異世界の沙汰もスマホ次第   作:胡椒こしょこしょ

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動け(ドン)


すぐに使えないって、それはないでしょう!

第二の人生という言葉がある。

例えば還暦を迎えた人が今までの都会の喧騒を忘れ、気ままに生きるために田舎に赴いたりすることだ。

そこには新たな土地、新たな出会いが待っているだろう。

 

そんな俺も第二の人生が今さっき始まったばかりだ。

とはいえ、田舎に行ったわけでもなければ逆に上京など都会に生活の基盤を移したわけでもない。

寧ろ、それを遥かに超越した高み。

 

...そう、俺は現代の生活に不満を持ったティーンの誰しもが憧れるあの異世界転生の当事者なのである!

あの日、なぜだかフラフラとした運転のトラックに突っ込まれて目が覚めたら神様を自称する女の人の元でさっきのは手違いだったからこれで許してやwと言わんばかりに転生特典と共に新たな世界で強くてニューゲームさせてもらえることになったのだ。

正直、実際に転生なんてマジであるのかと戸惑うところもあるが、そもそも目の前で起きている事実。

俺は柔軟に受け止めて、意気揚々と転生したのだ。

 

だって考えてもみろよ?

最初からすげー力をもって転生とかもうその時点で他の要素とかどうでもいいでしょ。

親や弟は俺が居なくなって悲しんでいるだろうが....いや、いてほしいがそれでも家族は家族が幸せに生きているのを常に願っているとか言うしね?

俺は俺で幸せにやるから、パッパやマッマ、オトウットも俺の死を乗り越えて幸せになってほしいよね!

 

そんな意気揚々とした心持ちで異世界転生して、現在俺はこの暗くて鬱蒼とした森の中に居る。

手には転生特典である黒いスマホ。

もうね、目が覚めるくらいのテンプレだと我ながら思う。

トラックに轢かれて転生して、神様から事情説明受けてスマホ持って新たな世界に降り立つ。

そして、このスマホ自体があることで俺は無双できるであろうから。

 

こんなのを創作として見たら食傷気味にだから、テンプレが....って感じでげんなりするのだろうが、いざ自分のことになるともうわくわくが止まらないよね!!

だって大体もう都合よすぎるくらいのイージーモードでどんなことやっても大げさに感謝されて女侍らせることが出来るんだから!

いや~、テンプレに嵌ることが出来るって考えると俺ってば勝ち組的な?

ん?現金?

咎める人間が居ないんだから別に良いじゃん。

せっかく転生したんだから奴隷解放してちやほやされるか、エルフの森燃やしてみてぇなぁ....。

 

「まずはスマホを起動してみるか...あぁ~、わくわくして手汗掻いてきた。」

 

手汗を服で拭いながらも側面部の電源ボタンを長押しする。

すると、画面に光が灯って文字が表示される。

 

『らくらく異世界フォンへようこそ!』

 

「なんだろう、こういうのばあちゃんじいちゃんが持ってた気がするな....。」

 

なんとなく、穿った目で見そうになるがやめた。

どちらにせよ、これから一緒に覇道を歩んでいく仲間なんやから。

これからよろしくなってそんなフレンドリーな感じで行きたいやん!

 

見てみると、どうやらこのスマホを使うにはフォーマット作業が居るらしい。

なんだろう、やっぱりハイテクなんやなって感じ。

それで所要時間は....30分!?

長...長くね?

いや、これから俺にもたらしてくれる恩恵を考えると短い方なのか....?

 

そう思いながらも手元のスマホを見つめていると、なんだかガサガサと何か掻き分ける音がする。

何の音だろうか?

獣とか??

正直、どんな世界に転生したかはまったく知らないんだよね。

テンプレだったら中世のRPGものっぽい感じなんだろうけど、最近はテンプレート増えたからなぁ。

正直学園モノだけはマジ勘弁。

ほら、嫌な学生生活思い出しちゃうし。

 

そう思って振り返ると、そこには獣でもなければ人でもない。

人間の子供大サイズくらいの緑色の体表の小鬼。

それが数体、群れを成していた。

...ここもテンプレかぁ.....。

 

「ヒト....ヒトダ....」

 

「オス.....ハズレ....オスマズイ.....」

 

剣と魔法の世界観出てきそうなゴブリンが数体。

連中は俺に目をやるとギラギラと目を光らせて、舌なめずりしている。

俺にやられるためだけの経験値....と言いたいが。

 

『進捗...23%』

 

な、なぁ....来て早々ヤバいんだけど....は、早くしろよ!こちとらお前居ないと何もできないんだぞ!!

