エンティティ様が異世界を侵略するようです   作:碧眼の黒猫

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普通の人間の殺人鬼

 エンティティは朝から不機嫌になっていた。

 

 原因はナイトメアがフィリアに悪夢を見せたことで、フィリアが怯えて寝不足になっていたからだった。エンティティは彼女になるべく生きるための希望を与えなければならなかった為、二階にある調理場でカニバルに肉料理を作らせていた。

 

 もちろん、人間の肉ではなく豚や牛などを使った普通の人間が食べる肉料理である。

 

「うむ、流石に慣れているな。これなら喜ぶだろう」

 

 エンティティは出来上がった料理を味見して確認をすると、エンティティの反応に喜びの声を上げながら料理を持っていこうとするカニバルの肩をエンティティは掴んで止める。

 

「待て、お前の顔を見たら更に怯えるだろう。スージーに持って行かせる」

 

 自分の手で料理を持っていけないことに落ち込むカニバルから料理が乗った皿を渡してもらい、エンティティは霧からリージョン、スージーを呼び出した。

 

「スージー、これを奥の部屋へ持っていけ。できるなら仲良くしてやるといい」

 

「えっ?は、はぁ…?わかり…ました……」

 

 突然呼ばれて料理を押し付けられるように渡されたスージーは、状況をよく理解していないまま言われた通りにフィリアの居る部屋へ料理を持っていき、扉の前でノックをしてから部屋へ入る。

 

 部屋に入ったスージーが最初に見たのは、毛布を頭から被って両足を抱えているフィリアだった。スージーは料理を近くにあった机に置き、フィリアに目を向けると少し目を離した隙に彼女は毛布を深く被って顔を隠していた。

 

「あ、あの……冷めちゃう前に食べた方が……いいよ?」

 

 ぎこちなく話しかけたスージーに返事が帰ってくることはなく、空気が悪いことを感じ取ったスージーは逃げるように扉へ向かうと後ろから突然抱きつかれた。

 

「えっ!?な、なに!?」

 

 突然のことに驚いたスージーだったが、抱きついてきたフィリアはすぐに離れると彼女の手にはスージーの愛用しているナイフがあった。

 

「あっ!ダメ!私が作ったナイフ!」

 

 スージーはすぐにナイフを取り返す為に駆け寄り、彼女がナイフを喉へ突き刺す前にフィリアの手首を掴んで揉み合いになる。

 

「離して!もう嫌なの!」

 

「返して!それ作るのに色々と苦労したんだから!」

 

「死なせてよ!邪魔しないで!」

 

 スージーは必死にナイフを取り返そうとするが、見かけによらず力が強いフィリアからナイフを奪い返すことができず、二人は足が絡まって床に大きな音を立てて倒れる。

 

「いたた……」

 

「スパークショット!」

 

「へっ?」

 

 フィリアの上に倒れていたスージーは起き上がろうとしているところを至近距離から彼女の魔法を喰らい、体中に電流が走る感覚を感じながら扉まで吹っ飛ばされ、その拍子にスージーの仮面が取れた。

 

「は、はは…あう…び、ビリビリしゅるひょぉ……」

 

 扉に叩きつけられたスージーは数秒程動けなくなり、その間にフィリアが彼女に近付き、スージーの顔を恐る恐る覗き込む。

 

「人間…?」

 

「は、はひ…?」

 

 顔を覗き込んできたフィリアの一言にスージーは痺れて呂律の回らない口で反応すると、フィリアは焦りを見せた。

 

「ご、ごめんなさい!今、治すから!」

 

「ら、らいひょうぶ。たいひたころないきゃら…」

(だ、大丈夫。大したことないから…)

 

 フィリアはスージーの体に手を当てると彼女の手から光が溢れ始め、スージーの体を完全に動けるまで回復させた。スージーの体が問題なく動けるようになると、フィリアはスージーの手を取り、ゆっくり引っ張り上げて立たせて落ちていた仮面を拾ってスージーに渡した。

 

「ごめんなさい、また…怪物が来たのかと思って……本当にごめんなさい」

 

「あ、ええっと……だ、大丈夫…んー…あ、ちゃんとご飯は食べてね。食べないのは体に悪いから……そ、それじゃあね!」

 

 スージーは落ちていたナイフを拾い上げ、扉を開けると逃げるように部屋から出ていった。

 

「あ……」

 

 部屋に一人取り残されたフィリアは、自分がしてしまったことを後悔し、下を向いて自分の手を見た。

 

「思わず魔法使っちゃった……。嫌われたかな…?はぁ……」

 

 大きくため息を吐き出した彼女は、スージーが持ってきた肉料理に目を向けるとフィリアのお腹が鳴り出す。

 

「お腹減った…」

 

 フィリアは空腹を満たすため、肉料理が置かれた机の近くに椅子を用意し、椅子に座って皿に乗せられたフォークを使って数種類の肉が山のようになっている料理に手を付ける。

 

「朝から肉を食べて平気かな…」

 

 料理を頬張りながら食後に気分が悪くならないか心配するフィリアだったが、次々と肉を頬張っていき、料理を食べ終える頃には腹を満たしたことで幸福感に満たされていた。

 

「すごく美味しかった。それに、不思議と気持ち悪くならない。あの人が作ったのかな…」

 

 しばらく椅子に座って食後の休憩をしたフィリアは、皿を片付けようと思いつつも眠気に襲われて机に突っ伏すようにして夢の世界へ落ちてしまう。

 

 眠った彼女の背中にローブがかけられ、皿は宙に浮くと音を立てずに開いた扉から静かに出ていき、ゆっくりと扉が閉まる。

 

 それから夕方になるまでフィリアは起きることはなく、その間にギルドから届いた手紙をエンティティはフィリアの断りもなく勝手に手紙の内容を読んでいた。

 

「フフフ……もう気付いたのか。どうやら優秀なようだな」

 

 手紙の内容は夜の裏路地にて消える人々が多く、裏路地には近付かないようにという注意喚起だった。

 

「人気のない場所だからいいと思ったのだが、まあドワイト達も誘い込んだ時に少し騒ぎがあったのだから、気にすることではないか」

 

 手紙を元通りにしたエンティティはカウンターに手紙を置き、扉を開けて雨が降っている昼間の街に出ていった。2時間程でエンティティが店に戻ってくる頃、とある裏社会の組織が忽然と姿を消し、その組織が使っていた建物からは人だけが消えていたという話がギルド内で広まっていた。

 

 店に戻ってきたエンティティは目がしっかりと人の目になっており、手足はまだ黒いままだったが身長も少し低くなって人間に近付いた姿になっていた。

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