by.フレッド・クルーガー
フィリアが目を覚ますとそこは何処かの幼稚園にある教室だった。周りを見渡すフィリアの耳に金属の摩擦音が入ってくる。フィリアが隠れる場所を探して急いでいると教室の扉が開き、満足に眠ることができなかった元凶の声が聞こえてくる。
「そんなに慌ててどうしたんだ?緊張しているのか?フッフッフ……」
フィリアがゆっくりと振り向いて教室の扉に目を向けると、そこには金属の爪を付けたグローブを右手に嵌めている赤と緑のセーターを着た男が立っていた。
「貴方は…」
男は鉤爪を鳴らしながら教室に入ってくると爪をフィリアに向けて近寄ってくる。フィリアは後退りして男から距離を取ろうとしている内に教室の壁に追い込まれてしまい、男の鉤爪がフィリアの首筋を撫でる。
「安心しろ……殺すつもりはない。今のところはな……」
「何が目的なんですか……」
「知りたいのか?それはな……本来なら奴がやっている儀式の基本を教えることだ」
「儀式の…基本?」
「あぁ、そうだ。今回は特別に……俺が教えてやろう」
男はフィリアの後ろにある壁を強く叩き、驚いたフィリアが一瞬だけ目を閉じると背中を預けていた壁が無くなり、その場で尻餅をついてしまう。
「いたた……ここは…?」
フィリアが目を開けるとそこは教室ではなく、森のような場所だった。周りは岩で囲まれており、唯一進めそうな場所は目の前の窓枠がある壁だけだった。
『夢の世界へようこそ……。フフフ……そこの窓枠を越えてみろ。ゆっくりとな…音は立てるな』
「音を立てたらどうなるの?」
『お前のトラウマになった怪物がお前を狩りに来る。油断すれば、すごく痛い思いをするぞ。ほんの一瞬だけな』
フィリアは言われた通りに窓枠を静かに乗り越え、壁の向こう側へ行くと謎の機械が音を立てながら動いていた。
「これは?」
『発電機、ジェネレーターだ』
フィリアは見たことの無い機械に近寄り、機械を近くで見ていると発電機に付いているチューブから赤い液体が漏れていることに気が付き、驚いて機械から離れる。
「こ、これ……これは……血?」
『発電機を直せ。それを直さないと陰湿なこの世界から抜け出せないぞ…』
「な、直せと言われても直し方なんて分からないわ」
『残念だな。俺は直し方を知らない、適当に触ってみたらどうだ?』
「そんな…」
直し方もわからない機械に触れることを躊躇うフィリアだったが、少し息を吸い込んでからゆっくりと息を吐き、心を落ち着かせたフィリアは機械に触れて慎重に修理を始めた。
修理と言っても触ることしかできないフィリアはレバーやチューブ、発電機の配線を触ってみたりなどしかできなかったが、元々動いていた発電機の動きが更に激しくなり、次第に強くなっていることを感じ取ったフィリアは触るだけの作業を続ける。
フィリアが触り始めてから十数秒後、発電機は激しく動き出すと発電機から伸びている照明が点灯し、フィリアを頭上から照らした。
「点いた!……でも、これどういう仕組みなの?」
『発電機を直せたようだな…フフフ、その調子だ。先に進むんだ』
原理が分からない発電機のことを不思議に思っていると声が空間に響き渡り、フィリアは言われた通りに先へ進んで窓枠を乗り越え、その先にあるもう一つの窓枠を乗り越えた瞬間、聞き覚えのある音と共に片足に激痛が走る。
「ああぁぁぁっ!!ハァ…!ハァ…!ハァ…ハァ……こ、これ……まさか……」
フィリアは自分の右足を挟んでいるトラバサミから右足を解放しようともがいていると近くの小屋の壁が壊され、一日たりとも忘れたことのない怪物が現れた。
「あ……あぁ……」
フィリアは近付いてくる怪物から逃れようと急いでトラバサミを開こうとするが、力強いトラバサミを開くことができず、フィリアの鼓動が速くなっていくばかりだった。
「お願い…!お願い開いて!…開いてよ!」
かすれ声で必死にトラバサミを開こうとしている内に怪物はフィリアのすぐ目の前まで来ると、彼女が見上げると同時に持っていた肉切り包丁を彼女に向けて振り下ろした。
「がぁっ!?……う、うぅ」
切られたフィリアは地面に横たわり、切り裂かれた胸元から大量の血が噴き出して地面を赤く染めた。
切られた場所が激しく痛み、熱を帯びていく。
フィリアは痛みで気を失いそうになりながら意識を保ち続け、這いずって逃げようとするが怪物が彼女の服を掴むと一気に引っ張り上げて肩に乗せる。
「は……はな……して……」
残された力を使ってもがき、怪物の手から逃れようと力を振り絞って暴れる。怪物の力強い手から逃れられるか不安になりながらも、諦めずにもがき続けていると何かが倒れる音と共に怪物がフィリアを解放した。
