ゲートと加賀さん   作:奥の手

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加賀と亜神生活

亜神となった加賀の生活は、以前と比べてそう大差なかった。違いと言えば毎朝祈りを捧げるという活動くらいである。

エムロイのおかげで一命を取り留めたとも言える。感謝と鎮魂の祈りを毎朝、エムロイに捧げることになった。

 

祈りの捧げ方はロゥリィに教えてもらう。朝起きたら太陽の登っている方角へ片膝を立てて座り、両手の指を組み合わせて胸の前に添える。あとは今日一日の平穏と存命の感謝、そして供物にする魂の鎮魂を祈るのだそう。

 

エムロイからの神託はあるのかと加賀が聞くと、ロゥリィは「あるけどそう滅多にはない。神託がある時は大抵供物を捧げる時だから、そういう仕事は加賀ではなく私にくるわぁ」とのことだった。

 

そのほか、たとえばロゥリィのような、エムロイ神殿の神官服という、ゴスロリ衣装に身を包んだ方がいいのかという疑問をぶつけてみたが、これについては「正装がこの服なだけであって、別に無理して着る必要はない。着ていればエムロイの使徒だと一眼で認識してもらえるだけであって、別に正装をいつも身に付けておく必要はない」とのことだった。

あつらえるのも大変なので、加賀はいつも通り袴姿でいることにした。とはいえ祭典や式典では正装が必要になってくる。一着は持っておかないといけないだろう。

自衛隊に用意してもらうこととする。

 

加賀が目を覚まして翌日には、体のどこにも異常なしとのことで退院することとなった。再び自由に歩き回れる喜びを噛み締めながら、さて何からしなければいけないかなと加賀は考えた。

街は今、復興に向けて再建中である。倒壊し、燃え尽きた建物を除去して再び新しい建物を建てる。全て、自衛隊の力は借りずに異世界の住民たちでやると決めたらしい。時間はかかるだろうが、彼らにも自分たちの力で生きていくというプライドがある。アルヌス生活協同組合を含めて、街は復興に勤しんでいた。

 

そんな街の復興を手伝っても良いのだが、加賀は他にやることがあるなぁと考えた。

ヤオのことである。一族の存亡を自衛隊の助力にかけてここまで旅をしてきて、自衛隊に断られた可哀想なダークエルフ。今回炎龍がアルヌスを襲ったことによって、自衛隊がどう動くことになったのか、炎龍はどこまで逃げたのか、それを追撃する気はあるのかなどを調べたい。

 

なにより、加賀自身、あのでかいトカゲ野郎に一矢報いたいと思っていた。あと少しのところまで追い詰めたのだから、もう一発、あと一発だけでも艦爆の爆弾を鱗の剥がれた肉の部分に落とせれば討伐できたのにと、歯痒い気持ちでいっぱいである。

 

自衛隊がどのように動くことになったのか、伊丹に聞いてみようと思い立った。どこにいるだろうか。

 

駐屯地の中を適当に歩いて、それなりに顔の広そうな自衛官を探す。少し歩くとちょうどよく柳田がいたので、話しかける。

 

「伊丹さんを知りませんか?」

「あいつなら街の方にいるよ。用があるなら……あぁでも今は、どうかな。金髪エルフの嬢ちゃんとずっと一緒にいるって聞いてるけど」

「テュカと?」

 

なんでだろうか。わからないが、とにかく街の方へ行ってみよう。

 

 

街に降り立つとすぐに伊丹は見つかった。柳田の言っている通り、テュカも……テュカも、腕を組んで、まるで恋人のようにベタベタとくっついている。

何があったのか一瞬加賀は理解不能だった。想像するのも難しい。まさか伊丹とテュカが恋仲に? 自分が寝込んでいる間にそんなことになっていたのか?

 

「お父さん! 早く早く、今度はこっちを手伝いましょう!」

 

テュカが叫ぶ。お父さんと呼んだか? 今、お父さんと? 誰を——どう考えても伊丹のことをである。

まてまて。ちょっと年齢が釣り合わないだろう。いくらなんでも百歳を超えた娘を持つ三十代のパパはないだろう。

 

加賀は混乱する頭で伊丹の元へと駆け寄り、状況を聞こうとした。テュカは瓦礫の片付けのため、少し離れたところにいる。

 

「伊丹さん、どういうことですか? お父さんって……まさか、養子に?」

「いやいや、そういうわけじゃないんだけどな。まぁちょっと訳ありで……」

「詳しく聞いても?」

「あぁ、そうだな。加賀さんにも話しといた方がいいよな。また後で時間もらってもいいか?」

「えぇ、大丈夫ですよ」

「じゃあ二時間後に酒場の二階のカフェで。あそこが焼けてなくて助かったよ」

「カフェですね。了解です」

 

加賀は手を振りながらテュカの方を見る。どこか、乾いた笑みで「おとうさーん、こっち手伝ってよぉー」と声を張っていた。

 

 

約束通りの時間になって、伊丹はカフェに現れた。

少し早く到着していた加賀は席を立ち、伊丹に座るよう促す。お互い向き合って席についた。

 

「それで、どうしてお父さんなんて呼ばれていたんですか?」

「あぁ、それがな」

 

伊丹の話は、つまるところこうだった。

テュカはもともと炎龍に村を焼かれ、親族集落ともに一度になくしていた。だからパーソナリティー障害に陥っていて、父親がまるで生きているかのように振る舞う節があった。

伊丹たちも慎重に触れていこうとしていたが、先日の炎龍襲撃を受けて事態が急転した。

自衛隊の炎龍追撃が中止になったと知ったヤオが、テュカに真実をぶちまけた。テュカは精神が崩落して、伊丹を父親と幻視するようになった。

無碍に扱うわけにもいかず、今はこうして伊丹が父親として振る舞うことで凌いでいる、と。

 

