「いい加減にしなさいよ!」
喧騒に包まれていた教室は一つの怒号により静まり返る。
変わらないと思っていた日常は些細な切っ掛けで崩れ始めた。
旅館での一件が終わった後、俺達は何時も通りの日常に戻っていった。
だが、あれからなのはの表情から影が消えることは無く、理由も話そうとしないその様子に遂にアリサの堪忍袋の緒が切れたんだろう。
「アリサちゃん落ち着いて…」
「そんなにあたし達と話すのがつまらないなら好きなだけ一人でぼーっとしていなさいよ!」
「その…ごめんね、アリサちゃん」
「・・・・・・っ!行くよ、すずか!」
「ちょっとアリサちゃん!」
アリサは教室から出ていき、すずかもそれを追いかけて教室から出て行った。
俺の席はドアの近くなので当然二人が通り過ぎるのだが、アリサはこっちを一瞥してすぐ通り、すずかはすれ違う時に小声で「なのはちゃんの事お願い」と俺に言いアリサを追って行った。
「ま~たアリサに怒られたな」
「いいの…今のはなのはが悪いから」
そう悲しそうな笑みを浮かべてなのはは答えた。
無理もない、なのはは昔から辛い事や苦しい事、悩み事を全部一人で抱え込んでしまう悪い癖がある。今は大分良くなっているが直った訳では無い、ましてや魔法の事やジュエルシードの事も絡むこの話を無暗にアリサとすずかに話すのは危険すぎる。
それがこの悪い癖に拍車を掛けて悪化させているんだろう。
「アリサも言い過ぎだけどさ、なのはの事を思って言ってるのは確かだよ」
「うん…」
「もう少し経てばアリサも頭が冷える、大丈夫」
それから時間が経ち、放課後になっても二人の蟠りがなくなる事は無かった。
流石にこの状況で一緒に帰るわけには行かなかったので今日は別々で帰ることになった。何時もと同じ帰り道だが何時もとは違う状況、どうにか励まそうと言葉を選んでいると不意になのはが服を引っ張る。何時もとは違う弱弱しい力で。
「少し寄り道していこう?」
今にも消えてしまいそうな小さな声でなのははそう言った。
俺はそっと頷くとなのはの手を握り歩き始める。湖の見えるあの公園なら少しは気も紛れるだろうか・・・・・・
ベンチに座り湖を眺めているとなのはが一年の時の事を話し始めた。
すずかやアリサと親友になる切っ掛けになった話だ。
「あの時のアリサは中々に困った子だったなあ、すずかにちょっかい掛けてたところをなのはが止めようとしたんだったよな」
「うん・・・・・すずかちゃんのカチューシャを盗ってからかってたのを私がぶって怒ったら大喧嘩になって」
その時の事は今でも覚えている。クラスメイトに呼ばれて現場に来てみれば取っ組み合いの大喧嘩、何んとか二人を止めようと間に入った俺が引っかかれたりして一番痛い目にあってたっけ。
「そんでそれを止めたのがすずかだった」
「大きい声で「やめて」って…その喧嘩の後から少しずつ二人と話すようになって仲良くなったんだよね…」
「・・・・・・何回喧嘩したってまた仲直り出来るよ」
昔も酷く落ち込んだなのはに何も出来なかった。あれから時間が経ったのに結局俺はこうやってありきたりな言葉をかける事しか出来ない・・・・・・・・・・・・だから…
「…アリサとすずかには言えなくても…」
「…?」
「せめて俺を頼ってくれ…出来る限りなのはの力になりたい」
うんと笑顔でなのはは答える。
なのはの悩みや苦しみが分かっているのに、真面に励ますこともできない自分が唯々恨めしい。
家に戻ると帰りに買ってきたたい焼きをユーノと一緒に食べる。今日学校であったことを話すと申し訳なさそうな表情をした。
「別にユーノが悪い訳じゃないよ」
「でも…なのはを巻き込んだのは僕だ」
「他にどうしようも無かったんだ、しょうがないさ」
そんな話をしていると誰かが階段を降りる音が聞こえた。
準備が終わったなのはが降りてきたんだろう、俺はたい焼きを食べ終わるとユーノを肩に乗せ立ち上がる。
「なのはを巻き込んだと思うのなら…なのはをサポートしてやってくれ、全力でな」
そう言うとユーノは強く頷いた。ちょうどなのはも降りて部屋に入ってきた、今日も三人でジュエルシードを探しに行く。
きっとそれが終われば元の日常に戻れる・・・・・・・・・・・・その時にはフェイトも一緒に入れればいいな。
物語の幕が上がり劇は進む
ほんの小さな異物を含んだ物語が