エンティティ様が異世界を侵略するようです   作:碧眼の黒猫

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第一章 霧の世界からの訪問者
お出かけ


 山の森から逃げてきた魔法使いの少女の情報で山の近くにある街ではちょっとした大騒ぎになっていた。

 

 少女の持ち帰った大きめのフックに着いていた血は人間のものであることがわかり、ギルドから捜索隊が出されるも痕跡一つ発見されず、山の森へと山菜狩りや害獣駆除に出た冒険者達が次々と行方不明になっていることからギルドの幹部達は頭を悩ませていた。

 

 そして、会議で森に立ち入ることを禁止することが決まり、捜索も中断して少人数で山へ入ることは一切禁じられることとなった。

 

 それから半年後、山に誰も入って来なくなったことで新鮮な魂を食べられない事に怒ったエンティティは、森に立ち入り、見事生還した少女が営む道具屋に目をつけた。

 

「ふむ、体は……まだ手の先と足の先が人間ではないが、問題ないだろう」

 

 これまでに喰らってきた魂のおかげで人間に近い姿になることができたエンティティだったが、背中から生やした蜘蛛の足に目を着けて、自分の体を見ている時に目の部分が人間ではないことに気が付き、手を顎に置いた。

 

「うーむ、まだまだ魂が足りぬか……」

 

 自分の体を見て、手足の肘や膝から先が黒く、指はまだ蜘蛛の足に見えることに頭を悩ませるエンティティ。

 

「面倒なものよな。うむ、人間の言葉を使い、姿を似せ、女神である妾がここまでするのだから、美味な魂が一つや二つ、褒美として与えられてもおかしくなかろうに……」

 

 人の言葉など使ったことがないエンティティは不満を言いながら、誰も入ってこなくなった森のことを思い出して不機嫌になる。

 

「儀式に使う人間の魂よりも新鮮ではあったが、まだまだ足りぬ。怒りに身を任せて異世界の魂など求めてしまったが、これはこれでよい。今までは少しずつ招いていたが、立派になりすぎて魂を喰らえないのではな」

 

 エンティティは自分の手を動かし、人間と同じように動かせることを確認してからエンティティは霧の世界から異世界へと移動し始める。

 

 エンティティは森の中を移動しながら自分の体を確認し、全裸である自分の体にどんな服装を着せるか悩み、数十分ほど考えて出した答えは目立たぬ服装として少女が身に着けていたローブと下には見えても違和感がないと判断したシャツとジーパンを身に着けた。

 

「ふむ、ドワイトとメグの服を借りたが……これで問題なかろう」

 

 服をローブで隠し、人間の目に見えない目は髪とフードで隠し、森を抜けたエンティティは遠くに見える明るい街を目指した。そして、山を下ってエンティティが街の城門にたどり着いた時、問題が起こった。

 

 身長が成人の男よりも頭一つ以上に高かったのだ。

 

 2mを超える身体は人間界では珍しく、門番の男達はエンティティを見上げて引きつった顔をしていた。儀式で使う生存者達と同じ身長にすれば良かったと後悔したエンティティだったが、やってしまったことは仕方ないと割り切り、街に入ることを考えた。

 

「あ、あの……」

 

「街に入りたい、入れてはもらえぬか?」

 

「え?え、えぇっと……何処から来たのか教えてもらえると……」

 

 エンティティは喰らった魂の記憶から遠い街の名前を言って入れてもらうことにした。

 

「フロイド王国」

 

「フ、フロイド王国?馬車も使わずに?」

 

「うむ、この背丈では乗れなかったのでな」

 

「あ、あぁ…なるほど……身長が高いと苦労するんだな。どうぞ、中へ」

 

 門番は門にある扉を開け、中へ入ることを許可するとエンティティは腰を折り曲げて扉をくぐる様に入っていった。街へ入ることができたエンティティは道具屋を目指して歩き始める。

 

 街を歩く人間達の顔を見渡しながら進んでいたエンティティは、希望に満ちた魂の数々を目の当たりにし、自然と笑顔になっていた。あまりにも美味しそうだったからである。

 

「ふふふ、良い魂がこんなにも……。良い街だ」

 

 エンティティは輝いた魂達を横目に見ながら、目的の道具屋前にたどり着くと扉のレバーを押し下げて中へと入っていく。店内には森に来た少女ではない、少女が店番をしていた。

 

「いらっしゃま…お、大きい……」

 

 エンティティの身長に驚きを隠せない少女は思わず、思ったことを口に出してしまい、エンティティを見上げた。

 

「ふむ……お前はフィリアの友達…ローズか?」

 

「え?あ、は、はい……そうですけど……貴女は?」

 