 

小声でスマホに語り掛けるも、スマホのフォーマット速度は微塵も早くならない。

やっぱ駄目だな機械は。

スマホの奴隷になっちゃダメだよねぇ!

 

「あ....あ~、や...やっぱ襲うなら女の子襲った方が良いと思いません?丸腰の女の子を襲って子供作ったり!いやぁ~気持ちわかるなぁ....ところでさっきなんかいい感じにボロボロになっている女騎士が居たんすよぉ.....いつ逃げるかも分からないっすよ....こんな丸腰の男なんか構うよりそちらを襲った方が....。」

 

なんとか襲う気を失くさせようと話しかけるもやっぱ所詮魔物。

多分、俺の言葉がわかっていないんだろうかこちらに一歩にじり寄ってくる。

ダメか.....。

こうなったら、最終手段に出るしかない。

 

「あぁぁぁ!!!!あんな所に裸のエルフが!!!!」

 

明後日の方向を指さして大きな声で叫ぶ。

すると、目の前のゴブリンはそちらの方に顔を向けた。

へへへ....やっぱ魔物。

馬鹿でよかった。

内心ほくそ笑みながらも俺は一目散に後ろへと駆け出した。

昔から友達と絡まれた時など逃げ足だけには自信があるんだ!

 

森の地面に足場の悪さを感じながらも、なんとか逃げ続ける。

しかし、その瞬間何かが顔の横をすごい速さで通過したのを感じる。

痛みを感じて、頬を触るとそれはべったりと血が。

....え?

えっ、えっ?何事!?

 

「アギャギャギャギャ!!!カリ!カリだぁ!!!」

 

「アタマ!アタマネラエ!!!」

 

「オモシロイ!オモシロイ!!」

 

 

ちらっと後ろを見ると、ゴブリンたちはこちらを追いかけながらも石を持って振りかぶっていた。

え、あれ今のはもしかして投げた石?

石投げただけであんな速さ出るの?

......あ~、そういう。

 

「誰かぁあぁあああ!!助けてぇぇええぇぇえええ!!!!」

 

ヤバいヤバいヤバい。

あんなの後頭部とか当たったら死んでしまうって!

せっかく転生したのに、またあっちに送り返される!!

 

さっきまでの余裕はどこへやら。

死に物狂いで走って逃げる。

その間も後ろから石がすげぇ速さで飛んできていた。

 

「なんだよなんだよ!俺何もしてないでしょ!?すぐ殺そうとするなよ話しあお!?多分話合うから!!俺も鬼畜凌辱シチュとか見るの好きだから!!!...スマホ!!あとどんくらい!!?」

 

悲痛に叫ぶも、その叫び声に呼応してかさらに石の飛んでくる頻度が激しくなる。

アイツら絶対叫ぶ俺見て楽しんでんだろぉ!!

そもそも!フォーマットとかあるからこんな目に合ってるんでしょ!?

転生特典ならもっと気楽に無双させろや!!らくらく異世界フォンなんだろうがっ!!!

 

『58%』

 

「やっと半分!?今折り返し!?!?お前いい加減にしろやぁ!!!こんな速さじゃお前使える段階になった時点で俺はまたあっちに逆戻りだろうが気張れやぁ!!!!毎秒進捗しろやぁ!!!!」

 

悲痛に叫ぶも、無常にもスマホのフォーマット速度は変わらない。

石が頭を掠める度に、死が脳裏を過る。

冗談じゃない.....、俺はまだなにも良い思いしてないんだぞ.....!

敵相手に無双したり、なんでもないことして大げさに誉めそやされたり、女の子とっかえひっかえしたりとかそういうテンプレなこと何にも出来ないんだ!!

こんなテンプレな世界でそれが出来ないとかないでしょ!?変に奇を衒うなや!楽にやらせろや!!

 

それに、あいつら確実に嬲る系の奴じゃん!

絶対死ぬときクソ痛い奴やん!

もう、見たらわかるもん!なんかこん棒ぺろぺろしてるもん!!

前は痛み感じる前に昇天したからアレだけど、なんで一回死んだ後にそんな痛い思いしないといけないんだよ!!!

 

走り続けて、数分。

森の中を走っていくにつれてだんだんと自分が走っている地面の傾斜が激しくなっているのが分かる。

これは気を付けて行かないと滑り落ちちゃうぞ....。

でも、ゆっくり行く余裕なんかない。

今も連中は俺を追っていて、石が飛び交っている。

 

これは...行くしかない!

ボコられて死ぬくらいなら滑落で死んだ方がマシだ!!

俺は降りるぞ!...よーし降りるぞ!!

降り......

