ゲートと加賀さん   作:奥の手

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加賀と艦これ

各々の用事が終わった後、駒門と合流した一行は、来るときに乗っていたマイクロバスではなく地下鉄へと乗り込んだ。

なんでも情報が漏洩しているらしく、攻撃を受けることを想定しての予定変更だった。

しかし地下鉄に乗ってすぐにロゥリィが嫌がった。

なんでも地下はハーディの領域で、ロゥリィはそのハーディーをひどく嫌っている。耐えかねんと判断した伊丹が地下鉄を急に降りると言い出し、降りた瞬間に先ほどまで乗っていた地下鉄が事故で止められた。

二度も立て続けに攻撃的な工作を仕掛けられた一行は、次はもっと直接的なのがくるぞと警戒する。その矢先、ロゥリィのハルバードをひったくろうとした男が現れ、ハルバードの重さに潰された。

 

「何してんだかこいつは」

 

と言って駒門が持ち上げようとしてぎっくり腰になった。相当に痛めたらしく伊丹は救急車を呼んで搬送してもらうこととなった。

 

尾行に注意しながら向かった先は、伊丹の元嫁の家だった。

 

 

「で、私は巻き込まれたと」

「まぁそう言うなよ。ほら、異世界の人たちと間近で話せるのは魅力的だろ」

「そりゃあそうだけどさぁ…………あれ?」

 

伊丹の元嫁、梨紗は浮かない顔つきだったが、たった今ぞろぞろと入ってきた異世界人の顔を見て一瞬止まった。

そして震える声で指を指す。

 

「も、もしかして、艦これの加賀さん? 加賀さんなの!?」

「そうだよ。本物。偶然ゲートがつながったらしくて、ゲームの世界からお邪魔してるんだと。でも帰る方法がわからなくて困ってる」

「ひゃぁ〜!! すごい! 本物だなんて夢みたい!」

 

テュカの耳にも、ロゥリィのゴスロリにも、レレイの銀髪にも反応しなかった梨紗は加賀の存在には大層驚いた様子だった。

パソコンの前を整理しながら声を掛ける。

 

「加賀さん、まだ艦これプレイしてないんでしょ? アカウント貸してあげるからぜひやっていってよ!」

「ゲーム、ですか?」

「そう! 加賀さんのいた世界のゲーム! やってみたいでしょ?」

「はぁ、まぁ……」

 

加賀は生返事だった。自分のいた世界がゲームになっている。そのことをコダ村で聞かされた時はひどく頭が混乱したものだったが、いかな適応能力かな、今こうしてゲームをプレイできると言う段になっても、自分の内心は落ち着いていた。

それどころかちょっとワクワクすらしているかもしれない。

 

「すこし気分が高揚します」

「お、いいセリフいただきました。ほら! 座って!」

 

パソコンの前に座る。マウスを持って数度クリックすると、「艦隊これくしょん!」と言う声ともに吹雪たちが映し出された。

 

「本当にゲームになっているのね」

 

加賀は目を丸くしながらクリックして画面を進める。艦隊の編成画面では、第一艦隊に加賀が入っていた。

 

「私…………これは、改二ですか?」

「そうだよ。加賀さんには三つの改二が用意されてる。今の加賀さんはどの段階?」

「改修は一度だけしか」

「じゅあ改だね。ゲーム的にはまだまだ性能が伸びるから、今後に期待だね」

 

加賀は艦隊を編成して試しに海域に出撃させてみた。

 

「こうやって戦闘が進むんですね」

「実際の戦闘と比べてどう?」

「ひどく簡略化はされていますが、概ねこの流れで戦闘は進みます。よくできていますね」

「ふっふーん、でしょう」

 

なぜか梨紗が誇らしげに胸を張った。

加賀は一通り出撃、演習、遠征といじった後、少し休憩した。

 

梨紗は興奮冷めやらぬような目で加賀に話しかける。

 

「どう? 自分の世界がゲームになってる感想は」

「本当にゲームになっていることに驚いたのと——久しぶりに赤城さんの顔が見れて、ホッとしているところです」

「そっか、ずっと会えてないんだもんね」

「向こうの世界ではいつも一緒でした。今頃心配していると思います」

「早く帰ってあげないとだね」

「その通りです」

 

にこり、と加賀は微笑んだ。どこか寂しげな微笑みだった。

 

 

富田と伊丹で交代に休憩をとりつつ見張りをして、その日の晩は梨紗の部屋で休むこととなった。

狭い部屋に雑魚寝して毛布にくるまる。一種の避難所のような光景である。

そのまま一晩、何事もなく一行は過ごすことができた。襲撃も侵入者もいない。平和である。

 

朝を迎えると伊丹が口にした。

 

「今日は遊ぶぞ! 買い物! 観光! なんでもござれだ」

「なんでもござれって、隊長危なくないですか?」

 

栗林が怪訝そうな顔で聞く。大丈夫大丈夫と手を振りながら、伊丹は、

 

「どこにいても襲われるリスクがあるなら、人混みの多いところに出向いた方が敵さんも手出しできないって。せっかくの休暇だもの。遊ぶぞー」

 

