
「比企谷君も。出たなんてひどーい」
その時、俺達は背筋が凍りつく様な声を聞いてしまった。雪ノ下も心底うんざりした顔で声の方を振り向くと、顔つきは雪ノ下にそっくりだが、背丈や体付きは完全に雪ノ下の上位互換の女子大生、雪ノ下陽乃が貼り付けた様な人懐っこい笑顔を見せてこっちに近づいて来ていた。
「姉さん、居たの?」
「居たの、なんて酷いよ雪乃ちゃん。中々呼んでも実家に帰って来ない妹にせっかく会えたのに」
「あそこに理由もなく帰るはずが無いでしょう?」
雪ノ下姉妹の刺々しい会話を聞き流しつつ、ブイモン共々逃げる算段を立てる俺。それに気づいた雪ノ下が非難の目つきで睨んでくるが、仕方ないだろう。お前の姉ちゃん怖いんだよ。
「それに、比企谷君とヨリを戻したって事も教えてくれても良かったのに」
「姉さん…………悍ましい事言わないでくれるかしら。不愉快だわ」
「もー。照れ隠ししちゃって。比企谷君もそう言う所が可愛いって分かってくれてるよね?」
「こっち来た…………」
すると逃げようとしていた事に気づいた陽乃さんが人混みをすり抜けてガッチリと俺の腕を掴んで抱き締めて来た。やべえ、相変わらずめちゃくちゃ柔らかい。目測だけでも雪ノ下とは比べ物にならない事は分かっていたが、まるで極上の枕に包まれた様な…………ってやばい、雪ノ下の目が殺気篭り過ぎて充血してる。また爆発する前に脱出しないと。
「えー、離してもらえます?当たってるんで」
「あ、ごめーん。じゃ、ブイモンを抱きしめちゃお」
「うわっ!?」
スッと離れて今度はブイモンを抱きしめる陽乃さん。一瞬にしてブイモンの顔が緩み、雪ノ下の怒りのボルテージがまた上がるのを背中で感じた。辞めろ、俺にぶつけるんじゃねえ。ぶつける先はブイモンか陽乃さんだろ。相手を間違えるなお願いだから怖いから辞めて。
「うーん。相変わらずの抱き心地。ねえ、やっぱり私のパートナーにならない?」
「え?いやぁ。一応、八幡のパートナーだし…………」
「なら比企谷君諸共私が面倒見てあげるからさ」
「え?」
「比企谷君?」
陽乃さんの言葉に思わず反応してしまうと、なんか背中に当たる殺気の対象がブイモンから正式に俺に変わった気配がした。ヤバい、このままだと殺される。ブイモンも殺気に気付いて顔を青ざめさせてるし。
「あー、雪ノ下さん?いい加減ブイモン返してもらえます?」
「お、どっちの雪ノ下さん?ここには二人いるよ?」
「ぐっ…………は、陽乃さんの方です」
「ん。宜しい。でも、やっぱりパートナー欲しいし、どうしようかな?」
「他人のパートナーを無理やり横取りしても選ばれし子供にはなれないわよ、姉さん」
雪ノ下の言葉に一瞬、陽乃さんの人懐っこい笑顔の仮面にヒビが入る。嫉妬やら、嫌悪やら、他人に対する悪意に近い感情が溢れそうになり、それを一瞬で押し留めて元の笑顔の仮面を被り直した。その原因を俺達は知っている。
陽乃さんにはパートナーデジモンが居ないからだ。
俺たちが陽乃さんと出会ったのはデジタルワールドの冒険が終わった後で、世間ではデジモンの存在が一般にも認知される様になった頃だった。東京のお台場辺りを悪のデジモンが侵略し、それを東京のテイマー達が撃退する、と言う事件が起きて、それまではごく一部しか知られていなかったデジモンの存在が明るみに出た頃だった。
あの頃、パートナーデジモンを持つ子供は何処へ行っても一目置かれ、テイマーは子供達の憧れそのものだった。勿論その流れに乗れなかった俺みたいな奴も居るが、当時中学生だった陽乃さんにしてみれば、内心羨ましくて仕方がなかった事だろう。子供達の憧れであるテイマーに、だけで無く、デジモンと出会い成長していく雪ノ下の事が。
