ゲートと加賀さん   作:奥の手

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ゲート×艦これってないんですよねぇ
一発ネタですが見ていってください。


加賀と銀座

 

一ヶ月ほど前から、ここ鎮守府ではある遊びが流行っていた。

その名も「艦載機サイズ変換」である。

通常、史実とは異なる大きさ、(多くはミニチュアサイズ)で発現する艦載機たちを、どうにかこうにか工夫することで史実と同じ大きさまで引き伸ばせることがわかったのである。空母艦娘をはじめ艦載機を載せられる全ての艦娘たちに可能であり、なんなら発現させた零戦に乗って移動することもできるようになったと言う。

ただしあくまで遊びであり、また艦載機に乗っている方が被弾率が増えるというどうしようもない理由から実戦投入される技術ではない。

非番の日に鎮守府上空をちょっとふらっとフライトするだけ、そういう遊びとして定着しつつあった。

 

正規空母、加賀も実機サイズ変換で遊んでいるうちの一人である。

すました顔で矢をつがえ、ひょうと放った瞬間に「大きくなれ」と念じる。そうすると艦娘としての何か霊力的なものを消費しながらも、放った数機の艦載機が実機サイズとなる。いくつかの練習は必要だったが、加賀はこの遊びが流行る最初期にサイズ変換を習得していた。

 

通常零戦には妖精さんが搭乗している。これに乗るためには一旦実機サイズにした後、妖精さんを格納し、機体だけ残すという細かい操作が必要だった。艦載機を実機サイズにできることが判明してから二週間ほどで、妖精さんだけを格納する方法を見つけ出した艦娘がおり、それからというもの、連日鎮守府上空を一分の一スケールの零戦がゆうゆうと飛んでいるのである。

 

今日は晴天。晴れ空がどこまでも広がる気持ちの良い昼下がり。

艤装を借りて「フライト許可」を取り付けた加賀は、鎮守府裏手の開けた場所で矢を放った。

ほどなくして矢はミニチュアサイズの零式艦上戦闘機となり、そして瞬く間に光ったかと思うとサイズが急変。史実通り、人の乗れる零戦となった。

腹の底に響くエンジン音をたなびかせながら上空を旋回し、加賀の立つ広場へと降り立つ。エンジンはアイドリングしたまま、コックピットの妖精がガラスのハッチを開け手を振ってくる。加賀はそのまま胸に手を当て、妖精のみを格納庫へ収容する。

妖精の姿が僅かに光ったかと思うと、次の瞬間には元気よくアイドリングする零戦だけが取り残された。

手際良い。加賀は慣れた手つきで一連の準備を済ませると、どこか楽しそうな笑みを口の端に、ほんの僅かに浮かべながらコックピットへと乗り込んだ。

 

スロットルをあけてプロペラの回る速度を上げる。風がほおを叩いてきて、ハッチを閉めていないことに気がつく。落ち着いた動作でパタリと閉じ、スロットルを離陸できる回転数まであける。ゆっくりと進み出した零戦の左右舵を調節し、速度を上げる。

何の問題もなく加賀の乗る零戦は大地から離れて空へと飛び立った。

 

操縦の仕方は妖精が教えてくれた。熟練の装備妖精のようなアクロバティックな操縦をするわけではないし、まして戦闘をするわけでもない。

ゆったりと鎮守府上空を流すだけのフライトにそこまでの技術は必要なかった。だからこそ艦載機を扱える艦娘、とりわけ空母の間でこの遊びが流行っていると言える。

 

今日も快晴。空は高く、雲は少なく、鎮守府上空は平和なり。

加賀の口元は、さっきよりも綻んでいた。

 

 

ところ変わってここは洋上。

空は雲が厚くもたれかかり、昼間だと言うのにどこか薄暗ささえある。何かがいそうな海域で、実際報告では深海棲艦が出現したという海域だった。

この海域は艦娘が使う燃料の輸送に使っている。一般船団にもしものことがあってはならないので、加賀を含む六隻の艦娘が掃討作戦に出撃していた。

 

