「莉緒、今日絵名と一緒に服を買いに行った」
「……」
莉緒が倒れてから1週間後。莉緒は目を覚まさない。1週間前、急に叫んだ莉緒は倒れてから目を覚まさない……分からない。どうすれば莉緒が目を覚ますのか。どうして倒れたのか
私は私に出来ることをする為。病室に来て私は眠っている莉緒の手を握って今日あったことを話す
「絵名、私に似合う服を選んでくれて。ほとんど黒い服だったから莉緒の事を思い出してね」
「……」
「莉緒も黒い服が好きだったよね。だからね、私買ったよ。莉緒に似合いそうな服」
私はそう言って持ってきていた紙袋から黒いワンピースを取り出す。莉緒は常に長袖とかを着ているから多分着ないと思うけど、それは腕の黒化のせいで。本当はこういうのも着てみたいと思ってるかもしれない…………だって、昔は可愛い服とかを着てたから
「サイズは合ってると思うけど、莉緒が目を覚ましたら着て欲しいかな。これはここに置いておくから、私とかが居ない時に目を覚ましたら着てみて」
「……」
私は小さいテーブルの上に紙袋ごと置いて莉緒を見る。そこには死んだように眠っている莉緒。もう二度と起きないんじゃないのかってくらいに。私は怖い。このまま莉緒が目を覚まさなかったらどうしようって
「莉緒、まだ目を覚まさないんだ」
「……」
「ごめんね莉緒」
「……」
「私が莉緒の事を気にかけていれば。莉緒の事をもっと知ろうとしてたら、もしかしたら変わってたのかな」
「……」
今の私には莉緒に何をしてあげるのが正解か分からない。本当の私なら何をしてあげるのか分かるかもしれないけど、今の私にはそれが分からない。何をしたら正解なのか
「どこで私達、間違えたのかな。中学の時に喧嘩した時かな。それとも、私と莉緒が出会った時かな」
「……」
莉緒は答えない。答えてくれない。何を言っても、手を握っても答えてくれない。いつもなら何か言ってくれる莉緒も今では眠っている。笑顔で話してくれる莉緒も今は居ない。居るのは辛い思いをしてる莉緒だけ
「多分、この後絵名達が来ると思うけど。話、聞いてあげて」
「……」
「ナイトコードでの話もしてくれると思うから。それに莉緒が居なくなってからの話も。私はもう話したからいいよね」
「……」
「じゃ、私はそろそろ帰るね。また明日来るよ」
私はそう言って最後に莉緒の手を握ってから病室から出る。少し病室を出てから考える。莉緒が本当にこのまま居なくなったらどうしよう。でも、こんな事を考えても莉緒が目を覚ますわけじゃないと思った私は歩き出す。
それから廊下を歩いていると絵名がこちらに向かって歩いてくるのが見えた
「まふゆ、今日も来てたんだ」
「うん。絵名も莉緒の所?」
「それ以外無いでしょ。それに、今日は沢山話をするつもり。莉緒が本気で描いてくれたイラストの事もね」
「それ前にも話してなかった?」
「莉緒が目を覚ますまで何回でも言ってやるのよ。全く。こんなに凄いイラストを描くだけ描いて倒れるなんて。許さない」
「そう」
莉緒が倒れた後。私は莉緒が描いていたイラストを絵名に見せた。その時は絵名になんでこんな時に見せるのよって怒られたけど、莉緒のイラストを見た絵名は何故か分からないけど泣き出してお礼を言っていた。私にはその意味が分からなかったけど、きっと莉緒が何かしていたんだろう
「瑞希達は?」
「瑞希達はちょっと用事で今日は来れないみたい」
「そうなんだ」
私は自分では分からないけど、悲しい顔をしているのか絵名に顔を見られて言われる
「その様子だと莉緒はまだ目を覚ましてないみたいね」
「……」
「あんたが気にする必要はないからね。莉緒だってそれを望んでないと思うし。それに」
「分かってる」
「分かってないわよ。表情、あまり変わってないけど少し落ち込んでるように見えるし」
「……」
莉緒が倒れた事によって絵名達にも莉緒に何があったのかを話す事になった。もちろん精神科の先生からの話もあって、みんな凄く辛そうにしてた。莉緒が経験してきた辛い過去を聞いて。そして、その元凶が私だってことも
「とりあえず、あんまり落ち込みすぎないようにね?もし、莉緒が目を覚ましてそんな顔のまふゆを見たら悲しむし」
「分かった」
「じゃ、私はこれから話をしに行くから。まふゆはこれから帰るの?」
「うん。莉緒の家に行って掃除をしてから帰る」
