少女歌劇レヴュースタァライト バロック・ザ・ジャム   作:桜椛

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10場 華恋の提案

 

「僕と共に、行こう! まひる!」

 

「えっ!? か、かかか華恋……ちゃんっ……!?」

 

 

 くるりとターンをしてまひるの腰をグッと引き寄せると、強い目力で顔を覗く華恋。その余りの迫力と今自分がされている事を認識してまひるは顔を茹で上がらせる。そして糸が切れたようにそのまま華恋の腕に抱かれた。

 

 

「あぁあ~あぁ~あ……」

 

 

 少しバランスを崩したもののグッとこらえて優しく下ろして寝かせてあげた。

 

 

「ま、まひる……まひる……僕だけのまひる……」

 

 

 遠い目で多少の捏造をしながら幸せそうに呟いているまひるを、華恋は不思議そうにしながら正座し見守った。

 

 放課後レッスン室で2人はジャージに着替えてダンスレッスンをしていた。華恋は髪の毛を後ろに括りいつもよりどこか少年らしい印象を受けた。まひるからすればその姿だけで目が幸せだったが、先程のように迫られて昇天もやむなしと言った具合だ。

 でも何やらずっと華恋から視線を感じる、と問い質すとこう答えた。

 

 

「北海道物産展!!!!!! に行きたいです!!!!!」

 

「北海道物産展……?」

 

 

 寝転がりながらきょとんとするまひる。真剣に見つめる華恋。うん! と鼻を鳴らして首肯している。

 

 

「隣町の百貨店で北海道物産展が開催されるんだって!! 北海道の美味しいものがいっぱい並ぶし~何より北海道と言えばまひるちゃんだし!!」

 

 

 大きい目をぱちくりぱちくり。その眩しさに灰になりながらでも確かに触覚という生命線はビンビンしていた。

 

 

「任せて華恋ちゃん!! お魚は勿論、お野菜もお肉も全部美味しいから!! 私が!!!! 案内!!!! する!!!! よ!!!!」

 

 

 華恋の手を取りうっとりと顔を蕩けさせるまひる。だがその目は興奮でギラギラと漲っていた。流石まひるちゃん頼りになる! と華恋が抱き着いたその時。

 

 

「話は聞かせてもらったわーーーーーー!!!!」

 

 

 ダァーンと勢い良く扉が開けられる。2人は突然の事に驚き視線を向けると、仁王立ちする有栖川がそこにいた。イタズラをする子供のようなうきうきとした顔であった。

 

 

「い、いちじくちゃん!?」

 

「ふふん、まひるには悪いけど楽しそうな話ある所私有り、よ」

 

 

 無駄に綺麗なモデルウォークで2人へ近づきポーズを決める。

 久々に楽しい華恋とのお出掛けが、と落胆の色を見せながら崩れ去ったまひる。

 

 

「えーー! いちじくちゃんも行こうよー! 折角だから皆一緒の方が楽しいもん!」

 

 

 灰になったまひるを掻き集めながら無邪気な笑顔を有栖川へ向ける華恋。有栖川としては2人が……主にまひるが華恋に抱く感情をただすぐ側で見て楽しみたいという邪な思いに支配されていたのでここで他の面子もとなるとまひるは周りに合わせて遠慮するかもしれない、それは自分にとっても当然まひるにとっても上手い話ではない、と考えた。だが3人はそれはそれで監視されている感じを受けなくもない……まひるは賢い子だから見抜いてもおかしくはない……となるとあともう1人……もう1組いるくらいが丁度良いか……そこまでこの間1秒で考えニカッと笑った。

 

 

「待って華恋。私達9人もいるでしょ? 流石に物産展に行くには大所帯過ぎると思うわ。ここはそうねぇ……料理上手だしばななちゃんと、後はやっぱ純那にも来てもらわなきゃ。うん、そうよね」

 

 

 完璧な作戦だわと言わんばかりに満足気に一人頷いている。

 スライム状に形を成したまひるは、あの二人ならそこまで場をかき乱されることはないかと胸を撫で下ろした。

 