 

「がふっ!!?」

 

意気込んだ瞬間に訪れた突然の衝撃と痛み。

もうね、バスッ!って感じで何かが背中を強打したんよ。

いや、分かってる。

これは多分連中が投げた石だ。

クソほど痛ぇ~!

でも、一番ヤバいのは....。

 

足は頼りを失い、斜面がどんどん目の前に近づいてい来る。

背中の衝撃で体制を崩してしまった。

 

あっ、終わった。

そう思った瞬間、俺は斜面を転がり落ち始めた。

加速度的に地面を転がる俺の体。

たまに切り株や枝が当たり、打撲や切り傷が出来ていく。

自分でも止めることが出来ず、そして最早思考が追いつかずに痛みを感じながらも呆然とするしかない

そんでもって一番ヤバいのは、落ちながらもなんとか視認できた後ろ。

ゴブリンは慣れた様子で勢いを殺さずに駆け下りていることや。

もうね、びっくりして少し漏れたし....。

 

このまま俺殺されるんかな....。

もう泣きそうだわ。

そう思いながらも、落ち切ると勢いよく雑木林を抜けて地面に転がり仰向けになる。

しかし、そこにはなんと人が居た。

 

「なっ!?あ、あんたどっから....ていうか傷だらけじゃない!!?」

 

子供.....?

小さな背丈に魔女のような見た目幼い少女が魔女服を身にまとい、とんがり帽子を被っていた。

手には大きな杖を持っていることから多分魔物倒すことを生業としているスタイルであるということは分かる。

自分以外に人に会えた。

それも対処できそうな人間に。

その安心感はえげつなくて、俺は....。

 

「な、なんなのよアンタそんな泣きそうな顔で私見て....臭っ!?えっ、こっち見て漏らしてる?えっ、あんた頭おかしいの!?!?」

 

「頼むっ!!後生だから!!後ろのゴブリン倒してくれよぉ!!!このままじゃ俺死んでしまうんだよぉ!!!?だずげでぇぇぇえええ!!!」

 

戸惑い、一歩引く少女。

しかし俺はそんな少女を逃がさないとばかりに足にしがみついて泣き叫ぶ。

頼むっ!状況分かって!!そんでもって後ろの魔物みんな倒して!!!

 

すると、斜面の方を見やると彼女は表情を冷静なものへと変える。

やっぱプロって違うんだなぁ。

 

「なるほど、そういうことね.....。はぁ、面倒くさい。下賤なる者よ、塵へと還れ。」

 

そう一言呟くと彼女の背後に小さな火の玉が複数個出てくる。

なるほど、やっぱ魔法とか使う系なんかここは。

つかそれで大丈夫なのか?

大丈夫な相手なのか??

えっ、それに追い詰められて泣きべそ書いて漏らしてる俺ダサくない?

安心したら段々冷静になってきた。

 

「オンナ!オンナ!!.....オンナ?」

 

「ムネ!ナイ!!オンナジャナイ!!オトコ!!オトコ!!!」

 

「チビ!チビ!ガキ!!マホウヤバイ!!!ヤメロ!!!!」

 

確かに目の前の女の子、服越しだから確定は出来ないが幼児体系だな。

めちゃくちゃひどいこと言ってるわ後ろのゴブリンwww

助けてくれている所悪いけど、ちょっと笑ってしまいそうやわ。

 

すると、目の前の女の子はさっきまでダルそうな顔だったのが俯いてしまう。

あれ、なんか肩震えてない?

泣いているの?可哀想。

泣いている暇あったら、さっさと後ろの奴倒せよ。

胸がないとか大したことじゃねぇだろこちとらまたゴブリンが勢い取り戻したらまた泣き叫んで漏らし散らすぞ。

 

そうして、顔を上げる彼女。

その表情はまるで般若のよう。

 

「やめるわけないでしょうが...このクソ魔物が!胸なんてただの脂肪なんだよ死に晒せやぁぁぁあああああああ!!!!!

 

「「「アギャァアアアアアアアアア!!!!!」」」

 

小さな火の玉が奴らを囲んだかと思ったら、爆発した。

いや、マジで。

小規模だけど普通に爆発した。

燃やすとかじゃないんだぁ....って思った。

亡骸とか真っ黒で炭化してるし。

 

うわぁ....こえぇ.....。

改めて考えると、こんなの打てる時点で個々人が持つ殺傷力にしては過剰じゃないか?

