お泊まり会から1週間後の8月9日。私は家にまふゆを呼んで部屋に来てもらっている。特に話は無いのだが、いや。正確には話があるがそこまで重要な話では無い訳で
「久しぶりに莉緒の家に来たかもしれない」
「そうだね。結構久しぶりかも。ほら、今までまふゆの家でお泊まりとか、話したりとかしてたからさ。何か感想ある?」
「……相変わらずアニメのグッズとか多いね。壁とかにもポスターが貼ってある」
「1枚いる?」
「大丈夫」
「そっか」
一応、今まふゆが座っている椅子もアニメのキャラのデザインの椅子。そして、パソコンとかもキャラのデザインにして。部屋中が推しのデザインと化しているわけで
「で。話って何?」
「あ。実はさ。これ見てくれない」
私はそう言って来ていた長袖を捲る。そして、左腕をまふゆに見せてまふゆの表情を伺うと。少し、びっくりしてるのか私の左腕と顔を交互に見てくる
「お?まふゆがそんな反応をするなんて、これは少しは成長を」
「何それ」
「黒化って個人的につけてる」
「黒化?それって病気なの?」
「えっと。病気に入るんだけど、ガンよりはマシかな」
「……ガン?」
「うん。その時余命1ヶ月って言われててね。本当に驚いたよ」
私は黒くなった左手を見つめる。その左手はとても人の手では無い色をしていて、気持ち悪いし、化け物みたいに見えてしまう
「で。余命から1ヶ月経った頃にこの黒化が始まったの」
「黒化って言うのがその黒くなってる腕の事?」
「そう。先生が原因不明の病じゃ分からないから、とりあえず黒化って事になってる。私が付けたんだけどね」
「黒化………それって他にも」
「ううん。この左手と左腕だけ。他の部位には黒化は進んでないよ」
「そう。じゃ、ガンの方は?」
「黒化のおかげで治ったよ」
「え?」
黒化。病院の先生にすら分からない病。そもそも肌が黒くなること自体が異例なことらしくてなかなか治療が出来ないそうだ。だが、この黒化のおかげでガンが治った。いや、正確にはガンの腫瘍が黒い塊に変わったと言うのが正しい
「ガンの腫瘍がね。黒い塊に変わったの。で、その黒い塊のせいでこの黒化が」
「死んだりするの?」
「あ、大丈夫だよ」
「そんな軽く言われると逆に心配になるんだけど」
「でも、本当に大丈夫だから。黒い塊も特に悪さはしてなくて、この黒い腕も色が黒いだけでそれ以外は普通の肌だから」
「そう。じゃ、今は特に大丈夫って事?」
「うんうん。だから、気にしないでって言っても直ぐには無理かもしれないから。とりあえず、話しておこうかなって思って今日は来てもらったの。死にはしないけど、もしこれでまふゆの前から消えた時のためにもね」
「そっか。でも、言ってくれてありがとう」
「え?」
「莉緒からこうやって相談してくれるの初めてだったからなんか嬉しいのかな?」
「いや、私に聞かれても」
と私は言ったが。まふゆの表情は少し、ほんの少しだけ嬉しそうだった。嬉しそうにする時は、優等生の仮面を被ってる時はあるけど。その仮面を外してる時に嬉しそうにするのはなかなか無い
「ねぇ。でも、本当に大変だったら言って。私が助けになれるか分からないけど、私に出来る事ならやるつもりだから」
「まふゆ」
「だから、とりあえず私が代わりにお母さんになる」
「なんで?」
「莉緒にはお母さんが居ない。だから、私がなってあげる」
「うん。ちょっとおかしいよね」
「さぁ、来て」
まふゆはそう言って両手を広げる。ここでお母さん!と言って抱きつく訳に行かないし、抱きついたらそれはそれで離してくれなさそうで怖い
ちなみにさっきまふゆが言ったお母さんが居ないと言うのは、私のお母さん達は中学時代の時に交通事故で亡くなった。だから、私は今1人でマンション暮らしをしている
それからまふゆは少し立ち上がって背伸びをしながら聞いてくる
「一人暮らしには慣れた?」
「ごめん。もう2年は経ってるから今から辛いとか言わないよ」
「そっか。なら良かった」
「でも、一人暮らししてるとなんか寂しいんだよね」
「毎日来ようか?」
「それだとおばさん達が心配するから大丈夫」
「分かった」