加賀はあたりを見回しつつ、つい先ほど放った偵察隊からの入電に耳をそばだてていた。先にこちらが敵艦を発見できれば、それだけアドバンテージを稼ぐことができる。対空警戒をしつつも、発見の報告を今か今かと待っていた。

 

「入電!」

 

叫んだのは同じ艦隊にいる正規空母赤城だった。どうやら先に赤城の艦載機が敵を見つけたらしい。

 

「敵艦見ゆ! 各員戦闘準備!」

 

加賀も矢を番る。敵を発見して最初にやることはただ一つ。制空権争いになる。

艦砲が往来する距離になる前に艦載機同士での殴り合いが勃発。ここで空を取れるか失うかでその後の動きも大きく変わる。

 

「鎧袖一触よ。心配いらないわ」

 

第一次攻撃隊、全機発艦。次々と矢を番ては放ち、番ては放つ。隣の赤城も同じように放っていた。

 

果たして一次接触となった海域上空。艦娘側の損失は軽微なり。航空優勢を勝ち取る。

同じ艦隊の戦艦が主砲を向ける。一斉射。轟音と共に波が立ち、周囲の空気が頼もしく震える。

 

戦艦の砲撃と同時に向こうの敵からも砲撃が飛んできた。数は散発的。

最前線でもない海域の、はぐれ深海棲艦である。敵の練度はそれほど高くない————はずだった。

 

「ッ! 夾叉!」

 

落ちてきた砲弾が加賀と赤城の前後に落ちる。海戦でこの砲撃を喰らった時、次弾は当たるぞという警告である。

深海棲艦の方を見る。戦艦クラスが貼り付けたような気味悪い笑顔を浮かべているのが見えた気がした。この距離だから表情までは見えないはずだが、「次は当てるぞ」と耳元で囁かれたような気分になる。

 

即時回避運動。之字になるように舵を切り、主機の出力を上げて速力を出す。舵を出鱈目に左右へ振って砲撃を回避するよう働きかける。

当たれば痛いではすまない。戦艦クラスの砲撃がバイタルを抜いてきたらそれこそ一発大破である。

この海域の掃討を提督から任されている。おちおち弾を食らいましたで帰っていられないし、そんなことがあっては一航戦の名に恥じる。

当たらないでくれと願う反面、当たった時にどうするかなどと余計なことまで考えてしまった。

 

だからだろうか。

 

加賀は一瞬、判断が遅れた。ほんの一瞬、考えごとをした。それがまずかった。

加賀の前の空間が歪む。何もなかった場所に、まるでたった今出現したかのように“空間の歪み”が現れた。

 

「な————ッ!」

 

大慌てで操舵するも間に合わない。そのまま滑り込むようにして加賀は歪んだ空間へと吸い込まれていった。

隣で回避運動をしていた赤城の声が遠くに聞こえた。空間の歪みはほんの一瞬だけ形を成し————まるでそれは石造の門のようだったが。

一瞬後には元あった海の、何もない、ただの海面が広がるだけであった。

 

 

 

 

暗闇を抜けた先には、街があった。

つんのめるようにして加賀はたたらをふみ、危うくコケる一歩手前で何とか持ち堪えた。

先ほどまで海の上を滑っていたはずなのに、気がつけば陸、それも大都会のど真ん中である。

 

「な……なんでしょうか。ここは……?」

 

見覚えがないわけではない街。ちょうど、東京とか大阪とかの大都会がこんな風だったと記憶している。

艦娘になって、鎮守府に配属されてからしばらく経つ。街の様子なぞそうそう見に行けるものではない身からすれば、ここがどこなのか、何と言う都市なのかまではわからなかった。かろうじて日本だろうという具合だ。

 

背後を振り返る。つい先ほど自分が通ってきた謎の空間がまだあると思ったが、そこにあるのは、

 

「……? なん、ですか?」

 

