ゲートと加賀さん   作:奥の手

24 / 24
加賀とゲート

翌朝。

加賀は伊丹と柳田に会い、元の世界へ帰れる方法が見つかったと報告した。

今日にでも門を開いてみたいので、以後の異世界語の授業は持てないこと、これまでよくお世話になったことなどを丁寧に伝えた。

 

「そうか、帰っちまうんだな」

 

伊丹は少し寂しそうに呟いた。加賀は頷きながら、

 

「もう会えない可能性の方が高いわ。今まで本当に、お世話になったわね」

 

眉根を落とし、微笑んでそう言った。

 

「何も今日開かなくてもいいんじゃないか?」

「帰る方法がわかったんだもの。それにこの石がいつまで有効なのか、ハーディに聞きそびれたし」

「帰れなくなる前に試してみようってことか。まぁそりゃそうだわな」

 

よし、お見送りするぞ! と伊丹は腕を捲った。

 

レレイ、テュカ、ロゥリィにも声をかける。お馴染みのメンバーで門を開いてみて、帰れそうならそのまま帰るという算段になった。

 

避難民居住区に伊丹と戻り、レレイたちを探す。すぐに見つかった。

 

「もう帰るの? そう……寂しくなるわね」

「テュカ、私がいなくなったからって、また夜な夜な探し回るようなことはしないでね」

「しませんってば!」

 

レレイが加賀の身の回りを一周して眺めた後、首を傾げながら質問を投げた。

 

「加賀、お土産とか持って帰らなくていいのか?」

「門がどこに繋がるかわからないもの。最悪戦闘海域ってこともあり得るし、荷物は持っていけないわ」

「そうか」

 

確かにそうだとレレイはうなずいた。

 

「そうだ、ロゥリィ。私って、元の世界に帰ってもエムロイの使徒のままなのかしら」

「信仰するしないに限らず、どこの世界に行っても亜神は亜神よぉ。一千年の後に神になるかどうかはわからないけどぉ、少なくとも不変不死だから、気をつけなさい」

 

気をつけなさいとロゥリィは警告した。それは、詰まるところ元の世界の常識とは違う存在になっているということだから、そのことを弁えて行動する必要がある。無闇やたらに不死の力をひけらかしては、元の世界で反発が起こるかもしれない。

そう言うことをロゥリィは警告してくれているのだった。

 

加賀は礼を言いつつ気をつけるわと返した。

 

「それじゃあ、開くわね」

 

加賀は小さな石ころを右手で握り、元の世界のことを頭に強く思い描いた。

願わくば鎮守府に繋がって欲しい。そう思いながら鎮守府のことを頭に思い浮かべる。時間は今と同じくらいの昼間。訓練所や射撃場があって、裏手には艦載機を飛ばせる広場があって、提督の執務室や艦娘の宿舎がある、あの鎮守府。懐かしいとさえ思えてくるあの光景を頭に強く思い描いた。

 

そして目を開き、石を足元に叩きつけた。

 

パシャン! という音とともに石が砕け、砕けた欠片から光を放ち始めた。

あまりの眩しさに一同目を細める。光が弱まり、目を開けられるくらいになると、そこには、

 

「わぁ…………」

 

ちょうど日本と特地を結んでいる門の縮小版。人一人が通れる扉ほどのサイズの門がそこには出現していた。

石造の門に水晶のような魔法石が挟まっている。中は覗いても真っ暗で見通すことはできない。

 

「それじゃあ、もういくわね」

「あぁ、元気でな」

「楽しかったわよ」

「いい時間を過ごせた。加賀のことは忘れない」

「元気でねぇ。たまにはエムロイのことを思って祈りを捧げてくれてもいいわよぉ」

 

そうする、と肩をすくめたあと、加賀は暗闇に中へと足を踏み入れた。

 

六ヶ月前。戦闘海域でなすすべなく飲み込まれた時と似たような感覚で、加賀は門へと吸い込まれていった。

暗闇の中を歩く。今度は自分の意思で、一歩、また一歩と踏みしめて歩く。

程なくして出口が見えた。光が切り取られたように見えるその四角い出口を目指す。

 

弓を持つ手に力が入る。すぐにでも零戦を発艦させられるよう矢筒を引き寄せる。

腰を落とし、海の上に降り立っても大丈夫なように主機を起動させ、いざ、光の中へ飛び込んだ。

 

 

光の中のその先は、果たしてどこか。

加賀は、とある部屋の中にいた。あたりを見回す。何か見覚えがある。

後ろを振り返る。まだそこには門があった。

再びあたりを見回す。ここは————。

 

「提督の執務室…………じゃないですか」

 

大艦巨砲主義と書かれた掛け軸。デスクの上には無数の書類の束。応接用の低い椅子とテーブル。それらは全て、加賀も見覚えのある提督の執務室そのものだった。

 

部屋には誰もいない。提督はどこかにいっているのだろうか。

 

部屋から出ようとする。ドアノブに手をかけたその時、ガチャリとドアが空いた。

 

「あ……」

「え」

 

ドアの前にいたのは、提督と、赤城だった。

 

 

加賀の姿を見るやいなや、赤城は手に持っていた書類を全て床に投げ捨てて加賀に抱きついた。

 