いや、こういう魔物が居るから過剰じゃないんだろうが。

 

「だからゴブリンは嫌いなのよ、毎度毎度胸がないだの男だの......!!」

 

彼女は未だに恨み節でグチグチ言っている。

女の人を怒らせるのはまずそうだ。

特にこの世界では。

 

「で、あんたはこんな森で丸腰で何してるの?ギルドからの依頼?それとも自殺志願...じゃないわね。あんな情けなく縋って来てたら。」

 

「あ、あぁ....俺は....」

 

「あっ、あとあんま近づかないで。汚いから。」

 

立ち上がると彼女は露骨に後ずさった。

....まぁ、失禁した奴とか俺もそういう反応になるわ。

でもね、俺もそういう反応になるってコトは傷つかないってことじゃないんだ。

 

まぁとにかくこの女に媚びよう。

ほら、ギルドも知ってて冒険者なら町とか知ってるでしょ。

 

「お、俺....村から冒険者をするために町を目指しているんですけど、迷っちゃって...それで....。」

 

「なるほど。...だとしても武器もなしで森歩くとかイカレてるわ。」

 

「も、森に来たらへんで忘れたことに気づいて....取りにいけない距離だからもういいかなって!」

 

「....話してすぐに分かったわ。アンタ馬鹿でしょ。」

 

っ!!

...落ち着け!

今はなんとかこいつに町に連れて行ってもらわないといけないんだ!!

....なんでこんなガキに馬鹿と言われなきゃいかんのか....!

 

「あ、アハハ~...そのっ、それで見た所冒険者なんですよね?申し訳ないんですけど、町まで連れて行ってもらえませんか?」

 

俺がなんとか下に出ながら頼む。

すると、彼女は露骨に面倒くさそうに息を吐いた。

 

「はぁ~~、まぁいいわ。ここでこんな丸腰で失禁するような奴見捨てるのも寝覚めが悪いもの。私くらいならあなた一人足手まといが増えても何も問題ないわ。」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

おい、事実陳列罪やめろや。

後最初から足手まとい認定されるのなんかむかつくわ、そんな優秀なんかコイツ?

まぁ、足手まといなことも失禁したことも丸腰なことも何も間違っちゃいないけどさ。

猫被りながら返事すると、ポケットの中が鳴動するのを感じる。

何かと思って、取り出すとそれは俺のスマホだった。

 

『フォーマット終了、らくらく異世界フォンの起動が完了しました。』

 

....今?

遅いんだよお前。

今のところ何の役にも立ってないし。

これでクソみたいな機能しかなかったら優良誤認認定するからなお前。

 

「なんか珍しい道具持っているわね。なにそれ?」

 

「あ、あ~....お守り...的な?」

 

彼女はスマホを見て、不思議そうにそう尋ねてくる。

俺は、そんな彼女の言葉をなんとか誤魔化す。

すると、彼女自身もあまり関心がないのかへ~くらいのニュアンスですぐに関心を失っていた。

取り敢えず後で機能を確認しよう。

 

「それじゃ、付いてきなさい。」

 

そう言って、歩みを進める彼女。

そんな彼女の背中に付いていく俺。

 

確かに彼女には助けてもらったし、それには感謝している。

でもなぁ....失禁した姿見られた挙句に正論のナイフでズタズタにされたんだ....。

この借りはいつか違う形で返してやる....!

俺は舐められることだけは嫌なんだ。

だから.....まずは名前と顔を知らないと!

 

「俺、片桐壮一って言います。....貴方の名前は?」

 

「....そんなこと知る必要ある?」

 

彼女はぶっきらぼうにそう言ってくる。

なるほどね、さっきから思ってたけどこの子のパーソナリティはクールで通っているのだろう。

でもな、子供と女っていうのは素直で親しみやすい方が良いんだよな。

それをいつか分からせてやる....。

だからこそ、まともな人間であれば断りづらい感じで理由付けてやるぜ!

 

「助けてくれた人ですから....名前だけ知っておきたいんです。ダメですかね...?」

 

「....メリア、メリア・ヴァ―トン。それが私の名前。もういいでしょ。」

 

こちらに視線を向けた後、フンッとテンプレな鼻息鳴らして前に向き直る彼女。

どうにも彼女はこちらに視線を向けていない様子。

それなら、今がスマホの機能をチェックする好機だろう。

 

そう考えると、とりあえず画面を見る。

....電池残量が∞ってマジかよwwどうなってんだwwww

初っ端使えるところを発見した。

どんな強くても電池残量切れたら意味ないしな。

ここ充電器とかないし。

やるじゃん、らくらく異世界フォン。

ちょっと見直した。




主人公が歩きスマホ丸腰失禁クズ太郎。
僕個人としてはちっちゃい女の子に泣きついて生きていたいです。(切実)
サブタイは基本異世界モノからもじりになると思います。
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