 

「ばなな! うんうん! 美味しいご飯いっぱい作ってもらわなきゃ!」

 

 

 想像しただけでヨダレが止まらないようでじゅるりと音が響いた。

 

 

「よし! そうと決まったら早速相談よ! さ、2人とも早く着替えて!」

 

 

 レッツゴー! と拳を掲げながら部屋を後にした有栖川。その背を見送りながら華恋はまひるを立ち上がらせて追いかけた。

 

 

 

 

 星光館に戻った3人は部屋着に着替えるより先に料理中のばななの元へ早速駆け寄った。

 今日は回鍋肉らしく中華鍋を取り出し今まさに火にかけようとしていたところだった。

 

 

「北海道物産展……?」

 

 

 ぴょこんと髪の毛を跳ねさせながらまひると同じ反応をした。

 

 

「そう! 北海道物産展! やっぱ普段買えないような美味しい食材いっぱいでしょ? ばなながいれば食卓も賑やか~になるかなって……」

 

 

 チラッチラッとあざとく様子を伺いながら目をぱちくりさせる華恋。その隣で同じように赤い瞳を瞬かす有栖川。なんだか似てるなと思いながらばななは笑顔を浮かべた。

 

 

「うん♪ 楽しそう! 料理のしがいがあるね!」

 

「さっすが! ばなナイス♪」

 

「ふふ、ばなナイス♪」

 

 

 華恋はばななの結われた髪を下から掬うようにもふもふし始めた。ばななも撫でられている犬かのように嬉しそうな顔をしていた。

 

 

「じゃあ今度のお休みに行きましょう! ねえばななちゃん、後で純那にも声掛けといてくれる?」

 

 

 ぴくっとばななは動きを止めて俯いてしまった。何か変な事でも言ったのだろうかと恐る恐る顔を覗き込もうとしたその時、ばななはゆっくりと顔を上げて薄く微笑んだ。

 

 

「うん、でもあまり期待しないで、最近純那ちゃん忙しいみたいで」

 

「忙しい……?」

 

「ほら、お勉強しなきゃだから」

 

「あぁ~……」

 

 

 大学受験。その言葉が皆の頭に過ぎった。

 

 

「そっか……じゅんじゅん大変だ……」

 

「……ま、でも一応本人に聞きましょ! ほら、気分転換とか必要だし!」

 

 

 何処と無く暗くなってしまった空気を察してか有栖川はばななの肩を優しく叩いた。そうだよねと微笑みを返すと、聞いておいてくれる? と残しコンロの火を点けた。

 

 3人は純那の部屋を向かおうとしたがその途中でふと有栖川が立ち止まった。

 

 

「いちじくちゃん? どうしたの?」

 

 

「うーん、冷静に全員で行くのはプレッシャーかなって」

 

 

 

 あぁ確かにと2人は首肯する。有栖川はよし! と大きく手を叩くとここは私に任せてとキメ顔を作る。

 

 

「お言葉に甘えようかな。明日に備えて今日はゆっくりしよ華恋ちゃん?」

 

「うんそうだね! シャワー♪シャワー♪ 回鍋肉も楽しみだね~またねいちじくちゃん~!!」

 

 

 ブンブンと激しく手を振る華恋とは対照的に控え目に手を振っているまひる。2人へ同じく手を振り返し見送ると、有栖川はばななと純那の部屋の前へ来た。

 短く扉をノックする。返事を待つ間手持ち無沙汰にしていた有栖川は踵へ重心を置きつま先をパタパタと地面へ何度も下ろしていた。寝ているのか余程集中しているのか、そのどちらでもこれ以上踏み込むのは違うかと有栖川は待つのをやめた。

 

 

「ま、ばななちゃんが誘ってくれるでしょう」

 

 

 踵を返し一旦部屋に戻る事にした。

 

 その夜、純那はご飯にも現れず部屋に籠りきりであった。


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