フィリアとリージョンが店を閉めているとエンティティが二階から降りてくる。二階から降りてきたエンティティに全員が目を向けるが、エンティティは誰とも目を合わせずに店の扉を開けて外へと出ていった。
「アイツ、何処に行くつもりだ?」
「まさか、人間の食いもんを食べに出かけたわけじゃないだろうな」
「そろそろ夕食の時間、だけどアイツが食うのは人間とは違うものだからね。気にしても仕方ない、私達にはアイツの考えてる事なんてわからないんだから」
「あの……エンティティは、何を食べているんですか?」
フィリアの質問に全員が黙っているとフィリアの後ろに居たスージーがフィリアの肩に手を置いた。
「私達は何も知らない。それより、これから夕食なんでしょ?何か美味しい物を教えてよ」
「そうだな。スージーの言う通り、美味いもんが食いてぇ」
フィリアの質問にリージョンは答えず、誤魔化して夕食のことを話し出した。フィリアは誤魔化されたことに気付いてはいたが、実はエンティティの食事のことよりも彼らがエンティティの食事について答えてくれるのかという疑問から聞いたことだった。
彼女はエンティティが何を食らうのか、彼女は知っていた。
『お前が入ってきた森、そこで魂を喰らっていた女神だ』
エンティティと初めて会った時に言っていた言葉を思い出し、フィリアは背筋が寒くなるのを感じた。彼女はすぐにエンティティの言葉を誤魔化すように、リージョンに気に入っている料理のことを話して忘れようとする。
しかし、しばらくは彼女の頭からエンティティの言葉が離れることは無かった。
フィリア達が夕食の話をしている頃、エンティティは街から離れた場所にある廃城へ向かおうとしていた。エンティティが城へと向かう理由、それは魂を食らった人間の記憶から魔王軍の幹部が住み着いたという噂が気になったからだった。
エンティティが気にしているのは人間に近い知性を持った怪物の魂は美味しいのか、不味いのかだった。異世界の魂を喰らってからも空腹を満たせず、上質な魂を求めていたエンティティは人間だけではなく魔族にも目を付ける。
「さて、この辺りならば見られる心配はないだろう」
人気の無い裏路地で人の形をしたエンティティは姿を黒い霧へと変えていき、黒い霧が周りに散ると人型だったエンティティは姿を消した。
次にエンティティが人型となって現れた場所は廃城のすぐ近くだった。廃城を見上げたエンティティは小さく唸り声を出した後、廃城の中へ入って行った。
エンティティが階段を上って最上階へ行き着くとボロボロの部屋には似つかわしくない綺麗で豪華な装飾が施された椅子とテーブルが置かれていた。
「ほぉ……どこの魔族だ?ここが我が城と知って入ってきたのか?」
椅子には人間によく似た男が椅子に座り、紅い液体が入ったコップを手に持っていた。エンティティはほんの一瞬だけ見えた鋭い歯から、相手が吸血鬼であることを悟る。
「お前が魔王軍の幹部か?」
「うん?貴様、我の質問には答えず質問を返すのか?」
「ここがお前の城かどうかなど知らぬ。噂を聞いてきただけのこと。妾は質問に答えた。次はお前だぞ、吸血鬼」
「身の程を弁えよ。貴様、上の者に対する言葉遣いがなっていないようだな」
「……お前、面倒だな」
エンティティの一言に吸血鬼は黙ったままコップをテーブルに置き、椅子から立ち上がるとエンティティの目の前まで近付いていくとエンティティの頭を強く鷲掴みにする。
「貴様、口を慎め…」
「妾は面倒が嫌いだ」
エンティティの頭を掴んでいた吸血鬼の腕が霧に包まれていき、吸血鬼は霧から逃れようとエンティティの頭を離して距離を取った瞬間、足元に現れた霧から蜘蛛の足が現れ、避ける暇も与えずに吸血鬼の心臓を貫いた。
心臓を貫かれた吸血鬼は何が起きたのか理解できない内に蜘蛛の足によって首の骨を折られ、脳天を鋭い爪先で貫かれた。
息絶えた吸血鬼の体が黒い霧となって床に広がるとエンティティの足元に霧が集まり、エンティティの足に霧が吸収されていく。
「ふむ、何か苛立っていたと思えば実力が認められず、こんな廃城に飛ばされた事に納得していなかったからか」
エンティティは置かれていた椅子に向かい、椅子の周りを歩きながら眺めた後、テーブルに置かれているコップに目を向ける。コップを持ち上げて液体を口へ運ぶとエンティティは液体を全て飲み干した後、コップを霧で包んだ。
「この液体、人間と動物の血が混ざった物だな。記憶を見るに吸血鬼の中では珍しい趣味の持ち主だったらしい。まあ良い、ここにあるものは高く売れそうだ」
部屋にあった物が霧に包まれていくと部屋は一瞬にして殺風景なボロ部屋になり、隙間から入ってきた風が部屋の埃を舞い上げる。