雪ノ下の実家は県議会議員の父を中心に、雪ノ下建設なる会社のトップを務めている超エリート一家だ。雪ノ下も、陽乃さんもそこで雪ノ下家の跡継ぎを務める為に子供の頃から厳しい英才教育を受けて来て、陽乃さんはそこでずっと同じ年頃の雪ノ下よりも結果を残して来たらしい。そして、そんな姉を、雪ノ下は憧れて来ていた。
だが、デジタルワールドでの冒険の果てに、雪ノ下は実家に頼らない、もっと言うなら縛られない生き方もあると学んだ。勿論、その頃はあくまで必要以上に頼らない道もある、程度で納得していたのだが、雪ノ下家、特に雪ノ下の母親はそんな考えをする事自体が許せなかったらしい。
雪ノ下家の人間としての自覚が薄れた、デジモンなんかと一緒に居るからだ。デジヴァイスを捨てて、悪い友達と付き合うのを辞めろ。子供の頃の俺達と一緒に居た頃も、何度もそう言われていたらしい。売り言葉に買い言葉、と言う訳ではないと思うが、そんな実家に雪ノ下は失望し、中学生の頃には自分の養育費と学費の帳簿を付け、就職後には返すと宣言した。そして今ではマンションに一人暮らしまでしていて、完全に自立した生活を送っている。
しかしその結果、バタフライ効果と言うべきか、雪ノ下が実家から独立したせいで陽乃さんへの締め付けはどんどん厳しくなって行ったらしい。実家からはもう逃げられない立場になり、おまけにどれだけ待ってもパートナーデジモンは現れない。陽乃さんが雪ノ下に複雑な想いを抱くのは、正直言って分かる。
「口ではそういう癖に、本心では欲しいなんて思っていないんでしょう?あんな家で今も暮らせてる訳だし」
「そんな事無いよ。お母さんだっていつかはパートナーデジモンが出来るわ。そうなれば考えだって変わるわよ。隼人君の家だってそうだったじゃない」
「彼の実家は最初からデジモンを認めてたじゃない」
葉山の実家は、雪ノ下家と関わりの深い弁護士の家系だ。しかし、雪ノ下家と違い、これから先デジモンと共存していかないといけない時代が来るといち早く気付き、むしろパートナーデジモンの管理法案を積極的に提言した、ある意味では先見の明のある人たちだ。むしろ雪ノ下の実家離れを理由に意固地になる雪ノ下家の方が、これから先の時代を生き抜いていけるのか心配になるが、その辺はどうでも良いか。
「あーあ。本当、可愛く無くなっちゃったなぁ」
心底残念そうに呟く陽乃さん。しかし口ではそうは言っても、雪ノ下の事が気になって仕方がない人なのは良く分かっている。何故なら、この人からは俺と同じ、シスコンの気配をビンビンに感じるからだ。じゃなきゃ、こんな所で雪ノ下を見かけても話しかけてなんか来ないだろう。雪ノ下には良い迷惑だが。
アイスティーをストローで飲みながら、視線でいい加減帰れ、と陽乃さんに促す雪ノ下。ブイモンもテーブルの上に置き、陽乃さんは元の笑顔の仮面を完全に被り直して俺の肩に手を置いた。
「ごめんね、比企谷君。デートの邪魔しちゃって」
「デートじゃないです」
「あり得ないわ」
「えー?この状況でデートじゃ無いのは有り得ないんじゃないかな?それとも、比企谷君には本命の子が居るとか?で、その子へのプレゼント買いに来たとか!」
「それこそあり得ないわね。私は葉山君の好みなんて分からないもの」
「え?」
「ちげーよ!!隙あればガセ情報撒き散らすの辞めろぉ!!マジで困ってるんだよ俺は!!」
なんかさっきとは違う意味で陽乃さんの笑顔の仮面が剥がれかけてしまった。
「隼人、八幡、はやはち…………?」
「冗談よ。本当は奉仕部の三人目のメンバーの誕生日プレゼントを買いに来たの。私と比企谷君ではお互い世間一般の女子の趣味や傾向は分からないから」
