少女歌劇レヴュースタァライト バロック・ザ・ジャム 作:桜椛
パーティーの後の星光館リビング。そこで華恋は1人、1冊のハードカバーを膝に置いて表紙をただ眺めていた。
戯曲『スタァライト』の原典だ。虚ろなる目で開いては頁を捲り、そしてなぞる。
「星摘みは罪の赦し──お持ちなさいあなたの望んだその星を」
何処からともなく現れたばななは、華恋と距離を開けて同じソファに座っていた。大きく足を組んで頬杖をついて、パーティーの名残を眺めている。
「スタァライトとの出会い、華恋ちゃんが華恋ちゃんとして生まれた日」
「えっ……?」
華恋が顔を上げる。その瞳に映る生気はあまりに薄い。長い睫毛を瞬かせた先にはばななの横顔だ。二つに結われた特徴的な髪型が、今の表情とあまりに似合わない。
「物語は必ず終わりを告げる。では舞台は? 私達は?」
「ばななちゃん……?」
「ダメだよ、見つけなきゃ。意味を持たなきゃ」
ゆっくりとばななが華恋の方へ身体を向ける。表情の読めなかった先程とは違う、確かな意思を持って華恋へ訴えかけている。華恋は少しの居たたまれなさを感じながら唾をごくりと飲む。
「意味を……持つ……?」
直後、原典スタァライトがパラパラと勢い良くめくれ、眩く光り始めた。思わず顔を覆う華恋。
やがて光が収まり目を開けると、そこは砂漠だった。
辺り一面の砂、照り付ける太陽、ここには何も無い、が何処か遠くで時計の音がチッチチチと鳴っている気がする。
訳も分からず、何かに追われるように華恋は走った。右を見ても左を見ても何も無い、果てなぞなくただ一面の砂の世界が広がるばかりだ。
「はぁ……ぁっ……! あ、あれは……!?」
何も無かった砂漠にポツリと、だが確かに緑と水が見える。オアシスだ。そしてそこには大きく横たわって圧倒的な存在感を放っている、忘れもしない……
「キリン!?」
木陰で長い首を背に預けてすやすやと眠っている。
唯のキリン、ではない。選ばれた舞台少女だけが参加できる地下劇場でのオーディション、このキリンはその支配人とも呼べる存在であった。舞台少女のキラめき、まだ見ぬ物語への渇望、貪欲で、そして不可思議さは1度出会ってしまえば忘れようはずがない。
華恋はオアシスを目指して走った。キリンなら、何かしらの答えを持っているかもしれない、その思いで駆けていた。だが走れども走れども一向に辿り着ける気配は無い。腕を振り脚を踏み出し、伝う汗を拭いながら。
そして躓き倒れてしまう。口の中に入った砂を吐き出しながら顔を上げると。
キリンが休む木の下、人影が見えた。遠くて、揺らいで、誰かは分からない。
「──ちは──の──」
「なんて言ってるの……? ねぇ────ちゃん?」
少女の声は届かない。時計の音はどんどん大きく速くなっている。同時に風が一気に吹き上がり砂嵐が起こる。
見えない、消えてく、オアシスが、キリンが……ザーーーとノイズにも似た音に変わり、そして突如カットアウト。
またノイズが戻る。華恋の世界は砂に塗れそして暗転した。