目が覚めると、御札だらけの部屋で、身体を拘束された状態で椅子に座っていた。
目の前には五条先生。
「おはよう。君はどっちかな」
「虎杖 悠仁。検証は終わった?」
「まーね。普段と意見が逆になる面白い経験が出来たかな。君を生かしたい勢力がいる事は事実みたいだ」
くつくつと五条先生は笑う。
「君のお母さんだけど、一見普通の経歴。でも死んだ後に君を産んでいるね。確かに調べる余地はあるかな」
「死体を乗っ取るタイプの呪詛師なんだよ。脳味噌入れ替えんの。頭に継ぎ目があるからわかる」
「先に言ってほしかったかな―。ま、可能性の一つとしてあったけどね。予言者くん。でも、なんだか予言って感じはしないかな。予言者を名乗るならさ、なんか面白い予言してよ」
「プレコグ」
「ん?」
「プレコグっていうんだ」
「じゃあ、そのプレコグ。やってみてよ♪」
「今年のハロウィンの日に、貴方は封印される」
「四割の確率で?」
「そ」
「その可能性は0かな。僕最強だし」
「夏油 傑の遺体は無事?」
俺は襟を捕まれた。
拘束されていて元から動きを封じられているので、辛い。
「加茂 憲紀、知ってる? 今の生徒じゃない方」
「最悪の術師」
「彼、も、被害者、で。ごさんけ、全員に、喧嘩、うってる、ことに、なるよな? 守ってよ」
ぎりぎりと締め上げていた襟を、下ろす。
「ごめんね。僕としたことが、ちょっと熱くなっちゃった。直に調べる」
「スパイいるから気をつけて。メカ丸とか」
「……よし、わかった。君とはもっとじっくりお喋りしたいな。他に情報は?」
「先生に関係あるのは、あとは獄門疆くらいかな。一度、プレコグを暴走させて、10月までの未来をざっと見たんだ。釘崎とナナミンと順平、夜峨学長と、受胎九相図の兄達と。俺はいっぱい失うし、指を10本食べさせられて渋谷を壊滅させられて、テロの犯人にされる。ま、俺がいなくても、かーちゃんは東京壊滅させられるんだけど。あっ こんな鮮明で長いプレコグは、偶然の力の暴走以外にありえないから。普通はワンシーンをちらっと覗き見るくらいしか出来ねーんだ」
「中々地獄だね。ただ、それを嘘だと否定する材料はないかな。……未来は変えられないなんて言わないよね?」
「言ったろ。俺のプレコグは4割程度の精度しかない。予知を知ってのあがきまで織り込んだ未来は俺には見ることが出来ない。……変えられるよ」
「……君は、命を賭けて何を望む?」
「当然、命を。俺の命、俺の大切な人達の命、東京の人達の命を」
「弱いね。本当は?」
「俺を必要だって言ってよ。クビになんてしないで」
「君、クビにされたことあるの? まだ学生だろ」
「超能力者で溢れた世界に暮らした前世の記憶があるって言ったら信じる?」
「……マジで? いや、信じるけど」
「自白剤入れられてるし、嘘はつけねーよ。生まれ変わっても鮮明に覚えてる。ホイッスルが鳴って、2軍落ちを宣告されたときのこと」
「知ってたんだ。それもプレコグ? ぜひとも話を聞きたいな。せっかくだから恵も一緒に。今日は薬が抜けるまでゆっくり休んで、明日はお葬式をして、それからだね。恵には僕が取りなしておくよ」
「ん。ありがと。少し疲れた……」
「おつかれ。手荒な真似をしてすまなかったね。部屋に運ぶよ」
それから、翌日。
俺は爺ちゃんを火葬して、呪専へ引っ越した。
「おそいぞ悟。その子が?」
「そう! プレコグ兼宿儺の器! チート転生者の虎杖 悠仁くんでーす!」
「よろしくおなしゃす!」
「何しに来た」
「不都合な未来を変えに。そして、人に必要とされるために」
「つまり、他人に依って立つと? 不合格だ」
俺は慌てず騒がず人形と戦う。戦いになることはわかってた。
「呪術師は常に死と隣り合わせ。自分の死だけではない。呪いに殺された人を横目に呪いの肉を裂かねばならんこともある。不快な仕事だ。ある程度のイカレ具合とモチベーションは不可欠だ。それを、他人に必要とされたいから? 拒絶されたらどうする? お前の芯はその程度のものなのか」
「いや、だって俺、それで自殺してるんスよ」
「え?」
「……は?」
「少なくとも、俺にとっては自分の命を一回賭けてる。そんで、一回死んだことで、俺の心はそこで止まってる。だから、何度だって、俺は俺の存在意義のために命を賭けられる」
夜蛾学長は、頭を痛そうに抑えた。
「それに、プレコグにとってはプレコグでプレコグの未来をぶち壊してより良い未来を引き寄せるのが生きる理由なんで。ほら、生きる理由と死ぬ理由が揃ってる」
「それはそれで不安な答えだな……。迷える生徒を導くのも教師の役目か。補欠合格だ。悟」
「りょーかい。にしても、悠仁、自殺してたの?」
「しょ、しょーがねーだろ? プレコグ目覚めた3歳からずっと訓練して7歳から仕事初めて、17歳で一軍になって。仕事しかなかったんだよ。学校通ったのだって、今生が初めてだし、友だちができたり、ニュース以外のテレビ見たり、映画とか漫画とかアニメ見たり、外出歩いたりだって、転生して初めて知ったし」
「ちょっと待って。学校は? っていうか暇な時どうしてたの? 勉強とか?」
「サイコキノなんかは力を封じる装置をつければ通える法案が通過したりしてたけどさ。プレコグは無理だよ。伏黒は中学に通えてたみたいだけど、それって多分レアケースだろ? それに、映画とか漫画とか、プレコグが空想力を高めちゃ駄目なんだよ。機械でないと。だから、ずっと瞑想とか訓練とか。どうしても行き詰まって、ドーピングに手を出した時はインターネットとか使ったけど。勉強とかも偏ってたな。記憶術とか語学ができれば後は別に」
「今さらっと人権否定しなかった? 迫害されてたの?」
「虎杖。お前には色々と教えなければいけないことがあるようだ」
「あー。あんまり同情はしないでほしいな。俺の世界ではそれが当たり前だったんだし、こっちの世界では記憶戻るまではすっげー人生謳歌してたんだし。なんていうの? 普通の人ってこんななんだっていうか、一生分もう楽しめたんだって言うか」
そこで、物陰から伏黒が出てきた。知ってた。
「虎杖……っ 俺は……っ 俺が、友だちになるから! 色々な所に行こう!」
「いや、だから空っぽじゃないと駄目なんだって」
「悠仁はプレコグである前に呪術師だから、訓練で映画とかもバンバン見てもらうかな―。呪術師が空っぽじゃ務まんないよ。中身詰めなきゃ」
「どっちがいいかは、ゆっくり考えさせてくれな」
「「「呪術師にしておけ」」」
知ってた。でも、俺のプレコグを知って、断言できなくなっていくのも知っているんだよなぁ……。捨てろなんて言うのは、無知ゆえのことなのだから。