ニートな元魔王には、働けない理由がある!~無職元魔王、VTuberとして働こうと決意する~ 作:霧夢龍人
「おい遠魔、お前そろそろ働いたらどうだ」
「私達のお金も無限じゃないのよ?」
今日の朝、固く閉じたドアの前で両親が俺に働くように言ってきた。
あぁ、確かに世間一般では俺のように外に出ずに、親の脛を齧るばかりのろくでなしの事をニートと呼ぶのだろう。
だが──だが聞いてほしい。
俺だって働きたい。
ここまで俺の事を大切に育ててくれた両親には感謝しているからだ。
しかし、俺の仕事は自宅警備員。
俺が外に出てしまったら、何もかもが終わる。
ふざけてる?俺もそう思う。
誰が思うんだよ。
俺ん家の下が──ダンジョンだなんて。
大事な事だから二度言おう、俺の仕事は自宅警備員だ。
具体的には、家の下に出来たダンジョンを攻略しつつ、ダンジョンの中に存在するモンスター達が外に出ないようにする事だ。
モンスターと言うのは、RPGで良く見る形態のゴブリンやオークの事。勿論ドラゴンだっている。
正直、“前世の魔王”の知識がなければ危ないところだった。
因みに魔王の知識があるだけで、記憶はない。だから、前世の名前とか顔とか性別は全く覚えていないのだ。
「あ、あー、ごめん父さんと母さん!今ゲームしてんだ。だからあ、後にしてくれないか・・・?今手が離せないんだ」
恐らく扉の向こう側で、かんかんに怒っているだろう両親に、なんとかそう嘯いて誤魔化す。
「全くお前という奴はッ!!」
「もういい加減になさい・・・はぁ、この後お父さんと私出掛けてくるから」
「わ、わかった!」
滅茶苦茶怒られた。とはいえこれはしょうがない。それに、わざわざ外に出て謝る余裕なんてないのだ。
「ブモォォォ!!!」
まさに猪突猛進。
筋肉だらけの巨躯に、豚の頭。
くっころ騎士さんでお馴染みオークさんだ。
あ、お世話になってます。
「ッ!?な、なんだ今の声は!」
「貴方一体何してるの!?大丈夫!?」
どうやらオークの鳴き声が聞こえてしまったようだ。
・・・不味い、非常に不味い。
「あ、あぁ、ゲーム音だよ!いやぁゲーム楽しいなぁ!はは!」
「ブモォォォ!!!ブ、ブモォォォ!!!」
「近所迷惑だ!全く・・・」
「ふざけるのも大概にしなさい!全く・・・」
そう言い残すと、両親は音を立てながらトントントンと階段を下っていった。
・・・はぁ。
正直、俺ももうそろそろ働かなければいけないとは思っている。
が、しかし、もしも五時間も外に出てしまったら、ダンジョンからモンスターが這い出てきてしまう。
俺だって働きたい。
こんな俺を育ててくれた両親には感謝しているし、親孝行といえるようなものも出来ていない。
「ブモォ!ブモォォォ!」
「あぁもう煩いんだよおまえぇ!」
ドゴンと蹴りを一発、さっきからブモブモと煩い声の主であるオークに向けて放つ。
───コイツらがいるから外にすら出れないんだよなぁ。
「あーあ、何処かに家の中にいながら出来る仕事とかないかなぁ・・・まぁ、あるわけないか」
そう結論をつけつつ、オークを何時ものようにさくっと倒す。後はアイテムボックスに仕舞えば完璧だ。
普通とは程遠い、そんな非日常的な光景。
ダンジョン、モンスター、魔王。
誰にだって一度は考えるだろう。勿論俺だって考えていた。
魔王の知識を思い出すまでは───だが。
思えば、どうやって思い出したのかさえ覚えていない。が、魔王の知識を思い出すタイミングで、ダンジョンからモンスターが這い出てきたのだ。
偶然では片付けられない。
そう幼いながら考えた俺は攻略を開始した。
そしてはや十年。
結果は言わなくてもわかるだろう。
俺は青春を全て捧げて、ダンジョンの攻略に勤しんだ。初めは驚きの連続で楽しかったが、三年程で飽きが見え初め、七年で諦め、九年で這い出てくるモンスターだけを狩るようになってしまった。
青春を生け贄に戻らない時間を失くした。
───あぁ、完全に無駄な骨折りだった。
人知れずモンスターを倒すとか正直もうどうでもいい。そんなのは正義の塊みたいな奴に喜んで譲る。
俺はただ・・・ただ友達を作りたかった。
勉強したかった。
部活に打ち込みたかった。
恋愛とかも───出来ればしたかった。
しかしもう戻らない。
中学も高校も行けなかったから、働くつたでもない。
「完全に詰みじゃねぇか」
と、誰が聞くでもなくボソッと呟くき、椅子に腰をおろす。明日もまた這い出てくるモンスターを倒して、その 次の日も、また次の日も同じことを繰り返す。
何処まで続くんだ、この地獄は。
「はぁ・・・もしかしたら一生抜けられないかも、なんてな───ん?なんだこれ?」
何気なくMeTubeを開いたら、VTuberの三期生を募集するという広告が目についた。
提供元は大手会社であるVERTICAL MINI STOP。略してVMS。
ライバル会社であるAnother Youや、ヨンロクジュウ!、ONE ステップ すてーじと並んで四天王を築き、有名どころで言えば、
そんなVMSが三期生を募集・・・これは熱戦になるな、間違いなく。
「・・・ん?待てよ?VTuberって・・・今の俺にとってかなりの天職じゃないか?」
考えてみれば、うちにいながらでも出来る、人気になればスパチャだって貰える・・・まぁ、人気になるのが一番難しいんだが。
取り敢えず応募してみよう。
もしかしたら、今の生活も何か変わるかもしれない。
そう願って、俺は「応募」のボタンを押した。