 エンティティはフィリアの仲間だった二人の記憶から友人のローズか確認すると、腰を曲げてローズが顔を見上げなくて済むようにして顔を合わせた。

 

「フィリアに会いたい。どこに居る?」

 

「……誰かも分からない人に教える気はありません」

 

 エンティティは悩んだ。ローズは自分に対して不信感を抱いている。彼女に説明するにしても良い説明が思い浮かばない。店の窓にはカーテンがあるが突然閉まれば当然怪しまれる。

 

 面倒になったエンティティは、目の前にいるローズを無視して二階から感じる魂の元へと向かうことにした。

 

「この店の二階か。上がらせてもらう」

 

「ちょ、ちょっと!勝手に入って来ないでください!」

 

 カウンターの横を通って階段を見つけたエンティティは階段を上っていくと、後ろから止めようとローブの上から手首を掴んできたローズに顔を向ける。

 

「駄目です!貴女が誰か知りませんけど、今は駄目なん…です!あぁっ!!」

 

 彼女の言葉にエンティティは耳を貸さず、階段の上へ顔を向けて階段を登っていくと、ローズは力任せに引っ張ろうとして階段から転げ落ちて一番下まで落ちていった。

 

 二階に上がったエンティティは3つある扉の内、奥側にある部屋へ向かい、部屋の扉を開けると壁際にあるベッドで寝ているフィリアの姿がそこにあった。

 

 ローズが騒いでいたことで目を覚ましていたらしく、部屋の扉を開けたエンティティとベッドで寝ているフィリアの顔が合う。

 

「誰?」

 

「随分と弱っているようだな。それでは喰らっても美味しくない」

 

「喰らう?……貴女、何者?」

 

「お前が入ってきた森、そこで魂を喰らっていた女神だ。アイクとフリックのことは忘れてしまったのか?」

 

 親しい二人の名前を聞いた途端、フィリアはベッドから飛び起きると目を見開いた。

 

「貴女が……あの……怪物を呼んだの?」

 

「トラッパーは妾の部下だ。久々の大収穫で喜びのあまりフリックを殺してしまった。まったく、フックに吊せと言っていたのに…。まぁ、一人くらい褒美として処刑させても良いだろう」

 

 フィリアは怯えた顔でエンティティの顔を見ていると、エンティティは不機嫌そうな顔でフィリアに近付いていく。

 

「こ、来ないで…」

 

「ふん、あの時のように仲間を見捨てないと言う気持ちは素晴らしかった。輝いていた魂も今では絶望に支配されていて輝きを失ってしまっている。お前、最近になって自殺などを考えているな?」

 

「来ないで…来ないで!」

 

 フィリアは近くの物をエンティティに投げつけて追い払おうとするが、フィリアの近くまで来たエンティティに両手を蜘蛛の足で拘束されて、身動きが取れなくなる。

 

「フィリアよ、彼らはまだ生きている。あの森で、助けが来るのを待っている」

 

「嘘……嘘よ……」

 

「本当だ。お前が妾に協力さえしてくれれば、彼らにまた会わせてやろう」

 

「……本当に生きているの?」

 

「うむ、生きているぞ。妾は気に入った魂は生かしておくからな」

 

 エンティティの言葉を聞き、エンティティの目に映る彼女の魂が小さく輝き出す。

 

「……何をすればいいの?」

 

 彼女の問いにエンティティは微笑み、ローブの袖で隠れていた手を出してフィリアの頰を撫でる。そして、顎を指で持ち上げて顔を向けさせる。

 

「何もしなくてよい。この店に妾を置いてくれれば、それでよい」

 

「それで本当に二人に会わせてもらえるの?」

 

「うむ、約束は守ろう」

 

「……わかった。でも……部屋が空いてないから…」

 

「自分で作る。心配しなくてよい」

 

 エンティティは拘束を解き、微笑みながらフィリアに背中を向けると部屋の扉を一度閉める。扉の隙間から黒い霧が漏れ出すとエンティティは扉を開けて黒い霧の中へと入っていき、扉のレバーに手を置いた。

 

「明日、また会おう。フィリア」

 

 エンティティはそう言い残して扉をゆっくりと閉め、閉まった扉の隙間から黒い霧が消えると勢い良く扉が開く。

 

「フィリア!」

 

「ローズ…」

 

「あれ?……あの背の高い女の人は?」

 

 部屋に入ってきたローズに起こったことを説明するフィリア。ローズはエンティティの言葉は罠だと、フィリアを説得しようとするが、彼女は二人が生きている可能性を否定できず、ローズと言い争いになった。

 

 その言い争いをエンティティはすぐ近くで見守っていた。




割とエンティティ様がポンコツになってしまいそうで怖い……
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