巨大な石造の門だった。明らかに車の通る道のど真ん中に建っている。

否、建っていると言うよりは現れたとでも言った方が正しいような佇まいだった。

 

何が起きているのかわからない。

状況の把握をし、一刻も早く先ほどの海域に戻らなけれなならない。

加賀は手元の通信機に手をかけ、

 

「こちら加賀、現在地不明。状況を知らせよ」

 

呼びかけるも聞こえてくるのはザーザーというノイズのみ。もう一度試すも結果はおなじ。

 

「何が起きてるの……?」

 

海は? 海域は? 深海棲艦は? 仲間は? どこに?

そしてここはどこ? この門はなに?

 

私はここから来たのだろうか。だとすればここをくぐれば元の場所へ戻れるのだろうか。

 

混乱する頭でとにかく来た道を戻れば良いと判断し、門へ向けて一歩踏み出した。その時。

 

頭上を一体の竜が通った。見間違いかと思い足を止め、振り返り、もう一度目を凝らす。

竜だ。人が乗っている。まるでゲームか何かに出てくるような鎧を着た人間が、まるでゲームか何かに出てくるような竜にのって、街を飛んでいる。

 

「ッ!」

 

あわてて門の方へ振り返る。門の前には、先ほどまでいなかった鎧集団がゾロゾロと現れていた。加賀の立つ位置からほんの三十メートルも離れていない。続々と、槍、剣、棍棒、ハンマー、弓をもった連中が姿を現す。

 

加賀は後ずさった。門を潜らなければならないが今、物理的に門の前には近づけない。背後で「何あれ? 撮影?」と言いながらスマホを取り出す人々がいる。

 

加賀は直感的に悟った。門の前に今なお増え続けている鎧集団。その目を見て、加賀は、これはまずいと肌で感じた。

目が、深海棲艦と同じなのだ。敵を前に、それを殺さんとする目だ。連中は何を見ている?

街だ。街の人を見ている。殺意のこもった目で、そして。

 

鎧集団の先頭、馬に乗った甲冑姿の人間が、何事か叫んだ。

その叫び声に応答するように後ろに続く人間、いや人間でないものもいる。武装した集団が雄叫びをあげる。

 

加賀は反射的に弓を番えた。残っているのは戦闘機が数機と艦爆のみ。番えたのは戦闘機だった。

 

鎧集団が走り出すのと、それに向けて加賀が矢を放つのは同時だった。

 

 

地獄という言葉が現実になるとしたら、今まさに目の前で起きていることを言うのだろう。

海の上でさえ、ここまでひどい状況になることはなかった。

まさか。

陸の、それも大都会で、自分の艦載機を総動員して戦う日が来るとは思いもしなかった。

 

加賀は直感的に放った艦載機のサイズを変更。実機にして3機が超低空で飛び立った。

加賀めがけて走り出していた集団は、一瞬ひるみ、足を止めた。それが幸いだった。

一度高度を上げた零式艦戦は空中でトンボ返りし、鎧集団めがけて一気に距離を詰める。

 

「撃て!」

 

艦載機の妖精に命じる。超低空から地面スレスレを飛んだ零戦は、20mm機銃で鎧集団を撃ち抜いた。

それに怯んだ集団だったが、稼いだ時間はごく僅かだった。次々と現れては、周囲にいる民間人へ剣を振り下ろしている。

槍で突かれ絶命した男性が視界の端に映る。

剣で斬り伏せられ、地面に横たわる女性が目に飛び込んでくる。

 

守りきれない。数が多すぎる。

 

「一旦距離を——」

 

額に一筋の汗が流れた。冷や汗一滴。距離を取るといってもここは海の上じゃない。

加賀は鎧集団の侵攻方向へ向かって駆け出した。

街の人々が悲鳴を上げながら逃げている方向へ。少しでも距離が取れる方向へ。

幸いにも敵は民間人を虐殺しながら侵攻している。馬や竜で追い立てられていたらどうしようもなかったが、それだけは、不幸中の幸いだった。

 