「あ、そ、そっ、かぁ。うん。お姉さん一緒本気で焦ったよー。まさか、ねえ?昔は比企谷君が口では険悪ムード出してたけど、めちゃくちゃ仲良しだったし、あり得なくは無いかなーって」
「有り得ないです。マジで」
「俺のパートナーの不名誉がどんどん拡散されて行く…………」
ブイモンがげんなりとした顔で少し冷めたスープを飲み干す中、俺のD-3と雪ノ下のディースキャナーに反応が入った。
「デジタルゲートが開く…………?」
「また?最近やけに多いわね。行くわよ、比企谷君」
食べ終えた皿を片付けて、デジヴァイスの反応に従いららぽの中央広場に向かう。途中で警報が鳴り、少なくない買い物客が逃げ出そうとごった返す。
「うわー。凄いね、雪乃ちゃんに比企谷君。慣れてる」
「陽乃さん、逃げないんすか?」
「もしかしたら、私のパートナーになる子かもしれないじゃない?」
「そうなら少しは姉さんも大人しくなるわね。来るわ」
周囲の電力や電波が激しく歪み、デジタルゲートが開く。予想していたよりもデータ総量が多い。
果たして、姿を見せたデジモンは、なんと骨だけの巨大な恐竜型デジモン、スカルグレイモンだった。
「スカルグレイモン!?マジかよ!?」
「姉さん、パートナーになれるかどうか確かめてくる?」
「い、いやぁ、無理じゃないかなぁ?」
「どう考えても無理だろ!?破壊本能しか無い怪物だぞ!!背中のミサイル撃たれる前にデジタルワールドに押し返さないと!!」
「だな。出し惜しみ無しで行くぞ。雪ノ下、そこの試着室使えよ」
「そうね」
陽乃さんは少し残念そうな顔をして後ろに下がり、雪ノ下が試着室に入ってカーテンを閉める。まずは俺だな。
「デジメンタル、アップ」
「ブイモン、アーマー進化!奇跡の輝き、マグナモン!!」
増援が来る可能性もあるが、ことスカルグレイモン相手では時間稼ぎなんてしてる場合じゃない。速攻で決めないと大惨事になってしまう。なら、俺個人の都合や事情は後回しだ。
そして、試着室の中の雪ノ下も。
「ハイパースピリットエボリューション!!」
ディースキャナーの輝きの中、光の中で雪ノ下の身体はデジタルデータに変換されて行く。本来ならそのままロードしたスピリットの力でヴォルフモンの系譜の姿に変わるが、ハイパースピリットエボリューションはさらにそこから別のハイブリッド体のスピリットも使い、究極体クラスの新たな姿に進化させる。
光と共に雪ノ下の身体はデジタルゲートを通り、光、雷、闇、水、鋼の、ヒューマンとビーストのスピリットが一斉にロードされていく。やがて雪ノ下の身体は背中に戦闘機の翼を背負い、大量の銃火器で装備したガルルモン系譜における最強格の姿に進化した。
「マグナガルルモン!!」
実際には違うが、究極体クラスのデジモンが二体。倒すだけなら簡単だが、スカルグレイモンは下手に暴れさせれば馬鹿みたいな火力で周囲を更地に変えてしまう。
「早く対処しましょう。比企谷君、ゲートを開く準備を!」
「もうやってるよ」
生半可なゲートではスカルグレイモンを転送できない。なのでららぽの中央広場の大画面モニターにD-3を向け、デジタルゲートが完全に開くまでのタイムを調べる。
「一分かかる!!抵抗もさせるなよ、マグナモン!!」
「がってん承知!!」
スカルグレイモンの巨大な骨の腕が振り下ろされるが、それを真正面から受け止めたマグナモンが反撃のキックでスカルグレイモンをよろめかせると、背中の戦闘機のブースターを吹かせたマグナガルルモンが左手のマシンガンを至近距離からぶち込む。
「眠りなさい!」