まぁ隊長がそう言うならそうしますかというノリで、本日は買い物と観光ということに決まった。

レレイ、テュカ、ロゥリィ、加賀、栗林、梨紗は買い物へ。ピニャとボーゼスは富田とともに図書館へ。伊丹は単独でそこらへんをぷらぷらするということになった。

 

 

ファッションショーもかくやというほどレレイやテュカ、加賀を着せ替えて、大量の服を買い込んだ女子一行。

図書館へ行くもピニャとボーゼスの言う“芸術”は見つからずちょっと落ち込んでいる富田一行。

そして単独でどこをほっつき歩いていたのかは知らないが集合時間だけはきっちり守った伊丹。

全員が集まると、伊丹は当初の予定通り箱根の自衛隊関連宿泊施設へ行くことを告げた。交通手段は電車とバスを乗り継いで。

 

しばし電車とバスに揺られたのち、夕方ごろには箱根の旅館へと着いたのであった。

 

「まずは風呂だな。ここの露天風呂は気持ちがいいらしいと隊内でも評判だ。存分に楽しめ!」

 

伊丹の言葉に期待を膨らませながら加賀は服を脱ぎ、温泉の扉へと手をかけた。

 

なるほど確かに、そこに広がるのは広々とした浴場。岩造りの浴槽は外まで延びており、夜空の星々をその目で見ることができる。

 

「いいところですね」

 

思わず口元が綻んだ。

後に続いた異世界組も驚嘆の表情を浮かべている。

 

「池が丸ごとお湯になってるのか」

「こんな立派な浴場をしつらえるなんてぇ」

「こんな大きなお風呂初めてみた」

「わ、妾も帝国の風呂には入るがここまで巨大なものは見たことがない。すごいな……」

 

口々に感嘆の声をあげる。

とりあえず体を洗ってからという作法を栗林と梨紗に聞いた面々は体を洗い、いざ浴槽へと飛び込んだ。

肩まで浸かるもの。顔を流すもの。皆それぞれであったがとにかく極楽であった。

 

「ねぇ、恋バナしようよ! 恋バナ!」

 

栗林のそんな一言で始まった恋バナは、とにかく盛り上がった。

ピニャとボーゼスには宮廷での恋愛遊戯事情が聞かれ加賀の翻訳に一同舌を巻いたり。

梨紗と伊丹の結婚について、なぜ離婚したのかという話にしんみりしたり。

 

「加賀さんは恋愛とかするの?」

 

との声に加賀は驚きながらも自身の人生を思い返して、

 

「艦娘になる前は付き合っていた男もいたけど、艦娘になるときに別れました。それ以来恋愛はしていません」

「提督のこと好きになったりとかは?」

「あいにく、提督はただの上司です。好いている子もいますが私は特に」

 

という、なんとも味気ない会話に終わった。

その後も恋バナは続き、最終的にはなぜか栗林の結婚相手をどうにかして自衛隊内から探そうということでひと段落ついた。

 

 

風呂から上がった後は宴会である。

栗林と梨紗がそれはもう大量に酒とつまみを用意していた。酒は日本酒から焼酎、ワイン、ウイスキー、ブランデー、ビールとそこらにあるものは大体の種類が確保されていた。皆好みが違うだろうということでの建前であったが、実際のところ朝まで飲み明かすにはこのくらいの量がちょうどいいという理由だった。

 

完全に出来上がった栗林がレレイにビールを勧めている。まだ十五歳なので日本の法律的にはアウトなのだが栗林の頭にそんなことは浮かんでいない。しぶしぶ飲んだレレイは、苦そうな顔をしつつブランデーを手に取って、

 

「こっちの方が甘くて好み」

 

とストレートで飲み始めた。案外強いのかもしれない。

 

ピニャとボーゼスは初めて飲む日本酒の味に感動しつつも、同じく日本酒を好んで飲んでいる加賀に興味が湧いたようだった。

 

「加賀殿は普段お酒を嗜まれるのか?」

「祝い事以外ではあまり飲みませんね。晩酌をいただくのは久しぶりです」

「そうだったのか。いやその、どこか寂しそうな表情だったのでな」

「お酒を飲むときには、いつも決まって赤城さんがいました」

「アカギ? あぁ、同じ隊にいたという」

「はい。すこし、そうね……寂しい、のかもしれないわね」

「早く帰れると良いな。故郷に」

 

異世界から赴き、帰る方法がわからないと言うのはどのような心境だろうか。

きっと心細く、故郷のことも心配で、すぐにでも帰りたいだろうなとピニャは想像した。そして、加賀の盃へと日本酒を注いであげるのだった。

 

栗林とロゥリィが隣の部屋にいた伊丹と富田を引きずってきて、宴会は男女混合の大宴会となった。

 

「栗林、浴衣であぐらかくなって見えてんぞ……」

「あぁん!? たいちょーが見てんだろうがこのすけべ! へんたい!」

 

飲み過ぎだこりゃと頭をかきながら、参った様子でビールを煽る伊丹であった。

 

 

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