一人暮らしをしたいと思っていたけど、いざ一人暮らしをすると寂しいと言う感情が出てしまう。借りてる部屋が広いせいか、ただ単に私が1人に慣れてないのか分からないけど寂しいよね
「ねぇ。さっきから気になってたんだけど」
「ん?」
「パソコン、勝手に電源ついたよ?それに莉緒、分かってたのに驚かなかったよね?」
「まふゆもじゃん」
「うん」
確かにまふゆの言う通りパソコンの電源が勝手についた。しかし、私はその理由を知っているので驚きはしないが。まふゆが驚かなかった事に対して私は少しびっくりしていたよ。多分、まふゆとしては私のこの黒化の事でパソコンの事は気にしてなかったんだろうね
「もしかして背伸びしてるのって怖いから?」
「ううん。ちょっとさっき腰に痛みがあったから背伸びしてる」
「それ背伸びして大丈」
その時、まふゆの腰から鈍い音が鳴った。私とまふゆはお互いに見つめ合い、私は慌てて。まふゆに関しては何事も無かったかのように椅子に座る
「待って!?今腰から」
「気にしないで。いつもの事だから」
「尚更心配だよ!?」
「別にいつもと」
すると起動していたパソコンの画面に私とまふゆが見覚えのある人物が現れる。その人物とは
『マスター!!見てこの頭!なんか面白い形になった!』
「ミク……なの?」
初音ミク。恐らくまふゆが知ってる初音ミクとは違う初音ミクだと思う。今、画面に居る初音ミクはツインテールでもロングでも無くショートカットの初音ミクだ。服もラフなジャージ姿で髪型がすごい事になっている初音ミク
「あ、まふゆが知ってるミクじゃないかも。このミクは私のオリジナルのミクだからさ」
「そう」
『あ。もしかして出てきたらダメだった?』
「ううん。ちょうど話そうとしてたから大丈夫。良かったら自己紹介してあげて」
『うん!』
ミクはそう言うとすごい髪型のまま自己紹介を初めて行く
『初めまして!私はマスターの想いで作られた初音ミク!好きな事は歌う事って言いたいけど、今はマスター達と居ること!えっと、あとは…………………ショートカット!』
ミクの自己紹介を聞いて頭を抱える私。咄嗟に自己紹介をお願いした私も私だけど、もう少しマシな自己紹介は無かったのか。ショートカットって見れば分かるよ
ふと、まふゆを見ると少し嬉しそうにしているのが分かる。ミクの自己紹介が面白いのか、それとも何か他にあるのか分からないが嬉しいのなら良かった
「ねぇ。ミクは莉緒の想いから作れられたんだよね」
『うん!マスターの何かを残しておきたいって言うの強い想い!』
「何かを」
「あ、ガンの時ね?」
「そう…………その想いってもしかしてセカイにも」
『なってるよ!マスターの想いのセカイ。軌跡のセカイ!』
「軌跡のセカイ。いいセカイだね」
『うん!』
「え?私、初耳なんだけど」
ミクは普通に説明しているが、そもそもセカイについて何一つ説明してもらってないし。まふゆも何普通に話をしてるの?よくスラスラ聞けてるね
「そのセカイって、私も行けるかな」
『行けるよ!マスターに関わった人達なら全員来れる。でも』
「でも?」
『マスターを見捨てないであげて欲しいの。マスターはお母さん達が亡くなってから寂しい思いをしてて。だから』
「大丈夫。莉緒を1人なんかにしないから安心して」
『ほんと!?』
「うん。約束する」
『えへへ。ありがとう………えっと』
「まふゆでいいよ」
『じゃ、まふゆちゃん。ありがとう!これからもマスターと仲良くしてね!』
「うん。こちらこそ」
あれ?私、空気かな?と思うくらいに話がスラスラ進んでいく。と言うかミクって私のお母さんかなにかか?それに応えてるまふゆもまふゆだけど
「莉緒」
「何?言っておくけど、空気だね。とか言ったら流石のまふゆでも殴るからね」
「そんな事言わない。ただ、これからもよろしくって言いたいだけ」
「はい?」
「私は莉緒に助けて貰ってる。だから、私が出来ることは一つだけ。これからも莉緒と一緒に居ること」
「別に助けてるとか」
『あ!ツンデレ!』
「電源切るよ」
横からちゃちゃを入れてくるミクに対して脅しを入れると、ミクは口を手で抑える。そんな姿が可愛いと思ったが今はこっちの話