立地的にマグナガルルモンはそこまで派手な技は使えないが、それでも超音速で迫り、マシンガンを連射されればスカルグレイモンも堪らず悲鳴を上げて後ずさる。
「残り三十秒!!」
「短縮出来ないかしら!?」
「無理やりねじ込めば二十秒!!その代わりまたこじ開けて来るかもしれないぞ!!」
「なら、デジタルワールドに戻れる所まで吹っ飛ばそうぜ!マグナガルルモン!!」
「了解したわ、行くわよ、マグナモン!!」
後ずさったスカルグレイモンを、マグナガルルモンが右手の大型ライフルで撃ち抜き、膝をついた所をマグナモンのプラズマシュートが追撃する。大ダメージを負って俯くスカルグレイモンだが、最後の足掻きのつもりか背中のミサイルの起動準備に入ってしまう。
「比企谷君!」
「わかってる!開くぞ!!」
予定していたよりも早く開いたデジタルゲートはスカルグレイモンをデジタルワールドに転移させるには容量が少ない。このままスカルグレイモンを無理やりねじ込んでも、途中でクラッシュして全く別の場所に、必殺技のグラウンド・ゼロを放つ気満々のスカルグレイモンが現れる事になる。賭けになるが、ここはもう対火力で吹っ飛ばして転移中にデジタマまで退化させるしかない。
「エクストリーム・ジハード!!」
マグナモンの必殺技が放たれ、スカルグレイモンの身体が浮かぶ。そして、それとほぼ同時にマグナガルルモンもまた、全身の全火力をロックオンしたスカルグレイモン目掛けて発射した。
「マシンガンデストロイ!!」
最大火力で吹き飛ばされ、無理やりデジタルゲートに叩き込まれたスカルグレイモンが悲鳴を上げながら全身のデータを初期化させていく。無事にデジタマに戻る事が出来ても、このままでは始まりの町に戻れず消滅しかねない。
「私が行くわ!」
「雪ノ下!?」
マグナガルルモンは光速に匹敵するほどの速度でデジタルゲートに飛び込むと、まだスカルグレイモンの身体が残って居るうちにもう一発叩き込み、スカルグレイモンを一気にデジタルワールドのすぐ近くまで吹き飛ばした。そして、ゲートが閉じる一瞬よりも先に現実世界に帰還し、雪ノ下の姿に戻った。
「ギリギリのタイミングだったな。スサノオモンで来るかと思ったが、マグナガルルモンで正解だった訳か」
「あら、私の判断はいつだって間違っていなかったでしょう?それにしても、本当にデジモン案件が増えたわね。それに、スカルグレイモンなんて危険なデジモンがこうも簡単に人口密集地に現れるなんて…………デジタルワールドで何か起きているのかもしれないわ。今度、調べに…………」
「その辺は、大人が調べることよ」
また使命感に燃え始めようとしていた雪ノ下の言葉に答えたのは、意外にも陽乃さんだった。
「雪乃ちゃんも分かってるとは思うけど、デジモンの危険性は大人の方が理解しているわ。例えパートナーが居なくても、デジモンと関わる仕事をしている大人は沢山居るのよ。ただの学生がそんな事まで考える理由は無いわ」
「それは、そうかもしれないけど…………」
「ま、正論だよな。俺達はまだ高校生だ。これから先の事考えたら、デジタルワールドの異変まで背負う余裕なんかある訳無いよな」
「雪乃ちゃんや、比企谷君がいつかデジモンと関わる仕事をするのは自由。だけどその為にも、今は勉学に集中するべきよ。これは実家とか関係なしに、お姉ちゃんからのアドバイス」
デジモンと共存して行く世界で生きていく以上、これから先も度々こう言った異変は起きる。だからこそ、Dセイバーズなる組織も作られる訳だ。これまでは子供しかデジモン案件を解決できなかったが、これから先の時代は、大人がデジモン案件の対処をする時代になる、と言うかもうなりつつある。俺たちの世代がデジモン関連の一大事に対処するのは、俺たちが本当の意味で大人になってからだ。