「ヤオが……それに、やはり自衛隊は炎龍討伐まではいけませんでしたか」

「国境を超えて逃げられちゃったからね。手も足も出せないんだよ」

「テュカは、もう元には戻らないんですか?」

 

伊丹は深く息を吐いた後、困ったように笑いながら口を開いた。

 

「炎龍に、敵討ちできればあるいは、って医者は言っていた」

「テュカに炎龍を倒させるんですか。それは……」

「あぁ、無茶だ。無謀だ。できっこないが…………」

 

できないが、やるしか道はないと伊丹の目は語っていた。

テュカに敵討ちを取らせる。それしか打開策、テュカが元通り笑って過ごせる道はないと。

 

「もし」

「ん?」

「もし、単身炎龍討伐にいこうとしているのなら、私も連れていってください」

「それは……」

「私とて、お世話になったコダ村の人々をあいつに焼かれています。もう後一歩のところでした。次は——確実に殺します」

 

加賀のまっすぐな目に、これは本気だという思いが伝わったのか、伊丹はひとつ頷いた。

 

「とはいえ、まだ出ると決めたわけじゃない。厳しい戦いになるし、下手したら犠牲もでるかもしれない」

「そのための私です。私はもう、死にもしないし傷ついてもすぐに回復します」

「うー……ん。あぁ、そうだな。その通りだ」

 

口ではそういうが、伊丹は今なお迷っているようだった。

 

「もし行くとなったら、必ず呼んでください。お返事待っています」

 

加賀はそれだけを言い残して、席を立った。伊丹は視線を落とし、何かを必死に考えている面持ちでそのまま残っていた。

 

 

それから二日後。

加賀はいつでも炎龍討伐に行けるよう準備を進めていた。艦載機に燃料を補給し、艦爆の爆装の残り数を確認する。

十八発。十八機残っている。これを外したら、もうこの世界での爆撃はできなくなる。慎重に、見極めて使っていかなければならない。

 

零戦の方はまだ機銃弾が残っている。極端に減っている機体へ、まだ残っている機体から取り分けて装填する。戦闘中に残弾ゼロになることだけは避けたい。

 

風の噂だが、昨日伊丹は任務を放棄したと聞く。ロゥリィから教えてもらった。

帝都へ向けて飛び立つ予定だった伊丹は、ヘリを飛び降りて基地に残り、何やら別の遠征準備を整えているらしいと。

 

「加賀ぁ〜、そろそろいくわよぉ?」

「ええ、今出るわ」

 

そして、どうも加賀やロゥリィに黙って炎龍討伐に出発しようとしているらしい、とのことだった。

一昨日、あれほど「炎龍討伐にいくなら連れて行け」と言ったのに誘わないとは。とんだ意気地なしなのかそれとも気遣い屋なのか。

 

駐屯地の方へロゥリィと歩く。

2キロの行程をあっという間にたどり着くと、伊丹と柳田が話をしているのが見えた。正面玄関には高機動車両に、荷物を牽引できるよう荷車もついている。

 

「糧食は二人分だな」

 

という伊丹に、柳田はペンで後ろ頭をかきながら「本当に二人分か?」と聞いた。

何を言っているんだというような顔をする伊丹の足元を、ロゥリィがハルバードで払ってひっくり返した。

地面に横たわる伊丹の顔のすぐそばにハルバードの柄を突き立てる。

 

「女を火遊びに誘うってのに私を呼ばないなんてぇ」

「いやでも相手は炎龍だぞ……」

「すぅっごくたのしみぞくぞくしちゃぁう♡」

 

そう言うや否やロゥリィは伊丹の腕を取って噛み付いた。

 

「いでででで! なにすんだ!」

「契約完了ぅ。これでもし耀司が死んだら、魂は私のものよぉ」

 

腕の血を舐めとってそう呟いたロゥリィが、伊丹の上からどいて立ち上がる。加賀は代わりとばかりに伊丹の腹を踏みつけた。

 

「連れて行けって言いましたよね」

「や、加賀さん、これはその……」

「言いましたよね?」

「…………はい」

 

柳田が「糧食四人分な」と訂正すると、

 

「いや、糧食五人分。生存率を上げるには魔法が不可欠」

 

と言いながらレレイが現れた。その後ろにはヤオもいる。

 

「この身はこれより伊丹殿のもの。なんなりと申し付けくだされば」

 

柳田が顔を引き攣らせながら「結局糧食六人分かよ……」とクリップボードの紙にメモを取った。

 

 

コダ村避難民に見送られながら、高機動車に乗り込んだ六人は、駐屯地を出発するのであった。

 

「お父さん! なんでこの女もいるわけ?」

 

テュカがヤオを指差しながら捲し立てる。

 

「故郷に帰るから、ちょっと送ってくだけだって」

「んもう!」

 

不服そうに頬を膨らましながらも、テュカは前を向く。

 

「今行くぞ。待っていてくれ、みんな……!」

 

ヤオの呟きが車内に響く。加賀は薄く笑みを浮かべながら、これでやっと因縁のドラゴンを討伐に行けると内心で喜んだ。

 

「ぶっ飛ばして! お父さん!!」

「おうよ!」

 

晴れた空。雲ひとつない青空のもと、草原に伸びる一本の土道を、荷物を満載にした高機動車が走ってゆくのだった。

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