「さて、これでここに用は無くなったが……主人を見捨てて生き残った者はどうするか」
エンティティが囁くように独り言を言っているとエンティティが入ってきた扉の向こうから石の転がる音が耳へと入ってくる。
音が聞こえた瞬間に素早く振り返ったエンティティは霧へ姿を変えると部屋を出て逃げた獲物を追いかけた。窓から飛び降りようとしている獲物を見つけ、蜘蛛の足で窓から飛び降りる前に捕まえると体を押さえつけるようにして廊下の床に拘束する。
「な、なにこれ!離せ!」
霧から出ている蜘蛛の足がタキシードを着ている美女を拘束している間、美女の近くで霧が人の形を作り上げると人型のエンティティが現れる。
「妾が入ってきた時、城はとても静かだった。この城の主なら部下を従えていないはずが無い。主人から隠れるようにして……お前は何処にいたんだ?」
「くっ……なんなの貴女は……」
エンティティを睨み付ける美女の頭上に霧から現れた鎌のような形をした蜘蛛の足が現れ、美女の喉元に爪先が当てられると美女が顔を青くさせる。
「そ、そんなことを……されても………何も言うことなんて……」
「何も言わなくても良いぞ。セレス」
自分の名前を呼ばれた美女は目を見開き、顔を覗き込むようにして見ているエンティティと目を合わせる。
「な、何故……私の名前を……」
「妾は魂を喰らうことで魂が持つ記憶を得ることができる。ふむ……どうやらお前は時々、姿を消すことがあったようだな。主人はそれを知ってはいたが、信頼していたからか姿を消しても問い詰めるような事はしなかった……」
「……この……離せ……離して!」
「ふむ………良いぞ。そうした方が面白い」
エンティティはセレスを拘束している蜘蛛の足を霧へ引っ込め、自由になったセレスは地面を蹴って後ろへ飛びながら片手をエンティティに向けて赤い魔法の矢を放つ。
放たれた魔法をエンティティは霧から出した鎌のような形をした爪で弾き、逃げていくセレスを見送った。
「ふぅ……自分でやるのは疲れる。やはり招き入れた方が楽で良いな……」
エンティティは爪を引っ込めて街へ戻ろうと一歩前へ進むと同時に背後から物理的な衝撃を受けて足を止める。
「うん?」
エンティティは後ろを見ようと振り返った瞬間、人型のエンティティの首がズレて床へ落ちそうになり、床に落ちる前に手で髪の毛を掴んで止める。首を元の位置に戻し、首を撫でながら背後から襲ってきた首が無い騎士の全身を見る。
「気が付かなかったな。なるほど、中身の無い使い魔か分身体か」
デュラハンと呼ばれる妖精を目の当たりにし、エンティティは少し悩むような仕草をした後、霧から4つの爪を出してデュラハンに襲いかかる。
爪に襲われたデュラハンは攻撃を避けるか剣で弾いて一気に間合いを詰めてくるとエンティティの懐へ入り込む。懐へ飛び込んで来たデュラハンにエンティティは何もせずに立っているとデュラハンの剣がエンティティの体を切り裂いた。
上半身と下半身が別れたエンティティは上半身と下半身を霧状にしてデュラハンを霧で包み込み、儀式に使う場所に飛ばした。
「不死身と呼ばれている相手だろうと妾の世界では妾が規則だ。その不死の体も糧になる……が正直、魂の無い者は要らぬ。利用しようにも心が無いのでは尋問しても無駄だ。後はエクセキューショナーに任せるとしよう」
エンティティに招かれたデュラハンは見知らぬ場所に立っていた。黒い霧が晴れて周りが見えるようになった時、デュラハンは教室内で武器を持たずに丸腰の状態だった。
サイレンが学校中に鳴り響き、何かが始まった事を告げると廊下から金属を引きずるような音が聞こえてくる。音に釣られるようにして廊下に出たデュラハンは廊下の奥から歩いて迫ってくる何者かの姿を見つける。
三角形に見える大きい被り物をした巨漢の男が、大鉈を引きずりながらデュラハンに近付いてくる。デュラハンに恐怖を感じる心は無い、武器が無くとも戦おうとするデュラハンは男に向って歩を進めていく。
デュラハンが儀式の場に入って来てから数分後、エンティティが魂を喰らう音が学校中に鳴り響いた後、僅かな静寂が訪れた。再びサイレンが学校中に鳴り響くとエクセキューショナーは点滅を繰り返す廊下の奥へと姿を消して行った。
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要らないとか言わないで……
それよりピンヘッドが参戦したので、ヘルレイザーを観ていない&知らなかった作者は扱いに困っております。エンティティ様に呼ばれたと言うより箱だけ現れたみたいだから勝手に来たのかな?