「ま、俺は専業主夫志望だから関係ないけどな」」
「…………」
「君はそう言う所は変わらないねー」
「なんか、俺のパートナーがゴメンな」
だから、何でお前が謝るんだよ、ブイモン。
「むー…………」
スカルグレイモン騒動のあった翌日。奉仕部の部室で、由比ヶ浜が一人頬を膨らませていた。雪ノ下と俺はそんな由比ヶ浜の様子に戸惑いつつも、誕生日プレゼントを渡すタイミングを図っていたが、何せいかんせん俺と雪ノ下はぼっち同士。全然タイミングが分からん。
と言うかそもそも由比ヶ浜は何に膨れているのか。何一つ分からん。あ、あれか。もう誕生日を祝ってくれなさそうな気がしているのかもしれん。
「あ、あの、由比ヶ浜さん?」
「…………昨日、二人でららぽ行ってたでしょ?」
「あ?まぁ、行ったな。それがどうかしたか?」
「どうかしたか、じゃないよ!!二人して!!で、デートしてたんでしょ!?二人っきりでららぽなんて!!私、二人が一緒に買い物してるとこ見たんだから!!」
「あ、あー…………」
ガーッと怒りを表に出す由比ヶ浜。除け者にされた、と感じたのだろうか。その割には涙目でこっちを睨んでくるあたりにただ除け者にされただけの怒りでは無さそうだ。
「…………由比ヶ浜さん。勘違いをしているようだけど」
「勘違いって何!?」
「私達は昨日、これを買いに行って来たのよ。貴女の、誕生日プレゼント」
「へ?」
雪ノ下の言葉に、一瞬毒気を抜かれた由比ヶ浜が間抜けな声を出した。雪ノ下は店で包んで貰った誕生日プレゼントを恐る恐る、と言った様子で差し出すと、由比ヶ浜がノータイムで雪ノ下に抱き着いていた。
「ゆき、のん…………ゆきのーん!!!」
「わ、ちょ、由比ヶ浜さん…………!?」
「勘違いしてゴメンねー!!」
全身全霊で雪ノ下に抱き着く由比ヶ浜。雪ノ下もそんな由比ヶ浜を振り払おうともせず、かすかに頬を染めて視線を逸らす。なんと言うか、百合の花が咲き誇っているな。畜生、俺には葉山と言うストーカーしか居ないと言うのに。
しかし、いきなりあそこまで距離を詰められてはボッチには辛い。やがて顔を真っ赤にした雪ノ下が由比ヶ浜が離れたタイミングですぐに立ち上がり、冷たい飲み物を買って来るわ、と言い残して逃げ出した。気持ちは分かるぞ雪ノ下。
そして残された由比ヶ浜が、こっちを期待に満ちた目で見てきた。そんな期待されてもなぁ。
「まぁ、俺からも、な。一応、世話になってるし」
「あ、ありがとうヒッキー!ここで開けてもいい?」
「ああ、いいぞ」
小さな箱に入った誕生日プレゼントを渡すと、由比ヶ浜はそれを大事そうに受け取った。単に同じ部活をしているだけの相手に大袈裟な、と思うが、こっちも慣れてないからかやけに心臓がバクバク言う。思わず視線を床に向けてしまった。
「わぁ、これ…………!!」
ガサガサ、そして、かちゃかちゃ、と音がして、由比ヶ浜の心の底から嬉しそうな声が聞こえてきた。そんな喜んでくれたのなら、確かにあんな風に雪ノ下に罵倒されながら一緒に買いに行ったら甲斐があったと言えるだろう。
「ねぇ、ヒッキー。どう?似合うかな…………?」
そして、由比ヶ浜に言われて視線を上げると、由比ヶ浜が俺の誕生日プレゼントを首に巻いていた。ピンク色の、可愛らしい、犬用の首輪を。
「ゆ、由比ヶ浜…………それ、犬用の首輪だぞ」
「え?」
由比ヶ浜がその言葉の意味を理解し、顔を真っ赤にして叫ぶ声は、遠くの自販機で頭を冷やしていた雪ノ下にも届く程だった。
陽乃さんムーブをオリジナルで出すの結構難しいです。
次回からは夏休み編を予定。