「どこにいってたんですか! 半年も! 消息不明で! いったいどうして!」

 

涙声で捲し立てる。加賀はさて何から話したもんかと迷いながらも、とりあえず赤城の腰に手を回した。

 

「…………ただいま、赤城さん」

「んもう! …………お帰りなさい、加賀さん」

 

床にぶちまけられた書類を拾った提督も、優しげな目で加賀を迎え入れた。

 

「加賀、報告はまた後ほど。今はとりあえずゆっくりして欲しい。よく帰って来てくれた」

「はい、提督。この通り五体満足で、異世界よりただいま帰還いたしました」

 

提督は部屋に入るとすぐに、壁際に鎮座する門を見て、

 

「ここから帰って来たのかい?」

「ええ、そこからです。その先には、私が半年間暮らした世界が広がっています。異世界です」

「ほう……」

 

提督は顎に手を当てて興味ありげに門を見ていた。

そういえば、この門、いつ消えるのだろうか。

 

ハーディは具体的に門がどの程度開いているのか言わなかった。もしかして、この門、銀座に開いた門と同じように恒久的に開き続けているのか……?

 

何はともあれ、加賀は無事の帰還を果たし、赤城と共にとりあえずドックへ入りましょうと言うことでお風呂場へと向かった。

 

 

ドックから出た後、加賀は提督と、第一艦隊の面々が揃っている執務室に呼ばれ、この半年間、どこで、誰と、何をしていたのかを報告した。

異世界へ降り立ったこと。

艦載機を駆使してドラゴンと戦ったこと。

死にかけ、現地の神に助けられ自らも亜神となり、不死身の体へとなったこと。

執務室にあるこの門の先に、それらを体験した世界が広がっていること。

 

全てを話した。加賀らしく、順序立てて、簡潔に。それは聞くものを退屈させない簡素な冒険譚だった。

全てを話した後、加賀は提督に質問した。

 

今後、この門がもし開いたままだとしたら、どうするかと。

 

提督は答えた。

 

「————いい機会だ。その異世界とやら、みんなで行ってみよう」

 

行った先で門が閉じてしまうかもしれない。そうなれば大事だから、こちらでの仕事をひと段落片付けて、その間にもまだ開いていたら行くことにしようと。

ハーディが聞いたら卒倒しそうな事態かもしれないが、すぐに閉じる門を渡さなかったハーディが悪い、と思うことにした。

 

それから二週間。

門は変化なくそこにあり続けた。揺らいだり、薄くなったり、音がしたりすることなく、執務室に静かに佇んでいた。

提督は決断した。異世界へ行ってみようと。メンバーは第二艦隊の面々と加賀、補佐役で赤城。

目的は調査。願わくば戦略資源を見つけて引き込めるとしたらやってみて欲しいと。

 

そんなことをするためには自衛隊と話をつけないといけないだろうなぁと、加賀は考えたので一応提督に具申した。「構わんやってみよう」とは提督の言葉。そうと言うならばやるしかない。

戦略資源探査のための異世界調査団。選ばれたのは加賀、赤城、雷、電、暁、響、利根、筑摩の第二艦隊+正規空母戦力。

補給も万全。陸地が続いているということで各自バックパックに食料も持った。

戦闘を想定して艤装もつけた。全て実弾である。

いざ、異世界へ。

 

加賀は、また特地へ行けると言うのなら。それがたとえ任務だったとしても、みんなに会えるのならいいかな、などと思ってしまった。

 

これは、ある世界とある世界が結ばれる物語。

繋がった世界の先で波乱万丈の展開が待ち受けていることは、加賀を含め誰も予想していない。

とはいえそれはまた別のお話。

 

ゲートと加賀さん 完

 




あとがき

私史上初めて毎日更新というものに手を出しました。無事、皆様の応援のおかげで完走することができました。

ゲートに妖精さんが登場する話を書いたのがちょうど半年ほど前。そちらの話はもともと単発でものすごく短かったのですが、今回の話は十万文字に迫る勢いで、ちょっとした小説にはなったかなというところです。

加賀さんがゲートの世界で奮戦する話。至らない点や書ききれなかったこと、想像の届かなかったところがあるんじゃないかと煮え切らない思いもありますが、とりあえず完結と言うことで一区切りさせてもらえたらと思います。
人の身でありながら百機にせまる航空機を顕現させる力を持った戦力が、地上に降り立てばどうなるかというシミュレーションのような側面もありました。夜間攻撃や狭所での攻撃が制限されたせいでいまいち後半は活躍できなかった加賀さんでしたが、やはり弓の一引きで航空戦力を顕現させうる力は脅威だなと思った次第です。

物語では第二艦隊ことお馴染みの第六駆逐隊と利根筑摩コンビ、そして一航戦加賀と赤城が再び異世界へと赴こうとしています。書くかどうかは分かりませんが、ネタが思い浮かべば外伝として書くかもしれません。予定は未定です。

何はともあれ三週間ほどでしょうか。
毎日投稿に付き合ってくださった全ての皆様。誤字修正、感想など精力的に協力してくださった皆様に特大の感謝を持って締めくくりとさせていただきます。
またどこかの作品で会いましょう。ではまた!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。