ぼんやりと覚えているのは、薄暗い部屋と培養液の入ったケースに入れられている子供たち。周りには、白衣を着た大人たちが慌ただしく動く中、自分の目の前にいるその男は気味の悪い笑みを浮かべながら語り掛ける。
『君はどちらかな』
人気も明かりもほとんどない夜の中、4人の魔導士と1匹の使い魔だけが一触即発の状態でその場にいた。
龍希は油断することなく、フェイトとアルフを正面に見据え、なのはとユーノはその後方で構えている。一方のフェイトとアルフも迂闊に動くことはせずに距離を保ったまま仕掛けようとはしない。
長いようで短くも感じる時間を静寂が包む。しかし、それは直ぐに破られた。龍希達がいる場所の近くで光の柱と共にジュエルシードが起動したからだ。
「見つけた」
「あいつらの相手は私がやる、フェイトはジュエルシードを」
フェイトはアルフに「うん」と答えると、そのままジュエルシードの方へ飛んでいく。龍希はそれを追いかけようとするが、アルフが飛び掛かり進めず、攻撃を回避しながら反撃で魔法弾を放つがそれらも軽々と避けられる。
何んとか距離を放そうにも、懐に張り付くように追ってくるうえに、丁度なのはとアルフのあいだに龍希を挟むよう動いてくるので援護も難しく、なのはが追う素振りを見せると狙いをなのはに変えて、飛び掛かり、爪を振り下ろす。近くにいたユーノが攻撃を防いだおかげで二人は傷一つ無く、アルフも二人から大きく離れるように後方に飛び、龍希の放った魔法弾を回避する。
「まずいよリュウ、このままじゃ!」
「分かってる。フェイトに回収させるわけにはいかないな」
龍希たちはフェイトとアルフがジュエルシードを回収している理由を知らない。だが、ユーノからその危険性は聞かされている。フェイトと接点がほとんどない、なのはとユーノはともかく、龍希は多少フェイトの人となりを理解しているつもりだ、だからこそ余計にフェイトがジュエルシードを集めたその先の目的が分からない。決して私腹を肥やす様な人間ではなく、恐らく自分たちよりも先に魔導師になったフェイトがジュエルシードの危険性を把握していないとも思えないからだ。
「…なのは、俺が合図をしたらユーノを抱えて一気に飛べ」
「リュウ君?」
「このまま3人で相手してたんじゃしょうがないからな、それに、フェイトと話をしたいんだろ?」
そう問われたなのはは少し顔を俯かせるが、すぐに顔を上げ、力強く「うん」と答えた。それを見た龍希はニィと笑い革命の書を取り出し、ページを捲り一枚のカードを引く。それを掲げるとカードが赤く光り輝き一体のクリーチャーが現れる。
「ボルッチ!」
それは金色の拳を持つ赤いファイアーバード「燃えるボルッチ」だ。
「ボルッチ少し力を借りるぞ」
龍希がそう言うと、ボルッチは嬉しそうに鳴きながら周囲を飛び回り、やがて赤い火の玉となり、龍希の身体に入り込んだ。ボルッチを取り込むと、龍希の身体を激しい炎が包み込み白いバリアジャケットを赤く染める。恐らく本能的にだろう、あれをさせるとまずいと感じたアルフは再び爪を振るい、襲い掛かるが。爪が当たる瞬間に炎の中から金色の手がアルフを掴む、防御でも、回避でもなく掴まれるという事を想像しておらず、驚くアルフをよそに、龍希を包んでいた炎が風に流され消えていく。白いバリアジャケットは炎の様に赤く、胸の部分には何時もの色とは違う、赤い革命軍の紋章が施され、両手の鎖があった場所には金色の籠手が装着されている。
「いきなりの試運転だけど少し付き合ってもらうよ、お姉さん!」
爪を掴んでない方の腕で思い切り殴りつけると、アルフは後ろのビルに叩きつけられる。いい手ごたえは感じなかった、殴られる寸前に防御をしたのだろうが、多少の隙を作れた。そう判断するとなのはに目配せをする。それを合図にユーノを抱え、なのははフェイトを追い、ジュエルシードの方へ向かう。なのはに気づいたアルフはフェイトの方へ向かうのを阻止しようとするが、今度は龍希がそれを邪魔する。
「こんのぉ…フェイトの邪魔をするんじゃないよ!」
「邪魔するよ、少なくとも集める理由を教えてくれるまではね!」
拳と爪がぶつかり凄まじい衝撃を放つ。片方は大切な主人の為に、もう片方は命よりも大切な友の為に、お互いに引くことは無く。激しい格闘戦を繰り広げ続けていく。
少し離れたビルの屋上で妙な形のロボットがその光景を見ていた。丸みを帯びた体に水色のカラー。一見どこかマスコットの様にも見えるが、そのイメージを壊すかのように搭載された兵器の数々が異様な存在だと物語っている。
ロボットは戦闘に加わるでも、妨害をするでもなく、ただ見ている。観察をするように、観測をするように、データを収集するように。それが創造主に課せられた役目だから・・・・・・