「そっか。頑張ってね」
「絵名もね」
「うん」
私達はそう言って絵名は病室へ。私は莉緒の家へと向かう。私は莉緒が目を覚まさない間、家の掃除とかをやっている。これで償いになるかは分からないけど、私がやりたいって思ったから毎日掃除をしている
病院から出て莉緒の家についた私は合鍵を使って家へと入る。そして、1番初めに寝室へ。寝室に入った私は次にパソコンを起動して、ミクと会話をする
『あ!まふゆちゃんだ!今日も来てくれたんだね!』
「うん。掃除をしに来たの」
『そうなんだ!でも、昨日も掃除をしに来るって言ってなかった?』
「今日も掃除」
『そっか!なら、頑張ってね!』
「うん」
私は早速部屋の掃除をするのだが、毎日掃除をしているから掃除をする場所が無い。私は何もすることが無いと思った瞬間に身体が震える。私に出来る事が何も無い。莉緒の幼馴染なのに。このまま何も言えないまま莉緒が
『まふゆちゃん。マスターなら大丈夫だよ』
「……え?」
ふと、ミクが私に話しかけてきた。パソコンの画面を見るとミクは凄く笑っていて、私は少し驚く。だって、莉緒が目を覚まさなくて誰よりも心配してるのはミクなのに。それなのに、そのミクが笑ってるなんて
『マスターはこんなんで消えちゃう人じゃないよ』
「なんで分かるの?」
『うーん。私がマスターから作られたからかな。ほら、私ってこんなに元気だし。何より、明日には必ず楽しい事があるし!』
「……」
毎日が楽しい。よく莉緒が言ってた言葉。なにか辛いことがあると莉緒はそう言って笑ってた。私が落ち込んでた時も励ます時には必ず明日は楽しい事があるよって。励ましてくれたし、絵名達にも同じ事を言ってたみたい。でも
「もう……」
『まふゆちゃん?』
「もう莉緒は居ないんだよ」
『まふゆちゃん……』
「話しかけても答えてくれない。笑ってもくれない。何より、動かない」
『……』
「ねぇミク。このまま莉緒が死んじゃったら私どうなるのかな」
『……何も変わらないよ』
「え?」
『まふゆちゃんには奏ちゃん達が居るよね』
「奏達?」
『うん。だから、マスターが居なくなっても何も変わらないよ』
私はミクに言われて気づく。莉緒もよく奏達が居るから私は必要ないんだよ。って言ってた。でも、その意味が分からない
『マスターは今頑張ってるの』
「頑張ってる」
『もう1人のマスター。ううん、本当のマスターと』
「……ミク、教えて。莉緒が言ってるもう1人の私って誰の事なの。先生に聞いてもそこだけは詳しく教えてくれなかった…………莉緒から聞いた方がいいって言われて」
先生からは確かに話を聞いた。でも、もう1人の莉緒の事は話してくれなかった。もう1人の莉緒が居ることは教えてもらったが。そのほかの事を聞いても話を逸らされて聞けないし、莉緒のお母さん達に聞こうと思ってももう居ない
『私も先生と同じ意見かな。これに関してはマスターから聞いた方がいいよ』
「……もしかして私がまた」
『ううん。まふゆちゃんは関係ないよ。でも…………………1つだけ教えてあげるのなら、マスターは人を殺してる』
「……え?」
『それも大勢の人をね』
私はミクが言った言葉が理解出来なかった。莉緒が人を殺した?あの優しい莉緒が人を。そんな訳ない。だって、莉緒は誰よりも優しくて。誰よりも
『まふゆちゃんが信じられないのも仕方ないよ。それがもう1人のマスターの……………本当の朝日莉緒がやった事だから』
「教えて………お願いだから」
『無理だよ。これを話したらまふゆちゃん、絶対にマスターを見る目が変わるし』
「変わらない。私はどんな莉緒でも受け入れる……」
『じゃあさ。もし、本当のマスターが出てきた時にまふゆちゃんを殺そうとしたらどうする?それはもう何も抵抗できないまふゆちゃんを無惨に刺していって、死体もバラバラに』
「別にいい」
『っ!?』
私はミクの言葉で怯えたり怖くなったりしない…………正確にはよく分からないけど、莉緒が私の事を殺したい程に憎んでるのは分かってる。それも、私が原因でなった事だから私が殺されるのは仕方ない。でも、それから逃げてたら私は莉緒から逃げる事になる。莉緒は逃げずに私と向き合ってくれてる。本当は莉緒の方が辛いのに
