いつもどおりを心がける。
死にゆくものの未来を知って、知らないふりをする。そんな訓練は山程した。
死にゆく人からの情報のとり方も。
だから大丈夫。
爺ちゃんが死んだ後、10分だけ泣きじゃくることを自分に許した俺は、学校へと走っていた。
周囲に誰もいないことを確認した俺は、ペリペリと紙を剥いで、宿儺の指を飲み込んだ。
「ゲラゲラゲラゲラ! ああ、やはり! 光は生で感じるに限るな!!」
「はい、そこまで」
「!?」
ふぅ。精神修養を収めていたためか、記憶のおかげか。思ったより容易く抑え込めた。
「何をした!? なんで指を飲んだ!? 何故生きている!?」
「初めまして。伏黒 恵」
「なんで俺の名前を知っている!?」
「最初にごめん。謝っておく。お前のねーちゃん、宿儺の指の活性化で倒れたわ」
「!?? てめぇ、津美紀になにか……!!」
「ハロウィンまでは無事だから落ち着けよ。とりあえず、五条先生呼んでくんない?」
へらりと笑う。
「お前は何者だ……?」
伏黒の言葉に、俺は自嘲する。
「俺の名前は虎杖 悠仁。高校一年生。兼、宿儺の器になるべく生み出された男……兼、4割の男だ」
「4割の男……? 宿儺の器だと?」
「ほら、早く連絡してくれって」
恵は、俺を睨みながら電話をする。
しばらくして、五条先生が来た。
「今、どういう状況? 津美紀はとりあえず病院に運んできたよ」
「っ!! 宿儺の器ぁ!」
「ごめんて。最悪の場合、ハロウィンに目覚めるからさ。その日まで無事だし」
俺がパンっと手を合わせて謝るのを、ジロジロと見る。
「……本当に混ざっているみたいだね。ただ、遠距離から津美紀をピンポイントで呪えるような術式は持っていない。仲間は?」
「それがさ、俺、かーちゃんからネグレクトされてんの。宿儺の器として生み出した後は絶賛放置で宿儺の指だけ与えられたってわけ。あーあー。俺、寂しいなー。悲しいなー。まだギリギリ子供なのにな―。爺ちゃんも死んじゃったしなー。保護者が出来たら寝返っちゃうかもなー」
「なるほど。それが君の望みかな?」
「そ!」
俺はあえて明るく話す。
「津美紀を目覚めさせろ! 話はそれからだ!」
「それ、俺のかーちゃんがやったことだから。多分、呪物をなにかのタイミングで埋め込まれたんじゃないかな? それが宿儺の指の活性化で影響を受けてる。今の所、かーちゃんじゃないと目覚めさせるのは無理じゃないかな」
五条先生が電話を取る。
「待った! 伊地知さんに調べさせるなら、俺の両親とも平等に調べさせて。俺がかーちゃんのこと知ってるって伏せられるなら伏せたい。もう見張られてるかもしれんけど、ワンチャンまだネグレクト続いている可能性あるし」
「ふぅん。宿儺の指については知ってるんだ? なんで飲んだの?」
「まあね。その為に生まれたし? いつかは指食わされて、宿儺への生贄にされるからな。それだったら、自分から今のタイミングで飲んだほうが、まだ犠牲が減る。一気に10本とか飲まされることさえなければ、日をおいて一本ずつなら15本くらいまでは確定で大丈夫。全部飲まされたらどうなるかわかんねーけど。……本当は、俺が死ぬのが一番良いんだけど。かーちゃん止めないとだし、今のタイミングじゃないかな」
「君のお母さん、何企んでるわけ?」
「人類の新しい進化だとかなんとか。その為なら日本全部蠱毒にしてもいいやって考えなんだよ。困るだろ?」
「それ、なんで君知ってるわけ?」
「宿儺の指を持ったらさ、生まれる前のこと思い出したんだ。記憶力は良いほうだし」
「なるほど。殺されるのは覚悟の上?」
「実はかーちゃんのことだから、俺が出頭しても裏から手を回して俺を殺させないぐらいはしそうって思ってる。つーか、覚悟しね―と宿儺の指なんて飲めねーよ」
「……わかった! 君の覚悟に免じて、保護をしてもいいよ! ただし、なんで記憶を取り戻しただけで津美紀が呪われるかわかったのか言えたらね」
「っ!! そうだ、17年前から呪われてたっていうのか!?」
伏黒は叫ぶ。
「言ったろ。俺、四割の男だから」
「だからなんだよ、四割って!」
「なにそれ」
「俺は四割の確率で当たる予言が出来るんだよ。あっコレ内緒な!」
「一応、僕、術式見えるんだけどな―? 嘘はだめだよ」
「じゃあ、俺の言った事、全部検証すればいい」
「そうさせてもらうよ」
そうして、俺は五条先生に気絶させられた。