「助けてるのは私じゃなくて、奏達。私はあくまでも補助をしてるだけ」
「それでも感謝してる。莉緒だって辛い事とかがあるのに、それを無視してまで」
「無視はしてないよ。寂しいから今度大きなぬいぐるみを買おうかなって思ってるし」
「じゃ、そのぬいぐるみ買う」
「やめて。とりあえず、ミクの言う通り。これからもまぁ、仲良くしてくれると嬉しい」
「うん」
「あと、素直になんでも話してくれたらもっと嬉しい」
「うん。じゃ、ちょっと飲み物取りに行く」
「あ、どうぞ」
まふゆは本当に部屋から出ていく。確かに素直にとは言ったけど、飲み物くらいは言わないで勝手に取って言ってよ。ダメとか言わないんだからさ。すると、まふゆが部屋から出たタイミングでミクが心配してくる
『ねぇ。マスター』
「何?」
『まふゆちゃんに話さないの?マスターが本当はまふゆちゃんの事を恨んでるって』
「言わないよ。だって、この恨みは逆恨みだもん」
『でも、あの子だよね。優等生って言われてマスターが劣等生って言われて』
「ミク」
『っ!?』
「私ね。確かにまふゆを恨んでるかって聞かれたら恨んでる。でも、それは逆恨み。誰がどう見ても逆恨みなの」
『でも!まふゆちゃんと比べられてマスターは虐めを』
「ミク、その話はやめよ。まだ私が私である内に言うこと聞いて。じゃないと私、何するか分からない」
『分かった。マスターがそう言うなら私はもう何も言わない。でも、これだけは忘れないで。私は、ううん。私達はマスターの味方だから』
「ありがとう」
ミクには悪いけど、出来たら昔の事は忘れたい。あの地獄のような日々を思い出したくなんてない。もう二度とまふゆを恨みたくないから。逆恨みだって言い聞かせて私は私を抑え込む
朝比奈まふゆ……………なんでも出来て、みんなから信頼されて頼られて。優等生と言われ、羨ましかった。そんなまふゆが私にとって目指すべき人だった。でも、そんな姿を私は恨む事になる……
「ねぇ。ミク」
『何?』
「私さ。まふゆの罪滅ぼしになれてるかな」
『それって、マスターが女の子を見捨てたって話だよね。もしかしてまふゆちゃんの事だったの?』
「うん。そうだよ。私が無視したせいでまふゆの本当の感情を壊しちゃった」
無視したせいで………ううん。心の何処かで壊れちゃえばいいのにって思ってたんだ私。それなのに今はまふゆを救おうとしてる。こんな私。幼馴染の私が。恨んでるはずの私がまふゆを
「だから、私はまふゆを救いたいの。でも、私一人では無理。だって、心から救おうって思えないんだ」
『マスター』
「私だって人だからさ。さすがに逆恨みでも恨みは消えないんだ。もう終わった事なのに消えてくれない。ずっとまふゆの事を恨んでる。だから、逆恨みだって事にして私は私を保ってる」
『でも、それでマスターいいの?』
「さっきも言ったよね。罪滅ぼしになれてるかなって。私の件はまふゆは何も悪くない。でも、まふゆの件は私が関係してる。だから、何があっても私はまふゆを」
『それ、本当にまふゆちゃんが望んでることかな』
「何」
『まふゆちゃんも素直に話して欲しいって思ってるんじゃないかな。それにマスターが時より見せる辛そうな顔。まふゆちゃんも知ってると思う』
「そっか」
前に絵名達と話してる時も絵名達に言われた。なんで辛そうにするの?って。もしかしたら才能がある絵名達にも嫉妬があって、それに対して恨んでるのかもしれない。これこそ本当に逆恨みだ
『マスターの本当の感情。まふゆちゃんに伝えられる日が来たらいいね』
「そんな日は来ないよ。まふゆが本当の自分を。本当の感情を見つけるまではこの事は死んでも言わないよ」
『マスターがそれでいいなら私は何も言わない。でも、もう遅いかも。あとは2人の問題だから私はセカイに戻るね………………マスター、大丈夫。まふゆちゃんは受け止めてくれるから』
ミクはそう言うと画面から消える。そして、それと同時にパソコンの電源が切れた。一体どうしたのかと思っていると、部屋の扉が開いて少しびっくりしているまふゆが入ってきた。なるほど、聞いちゃったんだね………まふゆ