「私は莉緒だったら殺されてもいい。どんな無惨な死に方でも。死体をバラバラにされても私は莉緒を恨んだりしない。だって、それほどの事を莉緒にしちゃったんだから。だから、話して」
『まふゆちゃんは本当に凄いよ。なかなかここまで絆が深い人は居ないからね……………うん。じゃ、話してあげるね』
ミクはそう言うとパソコンが急に光出して私は咄嗟に目を閉じる。そして、次に目を開けると前に来たセカイにやってくる
「久しぶりだね。まふゆちゃん」
「うん。久しぶりミク」
ミクは私に近寄ってきて笑顔を見せてくれる。その笑顔はどこか莉緒を思い浮かべる笑顔でとても懐かしく感じる
「じゃ、どこから話そうかな。でも、長くなるとあれながら転々と話していくよ?」
「うん」
「えっと、マスターが虐められてた事は知ってるよね?」
「……うん」
「大丈夫。そんなに自分を追い詰めなくていいからね」
私は話を聞こうとは思っているが、どこか耐えきれない自分が居るのかな。少し心がモヤモヤしてくる。何かが溢れ出てきそうな
そんな私をミクは見て、優しく手を握って言ってくれた。莉緒もよく辛そうな私の手を握って笑ってくれたし。やっぱりこのミクは莉緒の想いから生まれたんだって思う
「本当のマスターは虐めてた子達に精神的な攻撃をしたんだ。それは私には分からないんだけど、自殺をほのめかすような攻撃」
「本当の莉緒」
「うん。先生やマスターはもう1人の自分って言ってるけど。今のマスターが作られたもう1人のマスターなんだよ」
「……じゃ、今までの莉緒は」
「本当のマスターでは無いかも」
「……」
「でも、本当のマスターの気持ちや意思はちゃんと持ってるから本当のマスターって言っても間違いでは無いんだけどね」
「……うん」
ミクの話が少し分からないけど、ミクに手を握られているとどこか安心するし。本当の事を言ってるって分かる。なんでだろう
「今のマスターはその事を知らないんだけど、精神的な攻撃をした後にその子達はまた普通に虐めを始めた」
「待って。攻撃をしたんなら」
「精神的だからね。肉体じゃない。だから結局、マスターが卒業するまで虐めは続いた。でも、卒業式の日にマスターを虐めていた子達が全員、学校の屋上から首を自分で切ってから飛び降り自殺………」
「そ、それって」
「ニュースにもなったみたいだね」
中学時代。その事がニュースで取り上げられていた。原因不明の自殺。警察や学校側は理由は分からないままで結局は自殺で処理されていたけど、まさか莉緒が関係してたなんて
「怖い?」
「……怖くない。続けて」
「うん。なら続けるね。元々、今のマスターは本当のマスターを抑えるために作られたの。だから、簡単に言うと鎖かな」
「鎖……」
「だからマスターが人を直接は人を殺してはない。でもね、本当のマスターは鎖を壊す為に今のマスターに声をかけて壊そうとしてるの。その事件の事でね」
「だから、あの時」
確かによく莉緒がニュースで殺人事件や人が死んだニュースを見るとたまに呼吸が荒くなる事があった。それに別人に切り替わったような感じも。でも、まさかそんな事があったなんて気づかなかった
「だから、今のマスターも辛いと思う。覚えてないからこそ本当に人を殺したんじゃないのかって。鎖の私が人を殺しちゃったの?って。ううん。そもそも今のマスターは自分が鎖だって分かってないかもしれない」
「ど、どうすれば莉緒を救えるの?」
「常識のないマスター、常識のあるマスター。この2人が手を取り合う事は多分無いと思う。まふゆちゃん達がどれだけマスターを助けたい、救いたいって思ってもそれは無理かな」
「私達じゃ無理…」
「でもね。一つだけ方法はあるよ。でも、それはまふゆちゃんにとってもマスターにとっても辛い事」
「何?」
「どっちかを選ぶ事だよ」
ミクは少し悲しそうにして言ってきた。でも、多分どっちかを選ぶって事は選ばれなかった莉緒は消えるって事。どの道、本当の莉緒を見捨てる事になる
すると、ミクは私から離れて空を見上げる。私もミクと一緒に空を見上げる。そこには雲ひとつないほどの快晴。見ててなんか吸い込まれそうな程に青い空だ
「このセカイは今のマスター。つまり、作られたマスターの想いで作られたの。あの部分を除いてね」
ミクはそう言って遠くの方を指さす。その場所には黒い塊みたいな物が浮かんでいる。私はその塊を見て莉緒が話していた事を思い出す