上空を零戦が通る。ビルの合間を抜けながら加賀の次の指示を待っている。

今この場でできる最大限の攻撃は何か。自分一人で賄える航空戦力で、果たして何ができるのか。

全速力で走りながら加賀が出した結論は、

 

「目標、竜騎兵。制空権を確保してください」

 

妖精さんへ司令。地上の部隊は艦爆で対処する。爆発の被害は出てしまうが、このまま放っておくことはできない。

 

走りながら敵集団へ向けて矢を番る。最後の戦闘機。これを放ったら艦爆しか残っていない。

 

「おねがいします。みなさん、奴らを追い払って……ッ!」

 

何が起きているのかなんて、考える余裕はなかった。

海域にいたと思ったら突然謎の空間に入ってしまい。

飛び出したと思ったら大都会のど真ん中で。

自分が出てきたはずの門からは鎧集団がぞろぞろ出てきて。

あげくそいつらが民間人を虐殺し始める。

 

自分にできること。戦うこと。制空権をとって、鎧集団を爆撃すること。

これしかない。

 

振り返りながら放った矢は空中で三機の戦闘機となり、瞬く間に大きさを変えて実機となる。広い道路でよかった。十分に幅があるからこそ、実機サイズにして攻撃力を底上げできる。

 

街の上空を飛んでは地上の民間人に槍を刺そうとしていた竜騎兵へ零戦が接近。すれ違いざまに20mmを叩き込んで竜を撃墜している。

よかった。こちらの攻撃は鎧集団にも竜にも効いている。あとは艦爆を発艦させて、鎧集団を爆撃————。

 

視界の端に、子供が写った。少女だ。すぐそばに鎧の兵士もいる。兵士は剣を振り上げ、いままさに、うずくまる少女を切ろうとしていた。

 

「ッ!」

 

咄嗟に矢を番る。引き絞り、一瞬で放つ。矢は艦爆にはならずそのまま鎧兵士の首へと吸い込まれた。

できるかどうかわからなかった。一か八かのとっさの判断だったが、女神は加賀に微笑んだ。

子供の元へ駆け寄る。

 

「大丈夫? 怪我は」

「あ、ありません……大丈夫です、ありがとうございます」

 

今にも泣き出しそうだったが、少女は気丈にもお礼を言い、走り出そうとした。

 

「この先へ逃げて。なるべく遠くに。警察の指示に従って。早く、行って!」

 

少女は駆け出す。怯えて手が震えていた。足も震えていた。それでも、逃げ切ろうと駆け出した。

 

加賀は男の首に刺さった矢を引き抜き、弓に番えて上空へ放った。

瞬く間に三機の九九艦爆へとなり、空へ、垂直に上昇していった。

 

「目標、敵集団中腹。民間人がいないことを確認して、攻撃を開始してください」

 

程なくして激しい爆発音とともに、鎧集団が吹き飛んだ。

先頭を切っていた兵士たちの足が止まる。この隙にと加賀はさらに距離をとり、再び九九艦爆を発艦させた。

 

 

銀座の空に陸上自衛隊のヘリが到着した時、すでに十数機の竜騎兵が落とされており、制空権は確保されていた。

また銀座の街を占拠せんと集まっていた鎧集団は、爆撃により壊滅的なダメージを負っていた。

 

人々が皇居内へと避難し、陸上自衛隊による皇居前奪還作戦が終わる頃には。

銀座の空を飛んでいた零戦は、一機もいなくなっていた。まるで幻だったかのように。

人々を守るように飛んでいた零戦と艦爆は、無事加賀のもとへと帰還した。

 

「門の向こうへ行けば、帰れるかもしれない」

 

ひとりごちた加賀が閑散とした門を潜り、しかし辿り着いたその先は。

加賀の知らない、異世界だった。




半年ほど前にゲート×妖精さんを書きました。
今度は艦娘ごとゲートの世界へ。
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