急に解放されたことで地面に落ちたフィリアはふらつきながら立ち上がると誰かが怪物に追われて逃げて行くのが一瞬だけ見えた。
「今のは……もしかして誰かが助けに?」
フィリアが後を追って走り出すと怪物が追いかけて行った方向から悲鳴が聞こえ、フィリアは急いで悲鳴が聞こえた方へ向う。向かった先で罠にかかった女性が背中を切られて地面に倒れる瞬間を目撃し、フィリアは息を潜めようと考えていると空間に声が響き渡る。
『罠を踏んだ場合は…おっと、もう言わなくてもわかるだろうな。フフフ……さぁ、次だ。そこの板を倒してみろ』
「板…?壁に立てかけてあるこれのこと?」
『それを倒す事で逃げる時間を稼げるぞ。俺達が正直に割ればな』
「厚みはあるけど……私でも倒すのは簡単にできそうね」
フィリアは言われた通りに板を倒し、倒れた板の上を通って反対側へ行くと怪物が女性を担いで森で見かけたフックに近付くと、女性をフックに吊るした。吊るされた女性は周りに響き渡るほどの悲鳴を上げ、それを聞いてフィリアの手が震え始める。
「大丈夫…大丈夫…」
『あぁ、大丈夫さ……これは夢なんだからな。フフフ…』
男の声に少し苛立ったフィリアだったが、それよりもフックに吊るされた女性の救助を考える。いつの間にか居なくなった怪物を警戒しながらフックに近付いていき、フックに吊るされている女性をフックから解放する為、女性の体を両手で持ち上げてフックから解放する。
「あの……大丈夫…ですか?」
解放された女性はフィリアの質問に答えず、横を通り過ぎて行くと近くにあったロッカーに勢いよく入って行った。
『あれはロッカーだ。隠れたい時は隠れると良い、試しに入ってみたらどうだ?』
「試しにって……でも、少しは調べた方がいいかも…」
フィリアは男の言う通りにすることを躊躇うが、怪物から身を隠す手段なら知っておいた方がいいと自分に言い聞かせてロッカーに近付いて調べ始める。
「中は人が一人入れそうなくらいで、素材は…鉄かしら。あの怪物なら殴って壊せそうだけど、隠れるくらいなら使えるかもしれない」
フィリアはロッカーの扉を開けて中を調べていると背中で殺気を感じ取り、ゆっくりと中へ入って扉を閉めた。
怪物に見つからないように願いながら、扉にある隙間から外を見ていると怪物が一直線にフィリアの隠れているロッカーの目の前にやってくる。その動きに迷いは無く、ロッカーの前に立った怪物とフィリアの目が合う。
「う、うそ……」
勢いよくロッカーの扉が開かれ、怪物に首を掴まれたフィリアは持ち上げられると怪物の肩に担がれる。怪物は振り返るとフックに向って歩き出し、これから何をされるのかを察したフィリアは逃げ出そうと必死にもがいた。
「や、やめて!下ろして!下ろしなさいよ!!」
フィリアがもがいても怪物は左右に少し揺れる程度で効果があるのか疑わしいものだったが、それでも必死にもがいていたフィリアを怪物はフックに吊るそうとする。彼女はフックに吊るされまいと怪物の首に腕を巻き付けて離れないようにしようとするが、怪物の力には勝てず、すぐに腕が首から離れてしまった。
「や、やめ…」
フックの先端はフィリアの肉を貫き、肩を貫くと彼女の全身に衝撃が走る。彼女の悲鳴が空間に響き渡り、彼女は夢から目を覚まして自分の部屋で目覚めると痛みでベッドから床に転がり落ちた。
「ハァッ!ハァッ!ハァ…ハァ……ハァ………ハァ……」
現実世界に戻ってきたことがわかると、彼女は腰が抜けてしばらく立つことができず、そのまま床に寝て体を休めた。
体を休めている間に肩に針で刺されているかのような痛みを感じて服を少しずらして自分の肩を確認すると、肩にはフックによって空けられた穴があり、そこから血が吹き出して彼女の服を汚していた。背中にも脈動のような感覚を感じていたフィリアは、それを見て驚くこともなく、床を這いずるようにして隣にある部屋へ向かった。
部屋の扉を体で押すようにして開け、床に倒れると異変を感じたのか階段を上ってきたジョーが床に倒れているフィリアを見つけて、彼女に駆け寄る。
「お、おい!大丈夫か!?誰にやられたんだ!?」
「薬……薬を……」
「薬?回復薬…だったけ?ちょっと待ってろ。多分、教えてもらったところだよな!?」
ジョーは慌てて彼女の部屋の隣にある部屋に入ると慌ただしい音を立てながら薬を探し始めた。フィリアが気を失う前にジョーは薬を使って彼女を治療し、彼女を部屋まで運んだ。
メグってフックに吊るされると位置が肩じゃなくて首の下辺りになるんですよ。致命傷ですよね?絶対。