【ガンの腫瘍がね。黒い塊に変わったの。で、その黒い塊のせいでこの黒化が】
あの黒い塊ってもしかして莉緒の中にある塊と同じものなのか。私は分からなくなりミクに聞く
「ミク、あれのせいで莉緒は」
「それが分からないの」
「え?」
「あれが本当のマスターの想いで作られたって言うのは分かってるんだけど。でも、今のマスターも本当のマスター。だから、どっちの想いなのかが分からないの」
「でも、今の莉緒は」
「作られたマスター。でも、想いは同じなの」
「想い?」
「本当のマスターも今のマスターの想い。それは、幸せな日々を過ごしたいって想いだよ」
幸せな日々を過ごしたい。莉緒のお母さんが亡くなった時、莉緒が私に言った言葉だ。どうして私の家族が。私はただ、幸せな日々を過ごしたいだけなのに。あの言葉はよく覚えている
「幸せな」
「そう。でも、だからってあそこには近づかないでね。呑み込まれそうになるから」
「呑み込まれそう?」
「うん。あの近くに行くと、マスターの負の感情全てが流れ込んでくるの。前に私はマスターの事を知りたくて近づいた。その結果」
ミクはそう言って左腕の袖を捲って腕を見せてきた。私はミクの腕を見て言葉を失う。だって、ミクの腕は莉緒と同じく黒化が起きていたからだ
「呑み込まれそうになっちゃって。何とかリン達のおかげで戻ってこれたけど、この黒化が出始めちゃった」
「……莉緒の負の感情」
「マスターにも同じ黒化があるけど、精神的なのかもまだ分かってない。あの塊が消えたら消えるのかもしれないけど、それも分からない。負の感情だけど、幸せな日々を過ごしたいという想い。マスターはきっと1人で悩んでるんだと思う」
「…」
「でも、まふゆちゃんは絶対に行ったらダメだからね。これはマスターと約束してるから行こうとしたら無理矢理でも止めるから」
「分かった。近づかないようにする」
「うん」
それからミクは莉緒の事を丁寧に話してくれたが、私はずっとあの黒い塊の事が気になっていた。それに、ミクの腕の黒化。そして、莉緒の腕と左手の黒化。何か関係があるのかもしれないけど、それは今は分からない
結局、黒化については分からなかったけど。ミクは絶対に莉緒が帰ってくる事を確信してる事は分かった。それと、莉緒の想いも
「莉緒を助けるには選ぶ…」
「うん。あとは、可能性はゼロに近いんだけど。今のマスターと本当のマスターがお互いに和解して1つになる事が1番いいんだけど、それは多分」
「それにはどうすればいいの?」
「マスターと関わった人達との思い出を強くする事。本当のマスターに人と関わる楽しさと人を信じる事を教えられたら何とか」
「そう」
今の莉緒がよく言ってるみんなを信じてるからとか。知り合いと関わるのは好きなんだよねって言うのは全て嘘では無いけど、半分は思ってなかったんだ。それに気づけなかった私は
「私達もマスターを助けたいって思ってるから、何か手伝える事があるのなら言ってね。リン達を無理やり連れてくるから」
「なんかその感じ、莉緒みたい」
「私はマスターから作られたからね。だからマスターに少しは似てるかもしれないね」
「うん」
「とりあえず、今日はここら辺で終わった方がいいね。だいぶ話をしちゃったから、まふゆちゃんも帰らないと行けないし」
「そうだね。ねぇ、また明日も来ていい?」
「うん!いつでも来ていいよ!あ、それじゃまふゆちゃんの携帯からでもこのセカイに来れるように」
「ううん。それは大丈夫」
「そう?」
「莉緒の家で。莉緒の部屋からこのセカイに来れる事に意味があると思う」
「そっか。ならまた明日ね」
「うん。あ、でも。どうやって帰ればいいのかな?私、莉緒のスマホとか持ってきて」
「それなら大丈夫。目を瞑って」
「分かった」
私はミクに言われた通り目を瞑る。そして、しばらくしてミクの声が聞こえなくなったから目を開けてみるとそこは莉緒の部屋だった
「戻ってこれた」
『あ、ごめん。目を開けていいよって言うの忘れてたよ』
「大丈夫」
『じゃ、今日はもうさよならだね』
「うん。また明日来るよ」
『楽しみにしてるね!』
「それじゃ」
私はそう言って荷物を持って莉緒の部屋から出ようとする。その際にパソコンを見ると手を全力で振っているミクが見える。私はミクに対して軽く手を振ってから部屋を出た